2.喀痰・食物による窒息
NIPPV患者さんでは喀痰による窒息の危険があります.刀根山病院では8年6ヶ月間に喀痰による窒息が契機となり死亡したNIPPV患者さんを4名も経験しています(入院,在宅それぞれ2名).
常に喀痰量が多い患者さんに窒息の危険が高いといえますが,肺炎など気道感染症を罹り,喀痰量が一時的に増した時にも同様です.常に喀痰量が多く,気道内圧が高まり,肺のコンプライアンスが低下した状態(肺が硬くガス交換の効率が低下した状態)では,NIPPVからTIPPVへの移行を勧めます.主治医とよく相談して下さい.
気道感染症の発症から喀痰増量までには少し時間を要しますので,気道感染症による発熱があれば直ちに入院していた方が無難です.
注意を要するのは,食物誤嚥による窒息,あるいは食事の際に増量する喀痰による窒息,つまり嚥下障害に派生する窒息なのです.患者さんに意識があれば,何をつめたか言えるかも知れません.現に窒息しかかった患者さんが家族の方に指示して救命しえたことがありました.その患者さんは自宅近くの病院で気管内挿管を受け,直ちにほど遠くない大学病院の救命救急部に搬送され,翌朝,刀根山病院に転院しました.その後抜管することができ,現在もNIPPVを継続しています.
食物や喀痰,あるいは吐物の口腔内貯留を認めたら,吸引器で吸引してみて下さい.できれば体位ドレナージしながら吸引して下さい.自宅で使用する吸引器のパワーでは十分に貯留物を吸引できないかも知れませんが,その時は掃除機の先細アダプターを使用してみて下さい.家族の一人が吸引している間に,他の人が救急隊に急報し,出動を依頼して下さい.
窒息時の対応は,一に吸引,二に気管内挿管です.つまり気道(空気の通路)を確保することにあります.気が動転するのも当然ですが,急変に対応する医師の説明に耳を傾けて下さるようお願いします.
(姜 進)