Page-Galwaliear2-ユウロスの結婚生活 第一章    
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Galwariear 2 第一章
始まりへの落下

 西暦698878年現在 宇宙の端にある小宇宙の中心よりいくつか離れたところにユリノ星系と呼ばれる宙域があった そのユリノ星系のほぼ中心に位置するガルバリア恒星系 その第2惑星ガルバリアβの第1衛星軌道付近 ラグランジュβ1
 そこには全長1400km余りの巨大機動要塞がこの宙域を支配している その目的は人類の進化についての実験である 既に実験開始より幾年月 この惑星に四散した人類は主に3つに分けられる 一つは宇宙に散らばった者達と同様に急激に文明を築き上げ崩壊を繰り返す愚かな者達 一つは自然に溶け込み静かにしかし心豊かに暮らす者達 一つは高度な文明をもちながらも自らにおごれる事なく文明の恩恵をうける者達 この三者のうち1者は他の2者に対し接触干渉することもなく時を過ごしていた 少なくともこの時までは

 西暦698872年
「ユウロス 4時の方向に20mぐらい」
「分かった UAI」
 彼は 要塞の管制システムに返事をした 正式にはUAI01と言い 主に世話係をしている 実際の管理統括システムはUAI00と呼ばれる1つのコンピューターが執り行っている
 静寂という名の音を聞きながら闇の宇宙に在る巨大な要塞ガルフブリーズ その主砲の修理及びメンテナンスのため小さな船外作業用のポッドを操り指定の場所へ彼は向かっていた
「どう?」
「今見つけた所だ モニターで捕らえたぞ」
「んー そこの黄色の棒を取り除いて 全然関係無い部品だから」
「分かった」
 彼は慎重に操作し指定された棒を捕らえた
「気を付けて」
「分かってる・・・」
 彼は棒を捕らえたままの状態で 静かに操作する
「取ったぞ」
 取った後の部品がパチパチと小さく火花を飛ばしているのを彼が確認した瞬間 閃光と加速度を感じた
 数秒後 彼の透き通るような緑色の瞳にそれまで彼を包んでいたポッドの残骸と一緒に要塞ガルフブリーズが急激に遠ざかる 彼の周囲を球状に淡い光が包み混み 白く緑みを帯びた長い髪の毛が方々にひろがり 全身を引き裂くような冷たい感覚が支配した
 だだ・・・
 ただそのとき頭に被っていたインコムからしきりに叫び声が聞こえたのを最後に意識が閉じた

 UAI00中枢
ユウロス・ノジール ガルバリアβへ落下中
対圧力・空間障壁シールド 展開中
シールド内 気圧・温度問題なし
ユウロス・ノジール β圏内に侵入 間もなく大気圏に突入
全て正常作動中
ユウロス・ノジール 地表付近にてロスト
ロスト直前に減速・・・ ガルバリアβとの衝突は免れた模様・・・・・・
命令 1 全ての情報の管理統括
   6 チーム・ガルバァーのメンバーには情報を全て提供する
   6補則 ユウロス・ノジールに関するデータは本人の許しなき場合何人にも提供できない
 ・・・この情報の提供はしない
UAI01へ
 ユウロス・ノジールをβ圏内にてロスト・・・ 以上

数日後
 エルフヤード・ヘリオス 中央病院
「あっ 先生」
「様子は?」
「・・・圧及び脈拍は正常です 我々と同じならば・・・ 先生 意識が回復しています」
「そうか だが 目を開けたとしても 言葉が通じるかどうか・・・」
 ユウロスは目を開けぬまま口を開き「通じるさ」そのまま目を開けた
 その視野には彼が初めて目にするこの星に取り残され その優れた文明を一度失った人間の末裔が造り上げた人間そっくりの生物の姿があった

 それから4年 彼がこの年月を経てこの国で分かったことは・・・
国名 エルフヤード・ヘリオス
位置 バズ大陸グーレーン高原中央の広大な針葉樹林の霧の中に存在する
領土 面積362km2 高低差1400mの絶壁に周囲を囲まれた大深度地下都市国家
備考 完璧なまでのステルスシステムをもち外部からの侵入者を拒む
 他にも多々あるが・・・ それから国から出られない訳ではない 地下リニアを利用すれば他に5都市あるエルフヤードに行くことができる この国はステルスシステムの都合上他の国とは違い完全な真円を形作っている という事らしい

 郊外の墓地 紅の光りに長い陰を落とし 一つの墓の前に花束を片手に立ち止まった
「おやじさん・・・」
 ユウロスは墓に花束を備えしばらく沈黙した
「おやじさん もう1年も経つんだね 短い様だけと・・・」
 長い沈黙の後ユウロスはその場を去った 南半球の遅い春がここにもようやく届いたような日の光が優しく照りつける ある日の夕暮れだった
 花束の置かれた墓石には「セイネ・ハンス」と名が刻まれていた

 日が暮れる頃 彼は彼の家の近くにある行きつけの喫茶店に入った
 戸を開けるとコロコロンと小さな鐘の音が耳に入る
「いらっしゃい ユウロス今日はどうしたの?」
 健康的な明るさをもった女性がユウロスに声をかけた
 この健康的な女性がこの喫茶店のママさんである
 なおユウロスの言う「おやじさん」とは良き友人であった・・・
「おやじさんの墓参りへ」
「そう・・・ しんみりしていても仕方のないわ いつものね」
「うん」・・・

 彼はその喫茶店ユニを後にし夜の町中を 精巧に組み込まれた大小の凹凸のある石畳を数々の街灯が照らし出す その道をしばらく歩き赤レンガ造りの倉庫の小さな戸の鍵を開け中に入った

 朝日を浴び ポストから新聞を取り出し 新聞を広げながら欠伸をするユウロス
「経済赤字昨年度の1.2倍に生産性の低下等が原因 か・・・ 何々? 第783回ロボットコンテスト 出場者募集中か で今回から戦闘部門がある・・・ ふっ 破壊の美学」
 赤いレンガ造りの倉庫の中に寝間着姿で戻るユウロス
 この赤レンガの倉庫は「おやじさん」から相続したものである 0.82ヘクタールの敷地内に倉庫と住居がある 倉庫は140年程前に地上1階地下1階の倉庫として建造されたものであるが現在においてはその機能を既に果たしていない 住居は平屋の建物が正方形をした倉庫からはみ出るような形で建っているが入り口は倉庫と兼用であるなお倉庫の屋上には自家発電システムを実装している さて 話を戻すが・・・

 簡単な朝食を取りながらユウロスはぶこつなコンピューターに電源を入れ その上に置いてある白い大きな箱5台を並列つなぎしたものに電源を供給し システムを立ち上げその右隣にある厚みのないディスプレイを前に戦闘部門へ出場するべく機体の基本設計を始めようとしているのであった
「全体の容姿はやはりヒューマノイドと言う辺りかな・・・
 足回りは加速重視で・・・
 両腕も加速重視と・・・
 ありゃ?・・・
 若干不安定だなしかしこれ以上足の面積を大きくすると速度に支障が出るし・・・
 ! スタビライザーを背中に1対・・・
 よし・・・
 これで・・・
 基本設計は大丈夫・・・
 さてモデルは・・・
 とっ?
 ふみっ?・・・。
 げっ
 俺そっくり
 あ 遊びやがったなUAI・・・
 と 叫んだ所でまだ返答のシステムが成立してるわけではないし・・・
 まぁ良い
 他に必要なのはサードエネルギー発振システムぐらいか・・・」
 そんな時ユウロスの耳に電話のベルが・・・
「はい もしもし ・・・ えっ? ああそうですが・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・おもしろいもの? はぁ すぐ行きますよ」
 受話器を置きユウロスは急いで着替え赤レンガの倉庫を電気軽自動車に乗って出た
 モーターの音が心地よく響く 中央に運転席が配置されていてその周りは制御用の基盤が4つほど入っている 定員は3人運転手と後方座席に2人である またこの車はこの都市で一台しかない電気軽自動車で実用性はともかくとして平均時速70キロで4時間走れるし40度の勾配まで登ることもできる どちらかと言えばギア比及びモータートルクは加速重視のタイプである まあ電気軽自動車としてはかなり力のある部類になる
「おもしろいもの・・・」尾も白い物? 面白い者?
 晴れた空の下太陽光線をうけ疾走する・・・

・・・車は数十分後には科学省第13研究室の駐車場にあった
 ノックをしユウロスは平屋のトタン屋根の研究室の中に入った
「どうもユウロスです」
 中には誰もいない・・・
「ほえ・・・ おかしいな 場所間違ったかなぁー」
 ユウロスが困っている その時ユウロスの肩に冷たく手が乗る
「っ わぁー」
「今度新しく出来た戦闘部門に出すんだけど って・・・ あれ?」
 ユウロスは床にのびている
 黄色系の肌 黒い瞳に 緑の黒髪 ユウロスより若干背が高い彼女は 幾つかのささいな特許を取り その莫大な利益でこの研究所を借りてユウロスと同じく暇人をやっている 名はミレア・ファーケンという 彼女は床に倒れているユウロスの重量を想像した後 運ぶのをためらい自身の作業に入った

 しばらくして 床から起き上がったユウロスに彼女は声をかける
「あら お目覚め?」
「むーーー 倒れたままにするか普通・・・」
 若干怒った表情をするユウロス
「ごめんごめん いま戦闘部門に出すロボットを造っているの」
「どんな」
「こんなの」
 と彼女はユウロスを隣の部屋に案内し電気系統と駆動部分と骨格部分をあらわにした多足歩行型の物をユウロスに見せた
「ふーん 2足歩行じゃないんだ」
「そんな技術 私にはないわよ」
「でもこれなら外骨格にしたほうが強いと思うよ」
「どうして?」
「いや別に でも武器は?」
「まだ」
「そう ・・・ この程度の材質なら・・・」
「なによ」
「いやいや 戦闘部門でなにか条件はないのか?」
「全長全幅全高全て2m未満で搭載武器は3つまで」
「受付は?」
「科学省でまだ やってる」
「ありがとう じゃあ申し込みに行ってくるよ」
「また今度」
「また今度」
 ユウロスはロボットをいじっている彼女にそう告げて第13研究室を後にした

 夕刻 ユウロスは申し込みを終え資材を積み込んだ車を喫茶店ユニの店の前に停め扉を開けた
「いらっしゃい」
 ママの明るい声が響く
「いつものを・・・」
 ユウロスは腰掛けながら注文する
 まだ夕暮れ時にしては早いのか 客はユウロス一人しかいない
「おばさん お客さん?」
 声が先に奥から活力のありそうな何処かの制服を来た学生らしき少女が出て来た
「ええ こちらユウロス ユウロス・ノジールさんよ ユウロスこっちはナッキャ ナッキャ・ストラフィーネ」
「始めまして」
 ナッキャは目の前の長髪の白髪の人間に恥ずかしそうに挨拶をする
「どうも」
 ユウロスもそれに反応し赤毛のこの国の女性に挨拶をした
「おばさん 今度はヒロインの役が当たったの」
「それは良かったじゃない」
「ぜんぜん ヒロインよりは大道具の方が面白いわ やり甲斐もあるし」
「そんなのじゃ お嫁の貰い手が無いよ」
「その時は その時・・・ じゃぁ」
 ナッキャは奥へ入って行った
「ママさん あれって何をやっているの?」
「大学で演劇部に入っているんだけど専ら大道具専門なのよねぇー」
「いいんじゃないかな 私も大道具とかの方が好きだし楽でいいからなぁー」
「ふふふっ」
 ママはユウロスの注文した品を慣れた手つきで作り始めた
 ユウロスはその間黙って考え事をしている
「どうぞ」
「ありがと」
 沈黙を守って考えているユウロス
 その沈黙を打ち破るようにナッキャが
「おばさんこれなんて読むの?」
と 台本を差し出した
「ええと・・・ あれ?」
 どうやら知らないらしい
「見せて ご覧」
 ユウロスが口を出した
「この言葉・・・」
 ナッキャは分からない単語を示す
「この単語の何処が分からないって?」
「全部・・・」
 赤面するナッキャ
 ユウロスは苦笑した後 少しずつ食べながら説明を始めるのであった
「・・・と 言う訳だ」
「はぁー」関心する二人
「さて 今日はこれで・・・」
 説明を終えると同時に食べ終えたユウロスは代金をカウンターに置いて喫茶店ユニを後にした
「あの人結構頭いいんだ・・・」
「そうね」
 感心しているナッキャをよそに片付けにはいるママさん

 数日後 ユウロスがコンテストに出すロボットを広い倉庫で制作していると この倉庫の入り口の扉を叩く音が聞こえて来た
「開いてるよ」
 ユウロスは声をあげて怒鳴った
「ユウロスさん」
「なんだ この前の君か」
 赤毛をかき上げながら 若干不機嫌な顔で言い返すナッキャ
「君はないでしょう ナッキャ・ストラフィーネです」
 ユウロスは作業を続けたまま聞き返す
「何の用」
「ちょっと大道具の人手と知識が足りないんで 専門家にと・・・」
「要するに・・・」
「手伝って下さい」
「ふむ」
 ユウロスは頭の中でコンテストまでの日程と制作予定を照らし合わせ
「いいよ」
「来てくれるんですか?」
「ああ 行ってあげよう 外で待ってて準備するから」
 ナッキャは倉庫の外へ
 数分後ユウロスとナッキャは車で大学へ
「お仕事は何をなさっているんですか?」
 ナッキャが運転中のユウロスに訪ねた
「この星系とこの惑星の管理運営」
 当然とばかりに答えるユウロス
「冗談が好きなんですね」
 ちょっとばかり困惑している二人
「冗談と思うのは君の自由だが」
「はぁ」
 長い沈黙が続く
「着いたよ」
 車は大学敷地内の駐車場に止まった
「案内してくれるかい?」
 ユウロスは車を停止させながら言った
 ナッキャはいち早く車から出ると
「こっち」
 ユウロスはナッキャの後を 辺りを興味本位で見回しながらついて行く
 しばらく着いて行くと大きな体育館の裏手に出た その裏手の入り口へナッキャは入っていった ユウロスはナッキャに続いて体育館へ入る そのとたん金づちで釘を打つ音がけたたましくユウロスの耳に入ってくる
「連れてきたわよ」
 暗幕の反対側でナッキャの声が聞こえる
「ナッキャの彼?」
 女性の声がナッキャをはやし立てる
「違うわよ」
 強い口調で否定するナッキャ
「ところでその彼は?」
「あれ?」
 ナッキャの背後で暗幕がもそもそと動いている
「ユウロス?」
 暗幕の動きが止まる・・・
「ふーん ユウロスね」
 さっきナッキャをはやし立てた女性の声だ
「おおーーい どっちに出ればいいんだぁ?」
 困惑の表情をしたナッキャは
「なぁーにやってるの 暗幕を持ち上げて下をくぐって来ればいいでしょ!」
「そうか・・・」
 ごそごそとユウロスは暗幕を持ち上げ大道具制作作業中の舞台裏の上に姿を現した
 ナッキャをはやし立てた女性は若干驚いた表情をし 半ば吹き出すように言った
「へぇー これがナッキャのねぇー」白髪の長髪 しかもストレート・・・
「違うって言ってるでしょうが」
 ユウロスはそれらの話し声を無視して周囲を見渡す けたたましく釘を打つ音がうるさく響いている
「私は何をすれば良いのかな?」
 ナッキャは背後のユウロスに設計図を見せた
「これを作るのを手伝って」
「ふむ・・・」
 ユウロスは設計図を手にとって見ている
「材料は?」
「用意してあるわ」
「じゃぁ 始めよう」
「こっちよ」
 ナッキャは材料の置いてある場所へユウロスを連れてゆく
「これかい?」
「ええ」
 ユウロスはおもむろに白いセミロングのコートのポケットからメジャーと筆箱を取り出し設計図を確かめた
「継ぎ方は このままでいいの?」
「大丈夫だと思うけど」
「私一人に任せてくれないか?」
「一人で? 今日中に完成しないといけないのよ」
「大丈夫 すぐ終わる」
「ほんと?」
「ああ だから安心して別の作業をしておいで」
「うーん 怪しい」
「そうか? 何なら 君の目の前で実行しても良いのだが?」
「じゃ やってみて」
「いいよ」
 ユウロスは角材の寸法を計り鉛筆で切断の線を書き込む
 ナッキャは目の前のユウロスの作業にじれったくなってくる
「すぐ終わるって言ったでしょ? やっぱり嘘なの?」
「いや 物事には何かにつけ順番と言うものが必要だから・・・」
 ユウロスは必要な角材全てに切断線の記入を終え メジャーと筆箱をもとのコートのポケットに戻した
「出来れば人目は避けたかったのだが・・・ まあ よい」
 ユウロスがばらばらに置かれた角材の中心に歩み寄る
「どうして 人目を?」
「それはね・・・」
 ユウロスの周囲の角材がゆっくりと静かに宙に浮き上がって行く よく見ればユウロスがさっき鉛筆で書き込んだ切断線が青白い光を放ち必要のない部分が落下する 角材がユウロスの目線まで上昇し静止した
「ここで組み立てるのかい?」
「・・・」
「返事してもらえるかな? おぉーい・・・ ナッキャ? ナッキャ・ストラフィーネ」
「はっ はい」
「ここで組み立てるのかな?」
「ええ」
 返事をしたもののナッキャは何も聞こえていないようだ
 ユウロスは宙に浮いた角材を片手で軽々と移動させ組み立ててゆく
「終わったよ」
 ユウロスは完成品を舞台に下ろし そうナッキャに告げた
「・・・」
「じゃ 帰るから」
 ユウロスは呆然としているナッキャの側を離れ 舞台裏へと足を進める
「もう帰るの?」
 ユウロスは親指でナッキャのいる方向を指し
「作業も終わったからな」
「へぇー」
 彼女は暗幕の向こうのナッキャへ何か言いたげにこの場を去った
「逃げよっ」
 ユウロスは足早にこの場を去ろうとする
と まだユウロスの足が動かないうちに何かが爆発したような鈍い轟音が耳に入ってくる その音はすぐに地響きのような音になり 足元を直下型の振動が通り抜けた
「おおっ」
 思わずよろけるユウロス すぐに姿勢を立て直したユウロスの頭上で金属が引き裂ける音が・・・
「なにぃーー」
 ユウロスは叫ぶが早いか左腕を上げてのひらを落ちてくる物体に向けた
 照明一式がまるで釣り天井のように自由落下してくる それは舞台とほぼおなじ大きさがあり落下すれば 舞台で作業している者達に死傷者が出るのは確実だった
 直後 ユウロスの手のひらから落下中の物体に青い雷が数秒走り物体は空中に静止した
 それを確認した彼は
「さて ・・・ どうしたものか・・・」
 ユウロスは困っていた
 時間が経つにつれて作業中だった演劇部員は正気を取り戻し事の様子を把握する
 それに比例してユウロスは後悔の念をつのらせていた
「うむ・・・ どうしたものか・・・」
 困惑の表情の後 開き直ったように辺りを見渡し その直後小さなかわいい爆発音と共にユウロスとその物体は舞台から姿を消した  金属の物体が地面に落下した音が聞こえる
 数人の演劇部員が体育館の外に出ると人の気配はなく照明装置の残骸だけが周囲に散らばっていた
 後日分かった事であるが付近の工場の事故の衝撃による振動だということだった

 翌日 ユウロスは朝 ベッドの中で考えごとをしていた
 昼前になり彼はベッドから出てきて早めの昼食を済ますと例のコンテストに出すロボットの制作に入った 既に骨格や動力装置等を組み込んでいたので表面の加工に入った 所謂ところの合成樹脂で人間そっくりに仕上げるのである

 夕刻 彼は仕立て屋を呼んだ ロボットの服を作ってもらうのである 結局彼は自分の服も頼んでしまうのであった  その後ロボットに入れるシステムの概要を机の上でひねっていた

