先哲像傳
全四卷
徳齋 原義 著
弘化元年甲辰季冬新鐫 潤身堂藏梓
序
題辞
凡例
目録
先哲像傳序
古人、民情の衰薄を嘆きて曰く、生を相憐れまば、死を相捐てよと。嗟夫、世道益下り、死は相倍するに至り、翅に相捐つるのみにあらず。其れ浩歎せざるべけんや。予が先子念齋(*原念斎)、嘗て史氏備考を著し、上は縉紳・衣纓の家より、下は閭■(艸冠+大+巳: : :大漢和に無し?)(*巷)小技の士に■(之繞+台:::大漢和38791)り、苟も世に名有る者の行状墓誌・家乘譜牒、具備せざるなし。葢し其名をして永く湮滅せざらしめんと欲するなり。生を相憐れまば、死もまた相捐てずと謂ふべし。予之を披き覽て、深く其言行の儼に今に存するを欽ひぬ。因つて又其■(三に縦棒〈コン〉:ほう・ぼう・ふう:見目よいこと:大漢和76)彩の得て仰ぎ難きを惜しむなり。是に於て百方に奔走し、其遺像を索め、或は之を其家に乞ひ、或は之を其友に訪ひ、幸にして之を得れば、則ち十襲(*什襲)珍藏し、茲に年有り。幾ど將に千數ならんとす。欲するに先子の志を繼ぐを以てし、且つ其人々をして宇宙間に死せざらしめんと思ふなり。或、予に誥げて曰く、凡そ物は數傳を經れば、則ち白は黄と爲り、黄は碧と爲り、碧は黒と爲り、終に其眞を失ふに至る。況や一髪も似ざれば、乃ち其人に非ざるをや。子の此擧有るは、點鬼簿の眞率たるに如かざるなりと。予答へて曰く、書に云はずや。乃ちその像を審かにし、形を以て旁(*あまね)く天下に求めしむ。説、傅巖の野に築く。惟れ肖る。此時に當つて、一髪の肖るや否やを論ぜずして、遂に以て其人を得と(*殷の高宗が賢相傅説を見出した故事。題辞の補説を参照)。然れば則ち、其形似の大■(既/木:::大漢和15363)を取れば足れり。今、景仰の餘り、之を彷彿に取り、中らずと雖も遠からざるのみと。客頷いて去る。是れ序と爲す。
弘化甲辰(*弘化元年=1844)の夏、竹醉日
江都徳齋原義正道甫題す
古人嘆民情之衰薄曰。生相憐死相捐。嗟夫世道之益下。至於死相倍。不翅相捐也。其可不浩歎哉。予先子念齋。嘗著史氏備考。上自縉紳衣纓之家。下■閭■小技之士。苟有名於世者。行状墓誌。家乘譜牒。無不具備焉。葢欲使其名永不湮滅焉。可謂生相憐死亦不相捐。予披覽之。深欽其言行之儼存於今矣。因又惜其■彩之難得而仰也。於是百方奔走。索其遺像。或乞之其家。或訪之其友。幸而得之。則十襲珍藏。有年於茲。幾將千數。思欲以繼先子之志。且使其人々不死於宇宙間也。或誥予曰。凡物經數傳。則白爲黄。黄爲碧。碧爲黒。終至失其眞。況一髪不似。乃非其人乎。子之有此擧。不如點鬼簿之爲眞率也。予答曰。書不云乎。乃審厥像。俾以形旁求于天下。説築傅巖之野。惟肖。當此時。不論一髪之肖否。而遂以得其人。然則取其形似之大■。而足矣。今景仰之餘。取之於彷彿。雖不中不遠耳矣。客頷而去。是爲序。
弘化甲辰之夏竹醉日
江都徳齋原義正道甫題
(題辞)
雲披月滿 遺像在此
米■(艸冠+市: : :大漢和 )書
此に載る米■(艸冠+市:ひ: :大漢和30748)の書は竹聯に鐫りたり。何人の好事にて製りしや。嘗て骨董店より購得て、文房の坐右にかゝぐる事久し。憶ふに「遺像在此」の一語、暗に予が擧を促して、襄陽子新に筆を潤すに似たり。はた千載の奇遇とも謂ふべし。よりて自ら摸寫して首に辯ず。抑肖像・遺像の世に益ある少からず。はやく唐土にて、殷の高宗は肖像をもて賢相を得ること尚書に歴然たり。後漢の光武は物色して、嚴光を尋ること漢志に載す。肖像をもて、先聖を祭るは唐の開元八年に始ると學山録にいへり。孔叢子の孔子無鬚、程子の一髪、不肖の論は姑く置く。何れ孝子・順孫、追遠の便り無きにあらじと云爾。
凡例
- 一
- 予古人を尚友するの餘り、上は王侯・大夫より、下は山老野叟に至るまで、いさゝか名あるもの有れば、其の像を輯めて展觀して追慕の情を慰す。今その儒林の中より僅に拾摘して初編とす。餘は嗣刻に充つる(*ママ)。
- 一
- 此の書、像を主として傳は賓なり。たゞ生卒ならびに一二條を擧げて止む。それも必しも遺文逸事を記すといふにはあらず。先子の叢談(*先哲叢談)、或は畸人傳(*近世畸人伝)、その外諸書より抄記す。また碑誌正傳を附くるは、文士作家の軌範を見るを要す。
- 一
- 小傳、平假名もて記すは童輩に示して、古人の言行を見て自勵の志を勸むを欲す(*欲せばなり)。各家の著書目を記すは其の書に就きて學ぶの便りとす。文華を餝るは、實を過るに(*の)嫌あり。幸に予が不文を咎むるなかれ。
- 一
- 上標に、半語隻字の眞蹟を■(莫+手:ぼ・も:〈=模〉則る・倣う・写す:大漢和12645)寫するも、心畫の存する處、一斑をもて全豹を知るを欲す。印章・花押は餘韻に備ふるのみ。
- 一
- 次序は、必ずしも年代をもて置くに非ず。頗る類從附載して、捜索に便なるを主とす。
先哲像傳初輯目録
文林〔名儒・師傅・故老の屬〕
序
題辞
凡例
目録