2.家庭における問題点と解決法(成人患者)
はじめに
在宅に不可欠なものは衣食住が十分に充足され,どのような形でおこなっていくのか家族,患者,又は他の援助者が十分に話し合うことが大切です.症状は程度の差があるも徐々に進行し,現状で満足できない部分も出てくるため,節目節目での関わりが必要になります.介護支援センターやホームヘルパー,ボランティアの充実が在宅をより一層拡大するものと思われ,筋ジス患者の在宅ケアも家族だけの介護に限らず,多方面からの援助も十分求められる素地が出来上がり,今後はどのように個々に生かせるかが課題となっています.積極的に求める人,求められない人の間には明らかに大きな差があり,私達医療者としての関わりは等しく良い医療,ケアがうけられるよう働きかけていくことにあるのではないでしょうか.その人が必要とするあらゆるネットワーク作りも今後の課題となり,地域社会を含めた介護のあり方が強く求められます.在宅患者が評価され病む人も可能な限り家庭,地域社会で過ごすことが可能になりました.
今日,介護支援センター,ネットワーク作りの面ではまだまだ取り組みが不十分です.施設内ケアから地域へのケアへと患者環境も拡大され,医療側の役割も変化しつつあります.
在宅ケアに関しては,支援者としてのサポートの役割が大きくなるでしょうが,個々の施設の特色を活かしながら地域に根をおろした活動を試みることが大切でしょう.在宅医療が社会的に評価され,在宅医療は医療の中でも大きな役割を占めるようになります.障害があるなしにかかわらず,人として生きていく上で一番心が安らぐのはやはり家庭ではないでしょうか.
筋ジスの患者さんにはどうしても医療が必要だということで,国立病院の中に専門病棟が設置され,患者達は幼い頃から家族のもとを離れ,教育のため,また訓練のため社会から切り離されての生活を強いれられてしまいましたが,本来家族の愛情が必要な幼児期に病院での生活がいかに辛かったか,私達は今一度考えてみる必要があると思います.一昔前に比べれば,今は介護ヘルパーや,ホームヘルパーそれに外出時にも即対応できるガイドヘルパーの派遣依頼も容易になりましたが,まだ筋ジス患者の在宅医療は十分に機能していません.筋ジス患者の在宅医療のハード面に関する4つの問題の現状と解決法を模索してみることにします.
(1)介護の問題
筋ジス患者の在宅医療を可能にする上で第一にクリアーしなけらばならないのは介護問題です.患者の個々の進行状況,身体的・機能的障害によって程度の違い,問題の違いは生じてくると思わますが,基本的には誰がどの程度介護するのか,介護者との関係が在宅を可能にする大きなポイントになります.
患者の背景を知らなければ不適切な介護,介護力の不足が生じ適切な指導・支援は望めません.近年は前述のように医療の出前も可能な時期にきており,地域の在宅患者の情報の一元化を図りながら,介護支援センターを充実させる必要があります.在宅を支えるものは医療スタッフの関わりだけでは不十分であり,時には患者家族の状況に応じてホームヘルパー等を派遣し,患者,家族が満足するきめ細かな介護への取り組みが望まれます.
(2)生活環境の問題
生活の場としての住環境の充実と機能障害の程度に応じた補助具の供給にあります.
住環境は介護される側,介護する側に立って十分な検討を重ね考慮する必要があります.患者個々の衣・食・住の全体を把握しなければ患者及び介護者に負担を強いることになり,ゆとりある生活を望むことは難しく,今後おこりうるであろう進行の程度を考慮した生活設計を描きながら,福祉とタイアップした取り組みが必要です.
また忘れてならないのが患者個々の経済的背景です.経済的背景の把握も重要です.
(3)医療の問題
望むときに望む医療を受けたいという思いは万人の願いです.
筋ジス在宅患者の現状は介護者の問題,移動時の困難さ等から満足な医療を受けているとは言い難いものです.また合併症の出現,進行による運動機能の低下時の対応はどのようにすればよいのかなど,不安な面は多く存在します.そこで健康管理面と緊急の対応という二面に分けて考えて見ると,日常の健康管理は地域のかかりつけの医者に診てもらうのが望ましいと考えます.
進行状況や合併症の出現は専門医や専門医療機関と連携をとりながら,患者が安心して医療を受けられるように,どの症状,どの時期に行けばよいのかを個々に指導しておく必要があります.
このような取り組みが患者に安心して医療を受けることにつながると思われる.
(4)ライフサイクルの問題
人は人として一生を終えたいライフサイクルの確立は健常者であれ障害者であれ,望む自分に近づきたいという目標の終結です.支援する者の協力の程度と患者個々の目標によってQOLはおのずから異なります.患者の生活環境,地域の状況にも左右されるが患者がどう生きたいかという思いが一番大切です.筋ジス患者が生きがいを持つということは,心身の充実となり,病気の進行さえ遅延させているのではないかと感じさせられるケースに出会うことが多々あります.可能性は無限大であることを感じさせられる患者さんと言えます.人はそれぞれの生き方があり,他者より強要されて生きるべきものでもなく,その人がその人なりに輝く人生を送ることが最大の幸福につながることだと思われます.在宅においてはより一層その人らしい生き方が発揮され地域社会との関わりも広がりがもてるのです.家族が患者に対してはどのような支援が必要なのかを見きわめ,必要な指導・助言をおこなっていくことが医療者としての関わりかと思われ,常に必要な時は側にいるという安心感を育てていくことが大切ではないかと思われます.
平成6年度の医療報酬改定により在宅医療の分野は大きな前進をとげました.在宅医療がより推進されこれまで老人だけに限られていた訪問看護こと業が筋ジス患者などの難病にも適応され,在宅医療にも広く活用できるようになりました.それによって筋ジス患者の在宅医療も一歩前進したと言えます.また診療報酬の改定によって,在宅患者の在宅時医学管理料が新たに設定されました.それによって登録された患者からの連絡に対して,常時対応できる体制によって患者が安心して在宅医療のサービスを利用できるようになりました.さらに在宅患者訪問薬剤管理指導料と在宅患者訪問指導料が設けられ包括医療が望めるようになりました.このような在宅医療におけるソフト面が整備され,それによって今後の筋ジス患者の在宅医療の充実が期待できます.
おわりに
患者自身が自らの意志で在宅生活を望むことは大変意義あることであり,自己主張をすることにより心に蓄積していた不満なども解消できるようになりつつあります.このことは大きな喜びであり,自分の人生を自分で選択できる幸せが生きることへの意欲となって,短命といわれる筋ジスの患者たちに大きな躍動となるでしょう.私たち医療に携わる者が在宅患者さんにしてあげられることは何か,また彼らが何を望んでいるのか,心一つにしてともに取り組むことこそ,今後におけるの私たちの課題です.
(長嶺道明)