リリカルなのは、双子の静 第二話



 海鳴市藤見町高町家、夕刻。
 静が伊勢のマスターとなってから数日後の深夜。なのはは近くの学校で、また一つのジュエルシードを封印していた。
 明くる日の朝、静はいっこうに起きないなのはを直接起こして、朝食に間に合わせたりしたのだ。
 そんな苦労も、静は気にしない。
『相手が時と場所を選ばないのは、しんどいわね』
『そうですね』
 ジュエルシードの暴走は時と場所を選ばない、その分のなのはの負担が心配なのである。
 このところ静は、なのはとユーノから離れている事を確認したうえで、魔法の訓練をしている。
 とは言え、まだ数日しか経っていないので、静がマスターした物はあまりない。
 念話に関しては最優先に訓練しており、隣の部屋になのはとユーノがいても、意図的に盗聴でもされない限り、気付かれる心配はなくなっている。
 伊勢曰く「完璧な暗合念話」との事だが、「そのうち解読されるわね」と静は諦めるように返している。

 伊勢と暗合念話で会話しながらに、静は宿題を済ませた。
 大きく伸びをしながらカレンダーでスケジュールを確認する。
「今日は、弓道の道場か」
『行ってらっしゃいませ』
『うん、少ししたらお父さんに送ってもらうの』
 そう言いながら弓道衣に着替える。
『そう言えば、バリアジャケットのデザインは決まりましたか?』
『だいたいは決めたわ、続きは帰ってからね』
『はい、お待ちしています』
 静が部屋から出て行った後、伊勢は警戒モードの上で、図書館で得たデータ整理を続けると共に、得たデータ内で有意な物を機能に組み込む作業を続けていた。
 スクライア製だけあって、遺跡発掘に関係するノウハウに関しては、新たに得たデータは数える程だったが、文化、風俗、生産に関する情報は非常に多岐にわたる。
 もっとも、それは発送された段階では、魔法に関するノウハウや、遺跡発掘に関するノウハウしか入ってなかった、という現実が大きい。
 それらの作業とは別に、静が図書館から借りてきた二冊の本の内容を検討していた。
 日本神道に関する本と、戦艦伊勢に関する本の事である。


 海鳴市藤見町高町家、夕刻。
「今日の静はすごかったな」
「何々?どうしたの?」
「一射目がど真ん中に命中したんだ、さすがにその後はいつも通りだったけど」
 家族そろっての少し遅めの夕食の場で、士郎は未だに驚きを隠さずに言った。
「すごいじゃない静」
 桃子も手放しで喜ぶが、静はいつも通りに「そんな事はない」と、困惑して否定するのだった。
 なぜならば。魔法を使って誘導した矢が、あまりにも思い通りに真ん中に入った物で、純粋に弓道という観点で見るならば邪道と言える。
 同時に、普段からほめられる度に否定する静の性格もあった。
 結果的に、家族からは普段と同じように、恥ずかしがっていると受け止められるのだった。

 一人で夕飯の片付けをして、部屋に戻ってくるなり、静はベッドに横になる。
 両親と長女の美由希は翠屋の閉店作業で家にはいない。
「失敗したなぁ」
 そう呟いて、ふと今日はなのはが出かけていない事に気付いた。
『ねぇ、今日なのはお姉ちゃん、何処にも出かけて無いよね?』
『はい、先ほどユーノにお休みするように釘を刺されていますから、そのせいではないでしょうか』
『ふーん。 …何で分かるの?』
『廊下からそう聞こえてきましたから』
「おねえちゃん…」
 思わずなのはの事が心配になる。
『今日は、バリアジャケットの設定は無理だね』
『そうですね』
 ベッドから起き出して、席に着きノートPCを立ち上げる。
 メールを確認すると一件栞からメールが来ていた、早速開く。

 ちょっと気になったんやけど、ななせがこの前借りたのって、軍艦の本やんね?
 あと、神主さんのイラストがあった本も借りてたけど、今度は何を調べとん?

