ヴィーイベリズ王国 数年前にアルダン山脈以北の大陸北半分を統治する形で戦乱が終結した 長く続いた戦乱の結果モラルの低下や市民層への大量の武器流入などの要因により治安の低下が続いている また鉱物資源に恵まれた国であり その恩恵を受けて資源には事欠かない
ラオリス王国のラマ港をでた高速帆船デューンアス号は９日掛けてヴィーイベリズ王国のヤヌス港へ到着しようとしていた
「長い船旅だったなぁ」
港湾都市を見渡しながらつぶやいたランキの後ろから
「まだ接岸には時間がありますよ」
ユウロスは言った
「まあ いいじゃないか」
「ところでランキこれからどうするつもりです？」
「とりあえずこの国を見て回ったらまたとなりの大陸に行こうと思うんだけど」
「ではこの国の首都を通って大陸の反対側の貿易港に出ましょうか」
「道案内は頼むよ ユウロス」
「まあ 任せてください」
まだ日は高く二人の陰は小さくデッキに映っていた
２時間後 二人はそれぞれの荷物を持ってラマの町を後にしていた
「ユウロス 泊まっていかない訳をそろそろ聞かせてくれたって良いだろ」
後を歩いてゆくランキがかなり強くユウロスに言った
「いいでしょう」
ユウロスは歩きながら話し始める
「ランキは この国の事を何か知っていますか？」
「初めて来たのに知ってるわけがないだろ？」
「この 国はぁ ・・・ この国は数年前に長年続いた戦乱がおさまったんです 現在この国の治安はラオリスと比べれば非常に悪い状態にあります ですから先ほど食料を買い込んで急いで町を出たんです それから私はあなたをあの様な込み入った場所で守ることができないかもしれませんから」
「・・・ 被害が大きくなる？」
「あう ま まぁ そうです・・・」い 痛いところを・・・
川沿いにある街道を二人は他の行商人などと同じように 王国の首都の方へと歩いて行く
「それはそうと当てでもあるのか？ ユウロス」
「ありませんよ 向こうがこちらを当てにすることはあるやもしれませんがね」
「はぁ？」
まだ日はそんなに傾いてはいない 歩いて行く二人の後ろから走っている馬の蹄の音が響く 音を聞いた行商人たちは街道の縁に寄り早馬の通りすぎるのを待った ランキとユウロスも同じように街道の縁に寄り早馬の通りすぎるのを待った 少しへばった様子で早馬が駆けて行く
「何あれ？」
行ってしまった早馬を見たランキが訪ねる
「馬による情報の伝達 かな」
「前に本で読んだ早馬ってやつ？」
「そんな感じだな」
何かを考えていたのか若干の沈黙の後ランキは
「ユウロス 今晩はどこに泊まるんだ？」
「さあ 考えてませんよ」
笑顔で答えるユウロスに沈黙を返すランキ
日もとっぷりと暮れた中 二人はこの先に宿場があるのを行商人に聞き その行商人の持つ明かりを頼りに闇の中の街道を共に歩いていた
「そう言えばまだ自己紹介をしていませんでしたね 私はユウロス・ノジール こちらがランキ・エピックです」
「ミュール・アウノ 見た通りの行商人だ お前さんらラオリスの人だね」
「そうです」
「ラオリスの人は全員魔法が使えると聞いたのだかそれは本当かね？」
「はっきり言えば 間違いですね 未だ大半の人が魔法についての間違った知識 もしくは生半可な知識しか持ち合わせていませんから」
頷くミュールはさらに質問をする
「ユウロスとか言ったね あんたは魔法が使えるのかい？」
「ええ 大抵の事はできますが なにか？」
「そちらのお連れさんは？」
翻訳機をつけっぱなしのランキがユウロスにラオリスの言葉で伝え ユウロスがミュールに翻訳し
た言葉を述べた
「そうか まあ もうすぐ宿場町に着くからゆっくりと休むと良い」
「そうさせてもらいます」
数時間後 宿場町に着いた二人はミュールとは別の宿に泊まった