 再び翌日 午前中食料の買い出しの後 喫茶店ユニに寄るが 準備中であったため科学省第13研究所に冷やかしに・・・
「あら ユウロスいらっしゃい」
 ミレアは慌てて服装をただしその黒い髪を櫛で解きながらユウロスに紅茶を出した
「もしかして朝からずっと作業してた?」
 そのままユウロスはミレアの服装を見るなり 思わず・・・
「パジャマ?」
 一瞬ぴくっと反応するミレア
「まさか・・・」
 ミレアが若干慌ててその場を取り繕うとする
「・・・ で完成した?」
「何が」
「あーれ」
 ユウロスは横目で あのタカアシガニのようなロボットを指し示した
「ああ これはまだ システムが・・・」
「もぬけの空と・・・」
 二人が力無く笑う

 続翌日 朝起きてカレンダーを見
「ああ 締め切りが・・・」
 ユウロスは寝癖のついた髪の毛を櫛で解く 櫛で解く 櫛で・・・
「はぁーーーーーーっ」・・・ーーー・・・
 顔を洗いカスタムメイドのUAIを前に返答の為のシステムを造るべくキーを打つユウロス

 続々翌日

 続々々翌日 ユウロスは空が白みはじめたころ ようやくシステムのデバッグを終え時計を見た
「んっ?」もう2日たったのか
 ぐぅーーーーーーーっ・・・
「ああ おなか空いた・・・」ぶっ倒れるユウロス

 ピィーンポォーン
 レンガ造りの倉庫にインターホンの音がユウロスの耳に流れ込む
「誰だ こんな時間に・・・」
 ユウロスはキーボードから頭を上げ倉庫の扉を開けた 昼の光がなだれ込む
「よう」
「ミレア・ファーケン・・・ なんだようこんな時間に」
 ミレアは頭をかいて
「今は昼間 見なさい!」ミレアは高々と天に輝き大地を照らす恒星ガルバリアを指差した
「ああ とけるぅー」目眩を起こすユウロス
「入るよ」
 ミレアはユウロスを押しのけ倉庫の中に入った 彼女の目にユウロスにだいたいそっくりな裸の物体が写る
「なに? 人形?」
「それが その・・・ 作品なんだけど・・・」
 ミレアはそのロボットの肌に触れる
「・・・ あったかい・・・ でも・・・」
「今からシステムを入れるけど 立ち会う?」
「うん」
 見とれているミレアをよそに ユウロスは冷蔵庫を開け中の食料を口にほおばる
「ひはひはぁー」しかしなぁー
「ユウロス 口に物を加えたまま 喋らないの」
「はぁーひっ」はぁーい
 ユウロスは口の中の物を処理するとロボットの背中のスタビライザーの根元付近にカスタムメイドのUAIからのケーブルを差し込んだ
「さて・・・ システムオープン」
「口で言ってどうするの?」
 小型のスピーカーから声がする・・・
「しすてむ 開きました」
「・・・はぁああああああああっ?」
「相手先の容量及び状態は」
「 ・・・ 大丈夫です」
「やってくれ」
「はじめます ユニック24をぶち込みます」
「ねえユウロス いったい何・・・これ」
「いわゆる汎用自己判断OSだけど・・・」
「そんなもの・・・」
「ユニック24をぶち込みました 続いてUAI.Lightをぶち込みます」
「どうぞ」
「ねえユウロス ユニックだっけ?」
「ああ それが・・・」
「すぐ終わったけどそんなに少ないの?」
「いや そう言う訳でわないけど」
「UAI.Lightをぶち込みました システムを整理します」
「UAI.Lightか・・・ あまりいいネーミングではないなぁー」
「そうですか?」
「おおうっ!」驚くユウロス
「なにを驚いているんですか?」
「独り言を言ったつもりだったので・・・」
「はぁ・・・ システムの整理が終わりました」
「ご苦労様 休んでいてくれ」
「了解」
 ユウロスはロボットの背中からケーブルを抜き蓋をした
「気分はどうだい」
 ロボットに話し掛けるユウロス
「・・・ 」
「リセットして」
「了解 ・・・ 」
「今度はどうかな?」
「服がほしい・・・」
 ロボットは困惑の表情を浮かべ答えた その滑らかな動きは人間のそれそのものであった
「すごぉーい」
 ただただ感心するミレア
「あれ・・・ ユウロス」
 ふと我に返ったミレアは辺りを見渡しユウロスが居ない事に気付いた
「おっかしぃーなぁー ・・・ねえ君」
 ミレアはロボットに話し掛ける
「はい 何でしょうか」
 ロボットは裸のまま 困惑の表情のまま答えた
「よくできてるようだけど どんなシステムなの?」
「どんなシステムとは?」
「どうやって私の言葉を聞きどうやって考えどうやって答えているかよ!」
「はぁ まず あなたの言葉をデータ化します 次にそのデータを音声データ言語ファイルと照合し内容を理解します そのままAIを使用し返答用の語句を選び出し あとはほぼあなた方と同じ様に発音します これを外部からの刺激この場合は音声ですが逐一処理します ちなみに音楽や雑音落下音等も聞き分けられます」
「へぇー 良く出来てるんだ ところで何か武装はついているの?」
「武装は背中に一対あるスタビライザーの接続位置にオプションを排他接続することになります」
「・・・それだけ?」
「後は白兵戦が可能です」・・・

数十分後
「よう・・・」
 ユウロスは大きな紙袋を二つ下げ倉庫の中に入って来た
「何処に行っていたの?」
「私のと彼の服を・・・」
 ユウロスは袋からロボットの服を取り出し着せる
「ユウロスぅー 普通ロボットに服着せる?」
 ユウロスはロボットに服を着せながら苦笑した後に答える
「服を着るのは 最終的には有効な防御手段だ 温度や些細な衝撃等に非常に役に立つ まあこの場合は こいつがこういう外見だから・・・ というのが最もな要因だけどね」
 半ば笑いながら説明したユウロスはロボットに服を着せ終えていた
「ユウロス 名前はどうするの?」
「・・・ 考えてなかった・・・」
「あのねぇー・・・」
 あきれるミレア
「とりあえず 正式名称はテストUAI.Light01 コールは・・・ ・・・ ・・・  ツァイル」
「あまりいい名前ではないと思うけど・・・」
「悪かったな・・・ 私にはそんなセンスはないよ」
 ユウロスはロボットの表情を伺う そのユウロスにミレアは唐突として
「ユウロス・・・ システム 造ってくれない?」
 ユウロスにはしばらく理解できないでいた
「・・・ ・・・ ・・・ どうして?・・・」
 ミレアは笑いながら
「いやぁー 私ってこういうの苦手なの で 近くに得意な人 つまりユウロスがいるから頼もうかな・・・って・・・」
 ユウロスは静かにジト目でミレアを見つめる
 ミレアはそのユウロスに対し半ば笑いながら
「頼もうかな・・・ って・・・ ね・・・ ユウロス」
 ユウロスは静かにジト目でミレアを見つめる
ミレア「・・・ ・・・ ・・・」
 ユウロスは静かにジト目でミレアを見つめる
 ミレアはとうとう土下座し
「おねげぇーしますだぁー 御代官様ぁー」
 ユウロスはジト目のまま
「造ったとして それから生じるリスクはどうするの?」
 ミレアは土下座したまま
「一切 こちらが請け負います ですから御代官様ぁー」
「いいけど・・・ 明日 日が暮れるまでに君の造ったメカのデータを持ってくるように・・・」
「では早速」
 そう言ってミレアは倉庫を出ていった
「良いのですか?」
 ロボットのツァイルはユウロスに言った
「まあ いいんじゃない」
 無責任なユウロスであった・・・

 続々々々翌日
「どうしたものか・・・」
「何がですが?」
 ツァイルがため息をつきながら窓の外を見ているユウロスに訪ねた
「いや 昨日あんな事を言ったものだから 君に教えるはずの剣術を教える暇がなくて・・・」
「では どうするのですか?」
「とりあえず これ読んで」
と ユウロスはツァイルに数冊の本を渡した
「はぁ 分かりました」
「・・・ おっと データを詰め込むのではなく 考え良く理解するんだよ」
「はい 心得てます」
 ツァイルはユウロスから離れて行った
「はぁーーーーっ ・・・ どうしたものか」・・・

 数時間後
「遅いな」
「そうですねぇー」
 ユウロスとツァイルの二人は屋上にてテーブルにつき夕暮れの時をすごしていた
「しかし・・・ おやっ」
「どした?」
「どうやら 走って向かって来ているようです・・・」
「そうか・・・ でわ迎えに出よう」
「はい」・・・
 二人は屋上から倉庫の中に入り階段を使って下に降りた
 チャイムの音が倉庫内に響く
「ツァイル何か飲み物を頼む」
「はい」
 ツァイルは台所へ ユウロスは倉庫の入り口へ
 ユウロスがその倉庫の扉に近づくとその向こうに荒い息遣いを感じる
 戸を開けるとそこには酸欠状態で倒れているミレアがいた
「飲み物どうします?」
「用意しても これではなぁー」
「でわ 飲みますね」
「どうぞ」
 ひとまずミレアを倉庫内に運び
「しかたないなぁー」
 ユウロスはぼやきながらポケットから簡易酸素マスクを取り出し ミレアに酸素を吸わせる
 しばらくして気がついたミレアは目を開けた
「あまり無茶はするなよ」
 ユウロスはそう言ってミレアにお茶を出すべく準備をする
「うん・・・ ああっ まだ頭がくらくらする・・・」
 ミレアは頭を押さえながら言った
「持ってきたかい? データ」
「うん」
 ミレアはユウロスにデータディスクを渡した
「あっ・・・ このメディアのドライブあったかなぁー」
 ユウロスは考えるようにコンピューターの前に行き・・・
「あぁぁぁぁぁぁっ」落胆の叫び声をあげた・・・
「ないの?・・・」
「うん・・・ 仕方が無いなぁー スキャナーで読むか・・・」
「はぁ?」
 拍子抜けのミレア
 ユウロスはデータディスクを右手に持ち替え左手でハードディスクの右横のスキャナーの上の平らな皿の上に データディスクを乗せ
「システム オープン」
「しすてむ 開きました」
「スキャンを」
「了解・・・ 分子構造スキャン終了 ディスクのデータを読み出しますか」
「そうしてくれ」
「了解・・・ データ名を表示します」
「分かった」
 ディスプレイに電源が入りデータ名の一覧を表示する
「ミレア どのデータ?」
「ええとねぇー・・・ フォーマットして 必要な物だけを入れてきたから・・・ 全部そうだけど」
「フォーマットタイプは?」
「いつもどおり」
「聞いたな?」
「はい では処理します」
「終わったら呼んで」
「分かりました 少し時間が掛かりますよろしいですか?」
「ああ いつもどうりな」
「はい」
 ミレアはユウロスがこちらを向いたのに気付き
「ねえ いったいなに? なんなのよぉーーーおおおおおっ!」
 ユウロス突然大声上げるミレアに対し耳をふさいでいる そのユウロスを尻目に・・・
「あたしゃーー 生まれてこの方89年 大学を首席で卒業してこの方ライフワークに頑張っては見たけど全然成功しなかったのに・・・ なぜだぁー なぜなんだよぉーーーおおおおおっ」
 叫ぶミレア
「へぇー 89才なんだ それにしては若いねぇー」んっ? 自分の事を棚に上げているような
 混乱のミレアは何か叫んでいる
「うるさいわね私達の平均年令は280才なの ああー どうしてこんな人間の若増にこんなプログラムが組めるのよぉー」
 ユウロスは咳ばらいをし
「私は人間だ とは一言も言っていないぞ」
 何か腹を立てたようにミレアが聞き帰す
「じゃあ何なのよ」
「そう聞かれると 答えづらいな まあ究極の生態兵器というあたりかな それに・・・」
「それに なによ?」
「うん 私は今5万歳ぐらいなんだ・・・」
「はぁーーーー?」
「で そのシステムを組むのに述べ3千年ぐらい費やした訳だ 別の事もしていたしな」
「・・・。」呆然自失のミレア
「大丈夫かい?」
「ええ」うーーーん
 ミレアは何か考え込んでいる
「何か飲む?」
「ええ」無表情な言葉でミレアは返事をした
 ユウロスはキッチンに行き 口の大きなポットに水を入れ火にかけた そのままキッチンの隣にある倉庫の中の温室に入った
 そんなユウロスをよそにミレアは考えていた
「ユウロスって いったい・・・」

 十数分後・・・
「終わりました」
 コンピューターがそう告げる
「ミレア はい」
 ユウロスは入れたての紅茶をミレアに渡した
「ねえ ユウロス あなた 人造人間?」
 口に含んだ紅茶を笑いで吐き出しそうになりながら その対抗策として上を向いて苦笑するユウロス
「こっちが真面目に聞いてるのにぃーー」
 咳込みながら口の中の紅茶を飲み込み
「いやあー 悪い 悪い・・・ まあそうと言えない事も無いが さっきも言ったように私は人間でわない 言ってみれば・・・ ええと・・・ いいのか さる学者集団がある目的のために造り上げた有機体をベースにした人型兵器・・・ 私はその試作品なので 当時最も高いスペックを求められた 結果こうなった訳だ・・・ って 分かった?」
「うーーっ」
「唸られても 困るんだがなぁ」なんだかなぁー・・・
「・・・ さっき兵器と言ったね?」
「それが・・・」
「どうやって攻撃するの」
「説明して分かるものではないがなぁー」
「じゃあ分かるように」
「・・・ ある種のエネルギーを変換して様々なオプションになる訳だ」
「じゃあなに? あなたは何でも出来ると」
「そうじゃない 私は治療は無論 人を生きかえらすことなんか出来ないし ましてや無から物を創造することは・・・ ・・・ ・・・」出来るかもしれなひ・・・
「攻撃オンリー?」
「そういうこと」
「不便ね」
「まあ 世の中万能とは行かないものだ・・・」
 ユウロスはディスプレイをちらっと見
「メインパネルに」
「了解」
 薄いディスプレイの右隣 キーボードだけがアームによって空中に置かれたその向こうの空間に突然ミレアの造ったロボットの姿が表れた
「なっ?」
「部分部分の動きをチェック表示して」
「出ます」
 各部の最大行動範囲・スピート・パワーが赤いワイヤーフレームと文字で標記される
「ふむ あまり面白い物でわないな ミレア攻撃オプションは?」
「全ての足に付いている電磁触覚と本体のオプションパーツがそうだけど」
「 ・・・ 弱い・・・ 話にならん・・・」
「悪かったわね」
「せめて移動速度がこの3倍あれば言うことないのだが あとジャンプも付けたいし ビームカノンぐらいはほしいなぁ」
 ユウロスは頭に手をあて考え
「とりあえず基本動作が出来るぐらいにはしないとな ミレア 前の2本の足は腕にしよう 高速で伸縮出来るようにして・・・」
「足を腕にするの?」
「ああ レール方式で直線的に打ち出す チェーンにして・・・ こう・・・ シミュレートして」
「長さはどうします?」
「4メートル」
「了解」
 表示されたロボットの頭に最も近い部分に接続されている足の映像が変化し電磁触覚2本を含めた合計5本の爪を持つ腕が一瞬の間に打ち出され鋭く伸びきる この直後チェーンにかかる力や爪にかかる力等が各部において表示された
「この位なら・・・ 消費電力はどのくらい?」
「本体からの供給で補おうとするとチャージの必要があります」
「一撃必殺の攻撃オプションだな・・・」
「どちらかと言えば そのいろあいがこくなります」
 ユウロスはキーボードで何か作業をしている
「ミレア オプションパーツのデータが見当たらないのだが」
「入ってなかったぁ?」
「はい 見当たりませんでした」
「じゃあ・・・」
 ミレアは服のポケットを調べる
「あっ・・・」
 凍り付くミレア
「はいがんばってね」
 ユウロスは笑顔でミレア言った
「あーーーうーーーーーーっ」
「メカも持ってくる?」
「でも ここって あまり器具がなさそうだし・・・」
「システムを作りながらいじるんだから持ってきたほうが効率が良いと思ったのだが?」
「それも まあ・・・ でもトラックがいるよ あれ 結構大きいから」
「大型トレーラーならあるよ」
「・・・ ・・・ 何でもあるのねぇー」
「そういう訳ではないぞ 宇宙船は持ってこれないしなぁ」
「・・・・。」・・・・絶句
「今用意する」
 ユウロスは倉庫の奥の暗がりの中に消えた
「ねえ君」
 ミレアはツァイルに話しかける
「はい」
「君はユウロスをどう思う?」
「はぁ ユウロスのどの部分をですか?」
「全体的に」
「はぁ そう言われても まだ日が浅いもので・・・」
「・・・ それもそうか」・・・
 倉庫の奥からライトの明かりが近づいてくる ミレアの前に大型トレーラーは止まりユウロスが降りてきた
「はい トレーラー」
 ミレアはきょとんとしている
「ユウロス 運転頼むわ」
「ぶつけかねない?」
「うん」
 ユウロスは紅茶を飲み干し
「では行こうか」
 大型トレーラーに乗り込んだ

 数時間後
 ツァイルは倉庫の扉を開ける
 大型トレーラーは倉庫の中に入リ停車した
 二人がトレーラーから降りて荷物を取り出す
「手伝いましょうか?」
「ああ 頼むよ」
 ツァイルの申し出を快く受諾するユウロス
「後は積み込んだままでも大丈夫だと思うけど」
「そうか」
 ユウロスは持ち上げた荷物を降ろした
「ねえ ユウロス 電源どこ?」
「少しは待ちなさい」
 ユウロスは階段を上がり倉庫の天井付近にある通路を途中延長コードを拾い接続してミレアの頭上付近へ そこでコードを下に垂らした
「電圧は大丈夫?」
「ああ工場並の容量は確保してあるから」
 ユウロスは通路を通り階段を降りてくる
「さて 寝るときはどうする?」
「寝袋を持ってきてるから」
「・・・ ・・・ プロだな」
「えっ? へへっ まぁね」

 続々々々々翌日 ユウロスがベッドの中でまどろんでいると
 ズーーーンッ
「なんだぁー」
 轟音を聞いてユウロスが飛び起き寝室から倉庫へ出た
「いったい何の騒ぎだ?」
「ちょっと!」
 ミレアがユウロスを呼んでいる
「ん?」
 ユウロスが側による ミレアの側には彼女の造ったロボットが置かれていた その脇にそのロボットの物らしき黒く焦げ着いたものが無造作に打ち捨ててあるように置かれていた
「とりあえず 説明して」
 パジャマ姿のユウロスが小さくなっているミレアに言った
「それが その・・・」
「焦がした?」
「あはっ あははっ はははははははっ」
 笑い続けるミレア
 落胆の表情を浮かべユウロスはキッチンへ

「出火原因は?」
 キッテンでテーブルにむかいあって座り食事をする三人・・・ いや二人と一体
「材質が・・・」
「愚か者」
 ツァイルに言われ言い帰すミレア
「最後まで聞いてよ」
「モーターかエンジンかは知らないが材質の金属が燃えたんだろ?」
「・・ はい」
「いくら 安いからって 熱の上がるものをそんなもので造るとは・・・」
「論外」
「ロボットのぶんざいでいちいちうるさいっ」
 ボカッ
「殴られてしまったぁ」
「おまえが悪い」
「はぁ」
「で ミレア 直接の出火原因は?」
「放熱装置との異常接近」
「設計ミスか?」
「どっちかと言えば 制作上のミス」
「そうか・・・ごちそうさま」

