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南洋一郎・作
「ピラミッドの秘密」(長編)
初出:1961年 ポプラ社「怪盗ルパン全集」第13巻
◎内容◎
十字軍に出陣した侯爵家の莫大な財宝を探し求めるルパンは、その手掛かりとなるモロッコ皮の袋を持つニコラとアンナの悪党夫婦に接近する。アンナの罠にかかり窮地におちいったルパンを救ったのは、かつて幼い時に拾って育てていた美少女エリザだった。皮袋の中にはパピルスの古地図の半分があり、ルパンは侯爵家の跡地で偶然ささやかな事件を解決した際に地図の片割れを手に入れ、同時にエリザが実は歴史学者夫妻の娘ローザであることを知る。しかし直後にローザは何者かに誘拐されてしまう。ルパンと同じく財宝を狙う盗賊一味が存在していたのだ。
侯爵家が伝えていた秘密、それは先祖が十字軍遠征で知った、アフリカ・ナイル上流にある古代黒人王国の財宝の秘密だった。ルパンは財宝とローザの行方を求めてエジプトへ渡り、ナイル上流へと冒険を進めてゆく。
◎登場人物◎(アイウエオ順)
☆アルセーヌ=ルパン
怪盗紳士。
☆アンドレ―
「アルザス州の虎」の異名を持つ盗賊。ルパンと同じく財宝を狙っている。
☆エリザ=ダルトン
ピエールの妻でローザの母親。
☆ガニマール
ルパンの宿敵の老警部。今回は名前のみの登場。
☆ガラハダ
ナイル上流の黒人王国の大僧官。ニシキヘビ族の出身で国を奪い取る。
☆グッソー
老農夫。
☆ジャック
ルパンの部下。
☆ダビド
ルパンの部下。
☆タンナ
ナイル上流の部族「ヘビ族」の王子。ルパンに助けられ協力者となる。
☆ドノバン
ルパンの部下。
☆トレナール
年老いた乞食。
☆ピエール=ダルトン
歴史学者でローザの父親。
☆ビクトワール
ルパンの乳母。
☆フェルジナンド
ルパンが偶然救ったくず拾いの老人。
☆ローザ=ダルトン
かつて雪の中でルパンに拾われ「エリザ」の名で育てられていた少女。ニコラ夫婦のもとで男装し「ガブリエル」と名乗っていた。
◎盗品一覧◎
◇黒人王国の財宝
ナイル上流の奥地に存在する黒人王国に古代から伝えられていた莫大な財宝。
<ネタばれ雑談>
☆長らく「ルパン全集」入りしていた問題作
ポプラ社から刊行された
南洋一郎による「怪盗ルパン全集」はどこの図書館にも置いてあるくらいの定番ロングセラーとなり、「ルパンと言えば南版」というイメージが定着するほどの存在になった。実際には児童向けにかなり省略・改作を加えたものだったのだが、この南版でしかルパン
(つまり三世ではないほう)を知らないという人が今なお圧倒的に多い。登場してから半世紀もたつ今なお現役の児童向けルパン全集として君臨しているし、往年の読者向けにかつての装丁そのままに復刻した文庫版も登場したほどだ。
さてその現行のシリーズおよび復刻文庫版を手にした、少年時代に熱狂的に読んだという人たちの中には「なぜこれが入っていないんだろう?」と首をかしげた人も少なくないのではなかろうか。本作
『ピラミッドの秘密』がそれである。1960年をはさんで最初に出た全15巻のバージョンで第13巻におさめられ、その後1970〜80年代に全30巻体制になっても第13巻に本作が存在した。一時ポプラ社の文庫版にも収録されたことがあり、1990年代までは割と普通に読めたのだ。しかし21世紀に入った現行のポプラ社版「シリーズ怪盗ルパン」では本作は除外され、最初のバージョンを再現した復刻文庫版でも本作だけは外されたのである。
理由のひとつが、この『ピラミッドの秘密』は実はルブランによる原作が存在せず、ほぼ南洋一郎自身のオリジナル作品であると判断されていることにある。南洋一郎自身は前書きで
