売春宿に潜入? 【韓国・ソウル旅行記】

 

 ソウルなどの大都市にはロッテホテルなどの欧米式一流ホテルが軒を連ね、豪華さを競っている。日本人観光客の御用達だ。ところが実際はそういう一流ホテルより「ヨグアン」(あえて漢字で書くと「旅館」)なるものが全国的に幅を利かせている。ヨグアン(旅館)といっても日本でイメージされる旅館とは少しニュアンスが違っていて、ほとんどの場合が街中にあるビルである。それもかなり古いビルが多く、オンドル部屋ひとつに風呂トイレ付という感じだ。ランクが下がると風呂トイレが共同になる。一般的に「アジアの安いホテル」といってイメージされるものと思っていい。もっとも最近では日本でいうビジネスホテルクラスのものからラブホテルなども韓国では「ヨグアン」として営業している。新築でかなりきれいなものも多い。日本のラブホテルのように、それだけに特化したものは基本的になく、不倫カップルと旅行者が同じヨグアンに泊まることが普通だ。ヨグアンという言葉は、ビジネスホテルからラブホテル、安ホテルまでを含むかなり幅広いニュアンスを持つのだ。ただ、ランクの少し上のものは「ジャンヨグアン」(荘旅館)と呼ばれることが多いようである。

 韓国へはかなりの回数来ているのだが、その時までは「ホテル」と名の付くところに泊まったことがなかった。泊まる必要性もなかったのだ。しかし、ふとしたことからホテルと名の付くところに泊まることになった。

 季節は夏。ちょうど友人夫婦二人とソクチョ(束草:韓半島東北部・江原道の都市)からソウルへ帰ってきたところで、宿を探していた。夜もかなり遅い時間帯だった。普段なら定宿の「カンファジャンヨグアン」(光化荘旅館)に直行するところだが、出来心が芽生えてしまったのだ。カンファジャンのエアコンの効きが今一つというのもあったし、少し飽きてきたというのもある。

 某「地球の**方」の巻頭地図にいくつかのホテルが記載されている。どうせなら場所的に便利なところにして今後も使えるようにしたいところだ。それらの中で、地下鉄*号線と#号線が交わる某々駅の近くにある「**ホテル」というのが目に止まった。もしここがいいホテルであれば今後も使えるかも知れない。早速行ってみることにした。


ホテルを探す

 ホテルは地下鉄駅の出口祇くにある付近案内図にもちゃんと表記されていた。場所を確認してから通りに出る。そして歩きながらそれらしい建物を探す・・・が、それらしいものは見あたらなかった。その地区をぐるっと1周してみたが、ホテルらしき建物はない。おかしい。地下鉄構内の案内図にもビルの絵とともに表記されていたのに。つぶれたのだろうか?つぶれたにしてもビルごと消えてしまったのだろうか?

 もう諦めようかと思っていたら、小さな看板が目に入った。そこには「**ホテル」と書かれていた。

「おお! あったあった」

 その看板の矢印の方向にある路地を入っていくと、正面にビルが見えた。

「・・・こ、これ?」

 それはホテルというよりは、雑居ビルだった。実際玄関に行ってみると、会社の名前なども書かれていて、完全な雑居ビルだ。はて? しかしよく見てみると、ビルの最上階が「**ホテル」になっていた。これはどういうことだ? ビルの一部だけがホテルとして営業しているのだろうか?案内図ではかなり大きな絵が描かれていたのに・・・。

 本来ならここで「怪しい」と思うべきだったのだ。しかし香港のゲストハウスに普通に泊まっている感覚からすると、「なーんだ、香港スタイルなのか」といった程度で、そのままエレベーターで上がってみることにした。


ホテルにて

 エレベーターはうんうんいいながら上がっていき、目的の階に止まった。ドアーが開くと正面に受付があった。おばちゃんが座っていて、その横におじさんが立っていた。僕らがやれやれと言いながらエレベーターを降りようとすると、そのおじさんが

