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☆漫画にみる怪盗ルパン

おまけ企画
モンキー・パンチ「ルパン三世」とおじいちゃん
<その2・アニメ編>


☆TV第1シリーズにおける「一世」

 では、アニメ編です。1971年に放送された第1シリーズは、当初原作に近い「大人向け」を意識した内容だったために視聴率的に苦戦し、後半から子供向 けのドタバタ系アニメに移行、結果的にこれがその後の長い「アニメ版ルパン三世」の基本路線になった、ということは広く知られています。アニメ版でも「三 世」がアルセーヌ・ルパンの孫とされており、第1話の銭形警部のモノローグでもそのことが明確に語られています。
 
 第7話「狼は狼を呼ぶ」は、それまで敵だった石川五エ門がルパン一味に加わる記念すべき回ですが、この話でルパン三世が狙うのは、祖父アルセーヌ・ルパンが盗み出し、父・ルパン二世が奪い取られた斬鉄剣の秘伝です。この回では三世も「これはルパン家の誇りの問題なんだ」とえらく気負っています。

 第19話「どっちが勝つか三代目!」は、三世の祖父「ルパン一世」の遺品(マント、シルクハット、片眼鏡など、通俗イメージの「怪盗ルパン」です)の展示会が日本で開かれ、その警備のために祖父の宿敵ガニマール警部の孫「ガリマール三世」(なぜか「ガリマール」と発音されています)が 来日して三世と対決するストーリーとなっています。「遺品」ということはこの時点でアルセーヌ・ルパンは故人と確定してるわけですね。1874年生まれの 彼だとこの時点ではまだ百歳を超えておらず、生きてたことにもできそうですが…遺品を身に付けたアルセーヌ・ルパンの人形に、三世が「おじいちゃん」と呼 びかけてますが、そういえば原作漫画でもアニメ版でも三世はアルセーヌを「おじいちゃん」と親しみをこめて呼んでますね。このことはモンキー・パンチ氏も 「夢を食う冒険児ルパン三世」で明言しています。またその「おじいちゃん」を馬鹿にすることは絶対に認めないという態度も示しています。

 続く第20話「ニセルパンをつかまえろ!」は、 原作漫画に出てくる泥棒島のエピソードを脚色したもので、原作同様にこの島にアルセーヌ・ルパンの著書『盗術』があり、これを三世が取り返すストーリーに なっています。村に住む老婆のセリフによると彼女は子供のころにアルセーヌ・ルパンに会っていて、「ほれぼれするほどいい男じゃった」と回想しています。


☆TV第2シリーズにおける「一世」

 アニメ版「ルパン三世」のイメージを決定づけたのがこの第2シリーズ。第1シリーズ再放送の人気を受けて1977年から放送開始されましたが、原作から はかなりかけ離れ、明るく楽しい子供向け路線になったことで好き嫌いが分かれるともされるシリーズですが、4年もの長きにわたって放送されました。

 第28話「女刑事メロン」はまたまたガニマール警部の孫が登場しますが、今度はガリマール・メロン、通称「刑事(デカ)メロン」なる女刑事(なぜかまた「ガリマール」と発音されています)。これ、原作では男の刑事だったのですが(こちらはガニマールの孫ではありません)、アニメではなぜか女性に。ガニマールの孫にしたのは「一世」ファン向けのサービスでしょうか。舞台も元祖ルパンの故国、フランスはパリが舞台です。

 第97話はタイトルがずばり「ルパン一世の秘宝を探せ」。アルセーヌ・ルパンがその墓に埋蔵した莫大な秘宝を狙い、なぜかシャーロック・ホームズ三世が各国のエージェントまで動員して探り回る話。「ルパン一世の墓にその財宝が」というアイデアは面白く、また意表をついた笑えるオチもつきます。なおホームズ三世は第15話「名探偵空をゆく」ですでに登場済みでした(この話では「金田二耕助」なんてのも出てきますし、「水晶の栓」の流用も見られます)

 第100話「名画強奪ウルトラ作戦」はストーリーを一般公募した作品のひとつで、かつてルパン一世自身が描き、ルーブル美術館に盗みの代わりに置いてきた名画(?)「汚れなき青春」をアラブの首長が買い取ったので、それを三世が狙う話です。

