2.呼吸不全看護の実際
(1)体外式人工呼吸器による看護
現在,在宅でも呼吸不全の状態となると,殆どの方が人工呼吸器を導入しています.導入にあたっては,専門の医療機関に家族とともに入院し,指導を受けます.その後は,外来でフォローをうけながら在宅での,人工呼吸器の治療を行っています.この章では,体外式人工呼吸器(以後CR)の装着時の注意事項,日常生活の援助,CRの管理,精神的援助について述べます.
1.CR装着時の注意事項
- CRは400Wの電力が必要です.家庭での総電力が30A以上とれるようにしておくとともに,回路にも十分注意を払って下さい.
- 呼吸回数は,患者の呼吸をもとに呼気ダイアル及び吸気ダイアルの二つを調節する事により医師が設定します.
- CRの圧は,約15〜20cm水柱とします.CRを装着している患者の中には,病状の進行とともに,圧を高くする要求をしてくる患者もいますが医師と相談して下さい.
- コルセットの装着:コルセットは患者の体型に合わせて作成されます.空気漏れの予防やコルセットでの圧迫による褥創予防のために,当院では綿にサランラップをまいて,体とコルセットの間に入れる等の工夫をしています.しかし,変形の強い患者や痩せている患者への対応が難しくなり,現在はポンチョへの切り替えがすすんでいます.
- ポンチョの装着:ポンチョを頭からかぶせ,左右対象とし背部がしわにならないように装着し,体位変換しても上下肢が動かせるようにします.上腕と大腿をゴムでとめますが,弱いと圧が上がらなくなり,強いと循環障害をおこします.首は,タオルを巻いた上から紐でとめます.股間の部分はクリップでとめるのが便利です(図1).
- スイッチをONにした時,圧,呼吸数を確認し,患者が楽に呼吸しているか観察します.圧は状況により変化しますので,時々確認します.
- 外気温が低くなると,吸い込まれる空気のため皮膚温が低下します.電気毛布を敷き上は毛布や布団を使い,重ね着等をして対応して下さい.日本家屋の構造上の問題もあり対応が難しい場合もありますが,できるだけ室温を上げる工夫をして下さい.
- 騒音に対しては消音ボックスが市販されています(図2).
- 停電時は,短時間であれば,用手補助呼吸で対応できます.
- 毎日患者の状態を観察し記録にとっておいて下さい.顔色,爪の色,呼吸,脈拍,体温,CRの装着時間,起床時の状態等記録しておくと,経過が良く分かります.外来通院時持参されると参考になります.その時にCRの設定が患者と合っているかも医師に確認してもらって下さい.また急に呼吸器と患者の呼吸が合わなくなった時には急変が予測されますので受診して下さい.症状の観察については前項を参照して下さい.
2.CRの管理
CRは,3ヵ月に1回業者のメンテナンスにより整備点検がなされています.在宅の患者さんには日時を指定し,病院へ持参してもらっています.急な故障の場合,病院の予備を貸し出すという方法で対処しています.日々の整備については,以下に示します.
- フィルターの交換は週1回実施するが,装着時間の長い場合は週2回実施しています.CR内やサイクリングバルブの汚れもおとします.
- CRの故障の原因として,カーボンの消耗,ブラシの不良,消音ボックスのヒューズ切れ,サイクリングバルブの汚れなどがあります.カーボンやヒューズは予備を確保しておくことが必要です.
- ポンチョは定期的に家庭用洗剤で洗い,清潔に保ちます.ポンチョは消耗しやすく薄くなり空気漏れを起こします.そのままで使用しているとCRの故障にもつながります.また,縫い目もほつれやすいので定期的に交換が必要です.
3.日常生活の援助
- CR装着中でも,食事摂取はできますが,できれば車椅子に乗って食べて下さい.誤嚥をする可能性がありますので,十分注意し,痰が多い時は,特に注意をして下さい.
- ポンチョ使用中の排便は,ゴム便器を使用し,ポンチョを腰まで上げ下腹部をゴムでとめて行います.用手補助呼吸をしながら行う事もあります.
- 入浴はできる限り実施し,24時間CR装着患者でも用手補助呼吸をしながら実施すれば可能です.その際,浴槽内で体が保持できる装具等があれば便利です(図3).
- 昼間は,CRが除去されていますので,生活のリズムをつくり何事にも積極的に取り組んでいってほしいと思います.そして,CRは呼吸の補助用具と考え,息切れ等の症状がでたら,呼吸筋を疲れさせないために,昼間でもつけて下さい.
- CRを開始しても外出や旅行は可能です.インバーターを利用してCRを装着しながら東京ドームへ野球観戦にいったり,CR持参で温泉旅行にでかけたり,毎日を楽しんで生活している例があります.
4.精神的援助
医師より呼吸器の導入を告げられた時の患者の反応は様々であり,中には死の宣告を受けたと同様にとらえてしまう例もあります.入院中の患者は呼吸器を導入した先輩をみているので,比較的受入れやすいと思われます.在宅の患者の中には,自分の病気の事について,余り知らないで成長された方もおり,そのような状態で呼吸器を導入するため動揺が大きいと思います.在宅患者の中には色々な人との交流を通して,情報を得ている方もおります.病院では,CRは補助用具の一つとしてとらえてもらうよう努力しています.呼吸が楽になる事により,睡眠が良好になり,食事もとれるようになると説明し元気づけています.導入時は自覚症状もあまりないので,CRの効果はあまり感じられないようですが,CR導入をきっかけにして,親子の対話が多くなったり,父親も介護に協力的なるなどの変化があります.患者本人も,なにかをしたいという思いも強くなり,今できることするという思いで,通信教育をうけたり,趣味に打ち込んだりする患者もでてきます.患者にとって,不安が一番苦痛のようにみえます.家族の関わりが少なく,情緒的に不安定な患者は,病状の変化に敏感に反応し,ときにはパニックになってしまうこともありました.看護サイドで関わりを多く持っていくことで落ち着いてくる例があります.在宅においては,家族のささえがありますので,患者も情緒的には安定していると思います.しかし介護量が段々ましてくるので,家族も心身とも疲れてくる場合もあります.家族だけで介護が難しい場合は,公的機関やボランティアなどを利用することも必要となります.家族が健康でいることも患者にとってとても大切なことです.
おわりに
今後,在宅での人工呼吸の導入はますますふえていくと思われます.CRでの対応が難しくなり,陽圧式人工呼吸を導入する場合も考えられます.医療機関との連携を十分とり患者の意思を尊重し,より良い方法を選択していくことが大切だと思います.
参考文献
石原傳幸:体外式陰圧人工呼吸器によるデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者の在宅治療.神経研究の進歩,34巻2号,1990年4月
(大畑みえ子)