エレベーターの中で赤いオーバーを着たお嬢さんに出会った。
そのコートは襟とすそに黒いベルベットで縁取りがある。共布の帽子にもベルベットの縁取りがあり、小さなベルベットのリボンが上品さをアピールしている。
昔の貴族たちもこんなコートに身を包み、手にはマフをしてオペラやバレーに出かけていったのだろう。
あまりステキなコートなので、ちょっと声をかけてみたくなった。モスクワではどこでいくらで何を買ったかを聞いてもちっとも不思議ではないし、失礼でもない。
「ステキなコートですね。どこでお買いになったの。」
「中央のお店ですよ。」
「とてもお似合いですね。」
「ありがとう。」
お嬢さんの帽子からは金色の巻き毛がたっぷりとうなじを伝って、肩から背中まで下りている。
みどりがかった水色の瞳は外の天気の悪さとは裏腹に明るく輝いている。長いカールのまつげがその好奇心に満ちた明るい瞳をけぶるような雰囲気に変えている。
細い足は黒いタイツに包まれ、上等な革のブーツにかくれそうに見え隠れする。
「本当にきれいだわ。あなた。」
思わず口から衝いて出た。
彼女は下を向いて恥ずかしそうにククっと笑った。
「あのね、おばあちゃんと動物園に行ってイルカショーを見るんだよ。わたし。」
「そう。いいわねえ。」
「イルカってね、こうやって、跳んでクルリって回るやつだよ。」
彼女はガンガンとおばあちゃんの手をとって飛び跳ねた。
ええ!!このエレベーターの中でやらないで! ちゅうの・・。
エレベーターに付いている鎖はいつもギシギシ鳴っていつ切れてもおかしくないような音を立てているっていうのに・・・。
彼女が飛び跳ねるたびにエレベーターは忠実にガタンと、下りることを躊躇している。
話を変えよう。
「ねえ、一体あなたはおいくつなの?ステキすぎてわからないわ。」
彼女は下を向いてしまった。
指で示すか口で言うかを考えたのだろう。両方同時に
「わたし3つなの!!大きい女の人だよ。」
「そう、3つ。いいわねえ。若いわねえ。」
「いいえ、わたしはもう若くはないの。新しいだけなのよ。」
「そ、そう。そういえば、新しいわね。」
「新鮮って、言ってもいいわよ。許してあげる。」
こりゃ。一緒に今日、動物園へお供するおばあちゃんが大変だ。