「この物語は、英仏両国語の短編の中にあったのを一つにまとめあげたのです」と書いていて、ルブランの原作を合成したととれる表現をしているのだが、「英仏両国語の短編」というのも妙な話。ポプラ文庫版の解説では「米国の古い少年雑誌に載ったものの書き直し」とまた違った説明をしていて、子供の読者でもモヤモヤした感じをもってしまうはず。
明確に公表されたことはないと思うのだが、原作に相当するものも確認されていないし、南自身も出典の所在をぼかすことでこれが自らの創作であることを分かる人には分かるようにほのめかしていたようでもある。思えば南以前の代表的ルパン訳者であった
保篠龍緒にもルブラン原作があると称する創作作品が存在していたし、原作はあっても大幅なストーリー改竄を行ったものもあった。南洋一郎にも同じ気分が多分にあったということだろう。
なお推理作家の
二階堂黎人さんが手がけた児童向けルパン贋作
『カーの復讐』では、序文に「フランスの古本屋で見つけた原書を少年少女にわかりやすく翻訳したもの」という趣旨のことが書かれていて、明らかに『ピラミッドの秘密』を意識したものだ。知ってる人はニヤニヤしてしまったはず。
さて南の創作物と言っていい『ピラミッドの秘密』だが、いちおう「ルブラン原作」と言える部分はある。話の発端部分に
『ルパンの告白』の2編
『地獄の罠』と『麦わらのストロー』を翻案して組み込んでいるのだ。『地獄の罠』といえばルパンが詐欺師夫婦から金をすりとったことをきっかけに絶体絶命の危機に陥るも美男子ゆえに女性に助けられてしまうという、いろんな意味で問題のある短編なのだが、この話を南洋一郎はルパンが財宝のありかを示す皮袋を手に入れるために夫妻に接近したと動機づけを変更、さらにルパンを助ける女性をかつてルパンが拾って世話をしてやった美少女と設定を変え、そこから財宝探しの冒険が始まるという展開にしてしまった。
この南洋一郎による改変版「地獄のわな」は現行シリーズの「七つの秘密」に収録され、ここだけ今でも読むことができる。ややこしいのだが南版「七つの秘密」は新旧二つのバージョンがあり、旧版では
『バーネット探偵社』から2編が収録され
(復刻文庫版もこれ)、新版ではそれが外されて「七つ」の数合わせのために『ピラミッドの秘密』から「地獄のわな」部分を分離して収録したのである。現行シリーズでもそれが踏襲されているのだが、『ピラミッドの秘密』につながる部分がそのままになっているのに『ピラミッド』の方が刊行されていないので初めて読んだ人は戸惑うのではないかと思う。
『麦わらのストロー』は『ルパンの告白』中でも小品でそれほど面白くもないせいか、南洋一郎はそのストーリーを短縮したうえで、かなり強引に『ピラミッドの秘密』の中に組み込んでいる。かかしの中に隠れていた、というトリック自体はそのままだが、ルパンが目的とするものとはほぼ無関係で、原作でルパンがちゃっかり大金を盗んでいく部分もばっさり変更されている。
南版ルパン全集はおおまかなストーリーはルブラン原作に従いつつも細かいところでルパンを「いい人」「義賊」に仕立てる改変が多くほどこされ、特にルパンが露骨な悪事をはたらいたり、物語ごとに異なる女性と恋愛したりする要素は徹底的に排除されている。『地獄の罠』は南洋一郎としては原作通りではとても全集入りさせるわけにはいかなかったろう。あくまで推測なのだが、それでもこの話をなんとか生かしたいと改変を試みているうちに、南洋一郎がもともと得意としていた「秘境冒険もの」へと大変身させちゃったのではなかろうか。
☆ルパンというよりインディ・ジョーンズ!?