翌日 宿屋の部屋でお膳に盛られた朝食をいつものように食べ始めるユウロスと 昨日 部屋にテーブルがないことに驚き 今 お膳に盛られた朝食を目の前に驚いているランキ
ユウロスは食事をする手を止め
「どうかしたか？ ランキ」
「この国ってこういう物なのか？」
「 ランキ 世界は広いんですよ」
ランキを横目に再び食事の続きをするべく動作するユウロスであった
日もかなり昇った頃 二人は宿を取った宿場町をすでに離れ 王国の首都へと続く街道を歩いていた 昨日と同じように川の流れを左手に見ながら しかしランキは先ほどの宿場町で買った宿場町の載っている地図を広げながら歩いている ユウロスはその斜め後ろをワルキュリア・アイを杖代わり
に同じペースで歩いていた
「ユウロス 今日はどの宿場町まで行くんだ？」
「今日は 次の次の宿場町までです 夕暮れまでにはつくと思いますよ」
ランキは地図をしまい込み ユウロスの隣について 杖代わりにしているワルキュリア・アイを見ながら
「そんな長くてじゃまなものよく持ってきたよな」
「私はあまり剣の扱いがうまくありませんから こういう得物を持っていると便利なんですよ」
「得物って それ武器には見えないけど」
「何に見えますか？」
「洋服掛け兼杖」
「はぁ・・・ ・・・まぁ 機会があれば武器としての使用法を見ることになりますよ」
「ふぅーん」
まだ日があるうちに目的の宿場町に着いた二人 部屋に荷物を置いてユウロスは町へと宿を出ていった 残されたランキは少しは慣れたのか緊張がほどけたのか二日分の疲れか早々に寝入ってしまった 後でユウロスが戻ってきたときには死んだように眠るランキの姿があったという
数日後
朝早くに宿場町を後にし 街道を歩く二人はすでに王都までの道筋を半分程度進んでいた 相変わらず左手に大河を望みながら である
「ほんとに どこまで行ってもほとんど景色が変わらないねぇ」
左手に大河 右手に田園地帯を望みながら 疲れた口調で言うランキにユウロスは
「ランキが自由自在に飛ぶことが出来ればもっと早く王都に着くことも出来るんですけどねぇ」
乾いた笑いを返すランキであった がユウロスは重い口調で
「しかし 予備知識もなく魔法を始めて見た者にはそれが恐怖の対象となりうるから 始めて行った場所では極力注意するように これはあなたの命を守るための知識です」
ランキはユウロスの言葉を聞き若干の間黙っていたが 口を開き
「魔法というのは 全世界にあるわけではないんだ」
まるで呟くように また自分に言い聞かせるように言った
「さすが教師だね」
「まあ でも教師はアルバイトみたいなものですから」
「えっ？」
「本業は秘密です」
まじめに話すユウロス 笑うランキ
「そこまで笑わなくとも」
そんな二人に幾つかの馬の蹄の音が耳に入る 二人は道の左側に寄って通り過ぎるのを待った ランキは道中何度か見かけた早馬とは様子が違うのに気づき
「ユウロス 早馬じゃないね？ あれ」
「そのようですね 武器を所持していますからそっち系の役人か何かじゃないですか」
その役人のようないでたちをした者が数名馬にまたがって 街道を王都の方からこちらに向かって来ていた
二人が道の縁からその様子を見ていると 馬が二人の目の前で止まった 驚いたランキは隠れるようにユウロスの後ろに回りこむ
「何用か」
ユウロスは彼の目の前に止まっている役人らしき男に言った
役人らしき男は懐から何か紙を取り出し広げ 何かを確認するように交互にユウロスとを見比べ
「そなた 名は何という」
「名前ですか？」
「そうだ」
ユウロスは質問をした男の目を見て
「人に名を尋ねるときは自分の名を先に名乗るのが礼儀 というものではないのか？」
役人らしき男は馬から下り
「失礼した それがしはグアン・イブスキーと申す」
「ふむ 私はユウロス・ノジールですが グアンさんは役人で？・・・」あら？
