──秋里(あきり)市―― 戦後急発展した工業都市である。
一時は主力の重化学工業が落ち込みを見せ、人口が激減したが、今では近隣の八浪市のベッドタウンとなっている。 その秋里市の現市街から約5キロほど離れたところにある重化学工業が全盛の時に反映した旧市街。 そこに存在しているのは高度経済成長の時に乱立したビル・マンション群。 しかし、時代の移り変わりとともに経済と行政の中心は現在の市街地に移動していた。 そこに残ったのは、管理者が手放してしまい、住人も多くが立ち去っていった廃ビル群と、比較的新市街に近かったためにかろうじて人が住んでいる一部の老朽化したマンションだけで、ゴーストタウンといった風情を見せる。 再開発の声も以前からあがってはいた。 だが、行政の反応の鈍さと、それに関する汚職事件が明るみに出たために、いまだに旧市街部の再開発計画は宙ブラリのままだった。 それらの内の一つで、その昔、ビジネスホテルであったビル内部では、二人の人物が何か謎めいた話していた。 昼間でも薄暗いビルはあまりにも薄気味悪く、立ち入ろうとする者はまずいない。だが、かえってそれは密談をするのにはもってこいの条件だろう。 そこには一人の初老の男性がいて、もう一人は部屋が薄暗くて判別ができなかった。 「例の人物にはもう会ったのか?」 初老の男性がもう一人の人物──それは若い女性だった──に話しかけた。 「いえ、明日あたりコンタクトをとろうと思っています」 彼女はいったんそこで言葉を区切る。 「彼女の性格から考えると、協力をしてくれるかどうかは微妙なところですが……」 女性の方は、声にまだ幼いところが残ってるが、責任感はしっかりと持ち合わせているようだった。 現在話にあがっている人物とは、その女性の知り合いのようだった。 「急いだ方がいい、門がまた一つ出現した。これらに対する能力を持つ物はあまりいないからな」 「分かりました。では今夜あたりコンタクトをとってみましょう」 「頼んだぞ」 男性は女性に全幅の信頼を寄せているように見える。 そしてまた、女性の方もそれに答えようと努力していた。 「はい。それと、ここ一週間ほど目撃情報がありませんが、奴らの活動状況はどうなっているのでしょうか」 「今のところは小康状態を保っているみたいだが、油断はできん。一斉活動のために力を蓄えているのかもしれないからな」 「分かりました。それについては十分に注意をしておきましょう。それではこの辺で失礼いたします」 そこまで言うと、女性はその場から闇に溶けるようにしてその場から姿を消した。 「うむ」 それを聞いた男性も、返事を返すと同じようにいなくなった。 二人が立ち去った後に残ったのは、不気味なほどの静寂のみ……。 To be Continued…… |