ルパン物語のパターンの一つに、「大昔から伝えられた埋もれた財宝を発見する謎解き」がある。この『ピラミッドの秘密』も一応その系譜に入ることになるのだが、ルパンの目指すお宝がアフリカ奥地の古代黒人王国の財宝という、いきなりぶっとんだスケールになっている。タイトルに「ピラミッド」とあり、表紙絵にはピラミッドと一緒にスフィンクスまで描かれているので、エジプトが舞台なのかと思わせるがそうではなく、そのエジプトよりナイル上流にさかのぼった黒人王国のピラミッドやスフィンクスなのだ。実際、エジプト文明に影響されて現在のスーダンあたりに独自のピラミッド文化を築いた黒人王国があったのは事実で、南洋一郎もそれをヒントにしたのだろう
(作中ではスーダン・コンゴ・ウガンダの国境地帯とされ、ビクトリア湖やアルバート湖が登場している)。エジプトのピラミッドにするという手もあっただろうけど、それだと「秘境」というほどのところにはならないから、という考えもあったと思う。
ルブランの原作短編を改造して宝探しの手がかりに無理矢理つなげているので、序盤は話の展開にかなり無理がある。地図や暗号、聖書といった手がかりアイテムが複数存在しているうえ、それがいくつかに分散して別グループとの争奪戦になっていることもあって、読んでいてすっきりしないのだ。今回この記事のために改めて読み直してみたが、正直なところ宝探しに至る謎解きの面白さはあまり感じられなかった。
また『地獄の罠』のガブリエルを、ルパンがかつて拾って育てた美少女に変更したのはいいとして、当初その名が「エリザ」とされていたのが途中でそれが実は母親の名前であり、実は「ローザ」という名前だと判明するという展開も読者の混乱を招きやすい。これも設定に凝りすぎてしまった感があるのだが、ルパンが孤児を拾い、ビクトワールと一緒に一時育てていた、という設定を南洋一郎自身は気に入っていたのか、のちに短編の贋作
『ルパンと女賊』で再利用することとなる。
一方で前半の筋運びを面白くしているのは、宝探しのライバルとなる「アルザス州の虎」の異名を持つ盗賊・
アンドレ―の存在だ。もちろんこれは完全に南洋一郎の創作したキャラクターなのだが、ルパンシリーズにルパンに対抗できるような盗賊
(それも多分に義賊的で紳士的)が登場した例はない。最初のうちはかなりのワルに見えるのだが、結局はルパンと協力関係になり、しっかり友情で結ばれてしまう。こういうキャラはルブランでは作らなかったかもしれず、この一作きりの登場がちょっと惜しいキャラでもある。もっとも物語の後半は存在感が薄いんだよなぁ…。
ところでアンドレ―が「アルザス州の虎」の異名をとっているところをみると、フランスがすでにアルザス州をドイツから取り返した時期の話ということになりそうだ。南洋一郎、そんなに深く年代設定を考えていたとは思えないのだが、一応第一次世界大戦後の設定と考えておきたい
(後述するインディ・ジョーンズも同時期の設定だ)。また物語の中でルパンが「ロボット」という言葉を「操られる存在」の意味で使っている箇所があるが、チェコのSF作家チャペックが「ロボット」という言葉を創作したのは1921年のことなので、ルパンがそれを知ってるというのも年代推定の根拠にできるだろう。まぁこれについても南洋一郎がそこまで考慮して書いてるとは思えないのだが…
序盤はなんだかバタバタしてるストーリーだが、ナイル上流に舞台が移って来ると次から次への危機の連発で話は一気に面白くなる。砂漠だ、ジャングルだ、猛獣だ、大地震だ、謎の仕掛けだらけの地下帝国だとジェットコースターのようにルパンが次々危険に見舞われる。さすがのルパンもフランスで泥棒やってるのとは勝手が違うようで(笑)、ホントに命の危険に何度もさらされてしまう。
僕もそうなのだが、今の読者なら読んでいて
「なんだかインディ・ジョーンズみたいだな」と思った人も少なくないはず。気がつかなかった人もよく読み返せばあの映画シリーズで出てきたような危機的シチュエーションがたっぷり出てくることに気付くはず。もちろん「インディ・ジョーンズ」よりも「ピラミッドの秘密」の方がずっと早く世に出ているから南洋一郎が「インディ」を意識してたわけはないのだが、そもそも「インディ」シリーズを作ったルーカスやスピルバーグは戦前の連続冒険活劇映画の復活を意図したと言っていて、これは単に両者のルーツが同じ、とということなのだ。