ユウロスが自分の名前を口にした直後 馬に乗っていた役人らしき者達が一斉に馬から下りユウロスにひれ伏し
「ユウロス様 国王陛下より護衛の命を仰せつかりました近衛兵第３小隊小隊長グアン・イブスキー以下７名の王都までの同行をお許しいただきたい」
グアンは言い切るとユウロスの言葉を待った
思わずランキと顔を見合わせるユウロス
「うーん」
うなったユウロスは辺りを見回しとりあえず
「他の人の通行のじゃまにならないようにするのならば許可するけど」
「はっ！」
勢いよく返事をするとグアンは隊員に合図をした
二人の隊員がユウロスらに馬を引いて近づき
「どうぞユウロス様 お付きの方もどうぞ」
ユウロスにそう言った隊員に
「残念ながら私がお付きなんですけど 彼はランキ・エピック私のアルバイト先の校長の息子さん」
「あ えっ？ あっ ら ランキ・エピックですよろしくお願いします」
ぎくしゃくなランキ そばでユウロスの言葉を聞いたグアンは
「ユウロス殿は身分に無頓着と陛下から聞いたのだが本当だったんですな」
翌日
昨日のうちに予定より一つ先の宿場町に着いていた
「あたたたたたたたっ」
情けない悲鳴を上げるユウロス 昨日馬の背に揺られたのが悪かったのか腰に力が入らないらしい
「大丈夫か？ ユウロス」
昨日ユウロスと同じく馬の背に揺られたのだが 平然としているランキ
「グアン隊長は今日から馬車を用意してくれると言う話だけど 聞いてる？ユウロス」
「聞いてるよ」
腰を押さえたままユウロスの情けない返事が返ってきた
彼は何とか立ち上がりガイドマップを広げ現在の宿場町を確認し
「次の宿場町からはしばらく丘陵地が続くらしいから川を見なくてすみますよ」
「やっと 川を見なくてすむのか まあこれからは馬車だから楽に王都まで行けるね」
「しかし 何で王都に行こうと思ったんだ？ ランキ」
「その前に ユウロスにこんなコネがあるなら 早く言ってくれれば良かったのに」
「いや 私としてはあまり使いたくないだがな」
「どうして？」
「ラオリスの魔法学校の講師のユウロスではなく 破壊神ユウロスの名を使うことになるからさ」
「破壊神？」
「そう 大陸一つを沈めたと言う昔話があるのは知ってるよな？」
「あのエルフ年代記の中にある話だよね？」
「そうだ」
「破壊神というのは あの話にでてくる黒い光に包まれた者の事？」
「うん」
「それが ユウロスだって言うの？」
「そう言うこと」
まじめなユウロスとその前で笑うランキ
「まあ 別に いいか」
心の底から笑っているランキであった その笑いがようやく止まろうとしたころ
コンコン
「どうぞ」
なんとか笑いを抑えたランキの言葉のあとグアンが戸を開けて部屋に入ってきた
「朝食の用意が出来ましたので食堂の方へ 荷物は私どもで運びますゆえ」
「いや 荷物は自分で持っていくよ」
ランキはグアンの申し出を断り自分の荷物を持って部屋を出て行く
「ユウロス殿はどうされる？」
情けない顔をして腰を押さえかろうじて立っているユウロスを見て
「昨日 馬の背に揺られたのが悪かったのですか？」
「うん 見事にね」
グアンはユウロスの荷物を片手に持ち
「ユウロスどの肩を」
「ありがとう」
ユウロスはグアンの肩を借り部屋を出て行く
食堂に着いたランキは自分の荷物をそばにいる食べ終えた隊員に預け席に着いた それから遅れること２分ぐらいだろうかユウロスがグアンに助けられ席に着く 席に着く際にも情けない悲鳴を上げたユウロスであった
食事を初めてしばらくしてから ユウロスは
「グアン殿 この国の治安は例の内戦終結以来不安定と聞いていたのだが？」
「それは 都市部での話しでして･･･」
「では 人口密度の低い農村部ではそんなことはないと？」
「はい そう聞いております」
「分かった」
程なく食事を終えたユウロス 彼がランキに目をやると ランキはこの地方特産のフルーツに舌鼓を打っていた