「あのー、どちらの階に?」(韓国語)と言い出した。
「えっ、ホテルですけど・・・。ここホテルじゃないんですか?」
「えっ、ええ・・・・・・」

おじさんは明らかに当惑した様子だった。何故? 僕らは明らかに旅行者の格好をしているし、どういうことなのだろうか? ここでも「怪しい」と思うべきだったのだ。僕らの感覚は麻痺していた。僕らが困っていると、受付にいたおばさんがこちらに入って来るように促した。

「あのー、部屋はありますでしょうか?」
「宿泊かい?」とおばさん。
「ええ」
「部屋は1つでいいの?」
「いえ、僕と彼ら2人は別々でお願いします。2つです」
「・・・・」
「部屋を見せてもらっていいでしょうか?」

 おばさんはさっきのおじさんに言って、部屋へ案内させた。部屋はきれいではなかったがとても広く、テレビやエアコンなどもあり十分合格点をつけられるものだった。文句のつけようがない。値段(忘れた)もまぁまぁだったので1泊だけすることにした。

 早速宿帳に記入する。見ると台湾人の名前がたくさん書かれていた。なんだ、外国人もちゃんと泊まってるじゃないか。そう思いながら書き終え、金を払った。

 それから友人夫婦とは別の部屋に案内される。さて部屋に荷物も置いたことだし、友人夫婦の部屋に行ってこれからどうするかを相談することにしよう。そう思って部屋を出ることにする。えっと、鍵はどうするのだろう?そういえば渡されなかったなぁ。ま、いいか。


そして・・・

 そう思いながら部屋を出て絨毯張りの廊下を歩いていると、不意に横のドアが開いて女性が出てきた。突然出てきたのにびっくりしたのだが、もっと驚いたのはその女性の格好だ。普通の格好ではない。その・・・いわゆる瞬時に全裸になれると言うキャバレーやピンクサロン系の格好なのだ。黒のキャミソール風の服にパンツ、太股から下はまる出しだ。驚いて立ちつくしていると続いてスーツ姿の男が現れる。二人はそそくさとそのままの格好でエレベーターに乗り込み、下へ降りていった。

 そして驚いている僕をさっきの受付のおじさんがジッと見つめていた。そういうことだったのか。このホテルがどういう場所なのかを瞬時に理解してしまったが、もう金を払ってしまったし・・・。開けっ放しになっていたドアから先ほどの二人が出てきた部屋を覗いてみると、ベッドだけが使われていたようだった。

 友人夫婦の部屋に行ってからその話をしたけど、「ほんとー?」と取り合ってもらえなかった。ま、でも1泊だけだからいいんじゃない? という結論に落ち着いた。いや、君たちは夫婦連れだからいいけど、僕の場合女の子を強引に押しつけられてもなぁ。かなわんなぁと思う。ま、なるようにしかならんか。

 結局、一旦飯を食いにホテルの Oに出ることにする。鍾路のあたりまで出かけて行って屋台で酒と飯にありつき、またホテルに戻る。

 例によって雑居ビルの1階でエレベーターを待っていると上からエレベーターが降りてきた。1階に止まりドアーが開く。おじさんが出てきた。それをかわして乗り込もうと半歩進むと、中に緑色の「例の服」を着た女性が乗っていた。

「下に行きますけど」
「えっ、・・・そ、そうですか」

僕が半歩下がるとエレベーターのドアが閉まり、地階へと降りていった。地下にはいったい何があるのか? 答えはキャバレーだった。つまり、まず客は地階にあるキャバレーに行くのだ。そして女の子を選び、商談が成立すればそのまま上の階にエレベーターで上がって行き、一仕事して帰っていくという案配なのだ。だから同伴でなく、直接ホテルに行ってしまった僕たちはおじさんに「びっくりされた」のだろう。そういうシステムなのだ。

 しかしソウルのど真ん中にこういうシステマチックな「商売」があるとは驚きだ。清涼里のオーパルパルなどもあることだし、売春そのものは珍しいわけではないのだが・・・。

 ホテルに戻りフロントで部屋の鍵を要求すると、おじさんは困った顔をして戸棚の奥の方をごそごそとやりだした。そして取り出した薄汚れた紙箱の中に、部屋の鍵が無造作にしまわれていた。内側から掛かればそれで用が足りる「ご休憩中心」のホテルに、鍵は無用だったのだ。 (了)

 

 
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