 第121話「オレの爺さんが残した宝物」は、 タイトルの通りアルセーヌがらみの品が登場。まず冒頭にアルセーヌの遺品シルクハットが骨董品店で「非売品」として展示されていまして、三世が祖父の形見 をこんなところに飾らせてなるかと盗み出します。ところがそこで銭形に追われ、ドタバタの最中にシルクハットに空いた穴からアルセーヌが盗品「オパールの ビーナス」を泥棒仲間に預けた「預かり証」が発見され、三世がそれを取りに行くことに。この一話は原作漫画に元ネタとされた類似のエピソードがあるのです が、漫画の方ではアルセーヌは一切関係がありません。


☆TV第3シリーズにおける「一世」

 1984年から放送された第3シリーズは、当初原作に近いムードを目指したもののやはりTVアニメとしては明るく楽しい路線を取らざるを得ず、後半に行 くにつれずいぶん雰囲気が変わってしまい、中途半端な印象になってしまいました。再放送もほとんどされないため、存在自体を忘れられてる気もする不遇なシ リーズです。

 第10話「秘宝は陰謀の匂い」では「アルセーヌ・ルパンの遺品」である宝石が登場。それが本物であるかどうかはルパン三世にしか鑑定できないということで、その宝石をもつ某国法務大臣に呼び出された三世がその宝石に光線をあてると、宝石から光が放たれ、なんとアルセーヌ・ルパンの映像(ホログラム?)が空中に浮かびあがります。アルセーヌの姿はやっぱり一目でそれと分かるシルクハット、マントに夜会服、モノクルの姿です。

 第12話「バルタン館のとりこ」では 冒頭で三世が盗み出すのが、「アルセーヌ・ルパンの愛人、マリアンヌ・ドゥビビエの肖像画」。なんでも一世が女にだまし取られたものだとか。盗み出した三 世は「さすがご先祖様、女性の趣味もいい」とか言っておりますが、良く見ればそれはソックリに作られた贋作。それを描いた人物に心当たりのあった三世は… というお話で、それ以上はアルセーヌとの関わりはありません。


☆TV第4シリーズにおける「一世」

 2015年秋から2016年春にかけて、深夜帯放送ながら久々のテレビシリーズ「ルパン三世」全24話が放送されました。このシリーズは製作事情がやや特殊で、イタリアのTV局との共同制作(アニメ製作は全面的に日本側)で、ほぼ全話の舞台がイタリア、サンマリノに限定され、放送もイタリアで先行しました。以前から「ルパン三世」のアニメがイタリアで人気だとは聞いていたのですが(モンキー・パンチさんによる漫画もイタリアでしか出なかったのがあるそうで)、ほぼ完全にイタリアを舞台にしたシリーズが作られるとは驚きでした。

 もともと無国籍な作風なのでイタリアが舞台になろうとそう違和感はなく、むしろ本来のルパンの「本場」であるヨーロッパを舞台にしたことで、「祖父」で あるアルセーヌ・ルパンの世界に近づいている感もありました。ただ残念ながら作品中で「ルパン一世」に触れることは一切ありませんでした。一つには21世 紀初頭の年代で30歳前後としか見えないる「三世」の祖父が百年前に現役というのはすでに辻褄が合わなくなっているため、触れないことにしたということか もしれません。

 ですが、それでも「祖父」の話とのリンクをうかがわせるエピソードがいくつか。
 まず第一話が「ルパン三世の結婚」です。なんとルパン三世が本シリーズのヒロインと挙式してしまうという驚きのオープニングになったのですが、これは祖 父の「ルパンの結婚」の一編をいくらか意識していたフシがあります。少なくとも放送時には当サイトの「ルパンの結婚」ページに時ならぬ数のアクセスが殺到 しました(笑)。物語上の共通点を挙げれば、この結婚の真の狙いが盗みにあること、「離婚問題」が残ってしまうこと、そしてヒロインが冒険に憧れる女性で あること(といってもこちらは思い切り積極的ですが)、などがやや強引ながら指摘できそうです。
 
 第3話「生存率0.2%」では、「祖父」ゆかりのお宝である「マリー・アントワネットの首飾り」が 登場。「三世」ならこのお宝とおじいちゃんの深い因縁について一言あってしかるべきだったんですけどね。またこの話からシリーズ全体にわたってイギリス諜 報部「MI6」が物語に深くかかわって来て、三世と彼らのやりとりには「ルパン最後の恋」の影響があるような気もしました。
 
