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_________ ■ March 〜 May / 2016 ■ _
 
 認知症という病名が考案されて十数年、我が国の認知症患者 数は450万人を超えたと言われます。そして昨年、厚生労働省から「きたる2025年には認知症患者数が700万人を超える」との発表がありました。福岡 県久山町の方々を対象に1985年から行われてきた調査に基づく推計値であり、これによれば約10年後には65歳以上の5人に1人が認知症ということにな ります。このように一般的には当然「認知症患者は増えていく」というふうに思われてきました。

 しかしつい先頃、米国Boston大学からの意外な研究結果に世界の注目が集まりました。「認知症患者は減っていた」というのです。これは第二次大戦後 まもなく始まったフラミンガム心臓研究という疫学調査の結果の一部から明らかにされたもので、マサチューセッツ州の住民5千人あまりを対象に1977年か ら30年間を4期に分け、代表とした5年間の認知症発症率が調べられました。すると、第1期に比べて、第2期の認知症発症は22%低下、第3期は38%低 下、第4期に至っては44%も低下していたというのです。すなわちこの地域では30年の間、認知症発症率はどんどん低下し続けていたわけです。その基礎疾 患に着目すると【中年期の高血圧症・肥満・2型糖尿病】や【脳卒中・心血管疾患・心房細動の既往歴】が無い人ほど発症率が低い傾向にありましたが、この減 少傾向を完全に説明できる要因を特定することはできなかったとも結ばれています。おそらく30年ものあいだには人々の生活環境や医療レベルも大きく変化し てきたことは想像に難くなく、さまざまな要因が複雑に影響しあった結果でありましょう。

 では日本ではどうなのか。残念ながら先の久山町研究ではその点について触れられていません。もちろん我が国は世界トップの長寿国。いままさに高齢者人口 比率が急速に増えつつあり、米国のデータをそのまま当てはめ考えることには到底無理があります。おそらくは当面、我が国での患者数は増えていくのでしょ う。しかし、これからもそのような視点で研究成果を積み重ねていけば、高齢化の大波に少しでも棹さしていけるような予防策があるいは見つかるかもしれませ ん。

 最後に、現時点で明確になっている認知症発症の危険因子について。まずはなんといっても高血圧症と糖尿病です。このふたつを予防し適切に治療して脳動脈 硬化を防ぐことが最重要課題です。また心房細動患者さんでは認知症発症の可能性が高まりますし、大量飲酒を続ける人ほど認知症リスクが高まるとされていま す。これからのすべての日本人が深く関わらざるを得ないこの厄介な疾病について、もっと調べそして真剣に考えていかねばなりません。



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