ジョアン・ジルベルト

THE BOSSA NOVA 〜最後の奇跡〜

2006年11月9日(木) 東京国際フォーラム ホールA


3度目の奇跡

 2003年の奇跡の初来日2004年の奇跡の再来日に続き、3度目のジョアン・ジルベルト来日。今回は「最後の奇跡」とサブ・タイトルが付いています。
 正直、これだけ来日がコンスタントに続くと、ボサノヴァの神様のありがたみも薄れてきた気もするが、1931年生まれの75歳だから、いつ演奏できない体になってしまうか、さらに言えば、いつ死んでしまうのかも分からない。2004年の来日以降2年間、世界のどこでも全くライブを行っていない、という事実を考えると、今回の来日公演の貴重さが分かるというもの。今回が「最後の来日」どころか「生涯最後のライブ」になる可能性も十分ある。
 今年の公演は、国際フォーラムで11月4日(土)、5日(日)、8日(水)、9日(木)の4日間。地方在住者としては、普通なら土日の公演を観に行くところですが、本当の「最後の奇跡」を体験することになるかもしれないと思い、仕事を休んで平日の最終日を観に行くことにしました。2004年の最終公演では、日本に捧げる新曲を披露し、45曲3時間45分という伝説的なライブを行ったジョアン。今年の最終公演はどんな伝説を残すのか?


ついに双眼鏡購入

 開場時間の18時前には有楽町駅に到着したものの、「双眼鏡を買おう!」と思い立ち、まずはビックカメラへ。SPEEDの追っかけ(笑)時代も東京ドームのマドンナでも双眼鏡が欲しいとは思わなかったこの俺に、購入を決心させたのが75歳のジイさんとは・・・(笑)。一番安い1500円の8倍モデルを購入し、国際フォーラムへ。
 期待の最終公演とはいえ、さすがに平日だとチケット完売とはいかなかったようで、当日券が売られていました。
 今年の来日では10列目より前のミラクル・シート24,000円という券種があり、入場受付が一般客と別になっていました。入場時に記念グッズ(ジョアンの写真付き切手10枚セットだそうな)を渡されていたようです。それにしても、ギター弾き語りのソロ演奏で、S席12,000円というのは、ちょっと高いよなぁ・・・。


グッズ購入

 まずは、今回のお目当てのTシャツを買う。デザイン的には大したことないので、過去2回の来日では買わずじまいでしたが、今回がラスト・チャンスかもしれないので。
 もちろん、パンフレットも購入。来日公演パンフは毎年買ってますが、ジョアンへの愛情に溢れた編集で、資料的価値も高く、素晴らしい出来です。
 18時過ぎの時点では、仕事帰りのお客さんがまだ来ていないので、ロビーは閑散としていました。

 一応CD売り場も覗いてみた。CDは普通に日本盤を売っているだけですが、アントニオ・カルロス・ジョビン伝記楽譜がセットになった輸入本はなかなか貴重。しかし、ポルトガル語版18,900円というのは、条件的にかなりキビしく、購入している人は目撃できませんでした。当然、私も買わなかった(笑)。
 18時30分を過ぎると、だんだんお客さんが増えてきますが、開演予定の19時が近くなっても、席に着かずにロビーにいる人が多いのは、遅刻常習犯のジョアン・ジルベルトならではの光景ですなぁ。


セットリストと注意事項

 ロビーには、終了した3日間のセットリストが張り出されていました。作成したのは中原仁さんなのか、ディアハートの宮田茂樹さんなのか分かりませんが、「日本初演」はともかく「世界初演」とまで言い切るその知識量はスゴイわ。
 そして、入場エントランス前に張ってあったジョアン名物の「フリーズ」についての注意文です。ご丁寧な解説と事前のお詫びで、恐れ入りますって感じ(笑)。
 

 ジョアン名物と言えば「空調の停止」もハズせません。ま、もう秋ですから、場内は暑くも寒くもなく、問題なし。
 そして、今回の来日公演はDVDで発売されることになっています。11月8日(水)、9日(木)の2回の公演を収録するということで、テレビカメラがセットされていました。
 今回の客層は、仕事帰りのサラリーマンの姿が目立ちましたね。昨年のカエターノ・ヴェローゾの来日公演も平日の夜でしたが、ネクタイ姿がほとんどいなかったのとは対照的。両者のリスナー層はほぼ同じだと思っていたのですが、この違いは何なのだろう?