 このシリーズの放送途中で、スペシャル版「ルパン三世 イタリアン・ゲーム」が金曜ロードショー枠で放送されています。これはTVシリーズの再編集と新作をミックスした内容で、中核をなすお宝がなんと「カリオストロ伯爵の遺産」だっ たから元祖ルパンファンとしては嬉しくなっちゃいました。「祖父」の物語をしらない人はやはり多いようで、放送前のネット上では「カリオストロの城」との つながりを予想する人を結構見かけたのですが、これは実在した詐欺師の「カリオストロ伯爵」のことです。これまたおじいちゃんとは深い因縁があるはずなの ですが、残念ながらそのことにもまったく言及はありませんでしたね。

 ほかにもルーブル美術館所蔵の「モナリザ」盗難ばなしが「祖父」と関わるといえば関わりますね。このようにチラホラと関連ばなしをちりばめてるのに、 「祖父」への言及が全くなかったのは前述のように年代的に無理があるからということなんでしょうけど、「三世」を知りながらその「祖父」の話を全く知らな いアニメファンが少なくないだけに、ちょっとはリンクをつけてほしかったところです。


☆TV第5シリーズにおける「一世」

 2018年4月から、「ルパン三世PART5」の放送が開始されました。過去のTVシリーズはいずれも結構間が空いていたのですが、今回はわずか2年で のシリーズ放送で、やはり深夜帯での放送となりました。全24話で、数回にわたるエピソードを4つ、その間に一回完結ばなしをはさんでいく構成をとり、終 わってみると実は全体で一つの長編にまとまる、という「ルパン三世」としては初めての試みがなされました。全体を貫いているのは、世界中がネットで結ばれ スマホをみんなが持ってクラウドというかビッグデータというか、とにかく近頃ますます発達した「情報社会」の中で、「怪盗ルパン三世」は存在しうるのか、 というテーマでした。

 前シリーズはイタリアを舞台にしましたが、今回はフランスがメインの舞台。そう、ルパンの「祖父」の故国なんですね。エンディングも不二子が歌う「セーヌの風に」で、パリの名所が散りばめられた映像となっていました。
 まず初回、いきなりのオープニングで、本シリーズ最大の敵といえる「エンゾ」がルパンのデータを語るところで、「祖父はあの怪盗アルセーヌ・ルパンと言われているが、それを証明するものは何もない」と いうセリフがあり、「おっ」と思いました。前シリーズではもはや「ルパンの孫」という設定に触れないようにしてる気配があったので、少しボカし気味ながら 「ルパンの孫」というフレーズが明確に出たのには、「祖父」の方のファンとしてはやはり嬉しいものでした。そして実際、本シリーズは「祖父」のアルセー ヌ・ルパンとのリンクがいくつか仕込まれていたのでした。

 エピソード1の終盤、不二子が見るニュース映像の中でフランス警察の「アルベール・ダンドレジー」な る名前が出たとき、また僕は「おっ」と声を上げました。「ダンドレジー」といえば、アルセーヌ・ルパンの母方の姓で、第一作「ルパン逮捕される」では「ベ ルナール・ダンドレジー」という従兄弟の名前を名乗っていました。こりゃルパンのご親戚かな?スタッフのイタズラかな?と思ったりしたのですが、このアル ベール・ダンドレジーがエピソード2のメインキャラクターとして登場してきます。
 ルパン三世はとある事件に首をつっこんで「アルベール・ダンドレジー」の名を聞き、ハッとします。話が進むにつれ、このアルベールとルパン三世は警察と 泥棒という単純な関係ではなく、過去には一緒に泥棒稼業をしていた因縁の間柄であることが分かってきます。しかもアルベールのセリフからすると、どうもア ルベール自身も「ルパン」の名を名乗る(襲名?)資格があったようでして、「国家を盗む」というより大きな目的のために「ルパン」の名はルパン三世に譲っ た…ということのようなんですね。
 結局最後まで明確にされなかったのですが、「ダンドレジー」という姓から察すると、彼はルパン三世のかなり近い親戚だったのだと思われます。だとすると 母方の親戚も「ルパン」襲名の候補者たりうる泥棒一族なのか?「ルパン」という名が一種の「襲名」であることはモンキー・パンチの原作漫画でも出てくる設 定ですが、ともかくやや不明確なところはあるものの、ルパン三世の「親戚」が登場したのはシリーズ初。今後出てくる機会はあるんでしょうか。

