昭和62年(1987年)3月,厚生省筋ジストロフィー研究第4班(筋ジストロフィーの療護に関する臨床および心理学的研究ー青柳昭雄班長)の研究成果をもとに,当時「在宅ケア」プロジェクトリーダーであった私が中心になり「進行性筋ジストロフィー在宅療養の手引き」(A5版,120頁)を作製しました.当時から筋ジス患者の在宅療養・在宅ケアの重要性が唱えられており,言うならば時代の要請に応じた手引き書の作製でした.この冊子は当初1,000部が印刷されたが,各施設の要望により同年8月には2000部増刷されました.さらに研究班の了解を得て日本筋ジストロフィー協会が本冊子を2分冊にして廉価販売されました.しかし,数年後には在庫がなくなりました.それほど本冊子が患者さんや家族の方に幅広く読まれた手引き書であると言えるでしょう.
 一方,この10年間,筋ジスに関する分子遺伝学的研究の進歩により,DNA診断や遺伝相談が実施されるようになったほか,一部病態の解明,新たな疾患の確認・発見などがみられました.しかし,残念ながら原因療法・根治療法開発の目処は立っていません.そのため筋ジス患者さんの多様化する医療ニーズやQOL向上の要望に応える療養,看護および福祉の諸問題が依然として,いや,ますます重要度を増しています.
 今回編纂された「筋ジストロフィー在宅療養の手引き」は,1987年版の全面的改訂版です.在宅筋ジス患者さんや介護される家族の方が必要とされる,筋ジスに関するほとんどの事項が網羅され,記載されています.すなわち,最近における基礎的研究の進歩の紹介のほか,この10年間の第4班における研究成果,筋ジスの医療・福祉・生活のすべてについて詳しい説明がなされています.旧版にはなかった遺伝相談,ボランティア,家庭でのリハビリ,家庭や学校における環境調整,QOL,人工呼吸器療法,筋ジス病棟の在宅患者への支援なども新しく加えられています.
 このように,本冊子は「筋ジスとはどのような病気か」,「どのように援助したらよいか」を在宅の筋ジス患者さんや家族の方,さらに支援して下さる人々に,極めて有用な手引き書になるものと思います.また旧版同様,筋ジス医療・福祉関係の人々にも重宝されるに違いありません.
 編集に当たった国立療養所刀根山病院神経内科医長・姜 進先生(当研究班:在宅療養看護分科会リーダー)はじめ,執筆していただいた各位に厚くお礼を申し上げるとともに,厚生省当局ならびに国立精神・神経センターのご指導,ご支援に深く感謝いたします.


平成8年1月17日
厚生省精神・神経疾患研究委託費
「筋ジストロフィーの療養と看護に関する臨床的,社会学的研究」

班長 岩下 宏

   

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