 静は返事を書き込みながら、バリアジャケットの事を考えていた。
 少しばかり行き詰まっていた事もあって、その辺を相談してみる事にした。無論バリアジャケットであると言う事は隠してである。
 メールを送信し終えると、一息吐いてからブラウザを立ち上げ、明日の天気を確認する。
「良い天気ね」
『私にも扱えればいいのですが』
『子供用にフィルターがかかった情報しか得られないから、あんまり有意じゃないわよ?』
『残念です』
『本来なら人間の黒い部分も大量に出てくるんだから。 …私は見たくないけど』
 暗合念話を交わしながら、静は興味の赴くままにネットを漂ってゆく。
『ああそうだ、バリアジャケットだけど、だいたいこんなのを考えてるの』
 そう言ってあるサイトのギャラリーから一枚の絵を開く。
 開かれたのは和弓を引き絞る巫女の絵。
『これを基本に、必要な装備を追加する方向で考えたいわ』
『残念ですが、バリアジャケットには追加装備は考慮されて無いんです』
『えっ、そうなの?』
『はい、残念ながら』
 それからしばらく、静の要求が伊勢にぶつけられる。途中からもう一着要求されるが、それは簡単に通った。
『なんで?』
『バリアジャケットのシステムに、組み込みが考慮されていないのです。追加する場合はシステムを一から見直して組み込まなくて気なりません』
『なるほどね、そのうち教えて貰える? 出来れば今決めた物を両方ともメインフレームにして色々追加できるようにしたいから』
『分かりました』
 結局、巫女型と魔法使い型の二つが、サイズ合わせ前の仮縫い状態のデータとして、伊勢の中に納められた。
 試着と微調整は次の機会にということで、その日は就寝するのだった。




 海鳴市内、河川敷グランド、午前中。
 なのはとその二人の友人、アリサとすずか。その三人はそろって、今し方始まったサッカーの試合を応援している。
 なのはとの間柄ほどではないが、アリサとすずかも静の事を仲の良い友人だと思っている。
 その静は三人が座るベンチの端で、三脚の上のカメラを操作している。けっこう集中力を使うのだが、静は慣れた手つきで試合の様子を納めていた。
 ハーフタイムになって試合が途切れると、ユーノが興味津々という感じでカメラを見ていることにアリサが気付いた。
「動物なのに、機械に興味があるのなんて珍しいわね」
「レンズから入った光を、分光してそれぞれセンサーで読み取り、デジタルデータにして圧縮記憶する装置よ、媒体はテープ」
 静はユーノに人間と同等の知性があることを知っているので、カメラのことを簡潔に説明した。
「静… いくら何でも、フェレットに分かるとは思えないけど?」
「そう? ユーノからは知性を感じるから説明してみたんだけど」
「確かに賢そうには見えるけど」
 すずかも困惑しながら、なのはの膝の上のユーノを見下ろす。
 なのはは只、苦笑いするのだった。


 海鳴市、翠屋前、お昼。
 なのは、静、アリサ、すずかの四人は、店の前に用意されているテーブルの一つでユーノを囲んでいた。
 店内は試合の打ち上げに使われており、ほぼ貸し切り状態になっている。
「なんかこの子、フェレットとはちょっと違わない?」
「そう言えばそうかな、動物病院の院長先生も替わった子だねって言ってたし」
「写真を幾つか撮ってあるから、インターネット経由で検証できると思うわよ?」
 思わずそう言った静だが、なのはの困惑の表情が深くなるのに気付いて、
「でもそんな事したら可哀想か、実験動物にされるのはちょっとね」
 と、ごまかす。
「そうだよ静ぁ。 …そうだ、この子とっても賢いんだよ? ほらユーノ君、お手!」
「キュッ」
 なのはの差し出した手と「お手」の言葉に素早く片手を乗せるユーノ。
 アリサとすずかはその可愛さに感動しているが、静はユーノに深く同情するのだった。

 店の戸が開いて、サッカーチームの子供達が「ごちそうさまでした」と、お礼を言いながら、わらわらと出てくる。
 士郎が最後に出てきて、子供達にねぎらいの言葉をかけて解散となった。
 その様子をぼんやりと見ていた静の視界に、何度も映像で見ていたジュエルシードが映る。
 男の子の手に握られていたそれは、その子のポケットに収められた。そのままその子は歩き出し静の背後を通ってゆく。
 静は怪しまれないようにと、一度テーブルの方へ視線を向けると、その男の子を凝視しているなのはが見えた。
 アリサの手の中から、ユーノが救助を求める鳴き声が聞こえるが、なのはそれに気付く事無く、アリサにぐったりとなったユーノを返して貰う直前まで、その視線は男の子の方を追い続けていた。

