5.日常生活の工夫
(1)食事
食事はできるだけ自力で,自分のペースにあわせて食べれるよう,いろいろな工夫を試み,楽しい食事にしたいものです.食べ物は家族と同じ物で良いですが,一口大にしたり,きざんだりすると食べやすく,テーブルの高さを調節することによって,自分で食べられます.肘付き回転座いすや枕を使うと,姿勢が保てます.
自助具
- スプーン(図1)〜重さと長さを考慮する
木製−市販のもの(民芸品店)
- 回転台(図2)〜食べ物がとりやすい
調味料置き(市販)を利用し,食器滑り止めのゴム板を乗せる
(2)排泄
毎日規則正しく排泄することが大切です.同じ時間にトイレ座るよう習慣づけましょう.
- 洋式トイレ
手すりや安全帯(幅広の布),大きめの背もたれクッション,
両腕が乗る程度の前もたれ台を利用しましょう(図3).
小さめの便座も市販されています.
- 和式トイレ
床にマットを敷けば,寝たままでも安全に使用できます.段差があるトイレでは,丈夫な空箱を利用し,段差をなくすと寝たままで使えます.
- その他の排泄用具
- 男子用尿器
ベッド上や車椅子上でも排泄できます.寝たままでも砂袋で固定すればずれません.
- 女子用尿器
寝たまま排尿できます.紙おむつを敷くと漏れても安心です.車椅子上では巻きスカート・前あきパンツを使用し,お尻を前に引いた状態で,利用出来ます.
- ゴム便器
やわらかいので,お尻が痛くありません.尿がとばない様,女性の場合,前にチリ紙を当てましょう.男性の場合,ペニスをビニール袋で包みましょう.
膝立ちが出来れば,椅子を利用し,両足の間にゴム便器を入れ,その上に座ります(図4).
変形のある場合は上向きで,両足の外側や下に,クッションや枕などを利用して使えます.
- 便器車(図5)
肘置きや背もたれが付いた排泄用の椅子
(医療介護用具店で販売しています).
- ポータブルトイレ
どこにでも置くことができます.ベッドの横につけておくと自分で移動しやすく,また,介護者1人でも移動させやすく,負担が軽くなります.
段差の無い和式トイレに,簡易ポータブルトイレを利用すると洋式トイレになります. 変形が強く,肥満気味の人には便座を利用した木製の箱型トイレも作れます(図6).
4. 外出時の排泄
- 行き先のトイレの有無を確認し,出かける前に排泄しておきましょう.
- 外出時は尿器を持参すると良いのですが,近くに尿を捨てる場所がない場合は,空ビン(コーヒーのビン等)の蓋がきっちり閉まるようなものや,ビニール袋,尿取りパットを持って行くと便利です.
(3)清潔
皮膚から出る汗などで体は汚れています.清潔にすることは,気分を爽快にするだけでなく,健康上も大切なことです.体の清潔は細菌の繁殖を防ぎ,汗の分泌も促進させます.
1.入浴
入浴は,体全体を清潔にするだけでなく,腹部を温め,腸の動きを良くするため,慢性の便秘にも効果的です.できるだけ毎日入浴しましょう.また,体調に合わせてシャワー浴も良いでしょう.
- お湯の温度はぬるめ(40℃前後)で,心臓に負担がかかるので短時間にしましょう.
- 危険防止のため,できるだけ2人で介助しましょう.
- 抱える場合は,石けんをよく流し,タオルを背中からわきの下に通して抱えると,すべりにくく安全です.
- 洗い場が広い場合は,浴用マットを敷き,寝か
せて洗うと安全です.その場合,枕はマットを切り,
4枚重ねて作ると便利です(図7).
- 浴室を改造する場合は,
- 浴槽内に手すりを取り付けましょう.
- 浴槽の高さはできるだけ低くしましょう.
- 洗い場を広くしましょう.
- 浴槽と同じ高さの腰かけを使用すると,浴槽の出入りに便利です.
- 浴槽内でバランスが取れない場合は,浴槽のふちにタオルを敷き,頭を乗せ,介助者は肩をささえます.下半身が浮く場合は,重りを利用してみましょう(図8).
★重りの作り方★
布で帯袋を作ります.粘土1kgをビニール袋に入れ,
ビニールテープで巻き,イの内に入れる.
- 入浴後は,耳の中が湿っていて,傷がつきにくい為,耳掃除をする良い機会です.綿棒で拭きましょう.爪もいっしょに切りましょう.
2.清拭
入浴できない場合は,気分の良い日の暖かい時間に体を拭きましょう.特に冬は部屋を暖かくし,素早く行います.
- 絞ったタオルをビニール袋に入れ,電子レンジで温めます.この時,沐浴剤を使うとさっ
ぱりします.
- 電子レンジを使わない場合は,拭く時に丁度良いように熱めのお湯を用意しましょう.
- 乾いたタオルで水分を拭き取り,保温につとめましょう.
