昭和27年(1952)


赤い蝋人形 面白倶楽部1〜2  9 16 56

・初出本  『死者の呼び声』東方社(昭和30.6)
・現行本  『赤い蝋人形』 傑作大全12 廣済堂文庫(平9.3)
Comment

 乗客130人が死亡した横須賀線の列車火災から九死に一生を得た少女雑誌の編集者が、人気少女作家西条蕭子の周辺の奇怪な事件に次第に翻弄されていく。堂々たる巻き込まれ型本格ミステリ。中盤ネタ割れの気味もあるが、マニピュレーター・テーマの深化ともいえる最後の真相には誰しも驚かざるを得ないだろう。発見された横須賀線の切符、少女スリの盗んだ財布という小道具が単なる伏線を超えた光彩を放つのも、暗鬱な列車内の描写から焦熱地獄を経て死体置き場での覚醒に至る素晴らしい冒頭シーンが物語に異次元の趣を与えているからである。
 蛇足ながら冒頭の列車事故は、昭和26年4月に、可燃性資材を使用した63型国電が発火し、死者106人が発生した桜木町事件がモデルになっていると思われる。この事件は「非常ドア開放装置」が設置される契機になったという。

男性週期律 あまとりあ2、7  5 50 93 151

・初出本   『陰茎人』 東京文芸社(昭和29.11)
・原行本   『男性滅亡』 ハルキ文庫(平9.10)

Comment 
 性風俗雑誌「あまとりあ」に掲載された。山風セックスコメディの一編。5人の医学生たちによって結成された「刺絡会」では、男性にも女性の生理と同じ周期があるのではないかという仮説の基に、3年間の禁欲を誓い、遺精を記録するという壮大な実験を試みるが・・。結末はみえているようなものだが、5人の医学生たちは悲惨な末路をたどる。複数の人間がみな同じ課題に臨んで、あえなく失敗していくというパターンは忍法帖にもよくあるパターンたが、ここでは5人5様の性格とそれに基づく失敗を味わえる。

怪盗七面相〔連作第七回〕 探偵実話4 181

・初出本   『帰去来殺人事件』 出版芸術社(平8.7)
・原行本   同上

Comment 
 当時の若手探偵作家集団「鬼クラブ」による連載企画で、怪盗七面相というキャラクターを設定し、各作家が自分の探偵役と七面相を対決させるという趣向。本編は、最終回(第七回)に当たり、第6話までの執筆陣は、島田一男、香住春吾、三橋一男、高木彬光、武田武彦、島久平(以上、日下三蔵の解説より)。今日も今日とて、焼酎をかっくらい、ラッパ節などうなっている歓喜先生のところへ、七條元子爵の女中お志乃がやってくる。子爵が七面相に硫酸をかけられたというのだ・・。透明人間の犯行としか思われない密室犯罪あり、変幻自在の七面相の変粗テクあり、皮肉なオチあり。正体がばれた七面相が急に「てへっ」とか「してくんな」とかいうのがなんだか可笑しい。

色魔 富士6増刊 9

・初出本  『死者の呼び声』東方社(昭和30.6) 
・現行本  『天使の復讐』 集英社文庫(平9.2)

Comment 
 風太郎は、女を描くのがうまいか。どうも、風太郎作品の女性は、聖女にしろ悪女にしろ、男の中の観念の女という気がするのだが、ここに出てくる看護婦八旗さゆりは、作者自身、正体をつかみかねているようでいつも違う魅力がある。「残忍は力なり」を座右にするドンファンの医者細谷悠之介は、さゆりを捨て、知的な女医に走る。彼女のアパートで初めて一夜を過ごした翌日、さゆりが、女医のアパートで殺されていたのを知る。泥酔した細谷には何の記憶もなかったが・・。ラストで物語が構図が反転するところがミソ。作中の多少無理っぽいトリックは作者のお気に入りとみえて、「青春探偵団」の短編で再使用されている。

 

恋罪  探偵実話7〜8 15 58 127

・初出本  『厨子家の悪霊』 春陽堂書店(探偵双書7)(昭和31.3)
・現行本  『天国荘奇譚』 傑作大全6 廣済堂文庫(平8.10)

