▼Dead or Alive act.1 |
「今夜来いよ。場所は分かるな?」 あの日と同じように、加持はシンクロテストを終えたシンジを助手席に乗せていた。 二人の間に、それに続く会話は無い。 加持が投げかけた言葉も、宙を舞ってオープンカーが巻き込む風の中へと飛んで消える。 加持はふと横を見る。 無言の助手席から視線を感じたからだ。 振り返る気配を察したのか、シンジは目を反らせた。 「嫌われたか」 「そんな事は、無いです」 ようやくシンジがポツリと呟いた。 何処か不機嫌な無表情。 あの日のキスの続きは期待出来ないのかな、と加持は少し寂しく思う。 「どうして……」 「なんだ?」 口を突いた疑問の声を、シンジは飲み込んでしまった。 加持は運転しながら、シフトレバーに置いていた手をシンジの顎に伸ばす。 「途中で止めるのは、無しだ」 ようやくシンジと目が合う。 長い睫毛と黒い瞳が、揺れる。 「アスカも、同じですか?」 それだけ、苦しげに絞り出すように呟いて、シンジは再び顔を背けてしまった。 |
横顔に張り付く表情は、拒絶。 小柄なツーシーターに並んで座り、伸ばせば手が届くのだが、互いの距離はもっと遠くに感じられた。 「同じじゃないさ」 ハンドルに手を戻し、ウィンドウスクリーンの向こうに視線を置いたまま、加持が答える。 アスカとシンジを比べた事は無い。 「アスカが、何か言ったかい?」 「自分だけ特別なのかと思ってました」 「軽いのは嫌いか」 「それも、ポーズですよね」 「何故そう思う?」 「だって……」 身体を重ねる時は何時だって真剣さ、と呟いてはみるが、自分でもどうだかと思っていた。 チャンスがあれば、モノにする。 普段であれば、ただそれだけ。それ以上の意味は無い。 けれど、シンジを抱いた時は違っていた。 心の奥底に隙間が有る。 覗いても何も見えない、虚ろな空隙。 それを埋める為に、餓えたように人肌の温もりを喰らう。 それが女の肌であれば、当然の事として気が付かなかった。 少年であるシンジの肌に触れた時に初めて気付いた。 自分が埋めようとしているのは、今ある心の隙間、では無い。 失った時間、失われた心。 それは遠い過去に置き忘れてしまったものだった。 だからいくら餓えを癒そうと努力しようが、結果は変わらない、変えられない。 喪ったものは、どんな手段でも取り戻すことが出来ない。 だからこそ渇く。 そして、癒されない。 「抜けれたら、行きます……でも……」 シンジの顔には、ハッキリと迷いと躊躇いとが見て取れた。 それで良い、と加持は思う。 もしも、シンジが今夜訪ねて来たなら……。 加持は自分が空恐ろしいとさえ、思った。 |
「つけられて無いかい?」 「大丈夫です、多分……」 シンジがセーフハウスのドアホンを鳴らす前に、加持が扉を開けて出迎えた。 「加持さん……」 「そう急ぐな」 細い身体に縋り付かれ、肩を抱きながらロックを閉じる。 夜の街を走って辿り着いたのだろうか? 息が上がり、頬が赤い。 白く丸い額と、真っ黒な瞳と、上気した頬。 長い睫毛が揺れて加持を誘う。 「んんっ」 急ぐなと声を発したのは自分だったのに、気付けば玄関先で靴も脱がせないまま、貪るようにその唇を塞いでいた。 口紅を引かずとも赤く柔らかに見える、開きかけた唇に吸い寄せられていた。 「んっ……あっ」 シンジの手が加持の背中に回り、薄いシャツの生地を掴む。 舌を吸い上げられ、吐息を全て奪われる感覚に、膝が震えている。 加持はシンジの背中を抱き絞め、呼気と共に動くその体躯の全てを手の中にした。 若い体温と、汗ばんだ肌の感触。 自分にもこんな紅顔の少年だった頃が有る筈だが、今ではもう思い出せない。 幸せだった少年時代など、断絶の向こう側に有ってもはや手が届かない、遥かに遠い思い出だ。 