8月2日(日)
 

今日は、ヘンヘンの研究仲間のカラツーバさんの別荘へ行った。別荘はモスクワから電車で40分ほどのチェ
リュースキンスカヤ。
700坪ほどの敷地にロシア特有の木造の建物イズバとエストニア風の建物2棟が建てられている。ここのダ
ーチャ村では、どのダーチャも700坪以上のの広い敷地を持っている。
その敷地には樹齢100年はゆうに超えている松の木が何本もあり、白樺と混ざって生え、公園とでも言えそう
なたたずまいである。それは広大な森の一部となっていて、敷地全体に松の木の精とでもいう香りが降りかか
ってくる。
このダーチャ村は、松の森を守るために松の木を切ることを禁じられている。
だから、普通のダーチャのようには野菜や果物を作ることはできない。松の木の大きな梢が直接の日の光を
遮るからだ。ここで見かけた人たちは、寛いだ時間と広がりを当たり前のように享受しダーチャ生活を楽しんで
いる。
去年、おばあちゃんのダーチャで見た人々や風景は、百年も二百年も、毎日毎日、人は日の出と共に働き、
日没と共に疲れ切って眠るといった、農民の姿と人生の規範というかリズムといったものを感じたのだが、ここ
は全く違う。
時間はゆったりとおう揚に流れ、ポーチに座っていると、静かに空気が夕暮れをささやいてくれる。
ときどき、通りを自転車が走っていくのに反応して、セントバーナードのように大きなむく犬が、大きな頭をもた
げ、ウーとうなり声をあげる。あとは耳をピクりと動かす以外、平然と日向に座ってこちらを見ようともしない。
 木立の間にゆったりと揺れるブランコがしつらえられ、イズバの周りに植えられたゼラニウムの赤が眩しいくら
いだ。
その下手にはラズベリーや赤スグリ、黒スグリのブッシュがひろがっている。

このダーチャ村はレーニンと一緒に革命以前から頑張ってきた、古参ボルシェヴィキに与えられたものだった。
とても優雅で静かなこの村は、実は古参ボルシェヴィキをうるさがったスターリンが体良く、彼らをモスクワから
追い出すために与えたものである。
有名な革命家たちやインテリゲンチャアが集まっていたのかもしれない。だから、普通のダーチャ村に見られ
ない静寂と豊かさがこの村にはあるのだろうか。
スターリン体制の後、あのソ連の黎明期を革命の老いた獅子たちは、中央政府から静かに離れて、どんなこと
を考え、どうやって生きていたのだろうか。
この松の木は知っているのか。大きな松を私は見上げていた。

なんなとびーびーはお話を創ったり、歌を歌ったりして、ポーチの前で座っている。時にはラズベリーのブッシュ
に行って、ベリーを一つつまんで口に入れてはまた、絵を描いて遊んだりしている。まるで、「わたしたちはここ
の小さな主人ですの」とでも言わんばかりに二人とも自然にこの優雅な雰囲気に溶け込んでしまっている。

松の木の精が子どもたちにそうさせるのだろうか。




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