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_________ Dec. '17 〜 February 2018 ■_
 

 アカチンやヨーチンなどという言葉もすでに死語となって久しいですが、皆さんは日常生活でちょっとした怪我や傷を負ったときに「消毒」をされていませんか?今回は消毒と傷の治り方についてのお話です。

 この数十年間の医学や科学の進歩はめざましく、それが故にそれまでの常識が常識でなくなるということも再々起こりえます。そのひとつが消毒です。昭和時 代までは家庭であれ医学の現場であれごく一般的に行われてきた傷への「消毒」というものが実は不要だった、さらに踏み込んで言うならば行なってはならない 「悪習慣」であったのです。本来、生物には体表面の傷を自身で治す力が備わっています。すなわち、傷を負った周囲にまず(1)幾種類もの血球が集まってき て連携をとりながら傷の止血をし(2)有害な細菌を死滅させ(3)周囲組織から「浸出液」を傷表面に出させて湿潤な環境をつくり様々な血球が働きやすいよ うにする、かつそれで傷表面を保護します。そして(4)かさぶたが出来て最終的に表皮が再生されるまでそれが続きます。

 昔からの「消毒」は主としてこの(2)の「細菌を取り除くことこそ重要」という誤った概念に基づく大きな間違いであったのです。なぜなら傷の表面になん らかの薬物を塗るという行為には何の利益もなく、逆に本来は必要な皮膚の常在菌までも死滅させてしまったり、薬物が血球の働きを阻害して(1)〜(4)の 課程を進みにくくしてしまうことが明らかとなりました。もしまた治りかけた傷の表面に後日「消毒」を繰り返せば(3)の浸出液が洗い流され、せっかく整え られきた治癒の環境が壊され振り出しに戻ってしまいます。実際、現在の医学の最前線でも傷は水で洗い流し、特殊な場合を除きその後ただ保護するというのが 常識となっています。私たちの「身体への消毒」は原則不要、とお考えください。

 この傷表面の保護については近年の科学の進歩が大きく寄与しています。みなさんも見聞きされたことがあると思われる「ハイドロコロロイド」という特殊な 柔らかな保護材がそれです。まずは傷を水道水でよく洗い、その上でこの柔らかなシートで傷を覆うのです。少し時間が経てばシートの内側に「浸出液」がでて 白くなっていくのが見て取れます。それがまさに傷が治っていく課程なのです。このシートはあまり頻回に取り替えず、剥がれたり表面があまりに汚れたときの み替えるようにするのがコツです。このシートは数社から商品化されており決して安価ではありませんがご家庭に少し買い置きされるのも良ろしいかと。「傷は 洗って保護して治す」そう覚えておかれるとよいでしょう。

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大西内科クリニック