数日後
「うわぁー」
ランキは馬車の窓から大きな城門を見上げる
「もうじきか･･･」
現在馬車はこの国の王都ヴィーイベリズにある国王の居城レイリット城の城門をくぐり抜けたところだった
「やれやれ またややこしいことに巻き込まれなければいいが」
「それは違うでしょうユウロス」
「えっ？」
「ユウロスはいつもその『ややこしいこと』って言う嵐の中心にいるのに」
「そうか？」
ユウロスとランキのやりとりをそばで聞いている隊員は複雑な表情をしていた
「そうだ ランキ これを・・・」
何かを思いだしたようにユウロスはリュックの中に手を入れ懐中時計を取り出し ランキに渡す
受け取ったランキは時計とユウロスを交互に見比べ
「時計ですよね？」
「ええ 前の誕生日にと用意していたのだがすっかり忘れていたので・・・」
「だから あの時何もなかったのか」
「なくさないようにして下さいよ」
「ありがとうユウロス」
「いえいえ３ヶ月遅れの誕生日プレゼントですから 受け取ってもらえるだけで感謝です」
ランキは懐中時計を内ポケットに入れ
「そう言えば時間はラオリス標準時のまま？」
「そうです それから今朝ネジを巻きましたから ４ヶ月はネジを巻かなくとも動きますよ」
「４ヶ月？」
「ええ 時計を見てもらえば分かりますがバネの力の残りがちゃんと表示されますから それを見てネジを巻いて下さい」
ランキは懐中時計を取り出し 比較的地味な装飾の施してあるふたを開け文字盤を見る
「あ これか」
確認したランキは再び懐中時計を内ポケットにしまい込んだ
程なく馬車は止まり ランキが外を見渡す
「降りますよ ランキ」
ユウロスは自分のリュックを背負いながらランキに告げた
「あ うん」
馬車を降り中庭にしかれた赤絨毯を見てランキは思わず
「俺って 場違いな所にいるような気がする」
「そう 思いますか？ランキ」
「うん」
「では 私の後ろを着いて来ていただければ結構です」
「分かった そうするよユウロス」
ランキの返事を聞き ユウロスはワルキュリア・アイを持ちリュックを背負ったまま 赤絨毯の上を平然として歩き出した ランキはその後ろを近すぎず遠すぎない距離を置いて着いて行く
程なく謁見の間に通されたユウロスとランキ 二人の周りには近衛兵をはじめ数名の文官武官がいる みなユウロスの入場と共に驚きざわめく
ユウロスが立ち止まる 慌ててランキも立ち止まった
「お久しぶりです」
ユウロスはひれ伏すこともなくヴィーイベリズ国王 イアン・ファーマス・ヴィーイベリズにそう述べた
「ユウロス殿は相変わらずでいらっしゃるな」
ユウロスに話しながら 国王は玉座から立ち上がりユウロスのもとへ近づいて行く
「あの時 建国の真の立て役者が建国と共に置き手紙一つ残して消えたとき・・・」
「私は 建国の真の立て役者などではないよイアン 私は貴方に歴史を教えたにすぎない」
「ユウロス殿の教える歴史は社会の動きではなく人の心の歴史 志はあれど力のなかった私に貴方は力をくれた」
「だが 今は違うだろイアン 君はヴィーイベリズ初代国王 私は仮面をかぶってはいるものの魔法の統治者にして破壊神だ もっとも無用の誤解を招くといけないので断っておくが 破壊神というのは自分に対する戒めとして名乗っているにすぎない」
国王は部屋にいる文官武官にに対して言い放つ
「このユウロス殿は私がまだ軍を起こす前には良き教師として決起してからは第２軍の副将軍として建国のために共に戦ってくれた者だ 全く年をとっていないから疑うやもしれないが本人に間違いはない」
ユウロスは国王の言葉の途中「第２軍」と聞いて思わず辺りを見回した
「どうしたんです ユウロス」
場の雰囲気になじんでいないランキは諦めたような面もちでユウロスに言った
「いや ちょとな」