 第17話は一話完結のミニエピソードで「探偵ジム・バーネット三世の挨拶」。次回予告でタイトルを見てのけぞってしまいました(笑)。ジム・バーネットといえば「祖父」のアルセーヌ・ルパンが風変わりな私立探偵をやってた際に名乗った名前ですが、これをお孫さんが「三世」として名乗る。アルセーヌの方のファンには大変うれしい驚きでした。
 物語はルパンがある城館で殺人事件に巻き込まれ、探偵役を演じることになる、というもので、このときとっさに彼が名乗るのが「ジム・バーネット」。この 名前がなんなのか一切説明はなく、もう知ってる人しか分からない状態。ま、近頃はみんなすぐにネット検索で調べるから分かるでしょ、というスタッフの姿勢 もあったのかもしれません(この辺、このシリーズのテーマとも重なりますね)。「バーネット」という名前でちょっと期待したんですが、三世は「ピンハネ」は一切せず、おじいちゃんと比べるとえらく紳士的でありました(笑)。

 また、このシリーズは「ルパン三世」の過去アニメ作品へのオマージュが随所に入っているのも特徴で、終盤に第2シリーズで登場したガニマール警部の孫娘、メロン刑事がチラッと顔を見せてセリフもありました。


☆TV第6シリーズにおける「一世」

 2021年9月〜2022年3月に放送された「ルパン三世PART6」は、パイロットフィルム以来ほぼ一貫して次元大介の声を演じ続けてきた小林清志さ んがついに勇退、大塚明夫さんにバトンタッチして、「ルパン三世」オリジナル声優が全て交代したことでファンの記憶に残るシリーズとなりました。

 この「PART6」のもう一つの話題が、辻真先さん、芦辺拓さん、湊かなえさん、押井守さんといった著名な作家・脚本家らが脚本をつとめる回が あったことです。このうち、古典ミステリのパロディやオマージュ作品を多く手がけ、ルパンについても『真説ルパン対ホームズ』ほかの著作がある芦辺拓さん は、第6話・第7話の前後編で放送された『帝都は泥棒の夢を見る』を担当されまして、これがずばり、あのルパンと明智小五郎が対決した「黄金仮面」を下敷きにした話なのです。どうもこれはアニメ制作側から芦辺さんに「お題」として依頼してきたものだったようです。
 なぜか突然、昭和初期の東京に来てしまったルパン三世。本来「一世」の仕業のはずの黄金仮面の役割を三世がつとめることになり、大陸から運び込まれた秘 宝をめぐって明智小五郎と対決する。そこに日本軍人の策謀も絡んできて…という、「黄金仮面」だけでなく、戦前の冒険小説の要素も組み込んだ異色作となっ ていて、なぜ唐突に三世が昭和初期にタイムスリップしているのかについてもちゃんと合理的設定が作られています。作中、説明はまったくないので元ネタ「黄 金仮面」を知らない人にはよく分からない話にも思えましたが、現在ではみんなすぐネットで調べられますからね。実際、放送直後には当サイトの「黄金仮面」 ページにいくらか訪問者が増えてました。

 また、この「PART6」は前半と後半でそれぞれ主軸となるメインストーリーがありました。前半はロンドンを舞台に、現代版シャーロック=ホームズとル パン三世が対決する物語りで、これなんかは「ルパン対ホームズ」の21世紀版とも見えました。もっとも、ワトソン、レストレイド、モリアーティなどホーム ズネタが満載の一方でルパンのネタは、前作で出てきたアルベール=ダンドレジーが顔見世程度に登場したくらいしかありませんでした。
 そしてシリーズ後半は、ルパン三世の「育ての親」ともいえる「トモエ」という謎の女性をめぐるストーリーとなっていました。この「トモエ」は三世の祖 父、つまり「一世」の意向で三世の家庭教師になり、三世を大泥棒に育てたことになっていたのですが、実は彼女が三世の実の母親なのでは?という疑惑が物語 りを最後までひっぱっていくことになります。「三世」のルーツにまつわるテーマを扱うという、案外珍しいことをやったのですが、最終回で三世は自身のルー ツを示す品物を火に投じて過去とのしがらみを一切消してしまいます。
 「ルパン三世」も初登場時から半世紀が過ぎてしまい、「アルセーヌ・ルパンの孫」という設定はほぼ触れられなくなっている中でのルーツに関わる話だったのですが、結局はウヤムヤにしてしまった形です。
 

