第1章 筋ジストロフィーとは
1.筋ジストロフィーとはどのような病気でしょうか
筋ジストロフィーとは、正確には進行性筋ジストロフィーのことです。以前は、進行性筋ジストロフィー症と「症」をつけていましたが、ジストロフィーのフイーの中に症という意味が含まれているため、最近は症は省かれます。この病気は、しばしば略して筋ジスとも呼ばれます。この手引き書では特別な場合を除き、筋ジスと略して呼ぶことにします。
筋ジスは、文字通り筋肉の栄養障害により体、上下肢などを動かすという動作、例えば歩くことなどができなくなる大変困った病気です(ジストロフィーとは異栄養という意味です)。また、四肢脱力などの症状が進行性であること、遺伝子異常による病気であること、筋肉の組織には変性と再生という病的変化が起こっていること、筋肉の力がなぜ弱くなるかは解っていないので、予防以外に効果的な治療法がないこと、などの特徴があります。
家族性の筋肉疾患でも持続的な四肢脱力を呈しない家妖性再発性ミオグロビン床症や家族性周期性四肢麻痺という疾患は、筋ジスとは呼ばれません。
筋ジスと進行性筋萎縮症の違いにも触れておきます。進行性筋委縮症は字のごとく筋肉が進行性に委縮する疾患の総称で、神経原性と筋原性に2分されます(表1)。
神経原性というのは、脊髄や脊髄から出ている末梢神経に障害が起こる結果、筋肉に萎縮が生じるものをさします。表1に示されているようにいくつかの疾患が含まれます。
筋原性というのは、筋そのものに異常が生じる結架、筋肉に萎縮が起こるものをさします。この中の代表的なものが筋ジスです。ところで、筋肉自体に異常が生じて筋肉の機能が失われる疾患を一般にミオパチーといいます。したがって、筋ジスはミオパチーの中で遺伝が関係して筋萎縮をきたす疾患ということができます(図1、2)。
表1の筋萎縮性側索硬化症は進行性に筋萎縮を呈する典型的疾患の一つですが、厚生省により特定疾患(難病)に指定されており、特定疾患に指定されていない筋ジスとは、事務的な取り扱いが少し異なっております。
その他、表1の筋ジス以外の疾患については、次項の終わりのところで一応の説明をすることにします。表1 進行性筋萎縮症の分類
1.神経原性
(1)脊髄ないし脊髄前角障害性@ ウェルドニ、ソヒ・ホフマン病
A クーゲルベルク・ウェランダー病
B 脊髄性進行性筋萎縮症
C 筋萎縮性側索硬化症
(2)末梢神経障害性@ シャルコー・マリー・トゥース病
A その他筋原性
(1)進行性筋ジストロフィー
(2)先天性ミオパチー図1 進行性筋萎縮症の分類