 食事を済ませたミレアは事態の収拾をはかるべく・・・ 壊れたリアクターを前に座り込み考えごとをしているようにユウロスの目には映った
「どうした?」
「・・・ はい?」
 ・・・・・・
「をい 何をしている」
「はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
 ため息をつくミレアの後頭部をはりせんで・・・
 スパァーーーーーーーーーんっ!
「いったぁーーー」
「少しは進展させろ・・・ あと8日なんだぞ」
「あのね お金が無いの・・・」
「何の?」
「制作費」
「あほう」
 凍る時間
「あはっ あはははっ あはははははははははは・・・ 貸して」
「お前なぁ」
 笑ってごまかすミレア
「だいたい今から造って間に合うのか?」
「あっ・・・ ・・・ ・・・ ・・・」
「馬鹿者」
「そっ そんな言い方無いでしょう」
「しかしなぁー はっきり言って致命傷だぞ」
「うううっ・・・・・・・・・・・・・」
「で 結局のところ動力原は何だ?」
「電気 バッテリー駆動の・・・」
「モーターか 私の自動車のエンジンがあるが あれは条件が厳しいからなぁ さてミレア モーターぐらいなら簡単に造れるが」
「ほんと?」
「お前なぁ 嫌ならいいんだぞ」
「あうっ お おねげーしますだーおでーかんさまぁー」
「おまえ 何処の人間だ?」
「へっ? そんなことはいいじゃない」
「うむ ・・・ しかしなぁー・・・」
「早く造ってよ」
「はいはい その前に スペックと原材料がほいしね」
「出来ればチタン合金がいいなぁ あと」・・・
 ユウロスはミレアの要求を一通り聞き
「分かった おーいUAI」
「・・・」
「あらっ? システム オープン」
「・・・ しすてむ 開きました」
「これ 頼むわ」
 ユウロスはコンピュータに直結しているカメラに先程書き留めた紙を見せた
「・・・ 若干データが足りませんが」
「昨日取ったデータから探してみて」
「分かりました」
「ふう さて」
 ユウロスは辺りを見渡し
「ツァイルは?」
 ミレアも辺りを見渡した
「さっき台所のほうに・・・」
「そうか」
「ユウロス とりあえずこんな感じでしょうか?」
 コンピュータの液晶ディスプレイに三面図が写し出された ユウロスとミレアはこれを見る
「こんなものだろ ミレア」
「うん これでいいと思うよ」
「じゃあこれで頼むよ」
「分かりました」
 ユウロスは持っていた紙をごみ箱に捨て 辺りを見渡し
「ツァイル」
「はい」
 物影からユウロスそっくりのツァイルが片手にハウ・ツー本を持って現れた
「なんでしょうか?」
「以前渡した本は読んだかな?」
「はい」
「そうか では・・・ ・・・ 相手をしてあげよう」
「相手 ・・・ ですか?」
「いやなら また後でいいが・・・」
「はあ・・・ 」
「まあ ともかく作業してしまうから それまでまってて頂戴」
「 はあ・・・」
 どうやらあまり気乗りしていないようだ

 数十分後
「後出来る?」
「ええ ありがとう」
 ユウロスは完成したミレアのロボットのモーターを取り付けているミレアから周囲に視線を移す
「ユウロス」
 不意に呼ばれ振り返るユウロス そこにはツァィルが暇そうに座り込んでいた
「どうした?」
「先程相手をすると・・・」
「 ! あ悪い 忘れてた」
 幻滅の表情を浮かべるツァイル
「まあ そんな顔をするな 私の相手をしてくれるかなツァイル」
「何の相手を?」
「とりあえずその本に書いてある 格闘技? かな?」
 考えるように悩むユウロス
「分かりました でもこの本にはあまり狭い場所での戦闘は・・・」
「大丈夫 ついて来なさい」
 二人は倉庫の奥へ
「君が 信じる信じないは自由だが・・・ 歴史は結局 政治的圧力や武力等の力によって大きくうねりながら流れてきた だが 私はその力より大きな武力を持っている だから私は必要のある時以外はその力を使わないようにしている 君は私の力と同じ種類の力を持っている それがどういう意味を持つのか分かっておいたほうがいい・・・」
 ユウロスは金属片で継ぎはぎだらけの巧妙にカモフラージュしてある扉を開き
「先に入ってくれ 下り階段だから足元に気を付けてな」
と 言った矢先にツァィルは階段を踏み外し・・・
「言った側から・・・」
 ユウロスは扉を閉じ真っ暗になった下り階段を降りる
「大丈夫か?」
「はい なんとか」
 そこのレバーを降ろしてくれ
「ええと 真っ暗で何も見えないのですが・・・」
「階段を降りる方向に向かって左側 階段を降りて約1メートルの位置だ」
「はぁ・・・ ああ ありました」
 明るくなったユウロスの視野に踊り場でレバーを降ろしたツァイルの姿が入った  どうやら下り階段はまだ続くようだ 二人は再び階段を下りながら
「さっきの 続きだが 私は君が故障でもないのに 力に取り込まれその力を破壊の為だけに利用した場合は 責任を持って君を破壊する」
 ツァイルはしばらく考えた後その手を見て呟いた
「ちからに・・・」

「ふむ よし」
 ミレアはモーターを取り付け放熱装置との距離を確認し細部の点検に入る
「それにしても そろそろ また何か特許取らないと・・・」
 何か別の事を考えながら作業しようとすると
「ぐわっ」
 ほら 言わんこっちゃない
「あうあう・・・」
 ミレアが情けなく痛む箇所を押さえその痛みを堪える
「ユウロスーーーーーーーーーーーー」
 ふいに呼ぶが返事は帰ってこなかった
「あれ?」
 ぴぃーーーーーーーんぽぉーーーーーーーん
「はぁーーーーい だれだろ?」
 ミレアが倉庫の扉の横の戸を開けた
「ユウ・・・ ユウロスいますか?」
 目の前にミレアは初対面のナッキャが立っていた
「いるはずなんだけど 呼んでも出てこないの」
 それを聞いたナッキャはミレアを押しのけ倉庫の中へ
「本当に? ユーロース!」
 ナッキャは辺りをゆっくりと見渡す
「んっ?」
 何かを見つけたかのようにじっと床を見つめるナッキャ
「どうかしたの?」
「こっち・・・ かな?」
「なにが?」
「ユウロスの感じがする・・・」
「感じってねぇー あちょっと」
 ナッキャは何も聞こえないかのように倉庫の奥に入っていった
「あーあ」
 ミレアは開いていた戸を閉め 自分のロボットを見つめた
「あれ には ちょっと なぁー・・・」ああ 自信がない
 気が抜けたミレアは台所へその重くなった足取りをひきづって行った

 かなり天井が高く広い地下室で模擬戦を繰り広げるユウロスとツァイル
「ちぃいいいっ!」
 ユウロスにていよくあしらわれているツァイル
「ふっ・・・」
 あしらうユウロス
 刃渡り70センチ位のラバーブレードを持ちかえ ツァイルが背中にあるスタビライザー兼バーニアから光を放出しながらユウロスに向かって来る
 ツァイルがラバーブレードをユウロス目掛けて命中させようとした瞬間 ツァイルは壁にぶつかるようなショックを受けた
「普通の人間ならばこの攻撃方法でもいいのだが 精巧なメカや 達人の前では刃が立たんぞ」
「だからと言ってスタビを素手で掴まないでくれ」
 ユウロスは掴んでいたスタビライザーを離した
「強がるのはいいが そろそろスタビの稼働時間限界だぞ」
「そうか どうりで加速力が 落ちてきたと思った」
 ツァイルは後方に向けていたスタビライザーをたたみ込む
「あがろうか? ツァイル」
「そうしよう もう だるい・・・」
と 二人が階段へと足をすすめていると
「ユウロス・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・なっ・・・何か?」
 ナッキャが一度視線をツァイルに向け 驚いて後ずさりしたユウロスにじりじりと歩み寄る
「このまえユウロスが組み立てた あれ 組み立て方教えてくれない?」
 若干ナッキャの迫力に押されるユウロス
「 ・・・知り・たい・の・か?」
「うん」
「とりあえず 上に・・・ ところで あれってなに?」
「この前 大学の講堂で組み立てたでしょ 大道具」
「そう言えば そんな事もあったなぁ ・・・ しかし よく ここに来る気になったな」
「・・・」
「まあ良い」
 三人 いや二人と一体は階段を上がり続ける

「ふぁーっ」
 ミレアが欠伸を一つ 倉庫の床に座り込んだ
「接続はしたけど・・・ ユウロスシステム造ってくれないし・・・」
 ぼーっとした眼差しで倉庫の天井を見つめるミレア
「あー」久しぶりに天井を見た・・・ 思えばずーっと止まることはなかったのかなぁ
 間のぬけたような表情のミレアが静かに天井を見上げている
 静寂の時空に鉄の軋む音が終わりを告げた
 起きあがってロボットの方を見たミレアのは表情はいつもの世間に対し構えた顔になっていた

「ところでよく分かったなこの入り口が」
「それ? 埃の上の足跡を見れば分かるよ」
「そうか」またカモフラージュし直さないとな・・・
 ユウロスとナッキャが話していると前を歩いていたツァイルが
「ユウロス どうやってバーニアのエネルギーの補給を?」
「ええと それは・・・ それはぁ ・・・ あれ?」
「ああ やっぱりぃー」
 落胆の表情をうかべ頭をカクンとうつむいたツァイル
 ユウロスは手を打ち答えた
「そうだ 勝手に補給されるんだった」
「そうなのか 便利とはいいがたいかもしれん」
「なにがぁ?」
「こいつの背中についているバーニアは ある種のエネルギーを変換し放出する事によって加速を得るものだ ある程度エネルギーを消費するとバーニアとして作動しなくなる その時のエネルギーの供給がどうなるかと 言うものだ」
「はぁー」・・・ ちょっと難しくて分からない・・・
「ツァイル 頼む」
 ユウロスはナッキャをツァイルにまかせると コンピューターの方へ足早に逃げていった
「ええとですね ナッキャさん 私の背中に一対付いているバーニアの燃料が切れたのでどうやって補給するかユウロスに聞いたところ 私の方で自動的に燃料を作成し補給するとのことです」
「・・・ そうなんだ ところで貴方誰?」
「おっと 申し遅れました 私 ユウロスに造っていただいたツァイルと申すものです∴ネ後御見知りおきを・・・」
「名前 ツァイル だけ?」
「はい ツァイルだけです」
「ふうん」変なの

コンピューターの前にある椅子に座りユウロスが溜息をつき
「システム オープン」
「しすてむ 開いています」
「ん? なにかあったか?」
「いいえ しすてむの定期点検です」
「そうか ミレアのメカのシステムを造っておいてほしいとりあえずは概要だけな」
「わかりました」
「あとはミレアと 相談してなっ」
「心得てました」
「そういうものか?」
「そんなものです」
「そうか」
 ユウロスは時計を見てキッチンにおもむき冷蔵庫から材料を取り出し料理を始める
 鼻歌を歌いながら炒め物を作り上げたユウロスはそのまま人数分の皿に盛りつけテーブルに並べ
「昼だぞ」
と 皆に呼びかけた
「もうそんな時間?」
「ああ ええと・・・ ナッキャ? 食べてくかい?」
「あ はい」
 三人と一体は席に着きそれぞれに食べ始めた
「ミレア 私のコンピューターを使ってシステムを造ったらいい」
「本当?」
「ああ ただし 生物を造るなよ」
「・・・ ・・・」
「ユウロス」
「ん」
「私は貴方に造られた 私は何なのだ?」
「そうだな まず人間のための道具ではない 次に自らを守るあらゆる手段がとれるたとえそれが自殺でも 最後に君は私ではない 一つの精神を持ったモノだということだ」
「もの?」
「いやいや 一つの個体と言う意味あいで モノと言う言葉を使ったのだが」
「う・・ん・・・」
「まあ難しい話はともかく家にいてくれればよい」
「はぁ」・・・

続々々々々々翌日
「・・・・・・・」さてどうしたものか・・・
 ユウロスはパジャマ姿で顔を洗い台所へ
「おはようございます」
 まだ眠そうな顔をしているユウロスに挨拶をするナッキャ
「ああ おは・・・ ・・・・・ 昨日 帰った?」
「いいえ 徹夜でミレアさんの手伝いを・・・」
「ふむ・・・」そういうものなのかなぁ
 そのままユウロスはUAIの前にいるミレアの側へ
「ミレア どう?」
 返事がない・・・
「ミレアっ なんだ? 寝てるのか?」
 ユウロスがミレアの肩をたたくとミレアはふらぁっと立ち上がり無言のまま寝袋の中へ・・・
「・・・・・・」なんとも はや
 振り返ったユウロスがナッキャに声をかけた
 ナッキャは椅子に座ったままうつ伏せの状態で早くも熟睡している
「こっちもか?」
 ユウロスが情けない顔で言った
「・・・ さて どうしたものか」

 昼過ぎ 屋上で静かに今朝の朝刊を読んでいるところである
「エルフヤード・エウリード氷河の接近により全住民を新しく造ったエルフヤード・アセアニックに移住させエウリードを閉鎖する事を決定したのか・・・ ・・・ そういえばエルフヤードって宇宙にはないよなぁ なんか話によると建設の計画は在ったらしいな」まぁ 予算の都合とステルスシステムの複雑化で断念したんだろうけど
「ユウロス」
「んっ?」
 ユウロスは新聞を読みながらツァイルに返事をした
「ユウロス 私の体の構造を知りたいのだが どうしたらいいのだ?」
「知りたい?」
「知りたい」
「あのコンピューターに聞けばよいコードは ネィル・ヒューマン だ それからそのデータはミレアやナッキャには絶対に見せないように ここの文明は君を造れるほど高くないようだからな・・・ そうだな 私の部屋の端末を使えばよい」
「あの机の上の?」
「そうだ スイッチを入れれば自動的につながるから問題は無いと思うが」
「分かりました」
「まあ じっくり見て自分で修理できるようになれば一人前だよ」
「はぁ ありがとう」
「・・・」
 ツァイルは返事を待たず 新聞に目を向けたままのユウロスから離れていった
「ふむ プログラムは正常に作動しているようだな」
 ユウロスは再び新聞の続きに目を通し始めた

 その夜
「さて ・・・」
 テレビの報道番組を見終えたユウロスは座っていた椅子から立ち上がった
「う あ・・・」
 突然の目眩に膝をつく 頭を抑え
「疲れてるのかな」早く寝よう
 けだるい体をベッドの中へ潜り込ませた

 翌朝
「うーーーーん」頭が痛い おもい・・・
 情けない表情を浮かべ ベッドの中で頭を抑えているユウロス
「全く どうしたものか」医者を呼ぶわけにもいかんな ここの医者に診せて人間でないことが世間に公表されでもしたら・・・ 医者 ・・・ 主治医のリディアを呼ぶべきか しかし せっかく手に入れた自由をみすみす失うわけにも・・・ 考えようによっては究極の選択か 難しいところだが ツァイルを造った責任を取ることを考えれば・・・ うーむ
 コンコン
「起きてるかユウロス」
 ドアを開け入ってきたのはツァイルであった
「ミレアが待ってるぞ」
「ちょっと調子が悪いんだ」
「調子が悪いとは?」
「頭が痛い」
「打ったのか」
「違う」
「故障か?」
「はずれ」
「???」
「発熱と言うものだ そこに辞典があるからひいてみると良い」
 ツァイルは言われた通りに本棚から百科事典の発熱の載っている一冊を引き出しページをめくった
 ユウロスはツァイルの様子を見て
「分かったか?」
「ええ まあ しかし人間とは複雑なものですね」
「どうかな 在る面では機械なんかより高度な部分があるが その逆もまたしかりでね」
「はあ」
 しばらくうつむいて黙っていたユウロスは 部屋から出ようとしたツァイルを呼び戻すように声を発した
「ツァイル」
「はい」
 彼はドアのノブをつかもうとしていた手を離し 振り向いた
「 ・・・ ツァイル 地下の倉庫に行って 倉庫の奥の部屋にあるコンソールの一番大きいレバータイプのスイッチがあるから それをいれてきてくれないか?」
「何に使うのですか?」
「後で説明するから いまは はやく・・・」
 ユウロスは目もうつろにツァイルに話しかけていた
 バタン
 ツァイルはその様子を視認して部屋を出ていった
「うう・・・」熱を出すことがこんなにつらい事だとは・・・
 ユウロスはベッドから立ち上がろうとした
「あれ?」
 ユウロスは頭痛のする頭を左手で押さえたまま立ち上がった直後床にそのまま伏していた
「へ 平衡感覚がない」・・・ 重力があるせいか無重力よりもたちが悪いな・・・
 自らの体を引きずりながら机に向かう
「体が 重い・・・」50キロも無いはずなのに 体がこんなに重いとは・・・ それともただ単に力が入っていないのだろうか・・・ ? ちから いや体調が安定していないのでは・・・
 ユウロスはようやく椅子につかまり机の上にある端末の電源を入れた
「システム オープン」
「ガルスブリーズへの通信システムを接続確認次第始めてくれ 信号は47ASOSと座標情報だけで良い」
「分かりました」
「頼むぞ」
 ユウロスは言い終えると安心したような表情で力無く机の上から引きずり落ち床に伏した

 4分後
 ユウロスの落ちた惑星の第一衛星軌道付近 ラグランジュβ2 惑星と衛星との重力の平衡線上 真空無音の空間に存在する移住用の巨大なコロニーを持った要塞ガルスブリーズ そのメインシステムであるUAI00に全ての情報が集められ処理される

 UAI00中枢
 ユウロスからのSOSを超遠方通信にて受信 受信先はリディア・フェイル
 リディア・フェイル位置確認 送信する

 ユウロスの位置を確認 症状をリディアへ送信

 ユウロスを死亡者リストより抹消 擬似的に休暇とする
 なお復帰次第休暇を取り消す

 リディアの私室 真っ白な長い翼を自分を包み込むように折り畳み椅子に座り机に向かってけだるそうに頬杖をつき 地球文化圏のテレビを眠そうな目で見ているリディア・フェイル 彼女はこのガルフブリーズのスタッフ達の主治医でもある
「ああ 最近面白い情報がないなぁ」
「リディア 起きてますか?」
「起きてる なにか?」
「先ほど ユウロスからのS0Sを受信 位置はガルバリアβ上南緯34度2・・・」
「もう一度!」
「ユウロス・ノジールから 直接S0Sを受信しました UAI00よりカルテがきています」
「ほう・・・ やはり生きていたか UAI位置を示してくれ」・・・
「分かりました それから街の中なのでワープシステムを使用とのことです」
「了解した」

「あれ 体が軽い なんだろう
 ! ここは? メルスィディーの家の中か? なつかしいなぁ 姉さん 母さん 父さん
『ユウロス うちの子にならない?』
『えっ?』
『男の子が欲しかったのよ ユウロスみたいなのが』
 これは・・・
『えぇーーっ お母さん本気?』
 ハゥリィイーノ
『だって かわいいじゃない』
『かわいい? このユウ坊がぁ』
 この呼び方 姉さんしかしなかった・・・
『いいじゃない ユウロスさえよければ ねぇー』
『はぁ ・・・ねぇといわれても』
 言うんだ
『 ・・・ そうね ユウロスにも両親 いるものね・・・ 』
 言うんだ さあ!
『僕には・・・』
 そうだ 言えなかったんだ 言ってしまえば良かったのに 恐かったんだ すごく・・・
『ユウ坊 行くよ』
『待って フリー』
 行ってしまった
『ユウロス あの子・・・』
 もしかして 母さんは気付いていたのだろうか?」

