第4章 筋ジストロフィー患者の家庭生活
1.学校における問題点と解決法(就学患者)
はじめに
この項においては機能的変化が著しく,心理的変化を伴う学童期の留意点と対応について話していきます.
(1)普通学校在籍について
1.小学校低学年
この時期,運動機能の面ではスピード・持続性において多少の遅れが見られたり,転びやすい等がありますが,同級生と行動を共にすることへの支障は少なく,みん なと同じ遊びや課題が共有できる状態です.子供は家族や先生が心配する程疾患に 対して敏感ではないと思います.むしろ,疾患に対する家族や先生の不安に思う気持ちやかわいそうに思う態度,緊張した態度が彼らに不安な気持ちをおこさせているかもしれません.この時期の子供たちは,親たちの感情や態度の変化に敏感に気づくものです.
また,この時期は家庭から学校という新しい環境へ適応していかなければなりませ ん.子供たちは学校で多くのことを学べるということへの期待と同時に新しい環境へ適応していくための努力も必要なのです.先生方は子供にとって母親に変わる人 であり,また,良き援助者,良き監督者であります.子供たちは先生の指示や指導を頼りに,自分たちの適応力を促していきます.ですから,まわりの大人は疾患にとらわれず,子供の情緒的,精神的発達の状態や行動の仕方をよく理解して援助・対応していくことが大切です.また子供たちは学校での様子等を家庭で報告することは少ないので,先生と連絡をよく取り合いながら症状の変化にあわせて配慮していくことが大切だと思われます.
2.小学校中高学年
3〜4年生になると,疾患の症状は顕著になりまわりから見ても運動機能の変化が 分かるようになります.しかし,まわりの子供たちは歩いている頃からの彼を知っており,少しずつの変化を共有しながら経験してきています.彼に対して極端な違和感をもつことはないと思われますが,車椅子に乗っている彼を見て「何故あるけないの?」等の質問が多くなり先生も何と答えたら良いのか迷い,相談を受けることがあります.先生方は「足が弱いから,腰が弱いから,物を持ったり,手伝ってあげましょう」と,目に見えている症状で伝えており,その説明で子供たちなりに納得しているようです.しかし,本人は歩いていた状態から車椅子になるという変化に戸惑い,精神面での動揺が多くみられます.先生やクラスの子供たちの暖かい援助が彼の助けとなります.
高学年になるに従って,クラス単位の意識が強くなり,集団競技や勝敗への意識も 強くなってきます.クラス対抗の競技や行事を通して子供たちのつながりやまとまりがでてきます.この時期の筋ジスの子供は機能の低下に伴い,まわりからの介助を必要としなければなりません.みんなと同じやり方での参加は難しいですが子供同志の交流をふかめ,クラスのまとまりのためにも集団競技への参加を促したいものです.このような集団競技の中で,審判や記録係等,可能な範囲での役割を考え,クラスの一員としての存在感を高めていくことが大切です.時には筋ジスの子供を中心とした競技等をクラスで企画し,お互いの立場を理解し合う機会を設けてみることも大切です.このようにクラスメートと一緒に何かをやる,やれるということの経験は精神的にも安定し,自信につながっていきます.
教科面でも技能的教科や体育等で他児と同じような形やスピードで行なうことが難しくなってきますが,子供の状態に合わせた環境設備や方法を専門家に相談しながら調整していくことが必要です.学校と家族が連絡をとりながら医療への相談をすすめていくことが,この時期には大切です.
家族の介助については多くのケースの経験から,子供たちの交流や自立の妨げとなる場合がありますので,学年や状態に応じた介助体制について学校と検討する必要があります.
中学進学については小学校に比べ教科学習が厳しくなる,体格やスピードの面で圧倒されてしまうのではないか,いくつかの小学校から集まってくるため子供を理解することに差があるのではないかという不安から家族の意向で中学校を検討されることが多いようです.しかし,子供は自分なりの中学進学に対する思いや意味があるので,日頃から進路についてよく話し合い,子供の意見や気持ちを取り入れながらすすめていきたいものです.
(2)環境調整
1.登下校
歩行が不安定な時期はカバンの重さ等によってバランスをくずしやすく,集団登校の際,速度や持久性において問題がみられてきます.安全の為の保護帽の着用,カバンの素材や教科書の量を調節しましょう.
2.児童昇降口
歩行が不安定な頃から車椅子の時期は昇降口等の段差の移動が困難になってきます.昇降口及び段差のある場所にスロープを設置することが必要です.
歩行が不安定な時期では靴の履きかえの際,バランスをくずすことがあります.下駄箱のそばに椅子を置くことで安全に履きかえられます.
3.階段昇降
歩行時期は階段に手すりを設置することで安全に昇り降りができます.移動に時間がかかり,バランスがとりにくくなってきたら介助移動を検討して下さい.
車椅子においては階段昇降機の利用やまわりの人の介助で移動ができます.
4.教室場所
障害の進行にともなって教室移動の面では時間がかかり,介助が必要になってきます.移動の少ない1階の教室及びトイレに近い教室が望ましいでしょう.
5.教室内
歩行時期,椅子から立ち上がることが困難な際は椅子の高さの調整が必要です.車椅子になった時は車椅子の移動スペース・授業中の機能面での介助等を考慮し,出入り口に近い場所,先生の目のとどく場所が望ましいでしょう.
車椅子で授業を受ける際は車椅子に合わせた机や直接車椅子にテーブルを取り付 ける方法があります.
6.トイレ
歩行可能な時期,男子用トイレでは手すりを設置することで安全に排泄ができます.車椅子時期では洋式トイレ,尿器等を利用するとよいでしょう.
排便においては機能的には歩行時期より,洋式トイレが利用しやすく,車椅子の出入り,介助者のスペースを確保することが必要です.
7.学校行事
運動会,校外学習等の長距離または速さを要求される活動では手動車椅子や電動車椅子を利用することで他児と一緒に行動がとれます.内容によって,移動手段を臨機応変に選択して下さい.
詳しくは第3章5項の「家庭・学校における環境調整」を参考にして下さい.
以上,学校生活上での留意点・環境調整についてまとめてみましたが,子供の状態によって対応が多少異なりますので,医療機関の担当の先生にご相談下さい.
(関谷智子,中嶋健璽)