鮮明な記憶はどれも、大災厄からこちら側にしか残って居ない。 それまでの、生きる事に不自由しなかった軽薄な日々など、今思い返せば幻想に等しい。 けれど、加持は信じていた。 両親が居て、兄弟が居て、暖かな家の中で守られ、なに不自由なく過ごした幼い日々が有るからこそ、あの大災厄とそれに続く困難な時代を生き延びたのだ、と。 「んっ…ぁ……んはっ」 シンジにはそうした幸福な記憶すら無いままに、加持のそれを上回る過酷な戦いの日々に、何も持たない剥き身の身体と精神とで、向き合っている。 それを思うと、触れずには居られなくなる。 細い身体を折れんばかりに抱き締め、睫毛が触れ合う距離で口付けを貪り続けた。 何故これほどまでにシンジに欲情しているのか。 それは恐らく、もう二度と合う事は無いという、予感。 残された僅かな時間、ただひたすらに触れたいと思う。 最後の夜に選んだ相手は、ミサトでもリツコでも無い。 愛おしかった……狂おしいほどに。 触れれば折れてしまうような細い身体。 不意に砕け散ってしまいそうな、繊細な心。 それが世界の命運を背負って日々戰うという、酷薄な現実。 自分が背負って抗い抜いてきた日々は、ただ自分自身が生き延びる為だけの闘争の連続だった。 それすらも、逃げ出したいほどに辛かった。 現に、逃げ出した。 全てを失ってまで。 「加…持……さん」 細い声が裏返りながら己の名を呼んだ。 一層きつく、抱き締めた。 吐息が漏れる。 シンジの足はもう、ほとんど体重を支えていない。 縋り付き、半ば抱きかかえられたまま、口付けが続く。 「加持さん……加持さん……」 一瞬離れた唇から再び声が漏れる。 その声音にたまらずにまた、塞ぐ。 シンジの目尻から涙が零れた。 それは口を塞がれ胸を締め付けられた苦しさの為か、それとも燃えるほどに激しく求める加持の熱い心のせいか。 彼の願いはただ、愛され、許され、求められたい。 それを叶えてくれるのが、どんな相手であろうとも。 「ぁ……ああ……あ…」 加持が腕の力を弱めると、ドアに背中を凭れさせ、シンジはずるずると玄関にへたり込んでしまった。 「はぁ……はぁ」 潤んだ瞳で荒い息を吐きながら、加持を見上げる黒い瞳。 「そんな、急にされたら……」 「すまん……我慢出来ないのは、俺の方みたいだ」 腰も膝も溶けてしまったシンジの靴を脱がせ、抱きかかえてリビングのソファに横たえる。 甘い睦言も、長く丁寧な前戯も要らない。 熱い抱擁が、既に二人の身体に火を付けていた。 男同士だから、互いにどんなに昂ぶっているかは、触れ合うだけで分かる。 絡み合い、分かち合う――その予感に、まるで始めてそれをするみたいに胸が高鳴るのを、押さえられない。 「加持さん、今日は……」 「おしゃべりは後だ。終わってから聞く」 「でもっ……」 黙れと言うかわりに、再び唇を塞いだ。 細い手首を掴み、ソファに埋るほどに押さえつける。 汗の引かない額に、己の額を擦りつける。 ワイシャツを脱がせるのももどかしく、下の三つはボタンが千切れた。 そんな事に構う余裕は無い。 今は一分一秒が、惜しい。 「あ、やっ……」 まるで少女のように頬を赤らめてシンジが首を振る。そんな仕草はむしろ、加持の熱を煽る結果にしかならないのに。 ベルトを引き抜き、ズボンの中へと乱暴に手を突っ込み、ブリーフの前の合わせをずらして、細く固く、尖ったそれを握り締める。 「あっ…ああっ」 熱い手の中で、更に熱いそれが奮えた。 ピクンピクンと鼓動と共に跳ねる、生硬な昂ぶり。 「や……もっと、優しく」 「今日は無理だ」 「加持さん、どうして……」 「お前が欲しい」 はっとシンジが瞼を見開いた。 真っ直ぐに見詰め返す、黒い瞳。 濡れて揺れる黒く大きな瞳に、自分の顔の輪郭が映る。 「加持…さ…ん?」 「何度でも言うさ。欲しい、全部だ。