南洋一郎は戦前にアフリカを舞台にした児童向け探検・冒険小説「吼える密林」で名を馳せ、その後もアフリカや南米のジャングル、あるいは南洋を舞台にした「秘境冒険もの」を数多く執筆している。これは別に南洋一郎個人や日本だけの現象ではなく、まだまだ世界に「秘境」が残っていた時代には世界中の小説や映画で定番のジャンルとなっていた。「インディ」も製作時期こそ1980年代以降だが時代設定が1930年代になってるのもそういう冒険活劇が存在しえた時代だからなのだと思う。ついでに言えばインディ・ジョーンズは「007」シリーズを強く意識して作られていて、「007」はいろいろとルパンシリーズに似ていることを考えると、ヒーロー造形の歴史上つながりがあるといえばある。
なお南洋一郎はやはり戦前以来映画や小説で人気ジャンルとなっていた「ターザン」ものの翻訳・翻案もつとめていて和製ターザン小説の一作は戦後に映画化もされている。『ピラミッドの秘密』にターザンは登場しないが、実は王子でありながら超人的とも思える活躍をするタンナのキャラクターはかなりターザン的ではある。またターザン映画では「チータ」というチンパンジーの子分が出てくるが、『ピラミッドの秘密』でも登場人物の一人に忠実な「チータ」が登場している。もっともこっちは「本物」のチータ(チーター)なんだけど、南洋一郎、どこか意識してやってるんじゃないのかなぁ、と。
それと少々細かい話だが、この物語では数千年も前の予言が的中する展開がある。『三十棺桶島』を連想させるところだが、あれは全て科学的・現実的に解決される。この『ピラミッドの秘密』でもほとんどの仕掛けは科学的に説明されるのだが
(実際、ラストの魔神像のトリックはなかなかよくできている)、予言については超自然現象としてそのままほったらかしなのだ。科学を信奉しているルパンも
「科学いじょうの超自然的な現象や予言についてもふかい関心をもっていた。人間の小さな知恵では説明のつかない、ふしぎなこの世の中にあることをしんじていた」ことにされてしまっており、ルブランのルパン像と大きく異なってしまっている。これも南洋一郎の考え方、あるいはカトリック信仰と関係があるように思える。
南洋一郎としては本来得意としていたジャンルにルパンを引きずり込んだことで創作の筆が快調に走ってしまったように思う。ただ主人公がルパンである必然性はほとんどなく、よくまぁこんな話が「怪盗ルパン」シリーズの一作として堂々と入っていたものだと思うばかり。
本編のほうの考察でも書いたことだが、ルブランの書いた作品内でもルパンがヨーロッパ以外のところへ探検に飛び出した例はある。戯曲・小説の『ルパンの冒険』で南米まで出かけていたことになっているし、やはり戯曲『アルセーヌ・ルパンの帰還』ではインドやチベットに出かけたことになっていた。『影の合図』ではアルメニアで冒険をしたとされていたし、『虎の牙』では西アフリカに自身の帝国まで作ってしまっていた。そんなルパンだからナイル上流にでかけるくらい…と南洋一郎も考えたのかもしれない。
なお、永井豪・安田達矢とダイナミックプロによる「劇画怪盗ルパン」の最終作
「ルパン再現」(「特捜班ビクトールが一応の原作)は冒頭でルパンが中央アフリカのコンゴに金鉱探しの探検に出かけている描写がある。まったくのオリジナル設定なのだが、わざわざアフリカに出かけさせたあたり、『ピラミッドの秘密』に触発されたところがあるのではないだろうか。
☆復刊されない理由は…
ここから、ネタばれ度が非常に高くなります。本編を読んでから読んだ方がいいと思いますが…それぞれのご判断で。
上記のように本作『ピラミッドの秘密』はほぼ南洋一郎個人の創作物で、ルブランのルパンシリーズとは言い難い。それが現行シリーズや復刻版から外されている最大の理由ではあろうが、もう一つ、内容的に現在の児童向けに刊行することがはばかられる、というのもあると思う。