Comment 
 探偵作家山田風太郎のところへ送りつけられてきた6通の手紙をそのまま雑誌に載せた体裁をとったミステリ。医学生時代の同級生新納悠吉から、信州疎開時の新納の恋人だった美少女の消息を伝える手紙が届く。不幸な結婚をした彼女は、夫であるモヒ中毒の画家に日夜肉体をさいなまれている。ところが、その画家は、彼女が犯人としか思われない状況下で刺殺されてしまう。「どうか山田君、友情と探偵作家の名誉にかけて、僕と黎子を救って下さい!」ここまでが、前半。後半では、新納も不可思議な状況で殺されてしまう…。事件の中核は「恋」によるパッションの犯罪なのだが、
5通目に黎子の手紙を入れ、最後に再び新納の手紙をもってくる構成が、恋の逆説に苦悶する男を浮かび上がらせ、実に鮮やか。「ケンネル殺人事件」の改良作のような、かなり大胆な犯人のトリックも楽しめる。第4の手紙に山田風太郎評あり。なにも返事を書かない山田風太郎が名探偵に思えてしまうのも、作者の計算のうちなのだろうか。

呪恋の女  りべらる7  176

・初出本   『跫音 自選恐怖小説集』 角川ホラー文庫(平7.4)
・現行本   同上

Comment 
 説話体で語られる「麟之介と鞆絵の物語」古風で凶々い怪談に○○○の○○○○という掟破りの荒技を2つながらにぶちこんだ破天荒さは、うーん今更ながらバッドテイスト。麟之介と鞆絵の絶対不能の恋愛という背後に潜む怪老人という特異な構図が、同種の変身譚から本編を際立だたせている。カメラがさーっと背後にひいていくようなラストも秀逸。


○真夏の夜の夢 サンデー毎日7増刊

*単行本未収録

Comment

 東京へ向かう大阪発の夜行列車の席で少年が人妻、豊美に母親の幽霊を見たという怪談をする。
豊美は、優柔不断な大学教授の夫に愛想がつき、大阪の実家に引き返していたが、ほとぼりも冷め、夫の電話にもほだされ、東京に向かう途中だった。場面変わって、静岡でタクシーを盗み、暴走する少年・・。押さえた筆致で語られる物語は、どこへ転がるのか予断を許さぬ展開を見せ、怪談とミステリの混交した味わいに落ち着くのだが、ミステリ部分が多少強引すぎて全体の味を損ねている印象。かえって、豊美という女の性格分析の巧みさが印象に残る。それにしても、編中のトリック、某作に先立つこと数年。歴史的意義ありや?。

 