「ワープシステム オープン 転送開始できます」
「分かった 始めてくれ」
「でわ 行ってらっしゃい」
「ふっ」

 エルフヤード・ヘリオス ユウロスの家地下倉庫1階・・・
 スイッチを入れ コンソールをしばらく眺めているツァイル
「何だろう」
 コンソールの向こうには中央に6Mぐらいの円形の空間を取り囲む無骨な機械類が埃一つかぶることなくその位置にあった
 ツァイルの鋭敏なセンサーが空間のゆがみを感じる
「変だな 何だ 空間がゆがんで・・・」
 機械に取り囲まれたその空間の中心に
「着いたか」
 ツァイルの目に突如として現れるリディア 大きな真っ白の翼はその体を包み込むように折り畳まれている
 その様子に一瞬息を飲むツァイル
「なっ なんだ」ひと? でも羽が・・・
「誰だ ユウロス?」いや 違うな しかしこのデザインのワープシステム・・・
「わ 私は」危険を感じる 恐怖ってものか・・・
「・・・」さて どう出る?
「 ユウロスに言われてここのシステムを接続しに来ただけで・・・」なんか いやな雰囲気だな
「ユウロスを知っているのか?」では・・・
「はぁ まあリアルマスターですから」ユウロスを知ってるんだ
「今どこに?」
「案内します」
 ツァイルはその場から階段へと足を進める
「ちょっと待て」
 リディアは途中で立ち止まり
「ユウロス以外の人前に出ることになるのか?」
「・・・ 一人上で作業してますが・・・」どうしたのかな?
「翼を消す」
 リディアはその背中の翼を広げる ツァイルがその様子に見とれていると 翼が空気にとけ込むかのように消えた
「すごい・・・」
 思わずツァイルから言葉が漏れた
 しばしの沈黙の後リディアはツァイルに微笑みかけるように
「ユウロスも始めはそう言った」
 遠い目をしたリディアは言った
「ところでなんて言う名前何ですか 私はとりあえずツァイルと呼ばれてます」
「ふむ 自己紹介が遅れていたな 私はユウロスの主治医でリディア・フェイルと言う者だ」
「リディアさん ですか」
「 そうだ 行こうか」ちょっと調子狂うなぁ
「あ はい」
 ツァイルはリディアを背に階段へ

 ユウロスの周囲には喪服を着た参列者が 奥には喪主を務めるハウリィイーノの姿があった
「ここは これは母さんの葬式
『ユウロス あなたが母さんを殺したの』
『違う 俺は 俺は・・・』
 言うんだ
『出ていって はやく 私の前から消えて』
『僕は 殺っちゃいない』
 そうじゃない
『早く出て行ってよ』
『フリー 違うんだ』
 ああ 姉さん やめて」

 ユウロスの目の前が一瞬目のくらむような眩しい光が現れ その消えた後には一つの墓石があった
「あれっ ここは母さんの墓? その前にいるのは私?
『母さん 僕は 本当は母さんの子なんだ そのはずだったんだ なのにどうして  年を取ることもなく 死さえ許されず どうやって母さんに・・・ かぁ さ ・・・』
そうだ この時初めて墓の前だけど 母さんに告白したんだ・・・ 泣き崩れたのも・・・
んっ? あんな近くに姉さん
『ユウ・・ どうして あの時 本当のことを言わなかったの それとも貴方は・・・』
聞かれていたのか?
でも・・・
どうして?
なぜ?
過去が・・・
あれ?
これは どうして
・・・・」

 リディアはベッドに寝かせたユウロスの寝顔を見て椅子に座り机に向かってカルテに症状等を記入する
 不意に言う
「ふむ ユウロスが気付いてくれればな」少しは話ができるのだが
 ツァイルが心配そうに訪ねる
「さっきの注射 どのくらいで効き始めるんですか?」
「30分から1時間ぐらいで効き始めるから・・・」
 リディアは壁に掛けてある時計の針を見る
「そうですか」
 リディアはしばらくの沈黙の後
「ユウロスは7つの都市12の星235の国を滅ぼしたって知ってる?」
「えっ そうなんですか?」
「ええ ユウロスは 私達のチームのチーフだからって直接虐殺や破壊の仕事は全て一人で・・・」
「ユウロスが・・・」
「自ら破壊神を名乗って・・・ その為に ユウロスは気付いてないけどこの・・・ このユウロスのボディー2つ目なの 破片になった肉片が周囲の物体を取り込み勝手に原始変換分子組み替えして自己再生したものだけど」
「・・・・・」
「ユウロスは必要であれば誰であろうとためらい無く・・・」
「・・・ 心得ておきます」
「寝顔は 可愛いんだけどね」ほんとに・・・
「はぁ・・・」なんとも はや
「さて 処置は終わったし症状はしたためておいたから 普通なら帰るんだけど」
「?」
「あのワープシステムはどうやって動かすのだ?」
「さぁ」
「知らないのか?」
「はい」
「まいったな」どうやって帰ろうか・・・
 困惑のリディアとツァイルを後目に症状も落ちついてよく眠っているユウロス
「あ 」
 突然ふらふらと目眩を起こすリディア
「だいじょうぶ?」
「悪い 少し眠らせてくれ・・・ ふぁ」
 そのまま机にうつ伏せになってしまうリディア
 後には二人の寝息だけがツァイルの耳に入ってくる
「あらあら・・・」

 ぐーーーーーっ
「朝飯・・・」
食事をとるべく退室するツァイル

「今日はユウロス見かけないなぁー」
 ふと気付いたようにユウロスのコンピューターで作業をしているミレアの思考が止まった
「どうしました?」
「うん ユウロス今日は見ないなと思って・・・」
「そういえば そうですね ツァイルが起きてますから 彼に聞いてみてはどうでしょうか」
「これが終わったらね」
「はい」

 二人の寝息だけが聞こえるユウロスの寝室・・・
「うーーーーーーん んっ?」
 ユウロスが目を覚ましそのままの状態で辺りを見回す
「リディア・・・」そうか・・・
 ユウロスはベッドから起きあがり着替えをもって風呂場へ 風呂場はユウロスの部屋を出て台所を抜けた場所にある
「ユウロスもう具合はいいのか?」
 食事の後かたづけを終えたツァイルが後ろ姿のユウロスに問いかける
「いや まだちょっと でもだいぶいいよ」
 そう言って風呂場へ入るユウロス
「よく効くものだな 注射というのは」
 感心するツァイル

湯船にどっぷりとつかり天井を見上げ
「ふっ この私がこのざまとはな」
 狂ったように笑いだし・・・ そして ぴたりと 止まる・・・
「・・・」どうして あんなものを見たのだろうか・・・

 その夜 完全に体調が回復したユウロスは寝室で
「なあ リディア」
「なに?」
「怒らないのか?」
 ユウロスに症状の説明を終え片づけをしているリディアはその手を止め
「何を?」
「生きてるって事を伝えなかった から・・・」
 ユウロスの口調に若干のおびえが見える
「怒るの? どうして?」
「だって死んだら二度と・・・」
「うれしかった 生きてるって聞いて 始めは半信半疑で でも 今は目の前にいる」
「ああ」
 しばしの沈黙
 再び片づけを始めたリディアが
「ユウロス」
「ん?」
「大丈夫?」
「ん? ・・・ 何が?」
「心理状態がずっと不安定みたいだけど・・・」
「分かるか? やっぱり」
「これでも主治医だぞ」
「でも 大丈夫だ これで落ちつけるよ」
「皆にはどうするつもりだ?」
「その辺りは00が処理してくれるから大丈夫だと思うよ ただ 私が必要なときは呼ぶがいい」
「分かった」
「戻るのか?」
「そろそろ戻らないと医者だし・・・」
「装置まで 送るよ」
 二人はユウロスの寝室を出て作業中のミレアから見えないように地下倉庫への階段へ
「リディア」
「なんだ ユウロス」
「もしかしたら もう戻らないかも」
「そう・・・ でも貴方には帰ることの出来る場所がある事を忘れないで ユウロス」
「うん」
 無骨なワープシステムの前でリディアはユウロスの額にキスをし 何事もなかったかの様に位置に着く
 ユウロスは黙ったままリディアに微笑み
「UAI02始めてくれ ガルスブリーズへのワープだ」
「了解 始めます」
「また・・・」
リディアに手を振るユウロス
ユウロスの目の前からリディアが消える
「ワープ完了」
「そうか」・・・

 翌朝 少し遅い朝食を3人で取っている ミレアは思い出したようにユウロスに聞く
「昨日はどうしたのユウロス 見かけなかったけど」
「ああ ちょっと熱を出してな」
「そう・・・ ツァイル」
「はい」
「塩取って」
「はいはい」
「熱ねぇ 今日にでも医者に診てもらったら?」
「いや もう診てもらったから」
「そう? 気が付かなかったけど」
「そうか?」

 食事を終え 一息着くミレア 後かたづけをするユウロス
「そうか 前にもにたような事があったな」・・・
 つぶやき 食器乾燥機のスイッチを入れ エプロンを椅子にかけその椅子に座り
「ミレア あれは進んでいるか?」
「あれ? プログラムね だいたいは終わったけど」
「あと5日なんだぞそろそろ終わらせないと」
「今日中に終えたいから手伝ってよ」
「まあ いいけど ・・・ ツァイル 新聞読み終えたら こっちに回して」
「はい」
 黙々と新聞を読んでいるツァイル

「昨日の続きを始めるよ」
「了解 続きからですね」
 ミレアの言葉に反応し返事をしたコンピューターは ミレアのロボットの立体映像を表示し
「OK」
「ミレア 手懐けてないか?」
「何を?」
「このシステム」
 静かになる二人
「まあいい それはそうとして容量はどうだ?」
「現在 総容量の86%に達しています」
「まあこんなものか 今一つだな」
「ふんっ!」
「じゃあ 処理限界容量は総容量のどの位だ?」
「予測計算をします しばらくお待ちください」
「何回だ?」
「全部で1万回です 現在267回目を終了したところです」
「わかった 続けてくれ」
「はい」
「ねえユウロス コントロールユニットはあれでもいいのかな?」
と ミレアはトレーラーに積んであるフレームモデルのミドルタワー型のコンピューターを指さした
「ロボットの各所に通信装置を積んで あれを使って管理したいんだけど・・・」
「装置は?」
「あるけど通信速度がちょっとね」
「とりあえずロボットの方を先に作っておかないとならんが」
「もうできてるよロボットもロボット側の通信装置も」
「じゃあ コントロールユニット側は」
「まだ基盤が途中までで・・・」
「設計図は?」
「あるよ あっちに転がってる模造紙がそうだけど」
「終わりました なお 正確なデータがとれませんので範囲がいささか広くなりました 結果は114%±12%です」
「オーバーしてるぞ どうする?」
「大丈夫MPUさえ変えてしまえば問題ない 今D5だから もう一つ上のI2を買えばすむよ」
「そんなMPUを積んでるのか?」
「そうだけど・・・」
「幾つ?」
「3つ」
「なるほど・・・ でも それならDef73を一つでいいんじゃないの?」
「あれを積むと高くつくの 衝撃にも弱いし」
「そんなものかぁ」
納得するユウロス
「そうそう 前から思ってたけど ユウロスに足りない物は経済観念ね 今はっきりわかったわ」
「そう言うなよ 言われなくても分かってはいたさ でもな 長いこと金銭には無関係の生活を営んできたんだ無理もないと思うが」
「そうなの?」
「そうなの!・・・ ミレアぁ 普通3年も友人やってりゃぁ気づかんか?」
「言うチャンスがなかっただけだと思うなぁ」
「・・・まぁいいかぁー 基盤は作っておくから そっちやってなさい」
 言いながら頭をかき 倉庫の奥へ設計図である模造紙を持って消えた
「しっかし・・・ ユウロスからはどういう訳かあまり異性を感じないなぁー」
「でもユウロスは男ですよ」
「うん 分かってはいるんだけどねぇ」
「データのチェックしますか?」
「うん はじめて」
「分かりました 表示は?」
「して」
「了解」
 3Dのディスプレイ・パネルに表示されるデータを真剣に見つめるミレア
「あまり つめると体に毒ですよ」
「・・・ ありがと」

ガルフブリーズ
「リディアぁ そんなもの持ってどこへ行くの?」
 リディアの持っている医療機器の入った鞄を見てフリール・ノジールが聞いた
「帰ってきたところだけど?」
「どこから?」
「いいところ」
「いいところ?」
「そう・・・」
 楽しそうにフリールにそう告げると白い翼を通路いっぱいに広げ飛び去っていった
「はぁーっ」なんか 最近張り合いがないなぁー
 肩から力を抜きうなだれるようにして再びフリールは通路を歩き始めた

 エルフヤード・ヘリオス 中央病院
 ここはカルテの保管室 その医者はカルテの整理のために夜遅くまで作業をしていた
「なんだ このカルテは・・・」
 その医者は不意に落とした 床の上で開いたカルテの詳細を読みとって行く
「こんな そんな・・・ バカな ・・・ これは調べてみる必要があるな」
 その医者は保管室のコピー機を使用した後 カルテを元に戻し整理半ばにて保管室を出た

 翌朝 ユウロスの倉庫内にて
「おっ 終わったぁー」
 床の上でのびるユウロス
「疲れたぁー えへ えへへっ」もっ もうだめ もう疲れた
 ふらふらと寝袋の中に入ってゆくミレア

「おはようございます」・・・ あら?
 勢いよく倉庫に入ってきたツァイルは 静かにその場から退場した
 無論 この日はなにもなかった訳である

 エルフヤード・ヘリオス 中央病院
 その医者の名はクライネ・スタフナール 中から鍵をかけた部屋の中で黒い髪カールのかかった髪をくしゃくしゃとかきながら そのカルテをしみじみと眺める
「どう見ても人間じゃない・・・ のは分かっているが・・・ そこからなにも出てこない どうすべきか とりあえず・・・ 本人に会ってみるかぁ」しかしなぁー その・・・  住所がわからんのではいかんともしがたい
 椅子にどっしりと腰掛け天井をのけぞるようにして見上げる ゆっくりと倒れ始める椅子
「おっ? おわぁーーーーーーーーっ」
 ズーーーーーーン
 そのまま床に倒れた椅子の上に頭をしこたまうったその状態で クライネ気絶
 しばらくそのまま時間だけが流れる
「クライネ先生 回診の時間です ・・・ クライネ先生・・・ あれっ?」
「どうしたの?」
「中から鍵か 掛かってるんです」
「中から?」
「はい」
 扉をたたく音と気絶した医者クライネを呼ぶ声が時間と共に流れてゆく
「しかたない ・・・」
 しばらく二人とも戸の向こうから離れていたらしく静かであった
「そんなもので壊したらまた」・・・
 戻ってきたようだ
「いいの」
「あー もー知りませんよ」
「よっこら」
 ・・・何か力がいる作業でもしているのだ・・・
 バァアンッ
 何か大きなもので扉を叩かれたように扉はそのまま外れ 床に一度付くとそのま 倒れた椅子に座った状態で気絶しているクライネ外科医の上に覆い被さった
「あれ? 誰もいませんよ」
「えっ? おかしいなぁー って いるじゃないか」
「でも動いてませんよ」
 目の前の現実をほぼ理解するのに要した1秒半の沈黙の後二人同時に
「ク クライネ先生ーーーーー」

翌日
「ユウロス見ませんでした?」
 ツァイルがロボットの微調整をしているミレアに問いかけた
「いや 見なかったけど」
「そうですか」
 ツァイルはミレアに軽くおじぎをして頭をかきながら倉庫の奥の方へ

「こんなものかな」
 地下の空間でホワイトボードに向かってややこしい数式を解き終えたユウロスはペンを置き その数式とそれを解いた答えを見比べていた
「ああ ユウロスここにいたんですか」
「ん さっきからここにいたが 何か?」
「いえ 起きたときから見あたらなかったものだから」
「そうか」
 ツァイルは階段からユウロスの前にあるホワイトボードの前に出て数式を眺め
「何の式です?」
「サードエネルギーに関する相対性理論だな」
「なんですか 相対性理論って」
「私の生まれた星の昔のある学者が考え出した理論だ 現在ではファーストエネルギーに関する相対性理論とされているがな」
「はぁ」
「わからなかったか?」
「はい」
「初めはそんなものだ 私とて相対性理論群を覚え運用するのに述べ30年は費やした だがこれは絶対的に正しいかと問えば 答えはノーだ まあこのあたりが難しいところなのだがな」
「はぁーーーー」
「そんな顔をするな 分からなくても困りはしないよ その分野に進まない限りはな」
 ユウロスはツァイルの頭をくしゃくしゃとかき
「さて 買い物でも行くかな」
「ついていって 良いですか?」
「ああ かまわんよ」
 二人は階段を登って行く

「ユウロス買い物に行くの?」
「そうだが なにか?」
「なにか普段食べられないような料理が食べたいなと思って」
「ふむ・・・ 考えてみよう」
 ユウロスは財布と電気軽自動車をチェックして背中の一対のスタビバーニアを外しツァイルを後ろの座席に乗せ出発した 4輪全てが独立した駆動輪である もっと効率のいい駆動装置を使えばいいのだが あまり過度なスペックはいらないと言って現在のスペックに落ち着いたのである
 まだ日は高く石畳の道路に街路樹は小さくその影を落としていた
「ユウロス あまり車を見かけませんねぇ」
「ああ それはな燃焼機関を動力機関としてつかうタイプの交通の手段は全て禁止されているし これみたいな電気自動車はあまり人気がないんだ」
「じゃあ あの車はどうなんですか? モーターらしきものが見あたらないのですが」
「ツァイル 可視光線だけで物事を見ろとは言わないが私以外の人物がいるときはさけた方がいいとおもうが・・・ それはそうとそのタイプは確か地磁気を増幅するかして帆船の原理ですすむ筈だ 原理はおもしろいが私は好きではないな地磁気は一定周期で消滅や逆転するものだしなぁー」
「ふーん」
 納得し損ねたようにツァイルは頷いた
「まあ車に関してはショッピングセンターの駐車場に行けばいろいろ見ることができるから ところでどうだスタビバーニアをはずした状態は」
「うーん いつもと変わりませんよ後ろに注意する必要が無いんで楽ですけど」
「なるほど」
 ショッピングセンターの前の広大な駐車場の中にユウロスは電気軽自動車を止め二人ともに車を降りた
「どうする ついてくるか?」
 ユウロスは自動車に鍵をかけながらツァイルに聞く
「ええ お供します」
「でわ 行くか」

 ショッピングセンターの中は一つのスーパーマーケットと商店街に分かれている ちなみにユウロスとツァイルの服はここの商店街にある仕立屋で作ってもらった
 そのユウロスは商店街の方へ足を進める
「この先に 知人のやっている刃物屋があるんだ」
「刃物ですか?」
「ああ ここだ」
 ツァイルは「フレーム刃物店」と書いてある看板を見上げた後ユウロスの後に続いて店の中へ
「ユウロス ここんとこ顔見なかったな」
「ああ ちょっと作業をしていたからな」
 ユウロスと話しているのは髭の男である
「ああ フレームこれは私の造ったツァイルというモノだ」
「へぇー よくできてるなぁー 俺はフレームと言うもんだ それはそうと何か買ってくかユウロス?」
「そうだな・・・ 彼の ツァイルの使えるものを所望しようか」
「分かった ツァイルだったな お前さん手を見せてくれ」
「手ですか? はい」
 ツァイルは広げた手を フレームに見せる
「面白い手だな ロボットの手は結構見てきたがここまで精巧に作ったのを見たのは初めてだ それはそうと・・・ どんなえものがいい」
「えもの とは?」
「ああフレーム 刃だけ作ってくれないか少し細工をしたいのでな それから常時持ち歩けるような物がいい」
 ユウロスが口をだした フレームはそれをメモに書き付ける
「分かった ところでコンテストに出すのか戦闘部門の」
「そうだが 何か」
「いや コンテストには間に合わないぞ」
「分かっている これはツァイルの物として造ってほしい」
「分かった そうすると両手持ちのものか片手持ちのものかどっちか決めてくれ」
「片手の方で」
 ツァイルは答えた
「片手だな 後は任せてもらえるかユウロス」
「かまわんよそれと鞘も頼むよ」
「分かった ええと材質はどうする」
「任せるよ」
「よし そうだな20日後に鍛冶場の方へ取りに来てくれ 代金はその後でいい」
「頼んだよ」
 ユウロスはそうフレームに言い店を出た
「じゃあ お願いします」
 ツァイルもユウロスの後に続くように店を出た
「ユウロス 刃物なんか私に持たせてどういうつもりですか?」
「ああ 説明してなかったな 君自体はサードエネルギーを体の外に使用することはできないんだ だから刃物を作ってもらって君の体の一部として認識させれば そのエネルギーを利用できる用にしてあるあのスタビバーニアも同じ原理だ」
「そうだったんですか・・・ それはそうと私はなにを武器に戦うのです?」
「大丈夫 ラバーブレードと同じようなものをもう作ってあるから・・・ それより今は食料の買いだめだな」
 ユウロスとツァイルはスーパーマーケットの方へ足を進めた
「あなた 今日はなにを食べる?」
「そうだな・・・」
 考える外科医クライネ・スタフナール 彼は家族でこのショッピングセンターに買い物に来ていた
 ふと彼の視界に見たような人物が買い物をしている光景が目に入った
 思いだそうと集中するクライネ
「・・・ ・・た ・・・ あ・た あなた聞いてる?」
「えっ? あっ ああすまん考え事を・・・」
「しっかりしてよ 医者の不養生でいかれたら困るんだから」
「わかった 分かった そんな現実的なこと言わなくても」
「まったく 困った一家の大黒柱なんだから」
 笑いながらあの人物を目で探すが もう移動したのか見あたらなくなっていた
「ああ」
 思わず言葉が漏れたクライネ