 それからしばらくして、アリサとすずかは、午後から習い物があるというので、今日はお開きとなった。
 士郎が二人を送ろうかと申し出たが、二人はお迎えが来ると言う事で申し出を断り、士郎となのはと静に見送られて商店街の方へと歩いていった。
 二人を見送ってすぐに、静は食器の片付けを始める。
 店内の洗い場へと食器を持って行き、テーブルを拭こうと外に出ようとすると、なのはが表情を出して士郎に何か抗議している姿が見えた。本気の抗議というわけではなくスキンシップの物だと思い。静は足を引き返す。
「どうしたの静?」
 レジ前で、静の一部始終を見ていた桃子に尋ねられ、静は楽しそうに外へと視線を移した。
 桃子は外の二人の様子をほほえましく思いながら、静を抱きしめる。
「逃げなくても、なのはもお父さんも、静のこと嫌いにならないよ?」
「そうじゃないの。ただ、邪魔したくなかっただけ」
「じゃあ、代わりにお母さんが抱きしめてあげる」
「いいの?」
「お母さんだもん」
 微笑みながら桃子は静を抱きしめる。
「そうじゃなくて、お客様よ?」
 そう言った直後、静の顔なじみの人物が店内に入って来た。
「いらっしゃいませ、フィリス先生。明日は検査ですよね?」
「うん、学校が終わってからいらっ、しゃ、い…」
 フィリス・矢沢は、桃子に抱きしめられたまま営業スマイルにて来店の挨拶をした静に、病院でのやりとりのままに返事をして、ようやく微妙な状況にある事態に気付いた。
「えっと、どうしたんですか?」
「愛を確かめ合ってました」
 家族の、という主語を抜いてさらりと言う静に、フィリスも桃子もそれぞれに固まる。
「ええと、それでどうだったの?」
 しどろもどろになりながら、何とか返事を返すフィリス。勿論事態が悪化する方向に導いている事に気付く余裕はない。
「偉大でした。高町桃子が母で良かったです」
「うん、良いお母さんをもったね」
「はい」
 そう返事を返した、静の笑顔は、とても自然で幸せを絵に描いたような笑みだった。
 だが桃子は、全力でほめられてはいるのだが、そこはかとなく、自分の子育てが間違っているのではないかと困惑するのだった。


 海鳴市内、駅前、お昼過ぎ。
『本当は犯罪なんだけどね。それだけは理解して』
『何とか社会に還元できれば良いんですか』
 静は一度家に戻って昼食を取り、伊勢をポシェットに入れて、繁華街を歩いていた。
 主に伊勢に情報を収集させるためだ。
 その情報取得方法が、文書にされているデータを手当たり次第に取得していく為。窃盗もしくはそれに準ずる犯罪を行う事に等しい。
『適当に回るけど、行きたいところがあれば言って』
『分かりました』
 それからしばらくして、繁華街の中の宝石店のショウウインドウの前で静が立ち止まった。
『忘れてた。今日のお昼にジュエルシードを見たわ』
『ど、どこでですか!?』
『お父さんがオーナーしてる、サッカーチームの一人が持って行ったのを見たのよ』
『リストはデータにありますが、顔が参照できませんね。名前は分かりますか?』
『知らないわ、ご…』
 ゴメンねと、謝ろうとして。突然、不協和音のような物を体感する。今までにも何度かあったジュエルシードの発動による物だ。
「近いわね」
『向かいますか?』
『本当を言えば行きたいわ。でも、私じゃあ足手まといになる。出来るかもしれない程度では、いない方がましよ』
『分かりました』
『でも、終わったら迎えに行きましょうか』
『はい』

