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オンディーヌ:吉田都、ロイヤルバレエ   (2009.11.8)
2009年6月、ロイヤル・バレエはフレデリック・アシュトンの「オンディーヌ」を上演しました。 主演は、ロベルタ・マルケス/フェデリコ・ボネッリ、アレクサンドラ・アネッサリ/ヴァレリー・フリストフ、 吉田都/エドワード・ワトソンの3組。このうち吉田都/エドワード・ワトソン組の踊った6月3日の舞台は、 ロンドンやリバプール、マンチェスターなどイギリス国内20都市の大スクリーンに生中継され、 各都市の広場に集ったバレエ愛好家の目を楽しませたそうで、トラファルガー広場の大スクリーンの前には バレエ・ファンから、ロンドン観光途中の世界各国からの観光客、市民が集まり中継に見入ったということです。 (Dance Cube チャコットwebマガジンより)
 
この物語は、水の妖精オンディーヌに恋をした人間の男の悲劇です。 ある日、川の中から現れた水の精オンディーヌは、水に写った自分の影を不思議がり、戯れています。 そこへ騎士パレモンが近づきます。彼は、そのあどけなく、愛らしい表情やしぐさに強く魅かれててしまいます。 オンディーヌも彼に惹きつけられ、二人は結ばれます。 でもオンディーヌの人間とは違う不思議な行動は周囲を惑わせ、船旅の途中、オンディーヌは船員たちによって、海の中に投げ込まれてしまいます。 それに対し、怒った海の王様は嵐を起こします。パレモンは命からがら引き返します。 パレモンはオンディーヌを捨て、もとの婚約者のベルタと結婚式を挙げようとします。 しかし、結婚式の日、オンディーヌが現れ、彼の裏切りを責めます。 パレモンは、そのとき自分は本当にオンディーヌを愛していたことを悟るのですが、時既に遅く、 パレモンは、オンディーヌの口付けで死を迎えてしまいます。 オンディーヌは、パレモンのなきがらを抱きかかえ、水の中へ沈んでいく、という悲恋ものです。

バレエ「オンディーヌ」は、1958年にアシュトンがマーゴ・フォンティーンのために振付けた21番目のバレエで、 音楽はハンス・ワーナー・ヘンツェ。1幕でオンディーヌが自らの影と戯れ踊るソロ、 3幕オンディーヌが夜の海で波と戯れる場面が見所です。このバレエは、ポール・ツィンナー製作の映画「ロイヤルバレエ」に、 ほぼ全編が収録されています。この映像を見るとフォンティーンが単なるダンサーというだけでなく、 優れた演技力の持ち主であることが分かります。マーゴ独特のエレガントな踊りに留まらず、 ものすごい迫力に圧倒されます。 約一時間半、フォンティーンはほとんど出ずっぱりですが、どの場面も少しの疲れも感じさせず、 凄い演技に引き込まれて目を離せません。ラストでのパートナーの上に倒れ掛かるところは、息も絶え絶えになるほどの熱演。 鳥肌が立つほどの迫力でした。(→フォンティーンのオンディーヌ)
 
一方、今回の「オンディーヌ」。吉田都さんは、ほんとうに水の精を思わせる軽やかさでひととき夢の世界へと誘ってくれました。 吉田都さん演ずるオンディーヌは、とてもチャーミングでロマンティック、そして妖精の持つどこかミステリアスな魅力に溢れていました。

アシュトンは、この作品をマーゴ・ファンティーンのために振付けて初演した以降、長いこと再演することを許可しなかったそうです。 オンディーヌ=フォンティーンというイメージがあったからでしょう?。 マーゴ・フォンティーンも、フレデリック・アシュトンも、亡くなって久しいですが、もし、アシュトンが生きていて、 この、本当に水の精を思わせる吉田都さんのオンディーヌを観たら、かたくなに再演を拒んだ彼の気持ちも揺らぐのではないだろうか、 と思わせるほど、吉田さんの踊りは美しいのです。フォンティーンを映像で見る限り、アシュトンは、人一倍細かく速い足の動きを 要求していると感じたのですが、吉田都さんもその要求に忠実に応えているように感じました。

第1幕は、オンディーヌの踊りがぎっしりですが、自分の影を追って遊ぶ踊りは、吉田さんは本当に可愛いな〜と思ってしまいます。 第3幕では、オンディーヌが波間に現れて人魚のように踊りますが、ブルーの布の海に隠れている男性ダンサーにリフトされているので、 海にたゆたっているように見え、これがとても幻想的で、夢を見ているような心地にさせてくれました。
 
今回の吉田都さんは、本当に素晴らしかった。 繊細なフットワークはまさに人魚の尾びれを思わせ、溶けるようなしなやかなアームスには水の妖精のスピリットを見るようでした。 40代とは思えない可憐な踊りに始終釘付けでした。 年齢を知らない人が見たら20代って思うのではないでしょうか。 彼女は他のダンサーに比べるとかなり小柄です。 もちろんその分手足の長さも違うし不利だと思うんですが、技術と表現力でカバーされているのでしょう。

この映像はDVD化が決定しているとのこと。さらに鮮明な映像で見られることを今から楽しみにしています。

 オンディーヌ(水の精) : 吉田 都
 パレモン : エドワード・ワトソン
 ベルタ : ジェネシア・ロサート
 ティレニオ : リッカルド・ケルヴェラ
 隠者 : ゲーリー・エイビス
 バレエ : 英国ロイヤル・バレエ団
 管弦楽 : コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団
 指 揮 : バリー・ワーズワース
 音 楽 : ハンス・ウェルナー・ヘンツェ
 美 術 : リラ・デ・ノビリ
 照 明 : ジョン・B・リード
 振 付 : フレデリック・アシュトン
 収録: 2009年6月3日/6日, コヴェントガーデン王立歌劇場
       

なお、この「オンディーヌ」のバレエは、日本でも、松崎すみ子の振付、下村由理恵のオンディーヌ、篠原聖一のハンスで、2001年に上演しました (→下村由理恵のオンディーヌ)。 この松崎すみ子版オンディーヌの舞台も、とても面白かったのですが、下村由理恵さんの脱フォンティーンへの挑戦といった感じが強く、 アシュトン版とは、かなり違っていました。音楽もヘンツェの曲ではなく、ドビュシー、ヴィヴァルディ、そして中世の古楽を使っていました。

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