(3)鼻マスクIPPVの看護
鼻マスクIPPV(以下NIPと略)は,鼻マスクを用いて行う人工呼吸です.筋ジスは呼吸する筋肉が弱くなるので,体の中の酸素の量が少なくなり,炭酸ガスがたまってきます.特に眠っている夜間に,酸素量が少なくなっている状態が見られます.しかしNIP人工呼吸器の使用で,体の中の酸素量が増え,呼吸が楽に出来るようになりました.また,日常生活の規制が少なく,旅行等を含め行動範囲が広くなりました.
1.NIP装着時の必要物品
- 鼻マスク,スペイサー,ストラップ(ベルト)
- 鼻根部ガーゼ,絆創膏,
- マウススクリーン
- レスピレーターおよび付属品(呼気弁,蛇管,ケーブル)
2.NIPの装置手順
- NIP開始前に必要物品を確かめます.
- 患者さんの顔を拭き清潔にします.
- 鼻根部の圧迫を避ける為.ガーゼを当て絆創膏を貼ります.発赤やビランには軟膏剤や創傷被覆材(ドィオアクテブドレッシング)を貼ります.
- 鼻マスク装着時は,顔に密着させベルトで固定します.
- レスピレーターに蛇管を接続後,マスクに接続します.
- レスピレーターの指示設定を確かめ,スイッチをONにします.
- 空気が漏れる方向に蛇管の位置を決めます.
- 送気がタイミングよく行われているか,胸の動きを確かめます.
- マウススクリーンを口に含ませ合っているか.空気漏れがないかを確かめます.
- 体位変換時はレスピレーターから蛇管をはずし,患者さんの最も楽な体位にし,再び固定します.
3.NIPの装置時の要点および注意事項
- 鼻マスクは,強すぎたり弱すぎたりしないようにします(強過ぎると鼻根部発赤の原因になりますし,弱すぎると効果的な換気が行われません)
- 気流のもれる方向に蛇管を位置するようにしましょう.
- 蛇管を引っ張り過ぎるとマスクの密着度が変わり,空気漏れの原因になります.
- 最も楽な体位で装着するようにしましょう.(仰臥位,側臥位でもよいです)
4.鼻根部の発赤について
- 鼻マスクによる圧迫を避ける為,あらかじめ鼻根部にガーゼを当てます.
- 換気時,マスク内が陽圧になると顔に密着する構造になっていますので,強すぎる圧迫は,発赤やビランの原因になります.
- 圧迫の程度を確かめ,ベルトの長さを調節し,強く締めすぎないようにします.
- 鼻根部の発赤が認められたら,鼻周囲を清潔にしマッサージをしてみましょう.
- 発赤が強くなってきたら,鼻ガーゼの工夫をしてみましょう.
- 発赤の程度により,医師の指示で軟膏剤が処方されます.清潔な操作で塗布します.
5.NIP使用中の食事について
- 食事の内容を説明し,食欲が増すように考慮します.
- 坐位で食べる場合は,配膳の位置を工夫し目で見て味わう事ができるようにします.
- ベットで寝た状態で食べる場合は,ベットサイドに鏡を準備し,体位に合わせて位置を工夫してみます.
- 送気と,食物の嚥下のタイミングを観察しながら,注意して食事介助しましょう.
- 副食は,かんだり飲み込んだりし易いように,一口大にすると食べやすくなります.
6.入浴について
- 浴室は温度の上昇,浴槽からの蒸気により,息苦しくなったりしますので,必要物 品を整え短時間で入浴させましょう.
- 入浴時は,レスピレーターをはずす事で不安になったりしますので,万全な準備を 整え安心感をもたせましょう.
- 家庭内でパイピングを設置する時は,風呂場も考えましょう.レスピレーターを使 用すると,不安感や呼吸苦痛もなく入浴できます.
7.旅行について
- 必要物品の確認(レスピレーター,酸素ボンベ)
- 旅行前にレスピレーターのスイッチをONにし,正確に動くことを確かめます.
- レスピレーターの指示換気量と回数が正しく設定されているか確認します.
- 旅行する場合は,酸素ボンベの補給と緊急時の連絡網を確認します.
おわりに
NIP導入により呼吸不全が改善され,行動範囲が拡大してきました.しかし,病状の進行に伴い呼吸器の装着時間が延長し続けています.今後はさらに患者さんのQOLを重視し,旅行を含め有意義な潤いのある生活空間が保たれるようにと願っております.
文献
- 大竹進:筋ジストロフィーに対する鼻マスクによる人工呼吸(NIPPV)の試み.リハ ビリテーション医学, VOL, 29. NO, 10. 1992, 10.
- 山崎慶子:医療機器と患者のQOL. 臨床看護. へるす出版, p1865-1868, 1993.
(小山内幸子)