「インディ・ジョーンズ」と書いたように、基本的には古き良き秘境冒険活劇であり、今の子供が読んでも楽しめるとは思う。だが「古き」ゆえに、今となっては問題視されそうな部分がそこかしこにあるのだ。執筆当時においては特に問題にもならなかったのだろうし、当時の基準から言えばそこそこ配慮も感じる内容だとも思うのだが、 「秘境もの」であるがゆえに、特に黒人に対する描写は今となっては批判されてしまうだろう。
まずナイル上流の黒人王国が物語後半の舞台となるわけだが、住民は黒人なのに支配する王家はアラブ系とみられる広い意味での「白人」になっている。黒人たちは「やばん人」と表現され
、「力はあるが無知」であったために知恵のあったアラブ系のタンナの先祖に征服されたことにもなっている。タンナについても「土人」とひとくくりにしてはいるが、肌が白いがゆえにルパンから黒人より上位に扱われ、カッコいいキャラにされてるところもある。「黒人王国」にピラミッドやスフィンクス、はては大仕掛けの地下基地や大魔神像があるのだが、そんな「文明的」なものは黒人には作れないはず、という発想があったようにも読んでいて感じられる
(かつてジンバブエの都市遺跡についてヨーロッパでは長らく黒人が建設したはずがないと言われていたことがある)。
同様の人種差別意識はルブランの書いた『虎の牙』にもあり、今となっては「当時はそういう感覚だった」と気を付けて読むほかはない
(「虎の牙」に比べれば「ピラミッドの秘密」の方がまだましかも)。なお南洋一郎版の『虎の牙』も以前は「土人」表現を使っていたのだが、現行のバージョンではすべて「兵士」に書き換えられている。
なかなかカッコイイ活躍もするタンナについても、命の恩人だからとはいえルパンに対してすこぶる従順にふるまう姿勢に「文明人が野蛮人を指導する」といった、植民地時代的なイヤミを感じなくもない。僕は最初に読んだとき、「ドリトル先生」シリーズに出てくる黒人王子の描写を連想したものだ
(あっちはかなりコミカルだけど)。
人種問題以外にもひっかかるところはある。ラスボスになる大僧官ガラハダがヒョウのマスクをつけて登場するアイデア自体は面白いのだが、そのマスクの下にある素顔は「象皮病かハンセン病」と思われる症状により醜く崩れている、というのは今ではさすがにそのままでは世に出しにくいだろう。どんな病でも治せるということで国民達の信奉を集めていた彼が自分の顔も治せないと分かっては…ということでマスクをつけていたという設定になっているのだが、きわめて卑劣な悪役キャラになってるだけにこの設定は今では受け入れられにくいだろう。南洋一郎はルブラン原作の『虎の牙』『ルパンと怪人』、およびボワロ・ナルスジャック原作の『悪魔のダイヤ』で犯人を一種の奇形のようにわざわざ改変した例もあり、当時の感覚、というだけでは片づけられない部分もあったと思わせるところもある。
こうした点からも、ポプラ社が『ピラミッドの秘密』をそのまま復刊することはかなり難しいと思う。児童書という形ではなく往年の読者の大人向けに注意書きをつけたうえで…という考えもあるが、初期のバージョンをほぼそのままに復刻したポプラ文庫クラシック版でも外されたところをみるとそれも厳しいように思われる。著作権問題をクリアしなければならないが、国会図書館のデジタル閲覧サービスなんかで読めるようにする、といったやり方の方が現実的だろう。
ところで南版ルパン全集は台湾・香港で海賊版翻訳が出版され、それがそのまま中国大陸にも進出していて、モーリス・ルブラン作と銘打ち南洋一郎の名は全く出されずに今も普通に刊行されている
(それとは別に原典からの忠実な完訳版もあるが南版の方がよく出回っているらしい)。そしてその中に
「金字塔之秘」という訳題で『ピラミッドの秘密』も堂々とシリーズ入りして広く読まれているようだ。中国のネット百科事典「百度百科」で「金字塔之秘」の項目を読んでみたが、ルブラン作のルパンシリーズと何の疑問もなく紹介されていて、南洋一郎の作品であることは全く知られていない様子。ネットを広くあたってみるとあちらでもルパンマニアの一部が「これおかしいぞ?」と気がつき、当サイトを見つけて事情を知ったりしているようだ。
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