我慢しないし、出来ない」 シンジの細い手が、縋り付くように加持の背中を抱く。 細い身体が折れんばかりに圧し掛かり、抱き締める。 この腕の中で果てて欲しい。 熱く啼いて、身体を震わせ、迸って欲しい。 「ああっ」 加持の告白を切っ掛けに、箍が外れたようにシンジが声を上げた。 細い鎖骨を、歯形が付くほどに噛む。 動脈の浮いた首筋の肌に、跡が残る口付けを与える。 耳朶を噛み、眉を舐め、眦に浮いた涙を掬う。 その間もずっと、加持の右手はシンジのそれを握り締めている。 「加持さん! 加持さん!!」 まだ何もしていないのに、もう果ててしまう予感――それは言葉にはならず、ただ荒々しく自らの上に覆い被さる男の名となって、シンジの口から漏れた。 服を脱ぐのももどかしかった。 加持は投げ捨てるようにシャツを脱ぎ、シンジの足からズボンを奪う。 自らも下半身を露にすれば、それはもう大きく膨れ上がり、怒張の色に赤黒く染まっている。 全裸になった加持の姿に、シンジが息を呑むのが見て取れた。 再びそれを握る。 テーブルの上に初めから出ていたローションのボトルを掴む。 シンジの身体を裏返し、握った前の手は離さないまま、後ろへと口付ける。 「ああっ…やっ…あっ」 熱く濡れた舌先が乱暴に、閉じた入り口を犯す。 ざらついた熱い肌が自らの裡へと入り込む感触に、シンジの身体は硬くなり皮膚を粟立たせる。 考える暇さえ与えない加持の激しい愛撫に、戸惑いながらも身体はちゃんと反応していた。 一度覚えてしまった快楽の味に抗えるほど、若い性欲は飼い馴らされてはいないのだ。 目覚めたばかりの、獣欲と言う名の本能。 男の身体を支配する、寄生した獣。 餓え、渇き、貪ろうとする、何より激しい衝動。 「うっ……あはあっ」 大きな手が固く固く、シンジの細いそれを掴む。 手の中で、脈打つ。 溢れてしまわないように、堰き止めるように、強く握った。 そうして舌先で穴を穿つ。 細かな襞を押し広げ、滑らかな胎内へと道を拓く。 ローションのキャップを食い千切り、細い腰の上から垂らした。 双丘の間に塗り広げるのももどかしい。 加持は膝を立てていたシンジをの身体を再びソファに押し付けるように伸ばし、後ろからその上に圧し掛かった。 流れ落ちようとするローションに、自らのモノを擦り付ける。 双丘の間に、威きり立つ怒張を滑らせる。 「あ…熱いっ」 「お前もさ」 身体を重ねれば、目の前には白く細い首筋。 短く細く、柔らかな髪の生え際。 後ろからうなじを噛んだ。 「もう、良いです……早くっ」 内から溢れる衝動が、そのまま声になって迸る。 聞き返して確かめるような事は、しなかった。 滑る液体をまとったそれで、少年の体温を感じる。 息を詰めている。 固く閉じた瞼が震えている。 「ぁっ……つっ……ああっ」 乱暴に肉の隙間を押し開いて、加持の先端が入り込んだ。 本来外から侵入されるようには造られていないそれ。 まだ数回の経験しかない不慣れなそれ。 舌先で慣らしただけのそれ。 けれど、シンジは欲しがっていた。 待つ事など、出来なかった。 「ああ……ああ……」 喘いでいるというより、安堵の溜息に色が付いたような声。 胎の中に入り込む熱さに満足する、汗に濡れた目元。 加持は上体を起こして、握っていたモノを離す。 シンジの細い太腿を掴んで裏返す。 「加持さん、加持さん」 向き合えば、ますます細く見える肢体。 顔を近づけ、唇を貪りあう。 細い少年の体躯が折れ曲がる。 膝を持ち上げて、更に深く結合する。 「あっ…つうっ」 受け入れる事に慣れていない少年のそこが軋んで悲鳴を上げる。 けれど全て穿ち込みたいという衝動は、押さえきれない。 痛みと熱さに、少年の目から涙が零れた。 再び顔を近付けて、舌先で舐め取る。 その味すら、旨いと思う。 「ああっ……だめぇっ」 「まだ痛むかい?」 