 静が繁華街を再び歩き出し、商店街に差し掛かった。
 静は臨海公園に向かって、商店街の歩道を歩いていると、伊勢から警告が告げられた。
『魔力反応増大、範囲内に入りました。何か来ます!』
 突如として地響きが迫ってくる。それも至近距離から。
 次の瞬間、静は地面から跳ね上げられ、街路樹の灌木の中へと放り込まれた。
『地震! 直下型!?』
『違います!』
 激しい揺れだったにもかかわらず、早々に揺れは収まった。だが、顔を上げた静は目の前の光景に言葉が出ない。
 あまりにも大きすぎる木の根が、アスファルトを卵の殻のように易々と割って、道路であった場所に鎮座しているのだ。
『…わたし、生きてるよね?』
『バイタルは正常値です』
 自分のほっぺたを抓ることもなく、静は灌木に引っかかっている痛みで生きていることを実感する。
「お気に入りなのに…」
 灌木から抜け出し、樹液で所々汚れた服を見てため息を吐く。
『帽子があそこに』
『ホントだ』
 伊勢に指摘され、落ちているベレー帽を拾い上げ、埃を落として被り直す。
『怒りが沸いてきたわね』
 改めて、周囲の状況を見渡す。
 街中の何カ所かに、ビルの背を優に超える巨大な木がそびえ立ち。道路はその根によって掘り起こされ、街は完全に分断されている。
『まるで木々の一人勝ちね、ただしサイズは50倍ぐらい?』
『現実逃避はしないで下さい』
『分かっているわ。と言いたいけど、これはちょっと… 色々ショックよ』
 周りには先ほどの揺れと衝撃で、瓦礫とけが人があふれている。少し経てば火の手も上がるだろう。
『それでも、イワンが反応するよりは遙かにましね』
『次元震が発生すると、もっと被害が絶望的になります』
『お姉ちゃんだけが頼りか…』
 現状を整理して、静は迷う。
 自分には力がある、それが諸刃の剣である事も理解している。そして何より、使った事で大好きな家族に嫌われる事が怖い。
『行かないんですか?』
 伊勢の言葉。
 目の前の惨状。
 これ以上自分たちの街が好き勝手に壊される様を見たくはない。
 そんな思いが、静の怒りを燃え上がらせる。
『わたしは、戦うのが嫌い。これだけは言っておくわ』
 ふわりと静の体が宙に浮く。背中に二対の翼が広がった所で、一気に上昇を始めた。
『魔法の行使確認できず、レアスキル?』
『こちらでの名称はHGS。お姉ちゃんを援護する、バリアジャケット、魔法使いの方を展開お願い、出来損ないでも無いよりはまし』
『了解。バリアジャケット洋装、展開』
『名前も、付けておかないとね…』
 ある程度高度が上がったところで上昇をやめて俯瞰する。
「かなり広域に被害が出ているわね」
『なのはさんを発見しました』
「どこ?」
『商店街の端近くの、ビルの屋上です』
 伊勢がその方向と、拡大した様子を示す。
「…どうやって登ったのかしら」
『疑問は後で尋ねましょう?』