☆スペシャルアニメシリーズにおける「一世」

 1989年からアニメ「ルパン三世」はほぼ毎年90分程度の「TVスペシャル」が製作されるようになり、これはこの文章を書いている2011年 まで、実に20年以上も続いています。これだけ長く続いてしまうとルパン三世たちもすっかり20世紀末〜21世紀の人間になってしまい、本来なら「ルパン 五世」ぐらいになってそうな話になってしまっています。このため「アルセーヌ・ルパンの孫」という設定は深く考えられなくなり、アルセーヌ・ルパンはあく まで「ご先祖様」的な扱いになってきます。

 1991年に放送されたTVスペシャル第3弾「ナポレオンの辞書を奪え」は、「余の辞書に不可能という文字はない」とナポレオンが言った、その「辞書」が狙うお宝となっていますが、その辞書をナポレオン三世の家からある侍女が盗み出し、その侍女がルパン一世の妻となっていた、という設定がなされています。ルパン一世の妻で泥棒といえば『ルパンの冒険』『白鳥の首のエディス』で活躍したソニア・クリチーノフが 思い起こされますが、史実のナポレオン三世はアルセーヌ・ルパンが生まれる以前に失脚した人物で、どう考えても一世代ほど前の話になっています。アニメの 中で描かれるルパン一世時代の状況も20世紀というよりは19世紀的で、もはや「三世のおじいさん」ということではなくなってる気もします。
 この話ではルパン一世は盗みにより莫大な財産をつくり「ルパン帝国」まで作りあげますが(この「帝国」の設定は原作漫画にあり、アニメで言及されるのは珍しい)、あまりに浪費がひどいことに呆れたルパン夫人がそのうち最大の財産となる秘宝をひそかに隠し、その隠し場所を自身が盗んだ「ナポレオンの辞書」に書いておいた。一世の死後、息子のルパン二世(ここでは実の息子の設定です)も また遊び人であったために「ルパン帝国」も崩壊、借金のカタに「辞書」を奪われてしまう。そして時は流れて1990年代、財政難に苦しむ世界各国のエー ジェントが「ルパン帝国」の莫大な財宝を狙って三世ともども「辞書」の争奪戦をする……というストーリーが軸になっています。ただ劇中「ルパン帝国は中世 以来存在した」というセリフもあって矛盾も生じています。
 大騒動の末に三世はとうとうルパン一世の秘宝を発見するのですが…これがなかなかひねったオチ。未見の方のためにネタばれは控えておきます。そういえばアルセーヌ・ルパンの時代(20世紀初頭として)であればかなり価値があったかもしれません。
 
 1996年に放送されたTVスペシャル第8弾「トワイライト・ジェミニの秘密」については、当サイトの『虎の牙』ネタばれ雑談でそこそこ詳しく触れてますが、ここでも改めて書いておきます。
 ヨーロッパ闇社会の大ボス、ドン・ドルーネか ら「ベイビー」呼ばわりされる三世。すでに100歳を大きく超え、生命維持装置付きでベッドに寝たきりになっているドルーネは、自身がむかしモロッコから 持ってきた宝石「トワイライト」の片割れを三世に渡し、モロッコのゲルド族の秘宝を探しだすよう頼みます。三世たちはモロッコに渡りますが、そこで調べる うちに、100年前にドルーネがフランス外人部隊の兵士であり(それでいてドルーネは「フランス人」と明確にされています)、 モロッコでゲルド族の独立を守るために戦い、その姫と恋に落ちていた、という、アルセーヌのファンにはどっかで聞いたような気がする秘史が明らかになって いきます。おまけに不二子が町中でちらりと見かける若き日のドルーネの肖像画は三世に瓜二つ。全ての事件を解決して帰って来た三世から報告を受けたドルー ネは「ありがとうよ、ルパン…」と初めて「ベイビー」ではなく「ルパン」と呼ぶのです。
 僕がこれまで見聞きした限り、「トワイライト・ジェミニ」と「虎の牙」のつながりに言及したものはないような気がするのですが、作り手はかなり明確に意 識してやったものと思ってます。モロッコでの活躍時期はズレるものの、ドルーネの生まれは1870年代ということにもなり、彼が「その人」だったとしても 矛盾はないのです。原作漫画で三世の父・ルパン二世が「ルパン」とはその名にふさわしい盗賊になったときに襲名するものだというような趣旨の発言をするこ とも傍証になると思われます。

