駐在所・・・・・・・・・・
お昼を過ぎたころ 眠りこけている彼の外向きのデスクをたたく音がその耳に入った
コンコン コンコン
「んー !」
いっ いかん眠ってしまった なんて思い目をこすりつつ彼は・・・
「こらっ 外回りの時間でしょ ・・・ だいだいあなたは高校の時から〜」
と お説教される駐在さん
さて 説教しているのは女保安官 ミリアン・ルフェインさん
彼女は早朝の事故の際にも その場で彼女の仕事をしていた
『保安官と駐在さん(警察官)の違いについて平たく言えば・・・警察官は国家に雇われているが 保安官は自治体に雇われています』
「おはようございます保安官どの」
寝ぼけ眼で言いつつ彼は戸締まりをして 愛用の自転車に乗り昼食後の村へ漕ぎ出した
「やれやれ」
と 思いつつ彼の後ろ姿を見送り 彼女は非番なのでその足で銀行へ
ガンショップ トリガー・・・・・・・・・・
駐在さんは自転車をガンショップの前に置き 戸を開けた
「いらっしゃい」
と 言ったこの店の主人は防弾ガラス張りのカウンターの向こうで彼を見るなり
「おや 駐在さん 届いてるよ」
と 小包をカウンターの上に出した
「どうも」
「しかし あんたぐらいだよ駐在で銃にスコープつけるのは・・・」
「別に 銃に付けなくても使えるんだろう」
「ああ 覗いただけで距離や角度を測ってくれる 優れものだからな」
「いくらだ?」
「12万8千だ」
駐在さんは財布の中のほぼ全財産を店の主人に渡した
「はいお釣り 今日は射撃して行かないのかい?」
と 駐在さんの手元に帰ってくる2千
「まだちょっと外回り中だから・・・ あーあ 給料日まであと6日か 貯金おろさないと・・・」
「はははっ まあ頑張りな」
村でただ一つのカントリー銀行・・・・・・・・・・
「いらっしゃいませ」
自動ドアを通り抜け 歩みながらハンドバッグから通帳を取り出し中身を見入る
そしてその金額に じぃいーん と満足感を覚えるミリアンであった
『なんかアブナイ・・・』
と そんなとき突然入って来た3人の男が
「うごくな」
という罵声を銀行の中に響かせた
数人の従業員と数人の客とミリアンはその場で一瞬石化した
『実はその場にユウロスがいたらしい・・・』
「こっちを見ずに壁の方に行け」
ショットガンを持った男が客を誘導する
ミリアンは指定された壁にゆっくりと近づきつつ頭を回し3人の男の顔を目に焼き付けようとしていた
が リーダーらしい男の一人が彼女の頭を壁に押し付け
「今度 振り返ったら撃つ」
強い口調で言い 彼女の背中に銃を突き付けた
「さあ」
リーダーらしい男は外の二人をせかす
その二人の男はカウンターを乗り越え従業員を脅しつつ札束を鷲掴みにし手持ちの袋に詰め込んで行く
数秒後リーダーらしい男は二人に叫ぶ
「ずらかるぞ」
二人の男は札束の入った袋と銃を重そうに抱え カウンターを飛び越し自動ドアを通り抜ける リーダーらしい男はミリアンの頭を鷲掴みにしコンクリートの壁に打ち付けその後を追った
どよめきと同時にミリアンの体は床に倒れた そして車のエンジン音が響いた
「救急車を呼べ」
「警察はどうしたの」・・・
『ユウロスはこの状況を楽しんでいた』
銀行付近の交差点・・・・・・・・・・
駐在さんは外回りを終え 駐在所に戻りつつあった
交差点を曲がろうとしたとき 一台の白いスポーツカーが猛スピードでその通りを駆け抜けて行った
「ありゃあー スピードオーバーだな」
つぶやきながら 角を曲がった
駐在所・・・・・・・・・・
につくと電話が鳴っていた
急いで受話器を取ると
「ああ 私本庁のレストレードと言うものです お宅の管轄内で銀行強盗がありましてね」
「いつ」
「つい 5分ほど前に・・・」
「さっきの車・・・」
「えっ なんですか!?」
「・・・いえ ではこちらに?」
「ええ しかし唯一の橋が通行不能で・・ 今ヘリを 回してもらっているんです」
「ラミスウ社の白のスポーツカー・・・」
「なにがです?」
「橋の上空を通って来てください でわっ」
駐在さんは受話器を置き リボルバーに弾を詰め
ゴーグルをつけ普段は使わないバイクに乗り橋へと急いだ
『駐在さんの乗るバイクはメタリックブルーに塗装した1100ccのリッターマシン 因にカスタムメイドである 駐在所から橋まで約7キロ』