「ちがっ…ああんっ」 加持の腰を挟んでいた少年の膝が強張る。 射精の予感に力を込めたのだ。 加持はシンジのそれを掴んでやった。 「我慢するな。いけよ、何度でも」 ローションに塗れた手がシンジのそれを掴んで上下する。 同時に腰を突き上げる。 シンジの身体がそれに合わせるように、または抗うように、のたうった。 「だめっ…ああっ…もうっ」 迸り、吹き上がる。 濃厚に青い匂いを放つ、若い精液が、シンジの胸元から顔にまで、飛んだ。 「ああっ…あはぁっ」 残った精を振り絞ろうと収縮する胎内を、更に押し込む。 絞り出すのを手伝っているかのように、加持が腰を前後させるたび、シンジの先端から滴が零れた。 何度、放とうと震えたか。 とうとうシンジからは何も出なくなった。 |
「はぁ…はぁ……はあ……」 汗と自らが吐き出した快楽の飛沫に、シンジの顔が濡れていた。 加持がその顔を掌で撫で擦る。 飛んだ飛沫が汗と混じり、広がる。 その匂い立つ肌を、くまなく舐め上げる。 青く苦いその味すらも、忘れないように。 「加持さん……加持さんは、まだ……」 「ああ、イッてないさ。動いて良いかい?」 肯くかわりに、シンジは加持の首に腕を回して抱き付いた。 更に深く腰を曲げさせ、細い足を身体に巻く。 両手両足で、下から加持にしがみつくシンジ。 深く曲げられた身体の中は、狭い。 その狭さは痺れる程だ。 僅かな空隙の中で、加持が動く。 シンジの後ろを犯し、味わう。 「いあっ……うくっ」 放った直後で、シンジ自身に快感は少ない。 それでも、抱き合った加持の息が荒くなるのを感じると、シンジは一層身体に力を込めた。 「そんなに無理しなくて良いぞ」 「でも!…加持さんにもっ……ちゃんと、感じて欲しいから」 無理に拓かれたそこは、力を入れれば痛むに違いない。それでも目尻に大粒の涙を湛えたまま、シンジは歯を食いしばる。 「そうか…辛くなったら、言えよ」 「だ…大丈夫ですっ」 シンジが一度放った事で、加持自身には余裕が生まれていた。 彼が放つ所を見たいと思う欲求の方が強く、彼の中で自分が果てる瞬間は、その時が来るまで大して執着を感じない、と言うのが正直な所だ。 けれど、辛さに耐えつつ抱き付いてくるシンジには、応えてやりたいと思う。 「ああっ」 一層深く、中へと穿つ。 シンジが背を丸め続けるにも、限界が来た。 敏感な胎内の粘膜を擦られる感触に、背筋が反り返る。 「若いな……楽しめよ」 身体を離してシンジを見下ろす加持の目に、再び固く尖り始めたモノが映った。 シンジの腹にローションを垂らし、柔らかな白い肌と、自分の下腹の間に挟み付ける。 「あっ……ああっ」 前後を同時に刺激され、シンジの顔が赤らんだ。 再び近付く絶頂の予感に、息を詰めて堪えようとしている。 「我慢するな……何も出なくなるまで、絞り尽くしてやる」 「でもっ……ああっ…でもっ!」 射精の直前が一番心地良い、それが男の身体だ。 だからシンジも本能的に、その瞬間が近付くと、悦楽の極みをなるべく引き伸ばそうと耐えようとする。 けれどそれは、加持にとっては不満だった。 何度でも放てば良い。ボロ雑巾を絞るように、一滴も出なくなるまで付き合うつもりだった。 「だめっ……もうっ……あああっ」 二度目の射精に、飛沫は飛ばなかった。 二人の身体の間で震えるそれから流れ出した迸りは、ぴたりと寄り添った肌の間に広がる。 「ああ…ああ……あぁ……」 まるで堪え性の無い自分のモノを恥じるように、シンジが目を瞑って顔を背けた。 汗に濡れた熱い身体に、放たれた青い匂いが纏わり付く。 「こっち向けよ」 「やっ」 隠そうとする手首を握り締め、羞恥に頬を染める顔を眺めた。 悪くない光景だ。 「……加持さん、まだなのに……」 「若いうちは誰だってそういうもんさ。その分、回復が早い。そうだろ?」 