・トラ猫のとら・
 ヒメはもうじき3歳になるだけあって「ずいぶん落ち着いたなぁ〜」って
思っていた矢先に、我が家の庭先にトラ猫の親子が現れた。両手の平に乗る
んじゃないかと思うほど頼りなげな子猫2匹は子育て上手の美猫ママにつれ
られて、野ウサギのように我が家の庭をピョンピョコ走り回り草花の間に隠
れたりふざけあったり、時にはウンチやおしっこをしていった。気がつくと
裏庭の物置に居を構えた。私は親子が日中散歩に出ている時を見計らって雨
風がしのげるようにシートをかぶせておいた。美猫のママはすっかりそこが
気に入ったらしく安心して子猫を育て始めた。あああああああああああああ
 そのうち体の小さい方の子猫の顔が目やにや鼻水でグショグショになって
きた。秋に生まれた子は冬の寒さに耐えて大きくなっていかねばならない。
かわいそうだけどこれも試練なのだ「頑張れチビ猫!」と心の中でエールを
贈った。心配だったけど見守るしかなかった。あああああああああああああ
 ヒメは時折我が家の庭に現れる二匹の様子に興奮して、日がな一日彼らが
現れるのを心待ちにしていた。ヒメの興奮状態で子猫が庭で遊んでいること
に気づくこともしばしば。しかし人間の気配に気づくと彼らは物置の下や、
花置きにしているブロックの隙間に潜り込んでしまう。その素早さと言った
ら!!これが野生の猫なんだなぁと感心。あああああああああああああああ
 ところが、勝手口でゴミ箱をゴソゴソやっているとチビ猫が5メートル以
上離れたところからなにやら私に話しかけてきたのだ。とっても甲高い声で
「ミャー、ミャー」それから甘えたように鼻を鳴らす。その頃美猫ママは子
供をおいて単独で出かけるようになっていて、置いてきぼりをくったチビが
「ごはんちょうだ〜〜い」と私に話しかけてくるようになったのだった。二
匹のうち体の大きい方の子猫はいつの間にか姿を消していた。考えられるの
は、彼だけがどこかに移されたのか、死んでしまったかのどちらかだ。体が
一回りも小さい方は遠出もせずに我が家の裏庭で人間に頼る道を選んだ。私
は子猫用の猫缶をわざわざ選んで買ってきては与えた。最初に5メートル以
上もあった子猫との物理的な距離は日増しに短くなっていった。2月の上旬
には私の足に体をすりつけてくるまでになったのだが、それでも野良猫だけ
あってこっちから手を伸ばすとひらりと体をかわして1メートルの距離から
鳴きながら餌をねだる。仕方がない、とあきらめて餌を足下に置いて待って
いると甲高い声で「怖い、食べたい、でも怖い」と鳴き叫びつつ近寄ってく
る。こんなことを繰り返すうちに2月中旬には食事中に頭を撫でさせるまで
になった。あああああああああああああああああああああああああああああ
 ある日、子猫が食事中に別の野良猫が近寄ってきた。私はチビ猫が襲われ
ると思って抱き上げた。チビ猫はとっさのことに驚いたようだったがそれほ
ど抵抗しなかった。このことがきっかけで私の頭はチビ猫に占領された。も
しも放っておいたら今以上に目やにもひどくなって育たないかも知れない。
我が家で飼えないだろうか。ヒメはどうするだろう。 1週間ほど考えたあ
げくチビ猫を捕まえて病院に連れて行くことに決めた。多少のひっかき傷を
負いながらも子猫をキャリーに確保。病院に向かう。ウィルス性の風邪では
ないかと獣医が言う。チビは男の子であることが判明。3回ほど注射を打っ
てもらい顔も耳もきれいにしてもらうとグショグショの目やにと鼻水の仮面
がはがれて非常にかわいらしい素顔があらわれた。驚くほどの快復力で子猫
は元気になった。いつまでも名前がないとかわいそうなのでとらと命名。ト
ラ猫のとらと牛柄のヒメの同居は色々あったけど今のところ私の取り合いで
喧嘩をする以外は至って平温である。あああああああああああああああああ
 とらはとっても足先が器用である。そのことに気がついたのは彼と同居を
始めて2ヶ月も過ぎた昨日のこと。キッチンにいるとズズーっと聞き慣れな
い音が。何だろうと思ったらとらが和室のふすまを開けて中に入っていた。
時折私のよそ行きの手袋がラックから転がり落ちていたり、靴下が押入の隅
っこに転がっていた理由がはっきりした。ちょっとの隙間があれば彼は器用
にふすまを開ける。ドアも開ける。きっちり戸を閉めて窓ふきをしていたは
ずなのに、いきなりとらが私の後ろで掃除する姿を見つめていたりするとド
キッとする。仕事部屋には入れないようにしていたが勝手に入って観葉植物
をかじったり、パソコンが妙なことになっていたりで、そのうちカギをかけ
なければいけなくなるかも知れない。あああああああああああああああああ
 我が家はこうして再び嵐のような子猫の騒々しさに襲われている。食べ物
は全てきっちり仕舞いこみ、危ないものは引き出しの中へ。とらが来てから
少しずつ我が家は片づき始めた。(2004.4.22)あああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああ

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