  2011年に放送されたTVスペシャル第22弾「血の刻印〜永遠のMermaid」は、 アニメ版誕生から40周年を期して不二子、五エ門、銭形のキャストが代替わりした作品で、日本を舞台に不老不死の伝説をもつ「八百比丘尼の財宝」をめぐる ストーリーとなっています。この財宝に三世が妙に気負っていると思ったら、実は祖父のルパン一世、つまりアルセーヌがかつてこの「八百比丘にの財宝」を狙 い、なぜかそれを盗めなかったという事実が明らかにされます。ただこの話は後半から唐突に出てくるので、どうしても「とってつけた」ような印象を受けま す。
 財宝があるという島に渡った三世たちは侵入者をこばむ機械仕掛けのトラップを突破してゆきますが(この辺はインディ・ジョーンズですな)、ルパンを追ってきた銭形警部は島で「一世」が落としていった片眼鏡を発見、そこから偶然「一世」が通った抜け道を落っこちてゆくことになります。やはりアルセーヌ・ルパンというと「片眼鏡(モノクル)」がトレードマークにされちゃうんだなぁ、と改めて思わされます。
 いろいろあって最後に明らかにされる真相は、美しいままの姿を保つ八百比丘尼に「一世」は惚れこんでしまい、「目を覚ました時にまた参上」なんてメモを 残し、比丘尼の手にキスをして立ち去っていた、というものでした。まぁ原作のアルセーヌも半分趣味で泥棒してるところがなくもないのですけど、割と実益重 視でもあるのでここまで気分屋ではない気がします。
 なお、番組の最後にこの作品のソフトのプレゼントがありましたが、そこで映されたキーワードは「ルパン一世」でした。「三世」がいるから「一世」なんですけど、本当に「ルパン一世」という話やキャラがあるのだと信じてしまう人が多そうで怖い(笑)。

 2013年11月に放映されたTVスペシャル第24弾「princess of the breeze 〜隠された空中都市〜」では、その万能ぶり、おお暴れっぷりで強烈な印象を残す「ミスターG」な る老人キャラが登場しました。かつてルパン一世の仕事を手伝った子分なのか相棒なのかといった設定になっていましたが、ここでも「ルパン一世」という呼称 が使われてしまいました。100年前に全盛期だった「一世」の協力者にしてはあまり年が行っていないような…とも思うのですが、そもそも最近の「ルパン三 世」スペシャル自体が年代設定をどんどん現代にずらしてきていて、本来の「アルセーヌ・ルパンの孫」設定から乖離してしまってるのですよね。その一方で大 人向けのスピンオフ作品「峰不二子という女」や「次元大介の墓標」では原作漫画の1960年代に戻しているのが注目されるところです。
 

☆映画版における「一世」

 「ルパン三世」のアニメ映画はこれまで5作製作されていますが、なんといっても絶大な人気を誇るのが1979年に公開された宮崎駿監督の出世作「ルパン三世 カリオストロの城」で す。もはや説明不要とも思いますが、この映画は宮崎監督のカラーが強く「三世」原作のファンからは敬遠されるところもあるようですが、アルセーヌのファン から見ると「三世」よりも「一世」の世界に近い作品に見えます。そしてそこかしこに「一世」ネタがちりばめられているのです。これも当サイトのあちこちで 説明してるんですが、改めて。