帰りの電気軽自動車の中
「ユウロス 今日は何を作るんですか?」
「まあいいじゃないか」
「料理はな 食べられる物を加工する化学実験みたいなものだ」
「・・・・」過激な言動ぉー

 コンテスト前日 屋上でぼーっとした表情で死んだ魚のような瞳で空を眺める お茶の時間のユウロス そばによるミレア
「ユウロス 今日は明日の戦闘部門に出すロボットの検査があるんだけど」
「そうか・・・ 何時まで?」
「夕方4時まで」
「今は・・・ 午前の11時か」
「私は準備いいよ さっきあなたのトレーラーに積み込んだから」
「分かった 行くとするか」
 ユウロスはお茶の用意をもってミレアと共に倉庫の中へ

「ユウロス これですか?」
「なにが?」
 ツァイルは日本刀のようなデザインの鍔のついた柄のようなものをユウロスに見せた
「ああ そうだちょっとデザインが古いかもしれんがな」
「なにそれ」
 ミレアがツァイルの持っている鍔の着いた柄のようなものを見て言った
「これはな・・・ ツァイル鞘は?」
「これですか」
 ユウロスは日本刀の鞘をデザインしてある中に何か機械の入っている鞘に納めるように刃のない鍔のついた柄を合わせ 二人から少しばかり離れなにもない空間に向かって居合をすべく構えた
「ツァイル これは居合というものだ いくぞ」
 一呼吸おいてユウロスは気合いと共に青白く光る刃を素早くなめらかに抜き 空を斬りつけ静止した
「おもしろい方法ですね」
 鍔のついた柄を再び鞘に収め 服装を正しているユウロスにツァイルは言った
「まあな 突然襲いかかってこられたりした場合には これを応用すればいい」
「覚えておきます」
「ユウロス そろそろ行かない?」
「ああ 先に乗っててくれ ツァイルこれが君の武器だ 一撃必殺を旨としているからちょっと扱い辛いかもな」
 ユウロスはツァイルにその日本刀のようなものを渡した
「名前は無いんですか?」
「考えてない 好きに付けるといい」
「はい」
「行こうか」
 ユウロスはトレーラーの運転席に座りミレアとツァイルが乗っていることを確認して  リモコン操作で倉庫のシャッターを開ける

 走行中のトレーラーの中でおもむろにユウロスはミレアに訪ねた
「なぁミレア 勝ったら何かあるのか」
 ユウロスの唐突な質問に一瞬我を失ったミレアは答える
「とりあえず賞金が出るけど ユウロス あんた何のために出場するの?」
「破壊の美学を見るために・・・」
「やっぱり あんたは ユウロスだわ」
 しみじみと納得し頭を抱えるミレアと全滅するツァイル
「・・・」なんだかなぁー

「どこに止めようか?」
 科学省の駐車場を見渡すユウロス
「もう少し奥の方だよ」
 ミレアの言葉を聞き駐車場の奥の方へトレーラーを走らせる
「そこが空いてる」
「ああ」
 トレーラーは大型車両用のスペースに止まった
「ところで どこで何処で検査してるの?」
「さあ」
 ミレアは知らないとジェスチャーした
「受付に行ってみるか」
 三人はトレーラーから降り 昼の光を浴びながら受付に急ぐ

ミレアは受付に付くなり
「ロボコンの戦闘部門のロボットの検査はどこで?」
「戦闘部門のロボットの検査ですね」
平然と確認する受付嬢
「そうです」
「室内運動場で検査をしています 大型車両でも入れるようにしてありますので・・・」
「ありがと ユウロス行くよ」
「あ ああ」

室内運動場内部には何台もの車両が止まっておりユウロスのトレーラーもその中の一台となる
「ツァイル スタビバーニアは?」
「荷台の方に積んであります」
「わかった 右側面を開くからそのように ミレア」
「ユウロス そんな偉そうに言わなくても」
「うーーーん そうかぁ」
悩むユウロス その様子を見かねて
「ユウロス 早く開けていただける?」
悩んだまま無言のうちに操作するユウロス ゆっくりとトレーラーの右半分の屋根の部分が開く ミレアは不器用な手つきで残った下半分の荷台の囲いを下ろした
「うーーーーーむ」
未だに悩んでいるユウロス
「ユウロス ユウロス・・・ だめだな これは」
「そんな・・・ 置いてかなくてもいいではないか」
ツァイルに言いながらトレーラーから降りるユウロス
「とりあえずスタビバーニア付けてもらえます?」
ぐずるユウロスにツァイルが行動を急かす
「はいはい」
ユウロスはスタビバーニアを荷台から取り出し
「背中 開けるよ」
「はい」
ユウロスはツァイルの服の背中の部分を開く
「開けてくれる?」
カバーが開いた部分に左右のスタビバーニアを差し込み
「いいよ」
ツァイルはスタビバーニアの可動を確認した後服装を正す
作業を終えたユウロスにミレアの視線が突き刺さる その視線を感じ
「何だ? ミレア」
「ユウロス 簡単でいいわねぇー」
皮肉を込めた言葉がミレアから帰ってくる
「そんな 基本設計をちゃんとしていればもっと簡単になったはずだよ」
「そうは言ってもねぇー・・・」
すでに塗装も終えたミレアのロボットは内蔵してある市販のバッテリーをトレーラーの発電器から充電している その様子を見て
「ミレア そこまでして電気代を浮かすか?」
「えっ?・・・」
しばしの沈黙
「まあ 安いものだからいいけど・・・」
若干 諦めのユウロス
「あああーーー ユウロスぅー 別にそういうつもりではないんだけどぉー」
ユウロスのすすけた背中に釈明するミレア

「こちらは どこのロボットですか?」
つまらない漫才をしばらく地で演じている二人に対し観客のツァイルに話しかける
「ちょっといいかなぁ」
ツァイルに対し訪ねる カメラを持った男性
「何でしょうか?」
「君ロボットかい?」
「そうですねぇ 多分そうだと思います」
「へぇー 誰が作ったんだ」
「そこで つまらない漫才を演じている髪の長い方です」
「ありがとう」
「いえいえ」

「そちらの髪の長い方」
いまだ漫才を地で演じている二人
「あのぉーーー ・・・ チョットイイデスカァー?」
「おおう!」
驚く二人
「すみません 聞こえていなかったもので あのロボットはあなたが作ったものですか?」
ユウロスに対して問うカメラを持った男性
「そういうことだけど 何か? スペックや材質は教えないよ」
「いえいえ 私は広報部の者でしてロボットと制作者の写真を撮って記事を作るだけですよ」
「ふーーん まあいいでしょう ツァイルおいで」
「写真ですか よかったですね3人でなくて」
ユウロスの隣に立つツァイル
「何でだ?」
「真ん中に写る人は早死にするとか言うじゃないですか」
真顔で言うツァイル
「ツァイル」
若干不安になったしく真顔で言い返すユウロス
「はい」
「それ冗談だよな」
「もちろんです」
なんだかなぁ と言わんばかりにカメラを構え2枚程撮ると ミレアの方へ
「ユウロス」
「なんだ?」
「これどうしましょうか?」
「ああそれか 鞘の方にひっかける金具があるから それでベルトにでもひっかけておけばいい」
「わかりました」
「それから それの刃の部分は鞘に入れてエネルギーを補給するから使わない場合は鞘に入れておくこと そのぐらいだな」
「はい それはそうと来ませんね」
「なにが?」
「なにがって・・・ 検査ですよ 検査 わかってます?」
「そうかぁー」
ツァイルには夢うつつのように見えるユウロスの行動
「なぁ ツァイル 今のコンディションはどうだ?」
「はぁ 全く問題ありませんよ それが?」
「いや それならばいい」
「冗談も言えますしねぇー」
「うーーーーーん」
頭をかかえ何か考えるようにうなるユウロス
ツァイルはユウロスに対していろいろと問うが・・・
考えに集中しているらしく 全く反応しないユウロス
ツァイルの視界には 何か別のものを見ているようなユウロスがいる
「ねえ ユウロス検査の人来たよ」
ミレアがユウロスに伝えるが全く反応しないユウロス
「ユウロス・・・」
「どうしましょうか?」
困っているツァイルはミレアに訪ねる
「そう言われても ねぇ」
側でポケットから紙とペンを取り出し式を書き無心に解き始めるユウロス
「とりあえず 始めましょう」
ツァイルはミレアのロボットと一緒に検査を受ける
「よくできているなぁ」
「よく言われます」
照れるツァイル
「ええと ここに制作者のサインが欲しいのだが・・・」
「ユウロスぅーーー」
まだ 式を解いているユウロス
「困った制作者だ ええとユウロスさん サインを」
ユウロスの計算している紙をのぞき込む
「これにサインを」
ユウロスは計算が一段落ついたのか 目を通しサインをした
「どうも」
自分の動作と周囲の状況を判断したユウロスは再び紙に向かって計算を開始した
「何ともはや・・・」
その様子を見てため息しか出ないツァイルとミレアであった

翌日
「ユウロス起きてる?」
と ミレアがユウロスの寝室に入ってきた
「どうした まだ早いと思うが」
イスに座って机の上の端末機に向かって何か作業をしたままユウロスは答えた
「何やってるの?」
「製品の見渡し」
「カタログをみてるだけ?」
「そうだよ」
ミレアはしばらく画面のカタログを眺めている
「そこの 二人」
「なに? ツァイル」
「なんか不都合でもあったか?」
「不都合? そーです 停電で時計が止まってるんです」
「そうか 現在時間は と・・・」
端末機を操作するユウロス
現れる現在時間
「あう」
ミレアの表情が一瞬ゆがみ
「ユウロス 早く行かないと遅刻するっ!」
「そうか 所要時間はと」
いいながら走って行った二人をゆっくりと歩いて追いかけるユウロス

町中を走るトレーラーは 別に急ぐわけでもなくいつも道理に町を進む
「ちょっと ユウロス急ぎなさいよ」
ユウロスはミレアの言葉を聞き流しいつもどおりの速度で道を進む
「ユウロス急がなくてもいいのですか?」
「大丈夫だよ 最短距離で行くから それよりツァイル」
「はい」
「スタビバーニアを付けて ミレアと一緒に先に行ってくれないか」
「いいですよ でわ早速・・・ 行きますよミレアさん」
「えっ? あっ ちっ ちょっとぉーーーー」
ツァイルはミレアをつれて荷台へ移った
「・・・」お一人様空の旅へご案内 と言ったところか・・・
しばらくして ミレアの悲鳴が聞こえ遠くなっていった
「あっ・・・ 」そういえば この都市って上空飛んでもよかったっけかなぁー
考えてしまうユウロスで あった

一方ミレアを抱えて一気に科学省の建物の前に降りるツァイル
「着きましたよ ミレアさん」
「ご ごめんツァイル 肩貸して 腰に力が入らなくて・・・」
情けない顔つきでツァイルに頼むミレア
「大丈夫ですか? ところで肩ってどうやって貸すんですか?」
一瞬の沈黙
「・・・ 知らないの?」
「はい」
「じゃあ言うとおりにして」・・・
ツァイルはミレアの言うとおりにした
「こういうことですか?」
二人は集合場所へと歩き出しながら
「そうだけど けっこう知っているようで知らないものなのねぇ」
「人間の動作についてはあまりデータで詰め込むものではないとのユウロスの考えらしいです」
「なるほど しかし 生まれてたったの数日しかたっていないのに こんなものに出すとわねぇー」
「まあなるようになるでしょう」
「ほんとに ツァイルってユウロスの造ったメカだわ・・・」
一人納得するミレアとミレアの言葉に首を傾けるツァイルであった

 科学省室内運動場は丘陵地にある科学省敷地内の丘の下に存在する巨大な空間である 天井はかなり高く堅固な造りを持ち空調も空間内で完結しているので有事の際にはシェルターにもなるように食料や他のエルフヤードへの脱出用のリニアも用意されている 内部は室内運動場の名に恥じない立派な設備が整っている
 その入り口で一人の中年のロボット制作者と昨日ツァイルを写真に収めた広報部の男性がいた
「来ませんな」
「まだもう少し時間があります」
「本当に人型のロボットなのか?」
「ええ ほんとですよ」
 二人の視界に歩いてくるミレアとツァイルの姿が入ってきた

「ツァイル もういいありがと」
 ミレアは抜けた腰が回復したらしくツァイルに告げた
「あ はい」
 室内運動場の入り口を見たミレアは時間が気になったが 急いでいたのか職業柄か時計を持っていないのに気づき
「ツァイル 今何分?」
「大丈夫です まだあと14分ほどありますから」
「そう・・・ ユウロスの方は間に合うかなぁ」
「大丈夫でしょう たぶん ・・・ いや もしかしたらダメかも・・・」
 自分の描いていたユウロス像がだんだん崩れていくツァイル
「うーーーん」
 聞いていたミレアもだんだんユウロスが間に合わない方に思考が傾いてくる

 室内運動場への入り口に立っている中年のロボット制作者は信じられないようなまなざしで約50メートルほど先のスタビバーニアを装備したままのこっちに向かっているツァイルを呆然として見ていた
 広報部の男性は自信満々で
「ね 言ったとおりでしょ」
「あ ああ」
 ツァイルは前方の中年の食い入るような視線を感じたのか 指を指して
「ミ ミレアさぁーーん あれ」
 ミレアが前方の中年の視線に気づく
「ああ あれね あの人はロボットの制作技術にかけてはかなりのものなんだけど あれじゃぁーねぇー」
 食い入るようにツァイルを見ている中年の姿は情けないの一言であった
「ツァイル 無視してやればいいんだよ」
「そうします」
 広報部の男性は近づいて来たツァイルに
「あれ? 制作者のあの髪の長い人は?」
「後から来ます」
 ツァイルが答えるより早くミレアが答え ミレアはそのままツァイルの腕をつかみ足早にその場を離れた
「ちょ ちょっとミレアさぁーん」
「み 見たかね あのしなやかな動き しなやかな重心移動 信じられん それにあの重心位置では 背中のパーツの重量はかなり軽いはずだ・・・」
「そんなもんですかねぇー」
 広報部の男性はあまり興味がないようだ

 ユウロスのトレーラーはまだ科学省からはまだ遠い場所にいた
「ツァイルのサードエネルギーの制御はけっこう簡単だったなぁ 私用に造ってみるか・・・ おっとここを曲がるんだった」
 トレーラーはフリーウェイに入りその追い越し車線を行く この道路の先に科学省がある ユウロスはトレーラーの速度を上げる
「もう少し速度を上げるか・・・」とりあえず ああ言った手前間に合わせなければな
 限界速度のスポーツ系の車両を まるで飛行機が追い抜くように 無造作にユウロスのトレーラーは抜いてゆく
「ユウロス あまり適当な速度ではありませんな」
「ああ 少し急いでいるからな・・・ そうだ マップを出してくれUAI」
「出ます」
 フロントミラーにマップが表示される
「弾道コースはどうだ?」
「こんな所で やるべきではありませんね」
「そうか それはそうと間に合うかなぁ」
「たぶん 間に合うと思います」
「わかった」

 ミレアとツァイルは出場確認受け付けで足止めをくっていた あれは・・・
「申し訳ありませんが ロボットは出場確認のサインはできないようになっています」
「そうなの?」
「はい」
「どうしよう ミレアさん」
「うーん 代理人は?」
「本人または代表者以外の記名は無効になります」
「ミレアさん とりあえずミレアさんだけでも・・・」
「いい?」
「はい 本人の場合は全く問題ありませんので」
 ミレアはサラサラと紙にサインをした
「はい 組み合わせ抽選のあなたの番号です」
 受付嬢はミレアに番号だけ書いてあるカードを渡した
「ところで遅刻した場合はどうなるの?」
「組み合わせ抽選は問題ありませんが・・・」
「それは後どのくらい?」
「後20分程で始まります」
「ユウロス 間に合うかなぁ?」
「大丈夫だと 思いたいんですけどねぇ」
 ため息をつく二人

 一人また一人受付をすませる その様子を近くのベンチに座って眺めているミレア その隣でツァイルはスタビバーニアを膝の上に置いた状態でそわそわしていた
「ツァイル」
「・・・」
「ちょっと」
 ミレアはツァイルの肩をつかむ
「何ですか?」
「少しは落ちつきなさい こっちまで気をもむじゃない」
「 ごめんなさい」
「うっ・・・」そんな素直に謝られたら こっちがこまるのに・・・
 困惑するミレア

「距離は後どのくらいだ UAI」
「あと12キロ程です」
「減速開始までは?」
「後8キロですな」
「あ そうだ この都市は上空を飛んでもよかったけかなぁ?」
「アクセスします 若干待ってください」
 ユウロスは現在時間を確認して視線を前方に向ける
「今日は平日だけに車が少ない ようだなぁ」
「ユウロス エア・ブレーキ作動します」
「!」
 即座にスピードが落ち 前方の渋滞が目に入る
「渋滞か」
「はい・・・ どうしますか?」
「ワープは出来ないよな?」
「装置を搭載してませんので」
「飛ぶか」
「装置は搭載していますが・・・ よろしいのですか?」
「さっきアクセスした結果は」
「とくに禁止する条項はありませんでした」
「すごい都市だな」
「全くですね」
「弾道コースを設定 無論慣性消去装置と物理抵抗消去装置を作動させるように」
「了解 着地位置はどうしますか?」
「上空でいい そこから私がやる」
「わかりました しばしお待ちを ・・・ コース決定 ユウロス・・・」
「どうした?」
「距離が近いのと地形により 上空までの直線コースになります」
「わかった やってくれ」
「了解」
「それから航空用モードに」
「今やります・・・ 良いですよ」
「さて」
 ユウロスは科学省上空に到達するのを静かに待つ

