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一桁のビジネスマン《行動心理資料》より

【昇進の理由】

 新聞のビジネス人事欄には、毎日のように、会社の社長または世の中の重要な仕事に栄転した人の写真が載っています。
その辺りの事情説明には「氏はセールスマンから振り出して云々・・」等々の紹介例が非常に多く報道されます。

 これらの指導者が、目立つようにトップに躍りでたのには、何らかの理由があることは説明するまででもないかもしれません。
しかし、それらの方々には、運が良かった人もいるでしょうし、希には、上司に引き立てられた人もおられるだろうと思います。また中には、実際の能力がないのにも関わらず、押しの一手で進んできた人もおるかもしれません。

 しかし、大多数の場合には、上役に「完全に仕事を遂行できる人間」との「印象づけ」を行ったことがその昇進の理由ではないかと考えられます。
学歴がよいとか、弁舌が巧みであるとか、ということだけではないと思います。新しいプランを軌道に乗せ、問題が起こればそれと取り組んで、難局を予想しながら、誰にも悟られないように、対処する計画を立てて部下を動かします。
 この人達の昇進の源泉は、このような問題処理の場所にあるのではないでしょうか。

 これらの手腕の何もかもを、同じように持つことは望み得ませんが、ある程度に持ちながら、それを伸ばすことは仕事を進める上に必要なことです。これらの手腕の合計こそが、「責任を果たす」という意味であると思います。

 ビジネスの世界を見渡しますと、昇進という形式上の手続きを経ないで、責任を自分から進んで背負って昇進した人の数に、改めて驚くことがあります。

 ある機械組立の製造会社に、会計係として入社した一人の経理マンを知っています。彼は、小さい昇給を得よう等というように、あくせくしませんでした。彼は、会社の全ての仕事について、興味と深い関心を持っていたのです。

 各製造品目毎の原価数字とか、在庫量にかぎらず、製品の作られる作業方法であるとか、生産工程に、鋭い目を向けました。
 そして、製品の不合格率の高いこと、その理由、製品の売り込み先は、何処で、どんな改良が、ユーザーに歓迎されるかなどについて、深い関心を寄せたのでした。

 それから、しばらく日時が経過したころから、会社の誰か他のものが、何か判断したいとか、決めたいなどと云うときに、彼の意見を聞くようになったのです。彼は、それらの相談に対して、協力的な態度を示すだけでなく、しかも、非常に役立つ意見を提供したのです。

まもなく、周りの人達は、彼の見解を尋ねるだけでなく、ことの賛否を問うようになってきたのです。それでもしばらくの間、地位や収入をはるかに超えた権限を行使していたのですが、彼はそれでもあくまで、会計係という職務担当者でした。

 信じられないでしょうが(というのは、これは極端な場合であるから)、技術者すらも、新しい工程を試みる場合や、他の方面から批判がでた場合に、この人の意見を聞くまでになったのです。このため、彼は敵として恐れられ、味方としては、非常に珍重され重要視されるようになったのでした。

 それから数年を経ないで、彼は、会社の最高経理の担当者になりました。その仕事は、依然と全く同じ全工場の主な活動の全てについて調査決定することです。肩書きは、彼が既に自分で作り出した地位を確認したものに過ぎません。
 社長の地位を約束されていることを疑う余地のないほどの大物に成長し、最後には社長にまでなりました。

 この話しは、二昔以上も前のふるいことです。けれども、その必要な人材の本筋は、いまでも変わりなく受け継がれています。
本当に大事なことは、皆が皆、このようにせよ、と、云うことではありません。

視野を広く、しかも、高く保って計画をくめば、必ず決勝点に到達すると云う点にあるのだと思います。このように、同じ原則を使用することによって、自分の人生行路から、賭博性と、不確実性を大いに取り去ることが出来るのではないでしょうか。

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