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<第4章 西遊記>
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「ジュンさん、ジュンさん。」
「なんすか?」
「今夜、ここにしましたから。」
「何がですの?」
「フグ。」
窓の外は曇り空。
さっき、車内販売のお姉さんが、
「うなぎパイ」と「蒲焼き弁当」を売りにきたから、
多分、浜名湖をこえた辺りなんでしょう。
そう、ここは、日本が誇る超高速鉄道「新幹線・のぞみ号」の中。
右横には、ニコニコ顔でグルメ本をめくる荘口アナ。
左横には、ぐったり顔のアニガメチーフ伊藤了子D。
まるで両極端の2人に挟まれ、生きた心地がしないのがこのボク。
なんだかなあ。
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1999年1月14日木曜日。
この日は、アニガメパラダイス・アシスタントの岩男潤子さんが、
大阪でコンサートを開く日なのでした。
しかし、ラジオの生放送の日でもありまして。
ありゃま、こりゃま、どうしたらいいのでせう。
こんな風に、アーティストのコンサートの日と、
ラジオの生放送が重なってしまった場合、
得てして犠牲になるのはラジオの方ですな。
ま、ぶっちゃけて言っちゃえば、コンサートに支障がないよう、
前もって、番組を録音にしちゃうのが常です。
ただ、オールナイトニッポンなどの場合、
2時間分録音するのは非常に面倒であり、
また「生放送」にこだわった方が面白くなったりもするので、
(その日のコンサートのことなどがすかさずネタになったりしますよね。)
「地方出し」と呼ばれる手法がとられることがあります。
これは、スタッフが(コンサート会場のそばの)地方局に出向いて行き、タレントさんと合流。
んでもって、地方局とニッポン放送をラインでつないでおきまして。
タレントさんはその地方局で喋るわけですな。
地方局で喋ってる声は、ニッポン放送を経由して全国に流れるようになる・・・と。
この時、ニッポン放送には「受け」と呼ばれるスタッフが要るんです。
地方局から「出す」のは、あくまでもパーソナリティの「声」だけ。
番組のテーマ曲や、CMなどは、いつもの放送と同じように、
ニッポン放送のスタジオから出します。
これが「地方出し」のシステムであります。
こんな時にゃ、当たり前なんですが、
「出し」のスタッフは、ディレクターに構成作家。
「受け」のスタッフは、ADとミキサー・・・となります。
一見、「出し」のスタッフの方が大変で、
「受け」のスタッフの方が楽ちんな印象を受けますが、
実際には・・・、
全くの反対でして。
「出し」のスタッフは、放送が終わった後、
その地方の旨いもんを食いに、街へとくりだすわけですよ。
まさに、朝までお祭り騒ぎ。
一方、「受け」のスタッフは、
さびしーく、いつもとおんなじ弁当食って、
地方局でのウキウキの喋りを聞かされて、
放送終了後もむなしーく帰るわけですよ(笑)。
あえて、言うまでもないことですが、
本来「AD」であるボクは、この10年間、「地方出し」が行われる際には、
100%「受け」スタッフでした。
・・・ところが。
千載一遇のチャンスが、舞い込んで参りました。
そう!
岩男潤子さんの大阪でのコンサートが、
ボクがディレクターをつとめるアニガメパラダイス・木曜日の放送日と重なったのでございます。
こりゃもう「地方出し」でしょ。
大阪から出しとくでしょ。
たこ焼き食うでしょ。お好み焼き食うでしょ。
食い倒れとくでしょ。
最早、頭の中に、録音・・・などという文字はありません。
この機会を逃したら、「出し」のスタッフになる機会なんぞ、
今世紀中には2度と訪れることはないでしょう。
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世の中、意外と甘っちょろいようで。
この、絶対に不可能と思われていた「アニガメ大阪出し」の企画が、
アニガメチーフディレクターの伊藤了子さんのもとを通過し、
アニガメのプロデューサー・高橋(クリマン)副部長の前もクリアしてしまったのであります。
一体、どうなっているんでしょうか?
たかが、30分番組のために、大阪出張が認められてもいいもんなんでしょうか?