 ツァイルは耳をぴくっと動かし
「来ました」
「えっ なに? どこ?」
「上です 上」
「上?」
 ミレアは天井を見上げる
「上って 天井だけど・・・」
「だから 科学省上空です」
「あっそう へっ?」
 ミレアの表情がゆがむ
「上空というのは 空を飛んでいるという事?」
「そうです」
「あのトレーラーが?」
「でしょうね」
「でしょうねって あなた・・・ あ ごめん でもあのユウロスがねぇ 未だに信じられないなぁ」
「なにがです?」
「ユウロスにあんな技術があったなんて・・・ ただのしがない発明家だと思っていたのに・・・」
「そうなんですか?」
「うん ゼンマイ式のラジオとか・・・ ゼンマイ式の時計とか・・・」
「ぜんまい? ですか」
「うん 比較的 簡単な物しか造ってなかったのに」
「はぁ・・・」
「あぁーーーーんな 私の知らない技術の固まりみたいなものを造ってしまうなんて 誰が予想しただろうか 全く ユウロスって頭がいいのか馬鹿なのかはっきりしないからなぁー」
「考えが偏っているんじゃないですか?」
「そうかもね」
「ぜんまいに ろぼっと か」
 ユウロスの性格に対して無言でしばらく考えている二人の前にユウロスが現れた
「・・・」な なんだぁー?
 二人の視線がユウロスに痛い
「な なにかな?」
 異様な視線を受けたじろぐユウロス
 ミレアはユウロスに言う
「早く受付を済ませなさい」
「はいはい」
 軽い返事を返しマイペースのユウロスはサインをして番号札を受け取る
「ユウロス トレーラーは?」
「もう置いてきた」
「そう・・・ さて ロボットの調整をしておくか」
 三人はトレーラーの置いてある場所へ
「えっと時間は・・・」
 ユウロスは服の内ポケットからゼンマイ式の懐中時計を取り出しふたを開けた
「9時半か・・・」
 懐中時計を見ていた ツァイルがミレアに言う
「ミレアさん あの懐中時計ですが」
「ん なに?」
「簡単なものではないようですよ」
「へっ?」
 ユウロスが二人の会話を察し
「この懐中時計か? これは内部を無重力にしてあるし超重量を与えてあるリングが回転している 内部中央のゼンマイはただのゼンマイだがこれで針を回転させるのに失われるエネルギーを正確に供給するようになっているんだが それがなにか?」
「ユウロス 前にそれゼンマイ時計って言ったじゃない」
「そうだよ動力はゼンマイだよ アンティークなデザイン 簡単なメッキ いつも持っているものはこうでなくてはねぇー」
 一人で自分に酔ったように解説するユウロスを 私にはもう関係ないね といった表情で溜息のようにミレアは
「そう・・・」
「ミレアさん 諦めましたね」
「もう 私の及ぶ範囲じゃないわ」
 わてもうあきまへんわ と言わんばかりのミレアであった・・・
「それはそうと お二方 組み合わせ抽選はどうするんです?」
「ああ・・・ ふむ・・・ 私が行って来る ミレア番号札を」
 ミレアはユウロスに組み合わせ抽選の番号札をわたした
「トレーラーは上の駐車場に置いてあるから」
 そう言ってユウロスは二人と分かれた
「ツァイル ロボット運ぶの手伝ってくれるの?」
「ええ でないとミレアさんだけじゃあ重すぎて運べないでしょ?」
「助かるわ」
 ミレアはツァイルの頭をなでた
「どうも」
 明るく返事を返したツァイルであった

 ユウロスの倉庫前
「ここか・・・」
 外科医のクライネは仕事を抜けてか休暇をとってか なぜか平日の郊外にあるユウロスの倉庫の前に立っていた 一度建物を見上げ 倉庫の玄関らしき入り口のチャイムをならした なにか作動音が中から聞こえる
「んっ?」
 入り口の上にある換気扇ぐらいの小さな戸からUAIの端末が現れ
「現在ユウロスは外出しています 伝言を承りますが?」
「えっ?」・・・ 出かけた「どこへ?」
「はぁ 科学省のロボコンの戦闘部門に出るために 現在は科学省の室内運動場の方にいます」
「分かった 伝言は無い ありがとう」
「いえいえ」

 クライネはUAIの端末に機械的に礼を言うと近くのバス停へと足を進める
「これから向かってみるかな」・・・
と クライネの視線に 普段ならこの付近にいるはずもない妻の姿が目に入った
「・・・」まずい 非常に まずい
 クライネがその場から逃げようとした瞬間
「あなた」
「はいっ!」
 もはやまな板の上の鯉状態のクライネ
「あなた 仕事は?」
 あとはなすがままのクライネであった

 翌日
「昨日はすごかったですねぇー」
「ああ」
「すごいと言えば ツァイルもなかなかのものだよ」
「そうですか?」
 ツァイルは上半身と右腕だけの応急処置を受けた姿でなにかのケースの上からスペアパーツを造っているユウロスとそれを見ているミレアに言った
「とりあえずはスタビバーニアを直したから ミレア頼むよ」
 ミレアは前とは若干形の違うスタビバーニアをユウロスから受け取ると
「ツァイル」
「あ はい」
 ツァイルはミレアに体を押さえてもらいスタビバーニアを差し込んでもらう 何の抵抗もなく入るスタビバーニアを見て言う
「個々のパーツがゆがんだりしないのね」
「そのようですね」
 ツァイルも気が付いて言った
「まあ本体上半身はかなり丈夫に造ってあるからな」
 ユウロスは作業をしながら二人に答えた
「じゃあ 足はおまけ?」
 鋭くミレアは言った 痛いところを突かれたユウロスは口ごもるように
「そういう訳では ないんだが・・・」なにもそんな事言わなくとも・・・
 ぴぃーーんぽぉーーーーん
「ミレア出て」
 ユウロスは今の状況を打開すべくミレアに頼んだ
「はいはい」
 ミレアが倉庫の扉を開ける音が二人に聞こえる
「はい ユウロスは奥にいるけど あちょっと・・・」
「ん? 誰だミレア」
 ユウロスは倉庫の入り口の方へ視線を移す そこには昨日食い入るような視線でツァイルを見つめた中年の男性がいた
「君がユウロス君かね?」
「どう思います?」
 偉そうな聞き方に腹を立てたのかユウロスが聞き返す
「おそらく本人だろうと思うが」
 ふてぶてしく偉そうな態度の中年の男性 無論ユウロスは初対面である
「ええ まあそうなんですけど」
 答えたユウロスに対し
「ああ 挨拶が遅れたようだ 儂は・・・」
「名前だけでいいですよ」つまらないことを言われたくはないな
 ユウロスはスマイルで中年の男に言った
「そうか 儂の名はブレーグ・ファウミィー 初めまして」
 ブレーグはユウロスに握手を求めて手を出す
「ブレーグさんですか 私はユウロス・ノジールです」
 握手はしないユウロス
「ところで 此処へは如何用で?」
「君の造ったロボットの設計図が見たい」
「設計図? ミレア設計図って何だ?」
 真顔で聞くユウロス と あきれて答えるミレア
「ユウロス 設計図というのはなにかを造るときにそれを元にして造る図面の事 あんた直感だけで造るなんて言わないでしょうね」
「まさか・・・ そうか リアルフレームデータがみたいと・・・ 残念ながらそれは出来ませんね」
「どうしてだね?」
「あれは機械方面からアプローチした生物なんだ 若干なら自己再生能力も持っている それに非常時以外は私と同じ程度の力しかないしな まぁ決定的なところはここの技術水準ではあれのどの部品も造ることが出来ないと言うあたりかな」
「君は 帰化した人間だと聞いているが?」
「人間ねぇ 役所側の分類にはそう示してある」
「どう言うことだ?」
「夢を見ているのさ そう 夢をね」
 ユウロスが言葉を言い終えるとブレーグの姿が消えた
「UAI ブレーグ・ファウミィー及び周辺の人物に関するデータを集めてくれ」
「よろしいのですか?」
「かまわん ああプリントしといて」
「はい」
「ユウロス・・・ なんかユウロスが恐くなってきた」
「恐怖の大王みたいっしょ」
 ミレアは無邪気に言うユウロスに
「いまとっても すべてを悟ったような気分」
「どんな事を?」
「さわらぬ神にたたりなし」
 笑う一同
「大丈夫 ミレアが知りたいと言うのならば教えてあげるよ ミレアの性格は見抜いているからね」
「じゃあ どうして?」
「どうして彼の申し出を断ったかって?」
「そうそう」
 ミレアとツァイルの言葉がダブった
「それはねぇ あんな餌にがっつく獣には教えられんな と言う辺りだ それにつけ加えるなら偉そうな態度及び予測される性格から教えた場合の行動からだな」
「ねぇ ユウロス ラボを地下に移した方がよいのでは」
「ミレア お前地下室があることいつ知った」
「ユウロス ツァイルと一緒にどこかへ消えたと思ってたら 足の下から爆音や振動が来るんだから わからいでかというものだよ」
「そ そうか・・・ じゃあ ミレアも手伝ってね」
「げっ・・・」薮蛇・・・
 スマイルのユウロスと落胆のミレア
「この二人っていったい・・・」
 溜息のように言ったツァイルの言葉に 二人がツァイルに
「なにか言った」
「えっ? い いえ別に」なんか危機を感じる
「まあいい・・・ UAI」
「はい システム開きっぱなしです 電気代が掛かりますよ」
「パワーセーフは?」
「実行はしてますがいろいろ付けっぱなしなもので」
 ユウロスは左手で頭をかいて
「分かった 地下のブースト・ジェネレーターがあっただろ」
「使うのですか?」
「ああ ワープシステムを使って用具一式を地下に移す 準備を頼む」
「分かりました」
 さっきから停滞している修理作業にツァイルが言う
「ユウロス 私の修理は?」
「ツァイルか あとはこのパーツを接続して外装を施せば終わるのだが」
「じゃあ すぐ終わりますね」
「本当は水槽にぶち込んで眠らせたままの方が修理はしやすいのだがなぁー」
「と とりあえずはここを片づけてしまいましょう」
 水槽につけ込まれるのがいやなのか逃げるツァイル
「ツァイル 全部電源を切ってコンセントを抜いてくれれば良い」
「はい わかりました」
 てきぱきと作業をこなすユウロスとツァイル
「しっかし・・・」あれだけ運動性能がいいツァイルでも勝てないとはねぇー 私のも結構いったんだけどなぁ・・・ あの化け物は強かったなぁー 全く本気で勝ちに来るんだもんなぁー
「ミレア?」
 ミレアの背後からユウロスが声をかけたが ミレアは反応しない
「はぁあああーっ」誰よ あんなハリネズミみたいなアイディアを出したのは・・・
「強かったよなぁー」
「ええ ツァイルが近づけなかったもんねぇー」
「ほんとに ツァイルがあそこで 撃っていれば勝てたかもしれないのになぁー」
「へっ?」
「結局 ソードからの一撃必殺に賭けた ツァイルの読み違いだな」
「ユウロス ツァイルがどうやって撃つの?」
「あれ・・・ ツァイルに教えてなかったっけか?」
 ユウロスはツァイルを呼び真相を訪ねた 返ってきた答えにユウロスは
「しまったぁーーーーーーーーーーーーー ーーーー ーー ー ー ー っ」
 声は次第にトーンが下がり最後は力無くとぎれた
「大丈夫ですか? ユウロス」
「ダメかもしれない・・・」
 失敗のショックを隠しきれないユウロス
「まあ 失敗は誰にでもあるよ」
 慰めようと声をかけたミレアの言葉の後
「ちくしょーーーーーーっ なんだかとってもちくしょーーーーーーーっ!」
 昨日に向かって叫ぶユウロスであった 結局その日のうちにラボの機材の移動とツァイルの改造修理を終えたのである

 翌朝 昨夜のうちにミレアの機材もミレアの研究室に戻したので 倉庫の中は何の加工もしていない原料の入ったドラム缶やコンテナ ユウロスがハーブを育てているハウス奥のトレーラー そしてユウロスの住居が見えるばかりである 当の本人は屋上で昼の光を浴び紅茶片手に新聞を広げていた
「ふむ まぁ 安定していて良い状態だな」
 ユウロスは紅茶を飲み干し読み終えた新聞とポットとカップを持ち倉庫の中へ

「ユウロス この新しいスタビバーニアは前のとはどう違うのですか?」
 ツァイルが降りて来たユウロスにスタビバーニアを片手で見せるように持っている
「それか? 今君の持っているスタビバーニアは まだ試作品なんだ」
「試作品ですか」
「前のが壊れるのを予想していなかったから試作品をそのまま流用している訳なんだな」
「なるほど」
「でも どんなものにしようか バーニアの噴出口からビームとか撃てるとか 光速の何倍かで移動できるとか ワープするとか 誰も知らないような破壊兵器付けるとか」
 目を輝かせながらツァイルに話すユウロス
「いりません!」
「でも 造るの私だし・・・」
 残念そうに言うユウロス
「そんなものを付けるのであれば自分で作ります!」
 大声を出すツァイル
「そう? じゃあがんばって 分からないことはUAIに聞けばいい」
 ユウロスはスマイルのままツァイルから離れた
「・・・ なんかうまく乗せられたような・・・」
 狐に摘まれたようなツァイルであった

 台所で空のポットとカップを洗い食器乾燥機の中に入れそのまま惰性で冷蔵庫を開ける
「あれ?」中身がほとんど無い
 冷蔵庫の中は誰かが掃除したかのようにきれいにものが無くなっていた
「参ったな」これでは夕食が・・・
 ユウロスは数日前に行ったばかりの買い出しに出かけるべく準備をする
 財布の中身を確認して倉庫の入り口付近においてある電気自動車の狭いボンネットを開きプラグを差し込む
「おかしい いくらなんでも あんなに 食料が減るなんて・・・」
 首を傾げ電気自動車のバッテリーの充電を待っているユウロスは気づいたようにツァイルに言う
「買い出しに行くが どうする?」
「行きます」
 ツァイルはなにかうれしそうにユウロスに答えた

 町中を走る電気自動車 昼の光を浴びて街路樹の植えられた道路を走る
「ユウロス 昨日ミレアさんの研究室に運んだ荷物ですが」
「食料が混じっていたとでも?」
「そうです」
「そうか ・・・」
 思った通りなので何も言えないユウロスと余りにも淡泊な答え方に拍子抜けのツァイルであった
 車は大通りに入る 間もなくショッピングセンターが見えその駐車場の中程に車を停めた
「さて 今日は何を買うかな」
 二人は車から降りショッピングセンターへ
「さて 今日は何を食べようかな」
 明るく元気なユウロスはカートを一つ取り出す
「食べられるものなら何でも・・・」
 心配そうに言い返すツァイルにつっこむユウロス
「げてものも食うのか?」
「それはちょっと・・・」まったく この人わ・・・
 笑いながらユウロスはカートの中に品物を選んでは入れる
 人の流れに沿って進みレジの前に到達したころにはカートがいっぱいになっていた
「野菜類に粉類に調味料に肉類と総菜か」
 カートの中に入っている物をしげしげと見つめたツァイルの言葉に対しユウロスは
「まあ こんな物だろ」
と 言っただけだった

 帰路に付いたユウロスは荷物を目一杯積み込んだ重い車を軽快に走らせている
「ユウロス ロボコンも終わったことだしこの街についての見聞を広めておきたいのですが」
「そうだな よい考えだな・・・」どうやってみたものか・・・
 黙り込み考え込むユウロス 少し時間をおいても反応がないのでツァイルは
「どうしたのです?」
「いい アイディアが浮かばない」
「では 誰かに聞きに行くとか はどうです?」
「そうするか・・・」現在位置は・・・
 ユウロスは車を喫茶店ユニに進める

 道が混んでいなかったので比較的早く喫茶店ユニの小さな駐車場の右側に車を停める事が出来た
「ユウロスここは?」
「行き付けの喫茶店だけど」
 ユウロスに答えながらツァイルをおいて中に入って行った
「あ ちょっと」待ってくれてもいいじゃないか・・・
 追いかけるように中に入るツァイル
「いらっしゃい ユウロスこれがロボットのツァイルなの?」
 喫茶店の主人である通称ママさんは訪ねた
「そうだけど ロボットと言うのは余計ですよ」
「そう」
 ツァイルはユウロスの隣の椅子に腰掛ける
「何にする?」
「私はいつもので」
 即答したユウロスの隣でツァイルが戸惑っている 見かねたユウロスは
「ツァイル 同じ物でいいかな?」
「えっ? ええ いいですよ」
「同じ物を」
「はいはい」
 ママは返事をし注文の品を作り始める ツァイルはユウロスの方を見ているが当のユウロスはなにか考え事をしているらしくツァイルも含めて回りのことなど気にしていないようだ
「ただいま」
 帰ってきたナッキャはカウンターの席に着いているユウロスとユウロスもどき(ナッキャの主観)が目に入るなり
「ロボコン見たよ」
 ・・・ 返事がない
「ねえ ちょっと聞いてるの 二人とも」
「私は聞いてますが ユウロスの方は」
 ユウロスは先ほどから微動だにせずなにかを考えているようにその場の三人には見えた
「生きてるの?」
「失礼な」
 ナッキャの言葉にユウロスは視線だけを向け言葉を発し またもとのようになにかを考えている ツァイルは若干硬直した空気を打破するためにナッキャに訪ねる
「ところで 見聞を広めるにはどうしたらいいと思いますか?」
「 見聞? うーん 博物館とかに行って来ればいいと思うけど どう?」
「博物館ですか なるほど」
 黙っていたユウロスは唐突にナッキャに訪ねる
「博物館があるのか?」
 時間が止まったのかナッキャが返答に戸惑ったのか 一瞬遅れて
「あるけど ・・・ ユウロス 知らなかったの?」
「美術館や図書館は行ったことがあるけど・・・」
「知らなかったのね」
 コクンと首を縦に振って返事をするユウロス
「では いつ行きます?」
 ナッキャに訪ねるツァイル 割り込むユウロス
「博物館は どこにあるんだ?」
「博物館はドラゴン飼育施設の近く」
「エルフ・ヤードの端っこだな ドラゴンの近くか」飛ぶわけにも・・・
「正確な場所は知らないけど近くに行けば案内の看板があると思うよ」
「そうか・・・ リニアが近くを通っていなかったか?」
「通ってたと思うけど わかんない」
「そうか 帰って調べれば済む事だな・・・」
「はいお待ちどう」
 ママがユウロスとツァイルの前に注文の品を置いた
「ふむ いただきます」
 ユウロスは自分なりに軽く会釈をし食べ始める ツァイルがその様子を見て
「ユウロス 普通に出来ないんですか?」
 口の中の物を飲み込む若干の沈黙の後ユウロスはツァイルに言った
「私は これが普通なのだが なぁ」

 帰りしな車の中でユウロスがつぶやく
「博物館か」
「どうしたのですか」
「うん どうも博物館という響きは くるものがある」わざものとか いっぱい置いてあるのかな
「くるもの?」はぁ?
「珍しいものや見たことの無いようなものが いっぱい置いてあるんだ いいぞぉーーっ」いいぞぉーーーっ
「いいぞぉーーって・・・」あ 危ない
「いつ いこうかなぁー 楽しみだなぁー」ふふっ ふふふっ ふわはははははははははははははっ・・・
「・・・。」ああ 逝ってしまった 遠くに

 翌日 昨夜遅くまで地下のラボで作業をしていたユウロスが目を覚ましたのは 日が高くあがった頃になってからだった
「ああ お早うございます」
 ツァイルがユウロスに挨拶をし材料を持って地下のラボに降りて行った
「今 昼だよな・・・」
 ユウロスは現在時間を確認し 元々UAIの置いてあった場所に置いてある机の椅子にかけUAIの端末の電源を入れネットに入る いつも真っ先に見るニュースエリアに入り ニュースを見て行く その中にブレーグ・ファウミィー変死のニュースがあったがユウロスは表情一つ変えずニュースを読んでいった 一通りニュースを読むと
「エルフ・ヤード ヘリオスのマップはどこに行けばいいかな?」
 独り言をつぶやきネットの徘徊を始めるユウロスであった

