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☆ 漫画にみる怪盗ルパン

ジャック・ジュロンほか画
「アルセーヌ・ルパン」シリーズ(全6巻)(1989〜1998、邦訳は偕成社より 1994刊)

 漫画といえばもちろん日本だけのものではありません。日本のそれは「マンガ」という一種固有の表現媒体として世界に影響を与えている わけですが、フランスにも伝統的に「バンド・デ・シネ(BD)」と 呼ばれる、日本でいうところの「劇画」が存在します。まぁアメコミとそう変わらない気もしますが。
 この「アルセーヌ・ルパン」シリーズはルパンだけでなくホームズやルールタビーユなど世界の名探偵の「バンド・デ・シネ」シリーズの一部で、基本的には 子供向けに描かれてます。最初に出た5冊のコミック化を担当したのはジャッ ク=ジュロン(Jaqcues Geron、1950-1993)で、ベルギー出身、1970年代から活躍した漫画家さんです。「奇岩城」 の冒頭に「1993年10月30日 不慮の死を遂げたわれらの親愛 なる友 ジャック・ジュロンに捧げる」との献辞があり、詳しい事情はわかりませんが日本版が出る直前に43歳の若さでこの世を去っていま す。このジュロン版5冊はルパン全集でもおなじみの偕成社から邦訳が出版されてます。ただすでに絶版ですので、図書館の児童書コーナーをあたったほうが見 つかるかと思います。
 現時点で最後の一冊となっている6作目「特捜班ビクトール(VICTOR,DE LA BRIGADE MONDAINE)」は 日本では未訳です。漫画家はエルウィン=ドレゼ(Erwin Dreze)で、シナリオは全6冊ともアンドレ=ポール =ドゥシャト(André-Paul Duchateau)によるものです。

 いずれも原作に非常に忠実に「BD」化しているのが特徴です。さすがにページ数が厳しい(48ページ)ので詰め込み状態であり、日本の漫画に読みなれた 人にはそのテンポがなじみにくいとは思いますが、じっくり読めば読むほど味わいが出る。オールカラーであるのもうれしいところです。
 ネットで調べたところフランスでも旧版と新版があるようです。旧版はジュロンによる大人向けも意識した表紙で、偕成社版もこれをそのまま使用していまし た。21世紀に入ってから出た新版では表紙が子供向け全開のコミカルなものになっていて、なかには原作と無関係のようなものもあるのが残念です。

1.「水晶の栓」Le bouchon de cristal(1989)



原作通りのゴリ ラかオランウータンを思わせるキャラクターに劇画化されたことでドーブレックの怪物ぶりがさらに際立っています。
原作通りルパンは何度も変装して登場するのも見どころ。最初に泥棒に入るところとラストシーンだけ燕尾服にマントのいわゆる「ルパン・ファッション」に なっていますが。
ルパンの乳母ビクトワールもちゃんと登場するのが嬉しい。ルパンのクラリスに対する思慕はカットされてしまいましたが、あの余韻のあるラストはそのままで す。

2.「813・ルパンの二重生活」813 - La double vie(1990)



「813」は原 作の副題のままきちんと2分冊。そのためタイトルがネタばれになっちゃってますが…
改変はほとんどないのですが、ルノルマンにルパンから電話がかかってくるという原作にないシーンがあります。
セルニーヌ公爵ことルパンは一貫して立派な口ひげを生やしており、これが続編まで引き継がれます。

3.「続813・ルパンの三つの犯罪」813 - Les trois crimes(1990)



これも原作にほ とんど忠実に漫画化されているのですが、さすがにラストは詰め込み状態。最後の4ページで真犯人解明からルパンの飛び込みまであるんですから、もうあわた だしいこと、あわただしいこと。笑えちゃうぐらいです。
「Apollon」の言葉にルパンがたどりつくとドイツ皇帝に「ホームズ (ショルメス)が4日で解き明かしたわ、初歩だぞ、ワトソン君!と 言われてしまうところは原作にないけど面白い(笑)。
それにしてもフランス新版の表紙はいったい何の話なんだ。

4.「緑の目の令嬢」La demoiselle aux yeux verts(1992)



意外なチョイス です。ルパンの長編傑作を選んだ場合、「緑の目の令嬢」がくることはほとんど例がないです。内容的にもソフトだし、漫画化しやすいという判断があったかも しれません。あと世界的にも有名な「カリオストロの城」の元ネタであるということも大きかったかも知れません(笑)。上右図がまさにそのシーン。
ページ数にも余裕があるので原作にほぼ完全に忠実な展開。「火を貸してくれ」のギャグもしっかり連発され、「マレスカルは〜」のあの場面もちゃんとありま す(笑)。
それにしてもフランス新版の表紙…これまた全く内容を連想させません。

5.「奇岩城」L'aiguille creuse(1994)



おおむね原作通 りですが、終盤のエギーユ・クルーズの場面で、ボートルレがストレートに内部に入って行ってしまうため、ガニマールたちがどうやって入って来たのかわから ない展開になってしまっています。
ルパンの伝記作者「わたし」の自宅でルパンとボートルレが対決する場面が上右図ですが、「わたし」はルブランのことと断定されてます。そういえば顔も似せ て ありますね。
女性の描き方はジュロンさんの趣味が濃厚に出ており、この時代にこういうファッションはないだろう…と思うところも多いし、レイモンドのデザインも現代的 にすぎる気もします。
出版年からするとこの作品がジャック=ジュロンの遺作ということになるようです。

6.「特捜班ビクトール」Victor,de la brigade mondaine(1998)



ジャック・ジュ ロンの死後、1998年になって出た新作。シナリオを担当したのは同じ人ですが、画風はガラリと変わりました。ちょっと「わたせせいぞう」風味ですね (笑)。
残念ながら日本版は発売されていません。僕はフランスのアマゾンを利用して直輸入で取り寄せ、ようやく読むことが出来ましたが、当然全部フランス語、しか も筆記体風に書かれているのですらすら読むのはかなり困難です。大筋で原作通りなんですが、原作にある複雑な二重浮気話はかなりカットされてますし、ラス ト数ページは原作にはないアクションシーンが入ってます。たぶんページが余っちゃったんじゃないかと。
例によって新版の表紙は意味不明だなぁ…


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