ま、企画が通った以上、これを進めなくてはいけません。
早速、この大阪出張の資料を作成いたします。
アニガメパラダイス(木)
第04小隊IN大阪
〜コバジュン、初めてのおつかい〜
旅のしおり
◎ごあいさつ
痰壺の痰も凍り、路上生活者の皆さんも凍死するような寒さの折り、皆様いかがお過ごしでしょうか。
さて、アニメ紅白も無事終了した「アニガメパラダイス」に、新たなビッグウェーヴが参上です。
このたび、岩男潤子さんのコンサートツアー「1999〜2000」にくっついてって、
「アニガメ」を大阪から生出ししようという「スタッフ還元美味しい出張ごっつぁんスペシャル」を、
実施することに相成りました。
コバジュンは、オールナイトニッポン等でも、常に「受け」スタッフということで、
損なクジばかり引いてきたわけですが、今回は、初めての地方出しチームに参加です。
「初めてのおつかい」よろしく、皆様に多大なるご負担とご迷惑をおかけいたしますが、
そこんとこヨロシク。
第04小隊隊長:コバジュン
◎概要
日 時 : 1999年01月14日(木)
放送時間 : 21:00〜21:30
送出スタジオ : ABC 第3スタジオ
受けスタジオ : ニッポン放送 第2スタジオ
大阪スタジオ担当 : 荘口彰久(パーソナリティ)
岩男潤子(同上)
伊藤了子(アニガメ大隊隊長/アテンド等)
小林 順(第04小隊隊長/D兼ミキサー)
美根さん(ABC編成部)
東京スタジオ担当 : 山田尚一郎(第02小隊隊長/受けD)
清水有紀子(受けAD)
わかば〜 (受けミキサー)
土井武志 (構成&FAX受信&送信)
◎タイムスケジュール
14:00 伊藤・小林・荘口 LF出発(14:05の八重洲口行きバス/所用25分)
15:00 伊藤・小林・荘口 新幹線へ(14:56発のぞみ/乗り遅れた場合15:03ひかり)
16:00 伊藤・小林・荘口 睡眠(新幹線・車中)
17:00 伊藤・小林・荘口新大阪着(17:26/ひかりならば17:57)
18:00 伊藤・小林ABCへ / 荘口(コンサート会場)メルパルクホールへ
19:00 小林スタジオでスタンバイ/伊藤メルパルクホールへ/荘口ABCスタンバイ
20:00 大阪 ←ラインチェック開始→ 東京
21:00 放送開始 伊藤・岩男ABCへ
岩男放送に合流
伊藤東京からのFAX受信
22:00 あとは野となれ山となれ
◎チェックリスト
*大阪に持っていくモノ
□Qシート
□台本
□文房具・ストップウォッチ・編集セット(?)・オープンテープ
□ABCへのおみやげ
□ゲロ袋
□おやつ(500円まで/バナナはおやつに含みません)
□水筒(中味はお茶か水/ジュースは禁止です)
□熱い魂
*LFに置いていかなくてはいけないモノ
□Qシート
□台本
□声優オーディションの採用カセット
□サイバスター第3話2回目のDAT&オープン
□浮かれ気分
<アニガメパラダイス第04小隊in大阪:「たびのしおり」より抜粋>
まさに、完璧な準備だ。
完璧だ。
完璧すぎますよ、ナベさん。
(出典:「よろしくメカドック」第7巻)
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「ジュンさん、ジュンさん。」
「なんすか?」
「『フグ』のあとは、ワインバーに。」
「ほー。」
「ここなんですが。」
窓の外は相変わらずの曇り空。
さっき、名古屋を通過したところ。
ここは、日本が誇る超高速鉄道「新幹線・のぞみ号」の中。
大阪への道中は、3分の2をクリアしようとしています。
右横は、ニコニコ顔でグルメ本をボクに見せる荘口アナ。
左横は、真っ青な顔のアニガメチーフ伊藤了子D。
伊藤了子さん、昨日まで元気いっぱいだったのに。
何で大阪に行く当日に、インフルエンザなんかになるかな。
多分小さい頃、遠足の前の日はしゃぎすぎて、
遠足当日、風邪をひいてしまうタイプの子供だったに違いありません。
「・・・時に荘口さん。」
「はい?」
「やけにウキウキですが、それはなにゆえに?」
「いや、ボクも、『地方出し』初めてなんですよ。」
「え? マジっすか?」
「いや、ホントですって。『スタンバイ・アナ』ばっかりで。」
先ほどご説明したとおり、ニッポン放送と地方局は、ラインを使って結ばれるわけですが、
この回線がトラブルをおこしたりする事も考えられるわけです。
これを俗に「落ちる」と呼称いたします。
ま、インターネットで言うところの「落ちる」と同義ですな。
で、「落ちた」時のために、バックアップ回線も作っておくんですが、
それさえも「落ちて」しまった時、
もしくは、「出し」のスタジオ自体が何らかのトラブルに見舞われ、
音声が東京のニッポン放送に送られてこない・・・などという時、
オンエア的に全くの無音になってしまったら、これは「放送事故」です。
これを回避するための「保険」が、「スタンバイ・アナ」。
回線が「落ちて」無音になってしまったとき、すかさず代理で暫定的に喋れるように、
ニッポン放送のスタジオ内で、「アナウンサー」が「スタンバイ」するのです。
もしものために、そこにいるだけ。
縁の下の力持ちですな。
「なろほど。『スタンバイ』ばっかりですか。」
「ええ。・・・じゃ、ボク、店の予約してきますわ。」
「はーい、行ってらっしゃい。」
「あ、そうだ。ワインバーは、『キャバクラ』の姉ちゃん呼んでいいっすか?」
「はあっ?」
「いや、制作デスクバイトの女の子の友達が、大阪にいるらしくて。」
「それが『キャバクラ嬢』なんすか?」
「らしいっすよ。」
「・・・。」
「じゃ、電話してきまっす。」
「行ってらっしゃい・・・。」
たくましい人だこと。
ボクは、仕事に関することはいろいろと準備しましたが、
夜、遊びにいくところまでは、全く決めていませんでした。
多分、岩男潤子さんのコンサートの「打ち上げ会場」にお邪魔させていただき、
朝までどんちゃん騒ぎなんだろうな・・・と思っていたのですが、
荘口さんは、美味しい店を探すのに、大車輪の活躍です。
今日のアニガメの放送終了後に、岩男さんから、
「打ち上げ会場、一緒に行きましょう。」
・・・って誘われたら、どうするつもりなんだ?
