心不全という言葉は一般の方々にもなじみ深い医学用語のひとつですが、近年、我が国でその患者数が急速に増え社会問題の一つとさえなりつつあります。心不
全とは「血管内に血液を循環させる心臓の機能が十分に作用しない状態」と言い表すことができますが、その原因となる疾患は多岐にわたり病態はとても複雑で
す。ではなぜいま心不全が増えているのでしょう? ここではその理由のいくつかをご説明します。
(1)まずはなんといっても【高齢化社会の到来】です。若い頃から心臓病を抱えていたり高齢で心臓病を患った方はもちろんのこと、それまで明らかな心疾
患の無い方であっても、年齢とともに心機能や腎臓機能が低下していくのは自明の理です。誰しも通る道だとも言えますね。(2)そして次には【生活習慣の変
化】です。これは拙欄でもなんどかお話ししていることですが「日常生活における適度な運動」が、心機能を保つためにはどんな方にも不可欠なのです。これま
でどんどん便利・安楽になってきた日本社会で、あるいは欧米・アジアでも同様に、現代人の運動不足とその必要性について様々な場面で議論されるようになり
ました。かく言う私も「きょう一日ほとんど歩かなかったなあ…」などと寝る前に気づくこともしばしばです。ありがたいこの幸せな日本に暮らしている人に
とっては、日々「意識して運動」しないことには心機能が低下していく、というふうに考えていただいて良いかもしれません。(3)さらに私見では皮肉にも
【循環器疾患診療の進歩】がその遠因の一つであろうと考えます。この分野の診断・治療レベルは、私が医師となった1980年代から数十年の間に凄まじい勢
いで進化しました。昔ならばとうに落命していたであろう方が助かって元気に社会復帰されたり、入院生活を余儀なくされるような重症の心疾患患者さんが自宅
で元気に暮らすことが出来るようになったケースは枚挙に暇がありません。しかしながらこういった方々は同時に心不全発症の大きなリスクを抱えてもおられる
わけです。
このように対策をたてるのが難しい原因ばかりではありますが、手を拱いて恐れているだけではいけません。まずは心不全のサインを早く見つけ出すことで
す。急激な体重増加を伴う浮腫があったり少しの作業で息切れ・動悸が起こったりしないかに注意しておいてください。そして心不全を予防するためには「毎日
一定時間かならず歩こう」と常に心がけておかれることをお勧めします。
大西内科クリニック