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________ June 〜 August 2018 ■_
 

 蒸し暑いこの季節になるとよく話題にのぼるのが食中毒。おそらくは太古の昔から人々を悩ませてきたであろうこの疾病ですが、その内容はどうやら時代とともに変遷しているようです。今回は昨年度の厚労省報告をもとにその変化についてお話しします。

 食中毒の病因は【ウイルス・細菌・寄生虫】という微生物が主となっており、食中毒患者数の9割以上がこれら3つで占められています。

 そのなかで他を圧倒して最も多く発生するのが(1)ノロ・ロタなどの「ウイルス性急性胃腸炎」であり、食中毒患者の過半数を占めています。厄 介なのは、あまりにも病原体が微小なこと、さらに原因ウイルスに効く抗生物質がいまだ発見されていないことです。このため食中毒だけでは無くヒトからヒト への感染経路も大きな問題です。予防には手洗いや食器類・食材をよく洗い清潔に保つことが重要なのですが、実際には完全に排除するのはなかなか難しく、飲 食店や病院などのいわば「プロ」の世界でも実に悩ましい疾患のひとつです。
 (2)次に多いのが「細菌性食中毒」。このなかで近年急激に増えてきて、原因細菌のトップに昨年躍り出たのが「カンピロバクター菌」です。こ の菌が問題となる食材は食肉で、なかでも「鶏肉や鶏肝」がその主役です。カンピロバクター菌は十分な加熱で死滅しますが、生や半生の鶏肉や鶏肝、さらには 加熱が不十分な鳥料理が発生原因です。調理した方がどんなに注意を払っても肉の深部に潜んでいる細菌は排除できませんから、生肉には絶対に手を付けないこ とが得策です。
 (3)最後が「寄生虫:アニサキス」中毒です。発生患者数こそ前二者に遠くおよびませんが、刺身などの日本食が見直されている昨今、発生数が 伸びており注意が必要です。アニサキス症は生魚の中に潜む小さな虫体が直接胃の中に取り込まれ粘膜内へ侵入、胃壁や腸壁に強烈な痛みを引き起こします。以 前は寄生虫の物理的な攻撃による痛みかと単純に考えられていましたが、今では胃粘膜内に侵入した虫体が発する物質に対する生体のアレルギー反応などが主因 ではないかとされています。アニサキスはほとんどの種類の鮮魚類に寄生していることが確認されていますが、この数年急に増えている原因食材が「鰹のたた き」です。その理由は不詳ながら、一つの切り身が大きくて内部に虫体が潜みやすいことがあるのかもしれません。「刺身はよく見てよく噛んで食べる」のがよ さそうです。

 食中毒の治療においては失われたり欠乏した水分とミネラルの補給が最重要です。経口補 水液などを利用し脱水症を防ぐこと、そして少しでも早く原因微生物を体外へ排出してしまうことを考えた療養が望まれます。

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