「えー、お弁当にサンドイッチ、名古屋名物のういろうはいかがでしょうか。」
あ、車内販売のお姉さんが、味も素っ気もない口調でやってくる。
「了子さん、了子さん、何か食べますか?」
了子さん、毛布替わりに頭からコートをすっぽりかぶったまま、首を振る。
・・・ダメだこりゃ。
・
大阪に到着した我々は、
まず、本部となる、ABC放送のすぐそばのホテルに落ち着く。
「さ、これからどうしますか?」
時刻は、18時を少し回ったくらい。
今から、大阪メルパルクホールに向かえば、
岩男さんのコンサートをチョビッとでも見られるだろう。
事実、ボクの作成したタイムテーブルでは、
荘口さんは、この時間、コンサート会場に向かっていなければいけない。
「もしもし、あ、ニッポン放送の荘口と申しますが、はい、はい、あ、そうそう。
デスクのバイトの。そう。あ、聞いてる? うん。で、時間なんだけど。うん。」
どーいうわけか、荘口さんは、先刻からぼくの隣で、携帯電話を握りしめ、
キャバクラ嬢に連絡とってます。
とてもコンサート会場に行くような雰囲気じゃありません。
一方、伊藤了子さんは、
「・・・ごめん。岩ちゃん迎えに行くまで、部屋で寝てていい?」
ダウン寸前。
海の底に引きずり込まれた幕之内一歩だ。
「・・・じゃ、本番まで、各自休息っつうことで。」
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22時。
大阪からの生放送の本番は無事終了。
お世話になったABC放送の方々にご挨拶を済ませ、局を出ます。
「さてと。このあとは・・・。」
「い゛っ゛でら゛っ゛じゃ゛ー゛い゛」
「・・・了子さん、早く部屋に戻って寝た方がいいっすよ。」
「う゛ん゛、わ゛がっ゛だ。ね゛る゛。」
伊藤了子、轟沈。
鼻水をすすりながら、部屋へと帰っていきました。
「はい。じゃ、その他の人たちは・・・。」
「打ち上げ会場、一緒に行きましょう。」
ほら来た。
岩男潤子さんだ。
荘口さんどうするの?
お店、予約しちゃって・・・。
ま、しょうがない。
ここは、お店の方をキャンセルして。
岩男さん達と一緒に・・・、
「ボクとコバジュンは、フグ食いに行きますんで。じゃ。」
クリア!