「だいたい出来たな」
 地下のラボでツァイルは完成間近のスタビバーニアを満足そうに眺める
「後は ブレードを造るだけですが リアルフレームデータを修正しますか?」
「そのままでいいよ」
「では 始めましょうか」
「ああ」
 装置の中で精製され形を変える金属 その様子をじっと見守るツァイル

 昼を過ぎた頃 ユウロスは空腹を覚えたのか台所に赴き料理を始めた
 下準備をしていると
 ぴぃーん ぽぉーーーーん
「・・・・」参ったなぁー
 エプロンを掛け両手で材料を揉んでいるユウロスは一度左右を見回し
「わるい 今手が離せないんだ かわりに出て」
「いいんですか?」
「たのむ」
「わかりました」

 入り口の上にある換気扇ぐらいの小さな戸を開けUAIの端末が外でもう一度チャイムを鳴らそうとしていたナッキャの頭上に声をかける
「何かご用でしょうか?」
「ユウロスに会いに来たのだけど いないの?」
「ユウロスならば今 料理の下準備をしています 何の料理かは知りませんけど」
「そう ・・・ 入っていい?」
「ええ 開いてますよ」
「ありがと」
 ナッキャはUAIの端末にそう言って 倉庫の中に入った
「いい小麦粉が全く手に入らないのが残念だな お陰で買う必要は無かったが」
 つぶやくユウロスは台所のテーブルに塊をぶつけてはこねている 丈夫なテーブルらしく打ちつけられても跳ね返すようないい音がテンポよく響く
 その音に引きずられるようにナッキャが台所に入ってきた
「何してるの?」
「見ての通り」
「それ何?」
 ナッキャはユウロスがこねている白い塊を指した
「いいもの 明日来たら食べさせてあげるけど」
「へえー ところで博物館にはいつ行くのかな?」
「まだ決めてない とりあえずツァイルが今作っているものができてからだね」
「そう・・・」
「どうした?」
「大学の休みが明日までだから・・・」
 ユウロスは手を止めナッキャのことばの続きを若干待つが 続きのないことを予想したのか
「そうか・・・ 分かった 博物館へ行くか」
「で でも」
「いいんだ どうせこっちは予定もないし 行き当たりばったりは得意だからな」
 ユウロスは先程までこねていたものを大きなボウルに入れそれを冷蔵庫に入れると 手を洗いエプロンをはずして
「UAI 博物館までの航路を設定してくれ」
「はい ボートの準備します」
「分かった ええと それからツァイルを呼び出して」
「はい あっ ユウロス ツァイルは」・・・
 ユウロスがことばの続きを訪ねるのとほぼ同時に
「何かあったのか?ユウロス・・・ あっ こんにちは」
 台所に入ってきたツァイルはナッキャがいるのに気づきあいさつをした
「博物館に行こうと思うのだがどうする?」
「博物館ですね 行きますよ 準備します」
 即答したツァイルは鼻歌を歌いながら廊下の奥のツァイルの部屋に入って行った
「ナッキャ 伯母さんに連絡入れたほうがいいんじゃないのか?」
「大丈夫 もう言ってあるから」
「本当に?」
 ユウロスはナッキャの瞳をのぞき込む 戸惑ったままユウロスの視線を受けるナッキャはそのまま逃げるように視線をそらせた
「まぁ いいか」
 ナッキャに背を向け苦笑するユウロス
「な なによ」
 ユウロスは振り返り
「行くんだろ?」
「行きます」
「よし UAI準備には後どのくらいかかるかな?」
「およそ20分程です」
「そうか 分かった でわっ 準備してくるから おとなしく待ってて」
 ユウロスは言いながら自室に入っていった
 戸の閉まる音を聞いたナッキャは 一気に緊張の糸が切れたのかテーブルの椅子に座り込んだ
「ふぅーーーーーーっ」 ・・・・
 静かな台所に時計の小さな音が大きく響く 突如
「大丈夫ですか?」
「へっ? えっ?」
 不意に話しかけられしどろもどろのナッキャ
 心拍数が上がっていましたので」
「人のデータを勝手にとるなんて失礼じゃない?」
「はぁ すみません でも一つだけ言わせてください あなたは何か病気をしていませんか 症状の進行速度はあまり早くありませんが放って置くのは危険です 位置は」・・・
 UAIの言葉を遮るようにナッキャが言葉をはく
「そんな事どうでもいいじゃない!」
「死亡予定まであと5年ほどです」
「治せないのよ 先天的なものだから諦めて・ なんでこんな話・・・」
 急に黙り込むナッキャ
「しかしぃー ・・・」
「なに?」
 UAIは話し続ける
「我々の技術ならば可能ですが」
「人を機械に造り変える気?」
「それも可能です」
「あのねぇーーーっ ・・・」
 ナッキャは頭を抱えてしまった いろんな情報がいっぱい入ってきたのか混乱しているナッキャが頭を抱えたままテーブルに向かって唸っている
 そんな所にツァイルが入って来た
「ユウロスは まだですか?」
「そのようです」
 唸ったままのナッキャ
 ツァイルは小声で
「どうしたの これ」
「さぁ」
 しばらくツァイルがナッキャの様子を遠巻きに見ている ツァイルが目を窓に向けて外の鳥の戯れを見ているとナッキャの声が
「もう 考えるのは やめやめ」
「何を 考えてたんだ?」
 ツァイルが振り向くと椅子に座って驚いて振り返るナッキャと 椅子の後ろに立っているユウロスの姿があった
「な ・・・ 何でもない・・・」
 ナッキャがユウロスから視線を外して答えた
「そう? でわ行きますか」
 ユウロスは倉庫に出る戸の前でナッキャとツァイルの二人に手招きをして倉庫の方へ
「UAI リフトアップまでは?」
「あと2分ほどで リフトアップできます」
「分かった」
 ユウロスはそのまま歩いて屋上への階段を昇り始める 後を追う様に二人が倉庫に出た
「ツァイル ユウロスはどうやって 博物館まで行くつもりなのかなぁ?」
「さあ ところで・・・」
 二人は話しながら屋上への階段を昇り始める

 地下ラボの下の階
「エネルギーチャージ完了 システムオールグリーン オプションユニットの接続チェック終了 リフトデッキへ」
 真っ暗闇の中 作動音が静かに部屋をなでる
「リフトデッキ固定確認 隔壁開放 リフトアップ」

倉庫の屋上 屋上に出たユウロスはいつも紅茶を飲むテーブルの椅子に腰掛け二人が上がってくるのを待つ 彼が上がってきた階段の裏手には緊急用の自家発電施設がある 間に道路のようにペイントを施された滑走路を挟んで施設の一つの太陽電池パネル群が今日も太陽の方向を向いている
「屋上の隔壁を開放します」
 ユウロスに対するUAIのアナウンスが終わると 彼の後方 滑走路の中央の一枚の床が陥没しスライドする
「思ったより早かったな」
「そうですか? ほぼ20分ですよ」
「分かった 留守番を頼むよ」
「はい」
 屋上と同じ高さに固定されたリフトの上に白いペイントを施されたボートクラスの宇宙船がジェネレーター回しっぱなしで 今 固定器具を外された所だった
「これには ワープシステムが付いていたよな?」
「はい」
「そうか 分かった」
 ユウロスが静かに風を感じ 二人が上がってくるのを待つ
「ユウロス 屋上に何のよ・・・ 」はぁーーーーーーーーー?
 ナッキャの視線の先に滑走路とボートクラスの宇宙船があった
「屋上に?滑走路?」
「行くよ 二人とも」
「んっ? あ はい ナッキャさん行きますよ」
 ツァイルが一瞬戸惑い状況を理解して ナッキャを引っ張って行く
「うん・・・」
 ユウロスが先に乗り込み操縦席に着く ナッキャとツァイルが後部座席に着いたのを確認して ユウロスがドアを閉めた
「でわ 行きますよ」
 ユウロスはT字型の操縦幹を左手に持ち 右手でスロットルレバーを入れ 足下のペダルを離して行く ペダルの下の透明のキャノピーの向こうに倉庫の屋上が見えている
「浮いてるの?」
 進み始める その進み方に驚いてナッキャが不意に言った
「ああ 浮いてるよ」
 ユウロスは即座に答え ナビゲーションシステムに方向と距離だけを表示するようにセットする ナビゲーションシステムはユウロスの視界内左上に平面の方向指示と直線距離を表示した
「あう・・・ ・・・」げっ 近い・・・
「どしたの?」
 ユウロスが発した言葉を受けてナッキャがユウロスに訪ねた
「いや わざわざこれを使っていく距離でもなかったなぁー と」
「出てしまったものはしょうがないでしょう それとも引き返しますか? ユウロス」
「ツァイル お前のアルゴってUAIと余り変わらないんだなぁー」
「それは そうですよTest Type UAI Light TTUAILですから」
「まあ このまま行くか」
 ユウロスは頭をぽりぽりとかき ナビの指示する方向に行くべく操作する

 ドラゴンの飼育施設
「今日はやけに騒がしいな」
 外からの音がうるさく戸を閉め再び作業を始めようというところに 職員の一人が所長室に入って来た
「所長っ」
「なんだ」
「ユニが」
「ユニがどうした」
「ユニがおびえて仕事に出ないんです それから帰ってくるはずのエリスも帰還を拒んでいます」
「どう言うことだ」
「そういわれても」
「前にも同じ事があったな そう 4年前程だあの時は全て皆飛ばなかった」
「でも所長 ドラゴンはどんなものよりも強いはずです」
「はず だな それがおびえるんだ ドラゴンが 超獣がおびえる か・・・ とりあえずなんとかなだめてくれ そうだな 根拠のない感情だから苦労するだろうが・・・」
「まぁ やってみます」
 職員が所長室から出て言った後
「まったく 誰だドラゴンをおびえさせる奴はっ!」

 ユウロス操縦のボートクラスの宇宙船
「へぇえっくしょぉおん」
「大丈夫ですか?」
「なんか 誰かに睨まれたような感じがする」・・・
 話している二人をよそに ちょっとブルーなナッキャ
 ユウロスはあまり気にせずに高度を下げ博物館に続く道路におりそのまま道路を走る
「ユウロス」
「なんだ ツァイル」
「あの・・・」
「・・・ふむ ナッキャどうした? 気分が悪いのなら」・・・
「あ ちょっと考え事をしていたから」
 作り笑いを浮かべるナッキャに対し相手の心理状態を想像内でシミュレートするユウロスは若干遅れて
「分かった もうじき着くと思うから」
「はい」
 道路から博物館の駐車場へ入り大型車両用のスペースに停止させ 着陸する
「着いたよ」
 ユウロスは後ろの二人に告げると左手でキーボードになにかを打ち込む
「忘れ物はないね?」
「大丈夫」
 後から降りたナッキャが返事を返した
「分かった」
 ユウロスはボートクラスの宇宙船から降りた 少し離れると開いていたドアがひとりでに閉まりロックされた
「行くよ」
 見ていたドアが閉まる様子を見ていた二人にユウロスは告げた 後には車でないモノが駐車場にあるという違和感だけが残っていた

 ドラゴンの飼育施設
 飼育係はドラゴンに再び話しかける
「いったい どうしたの? ユニ せめて 説明してくれないと 分からないじゃない?」
 ドラゴンは飼育係より低い声で力無く言葉を返す
「そう言われても 言葉に出来ないよ」
 飼育係は腕組みをして考え込む
「いったい・・・」体調は普通 エネルギーレベルも普通 何に対して怯え・・・
 飼育係はユニという名のドラゴンに何について怯えているのかを訪ねた ユニは力無く答える
「なにか分からないけど・・・ ものすごく強い人が エルフや他の動物ともちがうのが 近くに来てる・・・ 一番恐いのは その人の心の色が見えない 事」
「人?」
「人だよ 姿は ・・・ 昔はもっと月ぐらいに遠いところにいたのに 何年か前この街に」・・・
 突然放送が入る
「ユニ エリスが君の分の仕事をしてくれるそうだ」
 放送は切れた
「キアさん ごめんなさい」
 ユニは飼育係にそう言ってその場にうずくまった
「また来るよ ユニ」
 飼育係は一度振り返って宿舎へと足を進めた

 博物館内部
 三人はそれぞれ自分のペースで展示物の中を進む ペースが一番早いのはナッキャ その後をツァイル 最後がユウロス それぞれの間は12分ぐらい ナッキャにはあまり珍しい物がないのかかなりのペースで進んで行く ツァイルは目が拾う周波数域を広げ展示品を見て回っている さてユウロスはと言えば
 キョロキョロと何かをしきりに気にしているようだ さっきも警備員に声をかけられ5分ほど取り留めのない話を続けていた
「うーん どうも誰かに見られているような」・・・
 上の空のまま展示物の間を進み オーパーツのフロアに入ってきたユウロスは 待っていたツァイルとナッキャの前を気づかずに通り過ぎる
「ユウロス」
 呼ばれたユウロスが声のする方へ目を向ける途中 それはあった
「なっ ・・・」なぜ ここに?
「ちょっとユウロス」
「ダメみたいですね 全然反応してませんよ」
 緑色のいつもどおりの死んだ魚のような瞳でぼーっと展示品を見つめているように見えるユウロス
 ツァイルはどこからともなくハリセンを取り出す
「ちょっと ツァイル?」
 そのハリセンでユウロスを・・・
「ぐわっ」何だぁ? どうしたぁ?
「ユウロス 何をぼけっとしているんですか?」
「えっ? そう見えた?」
「・・・・ もう 先に行ってますよ」
 ツァイルは次のフロアへと階段を昇って行った
「どうしたの 大丈夫?」
「大丈夫だけど」
「あれが どうかしたの?」
 ナッキャがユウロスの見つめていた展示品を見た それは細長い杭のような形の白い磁器のようなもの表面は鏡のように磨き上げられているようにも見える
「 どうもしないわけではないが 今は ・・・ どうしようもないな」
「はぁ?」
「いや 気にしないで ・・・ 行こうか」
 二人は次のフロアへ 階段を昇って行った

 翌日
「ふむ」
 ユウロスは先ほどネットのニュースを見終え その関連でドラゴンの飼育施設にアクセスしていた
「しかし ドラゴンとわよく言った・・・ 完全に兵器だな」
 昨日の出来事についてのコラムを読む
「私を?」私を恐れて・・・
 ユウロスは昨日の謝罪として匿名でメールを送り 端末機の電源を落とし部屋から出た

「ユウロス 書庫を開けてもらえますか?」
「書庫?」
「ええ 地下の 書庫と言うからにはかなりの本が入っていると」・・・
 ツァイルの言葉を制止させユウロスは頭をかきながら
「いやぁ 中を見てもいいけど あれね まだほとんど本は入っていないよ」
「はぁ?」
「いや ここの歴史書と技術書と他が少しあるぐらいで まだ面白い本がなくて」
「そうですか」
「どうせなら 図書館へ行ってみたら?」
「図書館ですか?」
「ああ それはそうと 今日はこれから仕込みだから」
「まだ10時ですよ」
「まあそう言わずに それから書庫のロックはUAIに言えば開けてくれるよ」
「あ はい」
 ユウロスはテーブルの上を片づけ下準備をしてから冷蔵庫から例の白い固まりの入ったボウルを取り出し 膨らみ具合を確かめ冷蔵庫の中へ戻した その後一度その場を離れ戸棚の中から鰹節と昆布を取り出し スープ用の深い鍋に水を入れ火にかける 小刀を取り出し鍋の上で鰹節を切り取って鍋の中に落とし込む 小刀を片づけ昆布を鍋のそばにおいておき 椅子に掛け沸騰するのを待つ
 しばらくぼーっとしていたユウロスの耳にUAIの声が入る
「ユウロス リディアからワルキュリア・アイとサイ・アームが届けられました ワープシステムの到着物置き場に置いてあります」
「リディアから ?」
「はい」
「分かった」リディアがねぇ 珍しいこともあるものだ
 ユウロスは鍋の湯が沸騰する直前に弱火にし昆布を入れて 台所を出て地下のワープシステムに急ぐ
「しかし」なぜ あんなものを送ったのか まあ取りに行く手間が省けたものだな
 地下に移したラボの横を通り過ぎワープシステムの横の到着物置き場を見渡した
「あれ? サイ・アームって白かったかなぁー」
 ユウロスの目の前には一部品足りないワルキュリア・アイと白いサイ・アームが飾るように置かれている 記憶の中からサイ・アームを思い出し目の前にあるものと照合する
「いや ・・・ サイ・アームは黒い漆が・・・ バル バルキリー隠れていると送り返すぞ」
 ユウロスの声に反応するように白いサイ・アームが人の形へと変わって行く
「すみません・・・ マスター お久しぶりです」
「・・・・」ううっ なんと言ったらいいのか・・・
「あの マスタぁ?」
 ユウロスは今までの経緯と言い訳をどう説明しようか考えているのか 全然返事かない
「あの 私は怒ってませんから 私はマスターが生きていたことを知っていますし それに」
 ユウロスはバルキリーの言葉を制止するような強い口調で
「なぜ そんなことを知っている?」
「マスターが作られたサード・エネルギー検知装置のおかげです」
「そうか そんな物も作ったな」だから 真っ先に飛んで来なかったのかな
「でも 本来なら真っ先に駆けつけなければならないのに 申し訳ありません」
「 ・・・ その事だけど 真っ先に駆けつけられても その時には既に原住民と接触していたから 来られると原住民の混乱を仰ぐだけだよ」
「そうなんですか?」
「ああ 後で聞いた話だが真っ先に病院の手術室経由で集中治療室に送られたそうだ」
「はぁ」
「その後 体液とかCTとか色々調べられたよ まあ髪の毛を抜かれるのを免れたのは不幸中の幸いだったけどね」
「はぁーーー」
 疲れたような表情をしてユウロスの話を聞いているバルキリー
「ん それはそうと 休暇中でしょ? バル」
「えっ? そうでした?」
「そうだよ」
 しばし凍る時間
「えっ? えっ? それじゃあ・・・」
 困惑のバルキリーを笑みを浮かべ見ているユウロス
「え あ あ どうしよう」
 笑みを浮かべたまま傍観するユウロス
「ん? 休暇中ですよね?」
「ああ」
「じゃあ 私の自由にしていて良いのですね」
「よくできました」
 ユウロスはバルキリーの頭をなでる
「マスター からかわないで下さい」
「ふふっ バル 一つ頼みがあるのだが・・・」
「はぁ マスターの仕事でなければ」
「本物のサイ・アームをここに持ってきてくれ」
「あんな物 どうするんですか?」
「あれがあると いろいろ便利なんだよ」
「分かりました でわ早速」
 バルキリーはワープシステムを作動させ 装置の真ん中に立ち
「行って来ます」
 そう言った直後ワープして行った
「ああ なんかややこしくなってきたな フリーナに知られなきゃいいけど・・・」
 ユウロスはそばの壁に掛けてある小さなホワイトボードにバルキリー宛の伝言を書き留め台所へと足を進めた その途中
「ユウロス さっきの人は?」
「見たね?」
 ユウロスは足を止め笑みを浮かべツァイルに言った
「見ました」
 率直に答えるツァイル
「とりあえず上に」
 ユウロスは再び台所へと足を進める ツァイルは歴史書を片手に後について行く
「・・・」この人はいったい何のために 生きているのだろうか 私はこれからこの社会に順応して行けばよいが ユウロスはいったい なんのために ここにいるのだろうか
 ツァイルは前を行くユウロスの背中を見つめながらそんな事を考えていた
 台所に着いたユウロスは鍋の様子を見て 紅茶をティーポットに入れる ゆっくりと
「ユウロス」
「まあ まて 時間は まだまだある」
 3人分のティーカップを用意し一つをツァイルの前に 一つをツァイルの向かい側の席に 一つをティーポットの横に置き ツァイルとユウロスのティーカップに紅茶をゆっくりと注ぎ 先にテーブルに着いたツァイルと向き合うようにテーブルに着いた
「何から 知りたい」
「さっきの 女の人のことです」
「ふむ」
 ユウロスはツァイルの瞳をのぞき込むようにして話し始めた
「残念ながら あれは生物進化の過程から発生した生物ではない 私と同様作られた物だ 私の為に 詳しい事は 後ろに本人がいるから直接聞けばいい」
 笑みを浮かべたユウロスの視線がツァイルの眼球から外れその後ろに向けられる  ツァイルはユウロスの視線を追うように振り向いた
「マスタぁぁぁぁぁ」
 さげすんだ目つきでユウロスを見ているバルキリー
「バル 君の分の紅茶も用意してある 何ならお菓子でも出そうか?」
「バームクーヘンあります?」
 先ほどの事はどこへ行ったのか目を輝かせ席に着くバルキリー
「・・・ ・・・ ・・」なん なんだか・・・
 ツァイルはその様子を拍子抜けした表情で見ている
 ユウロスは冷蔵庫の中からバームクーヘンを取り出し一人分を切り取って皿に載せフォークを添え紅茶と共にバルキリーの前に出した
「いただきます」
 幸せそうな表情で食べるバルキリー
 自分の分の紅茶を飲み干し
「しばらく 下で作業している 用がなければ来ないように」
 ユウロスは二人に言い地下のラボへ行くべく台所から出て行った
「はぁ 行ってしまった」
 ツァイルはユウロスが出て行った戸からバームクーヘンを食べているバルキリーに視線を向ける
「・・・」とりあえず 食べ終わるのを待つか
 マイペースでバームクーヘンを食べ終えたバルキリーはようやくツァイルの視線に気づき紅茶を飲み
「何か」
「ああ いや ・・・ 君はユウロスの何を知っているのか聞きたくて それで 食べ終えるのを待っていたんだけど」
「・・・ 私はバルキリー・ディ・ハルシオーネ 君は」
「私はツァイル 名前だけだよ」
「そう あなたはユウロスの作ったロボットですね」
「ユウロスに聞いたんですか?」
「見ればそのくらいは分かるわ」
「・・・ じゃあ」
「そう」
 しばらく沈黙の後口を開いたのはツァイルだった
「あの ユウロスの事について聞かせてもらえます?」
「何を? マスターの事と言っても いろいろ あるけど」
「・・・ そーですねぇ でわ彼の存在理由について」
「存在理由? ・・・ 随分と難しいことを聞くのねぇー」参ったなぁー
「そうでしょうか?」
「まぁいいか ・・・ マスターにはこの星を管理するという仕事があるの できるだけ文化に干渉しない形で ・・・ でもそれは存在理由にはならないはねぇー 私が思うにマスターの存在理由は魔法の管理者である事かな」
「魔法?」
「でもね ツァイル 存在理由を突き詰めることだけは止めなさい 必ず破滅するわ」
「そうですか」
 ツァイルはしばらく沈黙する そのあいだにバルキリーはティーカップに新たに紅茶を注ぎ 一口飲む 唐突にツァイルは
「魔法って なんです?」
「ファンタジーのお約束」
「ファンタジー? 空想ものですか?」
「ファンタジーもの読んだこと無い?」
「はあ まだ歴史書とかしか読んだことないから」
「もしかして まだ作られてから数日とか?」
「ピンポーン」
「・・・」なんともはや・・・