村でただ一つのカントリー銀行・・・・・・・・・・
車で近くの診療所に運ばれるミリアン 彼女の意識はまだない
村の保安官達は現場検証をしている
その中の一人がつぶやいた
「駐在さんこないなぁー・・・」
橋への一本道・・・・・・・・・・
白いスポーツカーは畑の中の直線の続く一本道をかなりのスピードで進む
「へへへっ 金だ 金ぇーーーーーーー」
そんな声をよそに運転している男はバックミラーをちらっと見た
再び見た メタリックブルーのバイクがピタッと50m程後方に付いている
運転している男は言った
「おい 後ろの奴を追い払え」
「うしろ?」
ショットガンを持っている男は振り向いた
「ありゃあー お巡りじゃねーか」
彼は窓を開けショットガンを構えた
バゥウンッ
銃声と共に駐在さんは黄金色の弾道を自分の左側に感じた
駐在さんはアクセルを全開にして左手でリボルバーを構える
バゥウンッ
再びショットガンの銃声が・・・
その直後駐在さんはリボルバーの照準を合わせ 撃った 弾丸は車体に穴を開ける
駐在さんは弾着を見届けるとバイクの速度を落とした 一気に遠ざかる白いスポーツカー
「あれ?・・・ ・・・ 当てたはずなのだが・・・ 炎上しないなぁー」
村の診療所・・・・・・・・・・
ミリアンは病室のベッドの上で目を覚ました
「大丈夫かミリアン」
「しょ 所長」
ベッドの上で起き上がる彼女 急に貧血を感じ またダウン
「しばらくは安静にしていろ」
そう言って所長は病室を後にした
「所長」
本庁庁舎屋上・・・・・・・・・・
『無茶苦茶だな』
レストレード警部はヘリに乗り込みつぶやく
「やれやれ よりによってあんな田舎で事件とは・・・」
ヘリはいつの間にか街を離れ白い崖の美しい海沿いに出て しばらく進んでいた
「!おっと ハイド橋の上を飛んでくれ」
「了解」
操縦士はヘリをひるがえすように旋回させた
ハイド橋・・・・・・・・・・
ジキル峡谷にかかるハイド橋は橋渡し40mのアーチ方式の橋 今朝の爆破により現在通行禁止になっているが村の生命線でもある
いま丁度壊れた橋げたの修理作業が開始された所だった
その遥か村の方向 遠くに見えた白いスポーツカーは あれよあれよといふ間に 橋に近づいてくる
村側の橋のたもとにはキャリアカーが橋のほうを向いて置かれていた
数秒後 白いスポーツカーはそのキャリアカーをジャンプ台変わりにして橋を飛び越えた
後の事情徴収によると まるで曲芸のようだったらしい
ヘリ・・・・・・・・・・
レストレード警部はその瞬間を目撃していた
操縦士は無言で白いスポーツカーの上空をとった
「本庁に連絡を・・・」
レストレード警部は言った
操縦士は無線を入れ
「本庁どーぞー ・・・ 犯人の乗る車を追跡中 現在ルート794を南へ移動中どーぞー・・・」
操縦士の無線をよそにレストレード警部は白いスポーツカーを見つめていた
「・・・ ラミスウ社の白のスポーツカーか・・・」
夕方 村の診療所・・・・・・・・・・
「やあ ミリアン」
駐在さんは病室のドアを開けた
「冷やかしはお断りだよ」
頭に包帯を巻いたミリアンは冷たく言った
「あのなぁー 診療所にいると聞いたから花束持って来たのに」
と 言いつつ生ける駐在さん
「銀行強盗は?」
「さあ 今頃は本庁のヘリがおっかけっこしてるよ」
「そう・・・」
ミリアンは窓越しに赤みがかった外の景色を見つめた
夜 駐在所・・・・・・・・・・
デスクの電話が鳴った とたん受話器をとる駐在さん
「ああ レストレードですが」
「どうも 何用で」
「例の犯人捕まりましたよ」
「それはそれは」
「ただ不思議なことがありましてな」
「はぁ」
「ガソリンタンクに穴が開いていたんですが・・・ その 銃による穴が・・・」
「はぁ」
「普通なら銃でガソリンタンクに穴を開けると爆発してしまうものだと思うんですが・・・」
「まあ良いじゃないですか そんな事」
「それもそうですな でわ失礼」
駐在さんは受話器を置いて椅子にもたれ込んだ
「撃ち過ぎでリボルバーがマスケットになっているとは 言えないよなぁー わぁあああっ」
ガシャーン
ひっくりこけてなさけない駐在さんでした
時代考証に御意見無用
製作著作 しまぷ