「どうしたユウロス 元第２軍のノース将軍をお探しか？」
国王の言葉に思わず身震いのするユウロス
「彼女は 今は陸戦第４師団の師団長を務めている 今日は事務処理が忙しくて出て来れんとのことだ」
安心したユウロス 二人はしばらく質問などに答えた後 城内の客用の部屋の一つに通された
「やれやれ やっと終わったか」
二人は荷物を下ろしそれぞれにくつろぐ
ランキが窓の外に目をやる 外はきれいに晴れ渡り 室内を照らしていた
夕食までの間ユウロスの旧友や知人が何人か部屋にやってきて話に花を咲かせていた ランキは話の内容からユウロスがラオリスに来る前にも教師をしていたことと若い外見に反してかなりの長寿であることをその会話の中から感じ取った
夕食も済んで元の部屋に戻ってきたユウロス 部屋に入った瞬間彼の動きが凍り付いた
「ユウロス 久しぶりだな」
後から部屋に入ってきたランキは部屋の入り口で硬直しているユウロスと部屋の中にいる軍服を着た女性の間を軽く会釈をして通った
「ノース ひ 久しぶり・・・」
かなり間抜けな 硬直した声がユウロスの口から発せられた
「ユウロス ちょっといいか？」
と 外へ誘い先に部屋を出て行くノース ユウロスはランキを見て
「行って来る」
そう告げてワルキュリア・アイを持って部屋を出た ユウロスは先を行くノースの後を一定の距離をあけてついて行く
もうかなり歩いた ユウロスがそう思う 既に城を出て軍の基地内を歩いている 思わず
「ノース 私をどこへ連れて行くつもりだ？」
質問半ばにノースが立ち止まり
「ここだ」
ノースの横には大きな石碑が建っている
「これは？」
「ユウロスが失踪した後に立てられた 戦死した将兵の為の石碑だ」
ノースの言葉を聞いてユウロスは「そうか」と短く言い 石碑の前で黙祷した
それからしばらくしてノースは再び歩き始めた
「少しぐらい待ってくれてもいいだろ」
そう言いながら後を追うユウロス
「全く あの時はあの時で嫌な上司だったけど 今もかなりのものだな」
ユウロスの嫌みにも全く反応しないノースに諦めてついて行くユウロス
「ここだ」
「おい ノース ここって」
目の前の剣技の修練場に対して 漠然と嫌という表情のユウロス その顔を見てノースは
「そんな顔をするな 何も取って食うわけではない」
言われても 嫌な顔をしているユウロス
「あの時 どうやって私が負けたのかを知りたくてな」
あの時と言われしばらく考えていたユウロスは 思いだしノースに面と向かって
「ああ 君が逆上して 勝てるはずのない戦闘を始めようとしていたときか」
言われた当のノースはしばらく黙っていたが
「見せてくれないか あの時の技を」
「技と言ってもねぇ 君は覚えていないかもしれないが あの時私は丸腰で何も持っていなかったんだぞ」
「何だと」
ノースは声を上げた後もう一度思い出そうと努力する
「あの とき私は何かに切られて 構えていた剣ごと・・・ そうだ あの時ユウロスはマントに身を包んでいて でも何かを構えて私を斬りつけた 何かに切られた感触はしたが私自身は切られなかった そのままユウロスは身につけていたマントを・・・」
はっとした表情でユウロスに目をやるノース
「なにも 持っていない だろ」
平然とした様子でたずねたユウロス
信じられないような眼差しでユウロスの方をただ見ているノースから少し離れ
「これは基本的に生物を切ることは出来ないんですがねぇ」
そう言って軽く左半身に構え ワルキュリア・アイごとモーションを起こした 薄く青白い光が空を切り鋭い金属音が修練場に響く
一連の動作を終え 服装を正しているユウロスは
「貴女には出来ませんよ どんなに鍛錬してもね」
そのままその場を後にし 修練場を一人離れようとする
「待て」