自ら放った白い液体と、透明なローションのヌメリとに彩られた細いそれが、固さを失う。 加持はまたそれを掴んで、きつく握った。 「いあっ」 続けざまに放てば、いくら若く活きの良い性器と言えど萎える。 そして、萎えたそれは過敏になった肌が痛む。 それは鋭い痛みと鈍い快感とが同居する、辛い刺激のはずだ。 「やっ…あっ」 嫌がるシンジが手を伸ばそうとするのを制して、更にきつく擦り上げた。 萎えて縮んでいたそれに、再び血潮が流れ込む。 「もう、許して…加持さん」 そんな涙声を聞かされると、加持は一層、威きり立つ。 「その声を聞かされたんじゃあ、ダメだな、許さない」 加持は自分の後ろ髪を束ねていたゴム紐を外す。 こんな時の為に身に付けている訳では無いのだが、他に使えそうな物が思いつかなかった。 「なっ、何するんですか」 身体を捻ってシンジが逃げようとしても、体格が倍も違う加持に圧し掛かられて逃げられる筈が無い。 三度膨れ始めたそれを乱暴に引っ張り、ゴム紐で縛りつける。身体の中から先へ向かって流れ込んだ血液が、戻れなくなる。 無論、迸る精液も堰き止められて、外に出られない。 「そんなにイくのが嫌なら、我慢するよりこうした方が良い」 見る間にシンジのそれは固くなった。 普段より一層充血し、痛々しいほどに赤くなる。 更にローションを垂らして手で包む。 過敏に膨れた肌に、男の掌では固すぎるだろう。 けれど、そんな痛みが丁度良い。 そのぐらいに、貪りたかった。 「ぃあっ…痛っ…やめっ」 言葉にならずにシンジが喘ぐ。 その声を聞きながら腰を打ち付ける。 加持は動きを早め、力を込めた。 細い少年の身体が、柔らかなソファの上で激しく揺れる。 二人の重みを支えるスプリングが軋み悲鳴を上げる。 いっそソファが引っくり返っても良い、そんな勢いで加持はシンジを突き上げ続ける。 「だめっ…だめっ……ああっ」 シンジの腰がびくりと震える。 手の中のそれも同じように大きく脈打つ。 けれど、放つ事が許されない。 先端からは何も漏れ出さなかった。 確かに放つ予感に身を固くしたのに、何も起きない自分の身体をシンジは見詰めた。 「ど、どうなってるんですか」 「止まってるだけさ。出ないうちは萎えない」 「そんなっ」 射精の予感に背筋が震えるほどの快感は、確かにある。 けれど、滾りの印しが迸しらなければ、圧倒的な解放感は得られない。 そんな刺激は、ただ辛いだけだ。 「だっ……やっ……もう、許して」 許すはずが無かった。 加持自身の絶頂には、まだ遠い。 「言ったろ、とことん付き合うってな」 荒々しく、優しさの欠片も見えない交接。 けれどこれこそが、本能の赴くままの、加持なりの愛し方だった。 他に思いつかないと言った方が正しいかも知れない。 シンジが口に手の甲を押し当てて、泣きじゃくる。 内側を擦り上げる、熱く太く、固く滾る加持のそれ。 シンジの身体には大きすぎるそれが、快楽を求めて荒々しく出入りする。 加持の大きな手が、膨れ上がったまま萎えることも許されない、尖ったそれをしごき続ける。 再び射精の予感が背筋を奮わせる。 加持の動きはますます速くなる。 そしてやはり、解放感は来ない。 ペニスの付け根に痛みが走った。 絞り出され、迸ろうとする流れが押し止められたそこで暴れる痛みだ。 「許して…もう……イかせてっ」 そこから先は、更に辛い責めが待っている。 もはやシンジのそれは揺れ続け、脈打ち続ける。 一時も止まる事が無い。 絶頂感の寸前が、永遠に続くという責め苦。 「いやあっ……ああああっ」 何度力を込めて放とうとしても、鬱血するほどキツク縛められたそこからは、一滴も漏れ出さない。 「あはぁあっ……はああっ…ああっ」 呼吸の全てが声に変わる。 細い声が裏返り、掠れ、糸を引くような悲鳴が続く。 