俳諧寺一茶　−1−

束松露香、他
（一茶同好會〔長野市箱清水〕　1910.8.13）
※ 同会編輯発行。
※ ●傍点●、（＊入力者注記）

※　口絵３葉。

一茶自畫像並賛（束松露香氏藏）
俳諧寺十哲肖像並自賛（信州長沼小川德助（＊ママ）氏藏）
俳諧寺句戔並一茶眞蹟（中村瑞鷹堂藏）

はしがき

我が一茶同好會は、曩に一茶手記の珍本『七番日記』の刊行頒附を了し、今又本書を公にして、之れを會員及び普く同好者諸氏の机上に致す。

本書題して『俳諧寺一茶』といふ、即ち名の如く一茶に關する諸多の研究より成る。而して卷頭に掲げたる長篇「俳諧寺一茶」は、かの『七番日記』に淺からざる因縁を有し、且つ一茶研究家として知られたる束松露香氏が、特に本會の爲に筆を呵して、その多年の蘊蓄を傾倒せられたるもの。渉獵の該博、事歴の精討、叙述の深切、用意の周匝（＊あまねく巡る。周到）、殆ど遺憾なきに近し。若し夫れ年譜編製の如き、最も氏が苦心の存する所。加ふるに、斯界諸名家の時々發表せられたる卓拔なる評論、感想等をも、悉く之れを載録したれば、一茶生涯の眞面目は、本書に於いて十分に發揮せられたりと謂ふべく、『七番日記』を繙く者に取りては、唯一の秘鑰たるべきを信ず。

書中の家系、俳系は、『七番日記』に添へたるものに從ひ、宗門人別帳は、渠の檀那寺たりし明專寺遺存の記録に據れり。人別帳の姓名年齡には、一二附合せざるものあれど今改めず、別に私考を附したり。

本書の編輯に就いて束松露香氏は、その新にものしたる稿本全部を本會に寄贈せられ、他執筆の諸先輩並に該稿所掲の各雜誌發行者諸氏は、本會の爲めその轉載を快諾せられたり。又信州長沼の人小川得助（＊ママ）氏は、同村住田祥和氏の斡旋によりて、その家藏の珍幅「俳諧寺十哲」の印畫複製を許されたり。而して之れが原稿の蒐集、及び校訂印刷等に關しては、文學士沼波瓊音氏、束松露香氏、手紙雜誌主幹桑田春風氏、小峯大羽氏、日箇原繁氏等各その勞を執られ、表畫裝幀の意匠は、『七番日記』と同じく、齋藤松洲畫伯を煩はして成れり。茲に本書出版の次第を略叙し、併せて上記諸氏の深甚なる芳情を鳴謝す。

明治四十三年七月

一茶同好會　　　　　　　　　　　　

會主　　中村六郎誌

〔因に記す。本書は豫告『一茶研究』を改題したるものにして、内容も増補の爲め豫定の紙數に倍増したり。尚ほ本書のみは、會員以外の希望者にも實價を以て頒つことと爲し、本書購讀者にして、改めて會員たらんと欲する人の爲めに、特に一種の便宜法を設けたれば、卷末●特別入會申込劵●の條參照ありたし。〕

俳諧寺一茶目次　（＊ページ数は省略。）

一茶自畫像並賛——俳諧寺十哲—— 俳諧寺句戔並一茶眞蹟　（卷頭寫眞版）	束松露香
一茶年譜
一茶家系
一茶宗門人別帳
一茶俳系
俳諧寺一茶	束松露香
諸家の一茶研究
一茶の滑稽	長尾素枝
俳諧寺一茶	佐々醒雪
俳諧寺一茶	岡田虚心子
僕の好きな俳諧寺一茶	淸家榮三郎
欺かざる俳詩人一茶	安藤和風
新人國記の一節	横山健堂
一茶の俳句を評す	獺祭書屋主人
一茶翁の特色	沼波瓊音
一茶の行状	岡野知十
小林一茶の美談	天壽老人幹雄
一茶の七番日記	市島春城
一茶の墓に詣づ	谷活東
一茶と惟然	鵜澤四丁
一茶と本行寺の關繋	束松露香

一茶同好會規定	〔卷末には●特別入會申込劵●あり〕
七番日記に對する世評一斑	〔卷末には●特別入會申込劵●あり〕

一茶年譜

享保	元　丙申年	與謝蕪村生る▼大阪の來山、新吉原の遊女高尾歿す。
	二　丁酉年	●葛飾派の祖山口素堂歿す。●伊勢の凉菟歿す。
	三　戊戌年	●難波の大江丸生る●▼加賀の北枝歿す▼千代女嫁す。
	四　己亥年	建部凉袋南部に生る▼木枯の言水歿す（＊「木枯の果てはありけり海の音」の句から。）▼其角、嵐雪十三回忌▼各務支考歿すと稱し韜晦して私かに自家の俳諧に對する世評を窺ひたりしが再び世に出づ。
	五　庚子年	長松下素因（＊長松下は号）生る▼膳所の曲翠、越後の無卜歿す。
	六　辛丑年	●一茶の恩人にして幼時の師たる中村新甫生る。●諱は利爲。通稱六左衞門　代々信州柏原驛の驛長を勤め本陣并に問屋たり。
	七　壬寅年	大津の尚白歿す。
	八　癸卯年	江州の正秀、僧千那歿す。
	九　甲辰年	英一蝶歿す。
	十　乙己（＊乙巳）年	秋色女歿す。
	十一丙午年	芭蕉翁三十三回忌▼千代女の夫、園女、沾德歿す。
	十二丁未年	加賀の闌更、京都の來々生る▼江戸の百里（＊高野蘭亭の父）歿す。
	十三戊申年	支考、露川と筆戰す。
	十四己酉年	伊勢の樗良生る。
	十五庚戌年	伊賀の杜芳、江戸の一世靑蛾歿す。
	十六辛亥年	美濃の支考歿す。
	十七壬子年	名古屋の曉臺生る▼奧州盤城平の城主安藤冠里（＊信友）侯、江戸の杉風歿す。
	十八癸丑年	正親町一止、内藤露沾侯、浪花の祇空歿す。
	十九甲寅年	●長月庵若翁生る。●肥前大村の藩士、堀氏、名は德輝、故ありて信州に隱れ、柏原驛中村新甫の食客となりて其郷塾の師となる。一茶幼より之に就て學ぶ。蓋し、一茶の俳諧素要（＊ママ）は全く若翁の啓發に因る也。千山紀伊國屋文左衞門歿す▼三世桃隣生る。
	二十乙卯年	大阪の半時庵淡々豪奢を極む。
元文	元　丙辰年	京都の僧其諺歿す。（＊号四時堂。『滑稽雑談』を著す。）
	二　丁巳年	名古屋の枇杷園士朗生る▼浪花の才麻呂歿す。
	三　戊午年	伊丹の鬼貫、江戸の一世湖十歿す。
	四　己未年	信州上田の春秋庵白雄、江戸の玄武坊、奧州本宮の冥々生る▼江戸の沾州、伊勢の乙由歿す▼其角、嵐雪三十三回忌。
	五　庚辛（＊庚申）年	越前福井の野坡歿す▼信州の大島蓼太吏登の門に入り廿六歳にて剃髪。
寛保	元　辛酉年	京都の貞山歿す。
	二　壬戌年	●一茶の祖父小林彌五兵衞歿す●▼蕪村の師夜半亭巴人、江戸の蓮之歿す。▼曾良三十三回忌。
	三　癸亥年	芭蕉翁五十回忌▼京都の羽紅尼（＊凡兆妻）歿す。
延享	年
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