ユウロスにそう言い立ち上がってぶつぶつと何かを言ったノース 様子がおかしいことに気がついたユウロスは軽く左半身に構えた そしてワルキュリア・アイを持ち直した直後ノースはおもむろに短剣を抜き
「ならば今一度っ」
「ちょ ちょっと待てぇー」
ユウロスは叫びながら何とかワルキュリア・アイでノースの第一撃を受け流す
間合いを取るため若干離れたユウロス ノースは何も言わずに短剣を納めロングソードを抜き
「落ち着っ けぇーーーーーーーっ」
ユウロスは言葉半ばにノースの振り下ろしたロングソードをまともにワルキュリア・アイで受けた
姿勢を崩し ノースのロングソードに押される形でしりもちをついたユウロス
「むう」このままでは・・・
彼はノースを蹴り返し 立ち上がってワルキュリア・アイを持ち構え
「サイ・アーム 来るかな・・・」
呟いた後 間合いをはかるノースから若干離れ気味に間合いを取ろうとする
「・・・」
２人の間の緊迫の糸が張りつめる音が２人の頭に響く
次の瞬間ノースが再びユウロスに斬りかかる 引きつった顔のユウロスが再びワルキュリア・アイにて受け止めようとモーションを起こしたとき 彼はノースの口が動いているのを見
「なっ」
ノースの呪文が発動し炎がユウロスに向かって放たれる
「・・・っ」対抗策っ 間に合わん
炎の固まりがユウロスに当たり跳ね飛ばされたユウロスと共に空に散る
「うあ」やられた・・・
跳ね飛ばされたユウロスの体の一部が地の感触を得た瞬間強い制動がかかり浮くような感覚に包まれる 彼の体の両側やや後ろに真っ黒な鎧のような物体が浮いている事にノースが気づくのに時間はかからなかった
ユウロスは地面から若干浮いた状態で宙に浮いたまま姿勢を立て直し ワルキュリア・アイの落下地点を確認し
「ノース やめろ 今ここで戦ってなんになる」
そう言ったユウロスの声を聞くこともなくノースは再び呪文を 炎を放った ユウロスは急ぎ目に
「シールド展開 アーク・リフレクター」
言い放った直後 ユウロスの前にまるで霧の中から浮かび上がるように１対の細長いシールドが姿を現し ノースの放った炎を飲み込んだ
「なに」
ノースの驚きの声がユウロスの耳に届く
「これ以上の戦闘は無意味だ やめろ」
「断る」
叫んだノース
「くっ」まるで 子供だな・・・ ならば
ノースは驚いた 瞬きをした後５メートルは離れていたユウロスが目の前にいて剣を持っている腕の手首をつかみ さらに彼はノースの頬を平手打ちしたのだ
「いい加減目を覚ませ」
彼の言葉など いまの混乱しているノースの脳に届くこともなく ノースの視線は宙を泳いでいる
「参ったな」
そうユウロスの声が聞こえたかと思ったのを最後に意識が途絶えた
再び意識が戻ったノースは城の中のユウロスらの泊まっている部屋のベッドの上にいた
「大丈夫か？」
ユウロスの問いかけにノースは自分の手を見て
「あれは 夢だったのか？」
「夢ではない だが正直言って驚いたよ いきなり斬りかかって来るんだからな 昔からそうだったな 口より先に手が出る・・・」
ユウロスの話を聞きながらゆっくりと起きあがりノースは
「すまん」
「いや 気にするな だが今の君の下につく者は大変だろうな」
「ユウロス 私は先月結婚したんだ」
「ほう それはおめでとう しかし新妻がこの時間にこのような場所にいてはいけないな」
「いいんだ 旦那には言ってある ・・・実は明日付けで私は退職するのだ」
「じゃあ 明後日からはバーサーカーな主婦ノース になるわけだね」
ノースは無言でユウロスを殴った後
「バーサーカーはよけいだ」
「あう」
イアン・ファーマス・ヴィーイベリズ
歴史の浅いヴィーイベリズ初代国王 ユウロスの勤めていたとある教会の信者 ユウロスに人の心から見た歴史を教わる ユウロスの本性を知っている数少ない人間
グアン・イブスキー
近衛兵第３小隊小隊長 気さくで何事にも動じない性格の持ち主 建国前は農夫をしていた