○女探偵捕物帳 りべらる8〜12

*単行本未収録

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 全5話の読切連載。何処から来たのか3人の辻音楽師。夜の新宿に現れて艶歌を流して歩く美貌の娘で黒百合娘の異名をとる伊皿子未香、古色蒼然たるモーニングを着込んだ三味線弾きの老人真壁玄城、胡弓弾きで沖縄空手の使い手、雛之介少年。沖縄の豪族の娘だった未香は、終戦間際、家族を惨殺され天涯孤独の身となっていた。忠僕とその孫を連れ、復讐の念に燃え、犯人一味を探索して歩くうちに毎回奇怪な事件に巻き込まれる、というのが基本的設定である。探偵役は、無論、未香。すさんだ戦後風景を舞台に荊木歓喜ばりの推理を毎回繰り広げる。未香たちが手を下すことなく、犯人一味は、事件に巻き込まれ1人ずつ自滅する。
 かなり通俗的設定ながら、各編、トリックに創意が盛り込まれていて、捨てがたい味がある。ただし、シリーズ全体の結末らしきものが付いていないのは、作者が息切れしたのか、雑誌側の事情なのかよくわからない。
 「三人の辻音楽師」 りべらる8
 新宿の夜の顔役車谷義贈三が殺され、その傍らには、「女の敵」の血文字が。彼の犠牲になった娘が犯人と思われたが彼女は盲目だった…。犯人の隠蔽工作に示されるパッションに、慄然とさせられる。
 「新宿殺人事件」 りべらる9
 何の因果か聖ミカエル病院の同じ病室に入院してしまった男女7人。嫉妬と憎悪の炎がどす黒く渦巻く一夜の闇中、やくざの津川が殺害される。かなり奇抜なアリバイトリックが見所。
 「赤い蜘蛛」 りべらる10
 新宿西口のストリップ劇場「闘牛座」の花形ローズ・摩耶がサロメの公演中殺害された。その背中には真っ赤な蜘蛛が。続けて、容疑者の一人が「赤い蜘蛛が」と絶叫して殺害される。奇怪な連続殺人の割に謎解きは若干肩すかし。
 「怪奇玄々教」 りべらる11
 信者の前で奇跡を繰り広げる邪教「玄々教」。一触即発の雰囲気となった教団幹部の会食時に全員が昏睡し、目覚めると美貌の女教祖と女中が殺害されていた・・。冒頭の奇跡は、「殿様」の流用、アプレの教団総務のプロフィールは、「戦艦呂号99浮上せず」の主人公を彷彿とさせ、事件の解法は、「悪霊の群」終幕の事件の別ヴァージョンの趣。
 「輪舞荘の水死人」 りべらる12
 浅草の連込みホテル「輪舞荘」の若き所有者、葉子が、脂ぎった親爺に抱かれる直前、隅田川へ転落死を遂げる。どうみても、自殺としか思えない状況だったが、犯人は別にいた。抜群に創意に富んだトリックは「十三画関係」のそれの原型。作中、実在の共産党幹部徳田球一が突如登場人物の一人として出てきて驚かされる。
 

死者の呼び声 面白倶楽部8増刊  9 16 58 99 125 152 168

・初出本   『死者の呼び声』東方社(昭和30.6)
・現行本   『虚像淫楽』 探偵クラブ 国書刊行会(平5.3)   
        『厨子家の悪霊』 ハルキ文庫(平9.6)
・アンソロジー『探偵小説名作全集11』河出書房(昭和31.10)
        中島河太郎「日本探偵小説ベスト集成・戦後編)」徳間書店(昭和59.9)
          *文庫版あり

Comment 
 愛くるしいアルバイト女子大生旗江は、慈善家の青年社長に見初められ、結婚を申し込まれるが、彼女のもとには、不思議な探偵小説が送られてきた・・。メタ・ミステリなどと騒いでいる今の人たちも軽くふっとばす山風版メタ・ミステリの傑作。「探偵小説でない序章」に始まり、「封筒の中の探偵小説」、「封筒の中の封筒の中の探偵小説」、「ふたたび封筒の中の探偵小説」「探偵小説でない終章」という円環的構成。3つの階層ですべてで、虚空から放出されてくる死者からの手紙。レベルがメタレベルに及ぼす干渉。またもや繰り返されるマニピュレータ・テーマも、テクストの乱舞の前にすっかりその相貌を変えている。風太郎がここで試みているのは、まさに眩暈のするようなテクストの冒険にほかならない。

        

○魔船の冒険 少年9


○十字架姫 小説倶楽部11
 

裸の島  講談倶楽部12 5 57

・初出本   『陰茎人』 東京文芸社(昭和29.11)
・現行本   『黒衣の聖母』 ハルキ文庫山田風太郎コレクション(平9.8)

Comment 
 アナタハン島で敗戦を知らずにいた日本兵19人と女性の実話「アナタハン島事件」(帰国は、昭和26年7月)を材にとった太平洋戦争中の奇談(アナタハン島事件については、ハルキ文庫の松山巌の解説に詳しい)。撃沈された軍艦から逃れた日本兵10人が、南の島で日本人夫婦と出会い、その妻を巡って演じる凄惨な悲喜劇。変貌していく妻も見物だが、日本兵それぞれに与えられた「性格」がどのように彼を滅ぼすか(生き残らせるか)という興味は、「男性周期律」にも似て、遠く忍法帖にも通じるものだ。とってつけたようなラストが、かえって「魔界」の深さを物語る。



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