 そもそも「カリオストロ」という名前自体、アルセーヌ・ルパンが若き日に対決し、その最後の冒険にまで絡んだ女盗賊カリオストロ伯爵夫人に由来することは明らか(もちろんさらに元ネタの実在したカリオストロがいるわけですが)。ヒロインの名前クラリス『カリオストロ伯爵夫人』からの拝借でしょう。また悪役カリオストロ伯爵が三世の予告状を見て「アルセーヌ・ルパンの孫か」と口にしており、「実在」した初代とのつながりをより明白にしています。
 そして有名なのがラストで明かされる「湖底のローマ遺跡」という壮大な仕掛けが、祖父の冒険である『緑の目の令嬢』のラストそのまんまだということ。そもそもヒロイン・クラリスのキャラクター自体は「伯爵夫人」におけるクラリスよりも「緑の目」のヒロイン・オーレリーに近い気がします。クラリスは青い目ですが、かつて日本では「緑の目」を「青い目」と訳すのが大半だっ(保篠龍緒、南洋一郎ともに)というのも証拠の一つに上げられるでしょう。三世が最後に盗んでいった「とんでもないもの」についても、『八点鐘』の「お宝」がヒントになっているのではないかとの推測もあります。

 それと気になるのが、映画のクライマックス手前で映る「ル・モンド」紙に「1968年12月」の日付があること。1979年公開の映画ですが、劇中の年 代が1960年代末なのです。しかも三世は明らかに中年以上の「おじさま」設定。仮に30代後半として生まれが1930年代前半ということになり、原作漫 画の当初の設定に近いことがわかります。そのぐらいじゃないと「アルセーヌ・ルパンの孫」ってのは無理なんですよね。実は細かいところで宮崎監督、三世と その祖父をからめた年代設定をちゃんとやってるようです。実際のところ僕も原作的な「ルパン三世」ワールドというのは連載中の1960年代、がんばって 1970年代までが現実味を感じる限界だったと思っています。


 モンキー・パンチ氏が亡くなった2019年、シリーズ初のCGアニメ作品「ルパン三世 THE FIRST」が公開されました。副題の「THE FIRST」はCGアニメで初、ということにもかけてますが、「ルパン一世」すなわちアルセーヌ・ルパンが物語の重要な要素になっていることにもかけてあります。
 アルセーヌ・ルパンがなぜか盗み出せなかった「ブレッソン・ダイアリー」という本の形をした謎の装置があり、そこには超科学的なお宝のありかが示されて いる。発明した考古学者のブレッソンは、ダイアリーを狙ったナチスに殺され、ダイアリーは行方知れずに。それから十数年の時が流れて、ダイアリーが姿を現 し、ルパン三世、考古学脂肪の美少女、そしてナチス残党が争奪戦を繰り広げ…というお話。お宝探しの過程で「ルパン一世」が残したシルクハットやステッキ が出てくるなど、確かにアルセーヌとの絡みがあるのですが、過去のテレビスペシャルにも近いものがあったので、この点はそれほど目新しさはありません。

 ただ最近の「ルパン三世」と明確に一線を画すてんがあります。それは年代設定。上記のあらすじでお分かりのように、この話、劇中明言はないものの第二次 大戦から17.8年程度しか経っていないはずで、ナチス残党どころヒトラー本人が生きている可能性が示されたりします。つまりまだ1960年代、原作「ル パン三世」が始まったころを想定していて、劇中の技術面もその当時のものにちゃんと限定されています。 
 なぜそうしたかといえば、そう、「ルパン三世はアルセーヌ・ルパンの孫」という設定をちゃんと守るならこうするしかないのです。ある時期からの「ルパン 三世」はこの設定をあいまい、あるいは無視してしまってますが、本作はその点でちゃんと原点回帰してるんですね。上の方でも書いてますが「カリオストロの 城」にも通じることなのです。ぼんやり見ていると気付かないかもしれませんが…


 以上、漫画とアニメにおける「ルパン三世」ワールドにおける、「祖父」アルセーヌ・ルパンを検証してみました。大雑把にあたってみただけなのでまだまだ見落としがあるかもしれませんが。
 漫画・アニメの「ルパン三世」をきっかけにアルセーヌ・ルパンに手をつけてみた、という人も少なくないようですし、この一文が二つの「ルパンワールド」の橋渡しとなり、「元祖ルパン」にもっと深入りする人を増やすことにつながってくれれば幸いです。


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