1時間遅れで開演

 19時02分、最初のアナウンス。「開演時間を過ぎていますが、アーティストはまだ到着しておりません。」・・・もちろん、場内失笑です(笑)。
 そして、19時37分、2度目のアナウンス。「アーティストはホテルを出発しました。」・・・このリアルタイムな実況感がタマらん(笑)。
 15分後の19時52分会場到着のアナウンス。ここで、観客が一斉にトイレに立ちます。みんな、考えることは一緒ですね。しばらくすると、スタッフ3人がステージに登場し、ジョアン用の曲目リストを床に貼りました。
 20時02分場内暗転。過去2回の経験では、暗転と同時に客席は静まりかえって、息をのんでジョアンの登場を待つ感じだったのですが、今回は、暗転してからもジョアン登場ギリギリまで観客の話し声が続きました。暗転後、まもなく、ジョアンがトボトボとギターを持って登場。


最終日ならではの奇跡はなし

 2年ぶりのジョアンは、見た目はほとんど変化なし70歳代のジイさんにとって、2年という時間はかなり長いブランクだと思いますが、歌もギター演奏も印象は2年前とほとんど変わらないのには、驚きました。アンコールは2回で、終了は22時14分
 以下のセットリストは、中原仁さんのブログから転載させていただきました。

01 Nao Vou pra Casa
02 Ligia
03 Isto Aqui O Que E
04 Nova Ilusao
05 Pra Que Discutir com Madame ?
06 Preconceito
07 A Felicidade
08 Este Seu Olhar
09 Doralice
10 Solidao
11 Disse Alguem
12 Da Cor do Pecado
13 Tim Tim por Tim Tim
14 Retrato em Branco e Preto
15 Samba de Uma Nota So
16 Estate
17 Bahia com H
18 Caminhos Cruzados
19 Samab da Minha Terra
20 Wave
21 O Pato
22 Corcovado
23 Chega de Saudade
--
24 Treze de Ouro
25 Desafinado
26 Pica-pau
--
27 Meditacao
28 Aos Pes da Cruz
29 Isaura
30 Saudade da Bahia
31 Voce Nao Sabe Amar
32 Garota de Ipanema

 最終日ということで、2004年のような長時間の演奏を期待していたのですが、トータル2時間12分という標準的(?)な演奏時間でした。名物のフリーズは起こらず。また、初日に演奏したという日本に捧げるオリジナル曲“Je Vous Aime Japao”の再演も無し。最終日ならではの奇跡というのは、残念ながら今年は起こりませんでした。
 さすがに年齢的に3時間以上の演奏はツラくなった(ま、普通に考えれば老人虐待だわ)のかもしれませんが、ライブDVD収録を前提にコンパクトにステージをまとめたのかな、という印象も受けました。
 その代わり、過去2年とは変わって、非常にアットホームな雰囲気のライブでした。ジョアンは右足を木箱の台に乗せてギターを弾き、気分が乗ってくると、左足をパタパタと左右に動かすのですが、今回は終盤で両足を木箱に乗せて、両足を動かしていました。
 21曲目“O Pato”では、メガネがだんだんとずり落ちてきて、曲の最後で何やらおどけた声を上げたジョアン。観客からも温かい笑い声と一層大きな拍手が続き、しばらくジョアンは満足げに動きませんでした。
 アンコール最後の“イパネマの娘”の途中でも、またメガネがずり落ちそうになり、ギターを一瞬止めてメガネを直しました。またも、場内は笑い声に包まれました。
 ジョアンも観客もリラックスしつつも、演奏に対する集中力を失わない素晴らしい雰囲気でした。


ボサノヴァ最後の日?

 ジョアンのライブで何より素晴らしいのは、音楽が生まれるその瞬間に立ち会えることにある。
 普通のアーティストは、事前にバンドでリハーサルを積み、当日もサウンドチェックを行うので、ライブ本番には「積み重ねた練習の再現」という側面がどうしてもある。しかし、リハ無し本番に臨む(それが良い行いとは言えないが)ジョアンは、どんな演奏をするのか、本人以外には(本人も?)分からない。そして、1940〜50年代の古い曲を突然弾き出したりする。しかし、どんなに昔の曲でも、ジョアンがギターを弾き、歌い出すと、今生まれたばかり新しい音楽として鳴り出すのだ。
 「ボサノヴァはジョアン・ジルベルトだ。しかしジョアンは、はるかにボサノヴァ以上だ。」というカエターノ・ヴェローゾの名言がありますが、ジョアンの生演奏を聴くと、ジョアン以外のシンガーが例えジョビンの曲を歌ったとしても、それは「ボサノヴァ風」でしかない、ということを実感します。
 ジョアン・ジルベルトが演奏を止めた時、ボサノヴァはこの世界から消えてしまうのだろう。
 2006年11月9日がボサノヴァ最後の日にならないことを切に願う。


 ・・・と思ったら、雑誌LATINAのサイトでこんなニュースを見つけました。

 ブラジルの“フォーリャ・オンライン”がびっくりするようなニュースを伝えている。
 ジョアンとファンの女性との間に、2歳になる娘さんがいるというのだ。75歳のジョアンにとって、40歳のベベウ・ジルベルトがたった一人の娘ではない、というのである。
 “フォーリャ・オンライン”によるとこのニュースはコラムニストのアンセルモ・ゴイスが“オ・グローボ”で発表したそうだ。最近になって、ジョアンとファンの女性との間に2歳になる娘さんがいることがわかった、というのである。
 なお、ジョアンの代理人たちはこの事実関係についてコメントしないことを明言している。

 ・・・おいおい、ジイさん、元気じゃねーか(笑)。その元気があれば、もう一度くらい来日できるかも?



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