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__________ ■ June 〜 August / 2015 ■ _

 

 
 数多くある心臓病のなかでも一番数の多いのが不整脈です。そしてそのうち近年一番注目されているのが心房細動という疾患です。

 注目される一つの理由は患者数の増加です。心房細動は年齢とともに起こりやすくなります。特に60歳を境にその頻度は急激に高まり欧米では85歳以上で 17.8%、我が国でも80歳以上でおよそ1割の人に心房細動が起こります。これが現代社会の高齢化と相まって患者数の増加につながっているものと思われ ます。性差では男性が女性に比べ約1.5倍発症しやすいと言われ、また最近の我が国の研究結果で「高血圧を持つ人、糖尿病患者さん、肥満傾向のある人」に はより起こりやすいことがわかりました。もちろんこれ以外にも基礎心疾患、すなわち心臓弁膜症や心筋梗塞などを持つひとに起こりやすいことは間違いありま せん。

 そして二つ目の理由は「血栓症」、特に脳梗塞との関連です。正常心では規則正しく収縮・拡張をくりかえす心房壁は、心房細動を起こすと電気的に細かく振 動するだけで物理的にはほとんど動かない状況に陥いります。このため心房は次第に拡張し、内部に血流のうっ滞が生じます。運が悪ければここに血栓が形成さ れ、さらに運が悪ければその血栓が脳血管にまで飛来して詰まり脳梗塞をきたします。心房細動の最悪の合併症が脳梗塞であり、心房細動だけにとどまるのか脳 塞栓をおこしてしまうかではその患者さんの人生が大きく変わりかねません。ですから心房細動患者さんを診た循環器内科医は「血栓症をいかに防ぐか?」にま ず力を注ぎます。古くから使われているワーファリンという薬剤にくわえて近年NOACSと総称される数種の抗血栓薬が発売されています。両薬剤には一長一 短があり、今後それぞれの病態の応じた使い分けが出来るよう今まさに循環器専門医が知恵を絞っている最中です。さらに、アブレーションというカテーテル治 療で心房細動そのものを根治しようという流れも盛んです。

 心房細動では脈が大きく乱れ動悸を感じることが多いのですが、中にはまったく気付かない方もいらっしゃいます。日常生活の観点からはもちろん無症状が良 いのですが、合併症のことを考えれば発見の遅れにつながる可能性が高い「無症状」を手放しでは喜べません。また発作の起こり始めに一瞬の血圧低下が起こり やすいことも心に留め置いてください。いわゆる「立ちくらみ」はあまり気にせずとも良い場合が多いのですが、同時に脈拍の乱れを感じたような場合には、そ れが心房細動発作ではないか、とちょっと疑ってみることが必要です。早期発見がとても重要な疾患のひとつなのです。



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