速っえ〜。あっさりクリアだ。電光石火。
久保義晴の「伝説の11人抜き」並み。
岩男さんらをコンサート打ち上げ会場へと送りだし、
ボクらはタクシーに乗り込むと、一直線にフグ屋さんへ。
そのあとは・・・。
フグ刺し、白子焼き、フグちり・・・・・と、
荘口さんと2人で、ノドまでフグを詰め込みまして。
何故か、荘口さんが店の親父さんに気に入られちゃって、
お土産に「ひれ酒」用のフグまで貰っちゃって。
その後はワインバーで、キャバクラ嬢と一盛り上がり。
キャバクラ嬢のすんげー爆笑トークを聞きながら、
ワイン、ガンガンに飲み。
「あー、もうダメっす。降参っす。大阪、満喫っす。さ、荘口さん、ホテル帰りましょ。」
「あ、ボクの知り合いが大阪でバーやってるんで、もう1軒、行って来ます。」
うそだろ。
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<終章 果てしなき流れの果てに>
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1996年01月01日 「オールナイトニッポン第1回アニメガパラダイス」。出演:荘口彰久アナ、林原めぐみ他。
1996年09月中旬 編成局編成部に於いて大型アニメワイド番組構想。
編成局制作部・神田比呂志、アニメワイドのチーフに着任。
土井武志、小林治、天野慎也、小林順、アニメワイド制作スタッフに就任。
アニメワイド、「スーパーアニメガヒットTOP10(略称=アニメガ)」と命名。
パーソナリティ、岩男潤子/制作部・荘口彰久に決定。
編成局制作部・田所健太郎/森健一、両名、アニメガ着任。
岩男、神田、荘口、田所による顔合わせ。
10月09日 神田・森・小林、アニメガオープニングテーマ選曲。
14日 サウンドマン第1制作部ミキサー・渡辺晴美、アニメガに着任。
神田・小林・渡辺、アニメガ用各種音素材制作。
17日 第一次アニメガ放送開始(全国3局ネット、2時間ワイド)。
12月30日 「オールナイトニッポン第2回アニメガパラダイス」、アニメガスタッフが制作。
1997年03月22日 第一次アニメガ、ニッポン放送での放送分最終回。
ニッポン放送、お台場に移転。「1242人のマイクリレー」にアニメガ参加。
29日 第一次アニメガ、ネットでの放送分最終回。
制作部・森/サウンドマン・渡辺、両名、アニメガより解任、
04月01日 制作部・吉川宏D/サウンドマン・古谷省一、両名、アニメガ着任。
04月11日 第2次アニメガ放送開始(ニッポン放送単/ネット無し、2時間半ワイド)。
07月13日 東京新宿厚生年金会館にて、第1回(夏の)アニメガちゃん祭り開催。
08月08日 新宿高島屋にて、第1回アニメガちゃんお楽しみ会開催。
09月07日 幕張・東京ゲームショー97において、メガメガゲームランドの公開録音。
10月01日 制作部・吉川、アニメガから解任。制作部・早崎一郎、アニメガ着任。
10月10日 第3次アニメガ放送開始(ニッポン放送単/ネット無し、3時間半ワイド)。
10月23日 「岩男潤子のオールナイトニッポン」放送。
12月07日 お台場レインボーシアターにて、第2回(冬の)アニメガちゃん祭り開催。
1998年02月上旬 編成局編成部に於いて、アニメガ終了が正式決定。
1998年02月14日 岩男潤子結婚式。
03月上旬 ナイターインに伴う、「新アニメガ」構想。
ニッポン放送制作部・曽我部、新アニメガに就任。
新アニメガ、「スーパーアニガメシアター」と命名。
03月20日 アニメガ、最終回告知。
03月27日 アニメガ放送終了。
アニメガスタッフ解散。
04月 アニガメシアター放送開始(ニッポン放送単/ネット無し、30分完パケ)。
09月 アニガメパラダイス構想。
アニメ紅白歌合戦構想。
制作部・伊藤了子、アニガメパラダイスのチーフに着任。
制作部・曽我部/山田尚一郎、両名、アニガメパラダイス着任。
制作部・曽我部、アニガメパラダイス解任。
フリー・小林順、アニガメパラダイス着任。
アニガメパラダイススタッフ、召集。
アニガメシアター放送終了。
アニガメシアタースタッフ解散。
10月05日 アニガメパラダイス放送開始(ニッポン放送単/ネット無し、30分帯生放送)。
12月29日 有楽町国際フォーラムホールAにて、第1回アニメ紅白歌合戦開催。
30日 アニメ紅白のオールナイトニッポン。
1999年01月14日 アニガメ木曜、ABC放送(大阪)より生放送。
01月15日 松澤由美、アニガメリスナーとともに「ありのままで」、レコーディング。
01月20日 アニガメ「前TM『KOKOパラダイス』/後TM『Fly Over To You』」CD発売。
1999年03月中旬 第2次アニガメパラダイス構想。
1999年04月01日 アニガメパラダイス放送終了。
アニガメパラダイススタッフ解散。
1999年04月23日 アニガメパラダイス・ホームページ、一時的に閉鎖。
1999年04月26日 第2次アニガメパラダイス放送開始。
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声優の岩男潤子さんと、ニッポン放送アナウンサー・荘口彰久さんが、
2年半に渡る「コンビ」から解任されて、はや1ヶ月が過ぎました。
先日、渋谷の街中を歩いていたら、
ふと、岩男潤子さんとすれちがったような気がして、
あわてて振り返ってみたんですが、
そこに、彼女の姿はありませんでした。
また別の日、電車に乗っていて、ウトウトしていると、
隣の席に座った女の人が、岩男潤子さんのような気がして、
ハッと目覚め、その人の顔を覗き込んでしまいましたが、
やはり、それは、彼女ではありませんでした。
それは、非常に不思議な感覚でしたが、
後になってようやく気づいたんです。
ああ、そうか。
岩男潤子さんと同じ
香水のかおりだ・・・・。
超時空ラジヲ
AD物語・第弐部
アニメガ・おぼえていますか
終 劇
1999/05/14
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