 地下のラボ
「UAI 博物館の見取り図とワルキュリア・アイの部品のある位置を」
「分かりました 多分時間が掛かると思いますよ ですから上の端末に送っておきましょうか?」
「そうだな わかった ・・・ それからワープシステムを切り放してくれ」
「いいのですか?」
「ああ 必要なときにだけ使えるようになっていればいい」
「分かりました でわ物理的な切断はしないで下さい」
「たのむよ」
 ユウロスは階段へとUAIの前を離れた

 昼過ぎ
 倉庫入り口
「今日は何を食べさせてくれるのかなぁ」
 倉庫の前でナッキャはベルを鳴らしたあとにつぶやき 静かに待っていた
 しばらくすると扉の上の窓からUAIの端末が出て来て
「ご用件は? あらナッキャさん」
「こんにちは」
 ナッキャは端末に挨拶をする
「こんにちは ユウロスでしたら中にいます どうぞ 鍵は開いていますよ」
「ありがとう」
 ナッキャは倉庫の中に入る
「あれ?」なんだろうこの匂い
 ナッキャの鼻に鰹節と昆布を煮込んでいる匂いが台所からゆっくりと流れてきていた ゆっくりと匂いの来る台所へと足が進むナッキャ
「んっ?」あれはナッキャ だよな
 ユウロスは階段から上がってきて台所へ向かう途中でナッキャの後ろ姿が視界に入った
「なんの匂いかな?」
 ナッキャはゆっくりと話し声のする台所へと足を進める そのすぐ背後にユウロスが物音一つ立てずにくっついている
「でもいい匂い」
「そう思う?」
「《ナッキャの言葉にならない叫び》・・・ はぁ はぁ・・・ いつからそこにいたの?」
「君が倉庫に入って少ししてからずっと」
 ユウロスはナッキャに答えながら台所に入る ナッキャもその後を追うように台所に入った
 台所ではまだバルキリーとツァイルが取り留めもない話をしていた
「バル 紹介しとくよこちらはナッキャ・・・ ナッキャ何だけ?」
「ナッキャ・ストラフィーネです」
「その口の横にバームクーヘンの食べかすが付いているがバルキリー バルキリー・ディ・ハルシオーネ」
「もう マスターっ!」
「? なんでユウロスってマスターって呼ばれるの?」
「ああ バルは私のために造られた者だから 別にユウロスって呼んでもらっても構わないのだけどねぇ」
「ふーん でユウロス 今日は何を食べさせてくれるの?」
「ああ それか」
 ユウロスは火にかけっぱなしの鍋をのぞき込み 食器棚から湯飲みを人数分取り出しテーブルに置き
 そこに緑茶を注ぐ
「座ってて」
 ユウロスは火を止め鍋の中の固形物を取り出し一度味見をして液体の調味料を加え かき混ぜて蓋をした その隣にそれより二回り大きい鍋に水を張り火にかける
 ユウロスがそんなことをしている間にナッキャはバルキリーらと話をしている

 しばらくするとテーブルの前に五・六人分はあるざるうどんが・・・
「何これ? ユウロス」
「ざるうどん」
 ユウロスはつゆを注いだお碗と箸を配り席についた
「マスター ねぎは?」
「ごめんここには無いんだ」
「そうですか では いただきます」
 およそ一口分を味見するように食べるバルキリー
「マスター」
「なに?」
「つゆの方は申し分ありませんが 麺の方はもう少しこしがほしいですね」
「そう? どれ」
 ユウロスも一口分を味見するように食べる
「ふむ まあこんなもんだろ 私は職人じゃないし」
 ツァイルが見よう見まねで箸をぶきっちょに使い食べはじめる
 食べている三人を 前に箸と言う未知の道具を見よう見まねで持ちツァイルより不器用に毒味でもするかのような顔つきで食べはじめるナッキャは 一口分を飲み込んだ後に
「淡白な味ねぇ」
 あまり喋ることもなく黙々と食べる4人 そんな時
 ピィーンポォーン
「んっ・・・ 誰だ? 今日は千客万来かな?」
 ユウロスは倉庫の入り口へと台所を出ていった

 キョロキョロとあたりを見回し倉庫の入り口のまえには外科医のクライネ・スタフナールが鞄を片手に立っていた
「はい 何でしょうか?」
「ユウロス ・・・ ノジールさん? そうですよね?」
「え? あ まあ そうですがなにか?」
「私は外科医のクライネ・スタフナールと言います ユウロスさん 突然で申し訳ないのですが 私を貴方の主治医にしていただけませんか?」
「は? ・・・ いや でも 私には専門の主治医がいますし そう 言われても」
「貴方の体のデータが書いてあるカルテをコピー共に持ってきています これとこの契約書にサインさえしていただければ 貴方のこのデータは私が管理することになります」
 ユウロスはクライネの瞳を覗き込む その冷たい視線で
「分かりました 貴方を信用しましょう ただし そこまでする以上は大きなリスクを背負ってもらいます」
「リスクですか?」
「ええ できますか?」
「かまいません」
「分かりました取りあえず今日はサインをするにとどめますが 明日また来ていただけますか?」
「午後3時以降だったら 開いていると思いますが」
「分かりました 取りあえずペンを」
「あ はい」
 ペンを受け取ったユウロスは地球文化圏の公用語の筆記体でサインをかいた
「クライネさんと言いましたね」
「はい」
「もう 後には戻れませんよ」
「後悔はしないつもりです では明日」
「はい」
 クライネは書類を鞄に入れ倉庫から離れていった
「あの人 これから大変だねぇ」
 言いながら戸を閉めたユウロスであった

 夜 ユウロスはツァイルが寝たのを確認して地下のラボに降りた
「UAI 博物館の見取り図と例の部品の座標をインコムの方にまわしてくれ」
「分かりました」
 インコムをかぶり黒漆の深い輝きを持つサイ・アームをまとい 体をほぐすように動かし 部品のかけたワルキュリア・アイを左手に持ち
「・・・さて 行きますか」
 その座標から消えた

 夜の博物館内部は夜間用の照明に暗く照らされていた その細長い杭のような形の白い磁器のようなものの前にユウロスは現れた
「さて」
 ワルキュリア・アイの先端を向け
「戻って おいで」
 白く細長い磁器のようなものがゆっくりとケースをすり抜け ワルキュリア・アイの部品の欠けた場所に吸い込まれるように静かに固定された
「大丈夫のようだな」
 そう言って あらかじめ用意していた紙をその場に落とした
 鳴り始める警報機
「いまさら」
 ユウロスはその場から消える

 大学近辺
「はぁー やっと終わった」
 ナッキャが調べものでもしていたのかかなり遅い時間に下宿している叔母の家への帰途についていた
「今ごろ帰っても 何も残ってないだろうなぁ」
 その赤毛をくしゃくしゃとかき近くのコンビニへと角をまがる
 暗がりから大通りへ出ようとしたそのとき
 体の中から引き裂くような痛みがはしる
「ぐあっ」
 驚きにも似たような声を上げ 自分自身をその痛みを押さえつけるように力強く抱きしめた
「っ ・・・」こんな ときに・・・
 痛みに押しつぶされるように次第に声も上げられなくなる
「・・・」いや・・・ だれか助けて・・・ まだ・・・
 意識が遠のいていった 彼女は自分自身を抱きしめたまま膝をつき道に倒れ込んだ

 博物館屋上
 警報が鳴り 遠くの方から 警察の車両がいくつか走って来ている
「箒へ」
 ユウロスがつぶやくように言うと ワルキュリア・アイがさながら箒のように白いフィンの方向を変える ユウロスは浮力があることを確認し横から腰掛け暗い空へ飛び出した

 低空で道路の上を飛ぶ
「ん?」
 不意に止まり振り向いたユウロスの視界には 誰かがうずくまっているのが見えた
「見たことがあるな」
 ワルキュリア・アイから下り うずくまっている人に近づく
「・・・ナッキャ ・・・ だよな」
 ぐったりとしているナッキャの脈をみる
「大丈夫か?」
 ユウロスはナッキャを抱え上げてワルキュリア・アイに腰掛けその場を去った

 博物館警備室
「カメラには何か映っているか?」
「いま ダビングしながら見ています」
 そのカメラはケースをすり抜けた白く細長い展示品と 何もない空中に突然現れ床に落ちた紙だけが映っていた その紙には「壊さずにいてくれたことをありがたく思う」と表面を黒く変色させた文字で書かれていた

 翌朝 屋上にて紅茶を用意したテーブルの横で椅子に深く掛け新聞を広げる  新聞には昨夜の博物館にて展示品の一つが消えたことが書かれている
「さて」・・・
 記事の内容を確認し新聞をテーブルに置き紅茶を飲む
 誰一人ユウロスが漆黒のアーマーをまとい夜の空を飛んでいる事に気づく者はいなかったのである
 ユウロスが景色を見ているとツァイルの声がかかる
「ああ ここにいたんですか 今日の新聞いいですか?」
「今読み終えたところだ 持っていっていいよ」
「ナッキャは まだ起きないか?」
「さあ 見てませんから」
「そうか」そろそろリディアが来るはずだが・・・
 ユウロスは紅茶の道具一式をもって台所へと降りて行った 変わりにツァイルが椅子に腰掛け新聞を読み始める

「ユウロス」
「思ったより早かったな」
 ダイニングで椅子に座っているリディア ユウロスは紅茶の道具一式を片づけながら
「ああ そうだ・・・ 用件の前に一人診てもらえるか?」
「・・・かまわんが」ユウロス?・・・
「突き当たりの客間に寝かせてある」
「そうか」
「あの よろしいでしょうか?」
ユウロス&リディア「何だ?」
「あ リディアさんの方です」
「ん それで?」
「患者のデータを送ります インコムを」
「分かった」
 リディアは鞄の中からインコムを取り出しデータの受け入れ準備をしながら客間に入って行った
「患者のデータ?」
「はい ナッキャさんのデータです」
「あれ どこか患っていたのか?」
「はい 本人がそう言ってました」
「そうか・・・ この件に関するリディアの要請には全て応えるように」
「了解 ・・・ あの よろしいのですか?」
「何が?」
「ナッキャさんの容体です」
「プロの邪魔をする気はない リディアはプロだ 余計な介入で成功率を落としたくはない」
「・・・ 分かりました」
 ユウロスは少しそわそわした様子で落ち着きなくテーブルの上に肘をついて黙り込んでいる
「・・・ ・・・」どうしたもんですかねぇ
「あの」
「・・・ なんだ?」
「はぁ 今日は外科医のクライネ・スタフナールさんが来られる予定なのでは?」
「そうだが」
「リディアさんに会わせるのでは? もっとも リディアさんは手術を始めた模様ですが」
「そうだな 頃合いを見て伝えてくれ」
「分かりました」
「後は頼むぞ」
「え? は はぁ」参ったねぇー
 ユウロスは逃げるようにダイニングから倉庫の方へ出で行った
 しばらくして台所にバルキリーが寝間着のまま起きてきた 冷蔵庫から卵を取りだし目玉焼きを作りはじめる
「バルキリー殿」
「なに?」
「今 ナッキャさんがリディア殿の手術を受けています」
「そう 昨晩から一日ほおっておいて いまさら」
「そう申されましても ユウロス曰く万全で手術にのぞんでもらいたいとのことです」
「リディアさんは何か言ってた?」
「はあ ついでにサンプルを取っておくとのことで・・・」
「・・・全く」あの人はぁー
 UAI相手に取り留めの無い話をしながら食事をとるバルキリー 彼女は食事を終えると
「マスターは?」
「地下のラボです」
「ありがと」
 台所を出ながら寝間着を普段着に変化させ地下のラボへと足を進めていった

 昼過ぎ それぞれに食事を終えユウロスが手術中のリディアの分を残し後片付けをした後で 紅茶の用意をしている最中だった
「ユウロス殿 クライネ・スタフナールが到着されました」
「ここへ 通してくれ」
「はい」
 倉庫を通って外科医のクライネ・スタフナールが台所に入ってきた
「こんにちはユウロスさん」
 クライネは挨拶をする
「どうぞお掛けになってください」
 ユウロスは紅茶の用意をしながらクライネに言った 程なくテーブルの上から紅茶の香りが広がる
 クライネと向かい合うように席についたユウロスはクライネに紅茶を差し出す
「どうぞ」
「あ どうも 昨日ユウロスさんに頂いたサインのおかげで 昨日のうちに書類を提出することが出来ました それから昨日はサインを先に済ませてしまったので前後してしまうのですが この書類に目を通してください」
 ユウロスは黙って数枚の書類を受け取り読みはじめる クライネは書類を読んでいるユウロスを見ながら紅茶をすする しばらくしてユウロスは一通り目を通した書類をテーブルに置き
「結構お金かかるなぁー それはまぁ 致し方ないとしても・・・」
 クライネがユウロスの方を若干不安げな表情で見ている
「あと幾ら残ってる? 貯蓄」
「現在240万ほどです 現在のペースで消費しますと1年でゼロになります そろそろ何か特許でも取られた方がいいと思いますが?」
「なるほど」
「ユウロスさん?」
「はい」
「先ほどから喋っているのは何方ですか?」
「私ですか?」
「はい」
「私はこの家を管理しているコンピューターです 出来れば私の事はUAIとお呼びください」
「はあ どうも」
 どんどん深みにはまっていくクライネであった そのクライネにユウロスは
「この件は了解した さて・・・ あなたにはこれから私の主治医に会って その知識を分けてもらってください」
「あの ユウロス殿? リディアさんからの伝言です 要約しますと 現在手術中なので雑菌は持ち込まないようにとのことです」
「分かった クライネさんちょっと待ってて下さいね」
 ユウロスは駆け足で倉庫の方へ出て行った
「どうも なぁ」
「疲れますか?」
「私は当年とって86歳だが ユウロスさんは何歳なのですか?」
「さあ 詳しいことは知りませんがたしか数世紀前に5万歳になったとか聞いてますけど」
「5万歳? 我々とは 違うんだな」
「ええ ここからは見えないくらい遠くにある銀河系とそこに住んでいる人たちが呼んでいる小宇宙のオリオン腕宇宙区にある地球と呼ばれる星でユウロス殿は生まれたんです」
「ふぅん」
すでに夢か幻でも見るように聞いているクライネであった
「クライネ殿 リディア殿から伝言です 手術の用意があるのならば消毒して入ってこられたし とのことです」
「いいんですか?」
「問題は無いはずですよ 現在ユウロス殿が道具をもって上がって来ていますから 作業着に着替えていてください」
「道具ねぇ」
 状況がつかめないまま 言われるままに手術の準備に入るクライネ外科医であった
「来ました」
 UAIに言われるまま倉庫の方を向くクライネは
「なんですか? それは」
 ユウロスは持ってきたものをリディアが手術中の部屋の戸の前の床に置いた
「これは宇宙船なんかにある殺菌装置だけど・・・ ああ見るのは初めてだね」
「それは まぁ そうですが」
「準備は出来ましたか? クライネさん」
「いいですよ」
「接続チェック完了です」
「でわ クライネさん あの上を通るだけで殺菌消毒されますから どうぞ」
「はあ・・・」
 クライネは装置の上を恐る恐る通り抜ける 何事もなく通り抜けたクライネは
「これでいいんですか?」
「ええ大丈夫です」
「そうですか では」
 クライネはリディアが手術をしている部屋に入って行った

 クライネが入っていってしばらく静かにしていたユウロスだが 「ユウロス殿 電話です 映像もあります」
「どこから?」
「喫茶店ユニからですが 何か?」
「いや 出る」
「はい」
 ユウロスは電話用のイヤホンをつけた すぐ後に目の前に平面画像が現れる
「ああママさん こんにちは ナッキャですね ・・・ 大丈夫ですよ今ここで外科医の手術を受けています・・・ はい ・・・ はい 取りあえず手術が終わり次第結果をお伝えしますのでそれまで待ってください 私も手術している部屋の外にいるものでして ・・・ はい 必ずお伝えしますのではい でわ 後程」
 平面画像が消え ユウロスはイヤホンをはずしポケットの中に入れた
「ユウロス殿?」
「何だ?」
「ナッキャ殿の今までのデータを比較のために刷っておきましょうか?」
「いや リディアにこの事についての書類を出すように言ってくれ」
「分かりました では手術が終わりましたら伝えます」
「ああ」・・・ しかし どうしたものかなぁー
 ぼりぼりと頭をかき自室へと去るユウロス
 誰もいなくなった台所で・・・
「しかしまあ ユウロス殿に予算を工面してもらわないと この先どうなるやら・・・」

『第一章 終』
製作・著作 しまぷう


続き(第二章へ)

Ende