「許してっ……もうっ…ああああっ」 何度目の絶頂か知れない。 加持の手が離れ、シンジの身体を抱く。 更に速まり、打ち付けられる巨大な熱の塊。 遂にシンジの身体を奥底から奮わせる『射精への努力』は、インターバルを失った。 震え続け、反り返り、脈打ち続ける。 背筋も、太腿も、もはや言うことを聞かない。 戦慄き、引きつり、震え、暴れ、のたうつ。 そんな細い身体を折れよとばかりに抱き締めて、加持が遂に、絶頂の予感を捉えた。 「苦しいか? 今イかせてやる」 膝を折り曲げ、深く深く身体を曲げさせ押さえ付ける。 軋む身体の中で、更に一回り大きく膨れ上がる熱の塊。 加持の手が、震え続けるシンジのそれに伸びた。 「一緒に終わろう」 「ひあっ…あはぁっ…はっ…はいっ」 トップスピードへ昇り詰めると同時に、ずっと少年の迸りを縛めていたゴム紐が解かれる。 一瞬の間を置いて、吹き上げた。 「んはああああっ」 長い長い射精。 溜まりに溜まったものが一度に出口を目指したのだった。 「ああっ…ああああっ」 悲鳴なのか、嬌声なのか。 その声と共に、加持の身体も震えていた。 シンジの中で、奥底で、弾ける。 流れ出す欲望の塊が、白い奔流になる。 「ぁ……あはっ……ぁ…………」 引き付けたように息を吸い込んで、シンジの声が途切れた。 加持の身体が、力を失った細い手足の上に倒れこむ。 「はっ……ふぁっ……」 短く鋭く息を吸い込む以外、シンジの身体は動かない。余りに強すぎた刺激に気が遠くなり、意識を手放そうとしている。 加持はゆっくりと自分のモノを引き抜いた。 大量の精液が、ローションと共にシンジの後ろから流れ出す。 その熱さに、シンジが一瞬目を覚ました。 「まだ寝るには早いぜ」 「かっ……加持さ…ん…」 その声はまだ、掠れて弱々しい。 横抱きに抱えて、ソファの上に身体を起こす。 「まず水を飲め。喉が潰れるぞ」 ぐったり手足の力を失ったシンジは、差し出されたミネラルウォーターのボトルを受け取る事すら出来ない。 加持が一口含んで、口付ける。 「あ……」 要領を得ず、最初の一口はほとんど零れた。 二口目から、飲み込むシンジ。 喘ぎ、叫び続けて、喉がおかしくなりかけていた。 「はぁ…ああ……もう、大丈夫、です」 切れ切れに呟いて、うなだれる。 見下ろした自身の根元には、くっきりと加持が巻いた縛めの痕が残されていた。 「ひど……いたっ」 触れようとするとそこは、やはりまだ過敏すぎた。 「落ち着いたかい?」 加持は裸のままで足を組み、灰皿を引き寄せて煙草に火を付けた。 憔悴し切ったシンジは、その余裕の表情を見詰め返したまま、ソファに倒れこんだ。 「おい、大丈夫か?」 「ちょっと…疲れただけ…です」 目を瞑ってそのまま眠ってしまいそうなシンジの太腿を、加持の大きな手が撫でる。 細い筋肉と、生硬な肌。 体温は高く、全身が汗ばんでいた。 「何か、言いかけてたな」 「最初の、ですか?」 「ああ……」 気怠げなシンジの表情は、もうそんな事はどうでも良いとでも言いたげだった。 「アスカには、気付かれたかもと、思って」 「諜報のガードは巻いたのに、アスカには出る所を見られたのかい?」 「いえ、そうじゃないです……けど、最近ずっとアスカに見張られてる気がしてて」 そう言うとシンジは、怠そうに目を閉じた。 「まだ寝るには早い」 「分かってます、でも、ちょっと、休ませて……」 手を伸ばした加持に引き寄せられて、裸の肌を合わせる。 「ここじゃ何もない。チルドレンに風邪を引かれたんじゃ困る」 横抱きに抱え上げようとする加持に、シンジは抗わなかった。早くも力を抜いた身体は頼りなく、柔らかだ。 「寝室へ行こう」 シンジはただ黙って肯いた。 |
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