3.陰部の清潔
障害が進むと自分で後始末ができにくくなり,分泌物等により不潔になりがちです.
- 毎日1回,排便後は必ずお湯で拭くようにしましょう.おしぼりウェッティーも利用できます.洋式トイレにウォシュレットがあればより清潔です.
- 女子の場合は,排泄後は前方より肛門に向けて拭いて下さい.
- 生理は健康児と同様にあります.生理の時は特に清潔にするように心がけて下さい.就寝時や経血量の多い時は,タンポンを使用し,ナプキンの他に尿取りパットをあてておくと安心感を与えます.
- パンツは毎日交換しましょう.思春期の男子は,夢精のため汚染することがあるので,毎朝交換するようにしましょう.
- 男性の場合,坐る時間が長いと陰部の乾燥が悪く湿疹,かぶれ,いんきんの原因になります.ドライヤーを使って乾燥させるとかぶれも早くなおります.また,坐位の時,両膝の間にスポンジ等を入れて広げるとむれにくくなります.
4.洗髪
洗髪は少なくとも週2回は行いましょう.できない場合は熱い蒸しタオルまたは市販のドライシャンプーで拭くとすっきりした感じを与えます.最後はドライヤーで乾かしてください.
5.歯みがき,うがい
歯みがきは毎食後行い,口の中を清潔に保つようにしましょう.自分でみがけない場合は,次のような工夫があります.
- 歯ブラシを持つ手を動かせない時は,頭を左右に動かします.市販の電動歯ブラシを使用すると楽にみがけます.
- 手のささえがうまくいかない時は,台の上に肘をのせ,砂袋等で固定します.
- うがい用のコップを持てない時は,蛇腹付きストローを使用するとよいでしょう.
- 自分でうがいのできない人には,市販の離乳スプーンを使って,口の中を洗い流すようにしましょう(図10).
- 水歯磨きやうがい薬等も市販されています.
(4)睡眠
睡眠は一日の活動の原動力となり,次の日のエネルギーを蓄積するためにとても大切なものです.
1. 寝具の選び方
- マットレス
弾力が強く,肩やお尻が沈まない様なマットレスを選びましょう.痛みを和らげ,床ずれの予防に無圧マットやエアマットもあります.
- かけ布団
重いと寝返りができなくなるので,重量感のない,毛布や肌布団が良いでしょう.電気毛布使用時は,温度の調節に注意しましょう.
- ベッド
ベッドは柵付きで,頭や足が上がるギャチベッドが便利です.また,電動ベッドもあります.
2.体位変換
私達は,眠っている時,無意識のうちに何回も寝返りをしています.寝返りができないと苦痛があり,床ずれもできます.体位変換はなるべく2〜3時間毎に行って下さい.
- 本人の希望に応じて,好みの体位をとらせ,背中や手足のささえに枕やビーズクッション等を利用するのも良いでしょう.
- 左右の変換だけでなく,頭,手,足,お尻の位置を少しずらすだけでも楽になります.
(5)衣服
衣服は伸縮性に富み,通気性のある素材で着脱しやすいひとサイズ大きいものを選びましょう.着る場合は,変形の強い方の手や足から先に,脱ぐ場合は,変形の少ない方の手や足から先にすると楽にできます.
(6)移動
筋力低下予防の為にも,自分で出来るうちはなるべく自力で動きましょう.病状が進むと,介護者にとって,移動させることが大きな負担となります.移動させるとき介護者は,
重心を低くし,身体をよせて,しっかり抱え上げます.後ろから抱えるときは相手の両脇から手を入れ,反対側の肘の下をつかみます.
1.移動補助用具として,次の様なものがあります.
ベッド 車椅子用移動板(30×70×1)(図11):自分で座れ,腕の力が残っている人は,板を利用し,移動することが出来ます.
丸い方を尻の下に引き,すべる様に移動します.
移動補助輪(図12):足を車椅子からベッドへ上げる時,輪を足先にかけて膝の上まで引き上げます.
その他にも介護用品販売店にありますので,利用されてはどうでしょうか.
リースもあります.
回転式移乗用具(図13):体を起こし,くるりと回して移し変え,
簡単な操作で少ない力で,手早く安全に,移し変えができます.
充電式リフト(図14):起こさなくてもベッドに寝かせたまま吊り上げられ,便利な多用途リフトです.種類は色々あります.
2.車椅子や電動車椅子の使用は,生活空間を拡げ,ゆとりや生きがいが生まれます.
安全の為に次の事を注意しましょう.
- 車椅子への移動時は必ずブレーキをかけましょう.
- 安全ベルトを使用しましょう.
- 段差のある場合,後輪より上がります.
- 急な坂道では,後ろ向きに進みます.
- 踏切を渡る時は,前輪がレールにはさまることがある為,後ろ向きに進ます.
- 電動車椅子は,暴走するおそれがある為,走行時以外は,必ずスイッチを切りましょう.
(東 数穂)