 海鳴市内、繁華街外れ、高層ビルの屋上。
 ユーノからのアドバイスから、ジュエルシードの位置を探すために、レイジングハートがエリアサーチの魔法を展開した。
 発動と同時にいくつものサーチャーが、桜色の光跡をひいてなのはから飛びだして行く。
 直後、レイジングハートからなのはに警告がなされる。
『何者かが上空より急速に接近中!』
「なに!?」
 なのはが見上げると、そこには急制動をかけて、なのはのすぐ上空で止まろうとしている、二対の翼を持ちマントを羽織った人物がいた。逆光で顔は見えないが、その二対の翼と体格が静だと語っている。
 なのはがその翼を見るのは二回目だった、同時に力の主である静が、その力を好んでいない事も知っている。
「タイミングが悪かったかしら?」
 だけど、静はいつものように冷静に、だが怒りの混じる声で、なのはにそう問いかけていた。
「魔導師だったのか!?」
「わわっ!?」
 驚いたユーノの問いかけに、静は思わず驚く。映像でフェレットもどきが話しているのを見聞きしていても、やはり生はインパクトがある。
 そんな静の様子を見て、なのはは安心した。
「静、周りを見ていて」
「了解」
 返事を返して、静はやや高度を上げる。
 なのははエリアサーチを再開し、ジュエルシードの位置を検索に入る。
「見つけた! すぐ封印するから」
「ここからじゃ無理だよ、近くにいかなきゃ」
「出来るよ、大丈夫!」
 やらなければならない、そんな覚悟が現れた声でユーノの言葉を遮ると、なのははレイジングハートを構えた。
「そうだよね、レイジングハート…」
「Shooting Mode ...Set up」
 なのはの問いかけに、レイジングハートは答える。
 今までは比較的短いワンドであった物が、伸長され槍のように変形し、ランゲットの部分から三方向に羽が突き出した。
 なのははそれを迷い無く真っ直ぐに構える。
「行って、捕まえて!」
 レイジングハートの赤い球体、その少し前になのはの魔力の物だろう光が集まって行く。
 光は一瞬収縮されてから打ち出された、桜色の光跡が長く伸びて行き、着弾する。
「Stand by Ready」
「リリカルマジカル、ジュエルシードシリアル10…」
 再び魔力がレイジングハートに集まる、先ほどのそれよりも大きな力が。
「…封印!」
 なのはの声と共に、先ほどの物を凌駕する威力で桜色の光弾が撃ち出される。
「Sealing」
 そして、桜色の光が街を包み込んだ。
「参ったわね、なにもできなかったわ」
 静から見える街並みは、桜色の光に包まれている。巨大な植物群が光に解かされるように消え行く光景は、とても幻想的だった。
 やがてそれも終わり、桜色の光が街から消え、オレンジがかった夕日の色に街が染まってゆく。
 その光景の中、レイジングハートの赤い球体にジュエルシードが吸い込まれてゆく。
「Receipt Number X. Mode Release」
 ランゲットの部分に展開していた羽が収納され、蒸気のような物が安全弁のような所から吹き出す
 静は一段落付いた事を確認してなのはの背後に降り立ち、バリアジャケットを解除する。
「ありがとう、レイジングハート」
「Good Bye」
 なのはのバリアジャケットが解除され、ユーノがなのはを見上げる。
 静はそんな二人をよそに、時間を確認する。
「先に帰ってるわね、そろそろ夕飯の時間だから」
「ちょ、ちょっと待ってよー! 一緒に帰ろう?」
 飛び去ろうとした静に、慌てて呼びかけるなのは。
「分かったわよ」
 なのはの頼みを断る事が出来る静ではなく、そう答えて階段へと向かう。
「待ってよー」
 慌てて静に駆け寄るなのはに微笑みながら、静は階段から見える景色を指さした。
 なのはもユーノも静の指先に広がる、街を見下ろす。
「お姉ちゃんが守った街よ。少なくとも、それだけは偽りじゃない」
「私が守った街?」
「そう」
「私、気付いてたんだ、あの子が持っているの。でも気のせいだって思って…」
「それで、手遅れになって、街がこんなになったと悔やんでいるの?」
「だってそうじゃない!」
「違うわ。あの時ユーノはともかく、私は気付いていたもの」
「ええっ!?」
「だから私も同罪なの。でも謝罪はしないわ、意味がないから。それに、お姉ちゃんがその事で自分を責めるなんて許さない!」
 なのはは真っ直ぐに静を見る。
 なのはから見える静は、いつものように冷静に落ち着き払っているようには見えなかった。
 強い意志を感じるその瞳に、ふとなのはは、こんな目をした静を見た事があると思い出した。
「そう言えば二回目だよね、静が翼を広げるのって。前に見たときは、私を病院まで運んでくれた時だったよね…」
「…言わないでよ」
 静は顔を赤くして恥ずかしがりながらそう返す。
 なのはは静に感謝の気持ちを伝えたかったのだが、静にとってこの話題は間違いだった事に気付いた。
「ごめんね。でも、ありがとう」
 だから、最も単純で純粋な心からの言葉を、妹に告げるのだった。

 帰り道、静ははなのはとユーノから根掘り葉掘り質問され、それに答えてゆくのだが。
 HGSに関係する事だけは、頑なに返答を拒んだ。静にとってよく分からない事は説明したくないし、何より真剣に必要ないと悩んだ力だからだ。
 反対に魔法関連の事関しては、伊勢も交えて可能な限り答えてゆくのだった。
 翠屋にたどり着いた時、両親に無事を喜ばれて困惑したのはご愛敬とする。






Ende