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☆
漫画にみる怪盗ルパン
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好美のぼる著
「怪盗ルパン」
(曙出版「世界文学漫画全集」、1970年12月) |
白状しますと、僕は
「好
美のぼる」という漫画家の名前を、このルパン漫画の存在を知るまで全く知りませんでした。ネットで調べてみると1920年生まれで貸本漫画
時代から多くの恐怖漫画を執筆、1989年に漫画家を引退し、1996年に亡くなった方だそうです。その独特の恐怖漫画世界が近年になって注目されたりし
ているようですが…
そんな方がなぜか
「怪盗ルパン」を描いていました。正
確にいえば「世界文学漫画全集」と銘打ったシリーズの1つであり、他のラインナップは
「巌窟王」「ああ無情」「ノートルダムのせむし男」「ジキル博士とハイド氏」「鉄
仮面」と、一作を除きフランス小説ばかりがそろっていました。これを全て好美氏が漫画化していたのだそうです。もっとも好美氏は「漫画」
「作画」ではなく
「脚色」としてクレジットされています。
もともとホラーものを描いていた…というのはその絵柄からもよく分かります。かなり荒っぽいタッチで、正直なところ「ルパン」みたいな華やかな世界を描
くにはどうかなぁ?という気もします。あと
登場人物の顔がみんな同じに見えてくるよ
うな…(汗)
さて内容はといいますと、原作となっているのはルパン・シリーズの最初期の作品、
「ルパン逮捕される」「獄中のルパン」
「ルパンの脱獄」そして
「おそかりしシャーロック・ホームズ」で
す。誰の訳文を参考にしたのか明記はありませんが、恐らく保篠龍緒版を主に使用したのではないかと思われます。4つの短編を原作にしていますが、章立ては
いっさいなく、全てひとつながりの長編作品として漫画化されています。なかでも「逮捕」から「脱獄」までは原作に非常に忠実な漫画化がなされており、細か
いセリフのひとつひとつまでちゃんと再現。この手の「世界名作」の漫画化としては誠意ある態度だな、と感じましたが、もともと短編連作だけにページ数に余
裕があったということも一因でしょう。
まずは
「ルパンの逮捕」です。
原作にしたがってベルナール=ダンドレジーの一人語り形式になってます。オリジナル部分はほとんどないといっていいほどですが、冒頭でミス・ネリーがダン
ドレジーに「ロゼーヌさんはどこ?」などと聞き、二人が仲良くしている様子をダンドレジーが嫉妬の視線で見る…という伏線こみの導入部が追加されてます。
そこへ無線で「一等船室にルパンあり」との情報が入り、途中で切れた電文をもとに誰がルパンなのか推理したら消去法でロゼーヌが残った…という場面が右
図。
「ロゼーヌ氏です…どなたかロゼーヌ氏をくわしくご存知の方は
いませんか」と言う
ダンドレジーの顔の怖いこと!こ
れじゃ、嫉妬に狂ったお前が仕組んだろう!と思った読者も多かったはず(笑)。怖いといえばロゼーヌの顔も負けないぐらい悪人ヅラで…どうも好美ワールド
ではこういう顔が西洋人の美形男性ということのようです。
その後の展開もまさに原作そのまんま。アメリカではガニマールが待ちうけており、ルパンの正体を暴きます。ルパンの負傷した右腕をステッキで叩く場面は
なぜか変更され、腕をつかんですそをめくりあげて傷を見せる形になってます。ミス・ネリーはカメラを海に落として去っていくわけですが、このあと「おそか
りしホームズ」で再会する…はずなんですけど、なぜかこの漫画ではこれっきりになってしまいます。
続いて
「獄中のルパン」。これもまさに原作そのまんまなの
で特に紹介するところがありません。あえて挙げればラストにガニマールの懐中時計をくすねて返したあと、そのまま「ルパンの脱獄」の内容に入っていく、と
いう点だけです。
「ルパンの脱獄」も嬉しくなる
ほど細かいところまで原作そのままの展開。ただルパンが「デジレ=ボードル」に化ける変装は
ただシワを書き足しただけな
のがいかにも漫画的表現です(笑)。
左図がルパンが正体を現す、あの名場面。それこそ
一瞬にしてシワが消えるだけで
す(笑)。このあとの格闘でやっぱりルパンは柔術を使いますが、ガニマールの腕を背中のほうへねじりあげる形になってました。
あの「イギリス大使館」と言うカッコいいオチは残念ながらカットされており、ルパンは「じゃごきげんよう」と気軽に立ち去っていきます。そしてそのすぐ
次のページでチベルメニル城に舞台が飛び、
「おそかりしホームズ」の
話に入っていくわけです。
ところが…何を思ったのか、ここまで原作に忠実に話を進めてきた好美氏は、この「おそかりしホームズ」の話を大胆に改変してしまいます。原作をすでに読
んでいる読者をもアッと言わせてやろう、というイタズラ心が起こったのかもしれません。実際僕もビックリしたわけですが(笑)。
チベルメニルの城の持ち主ドバーヌのもとに、「ルパンとそっくり」と言われる画家ベルモンが出入りしている。どうもルパンが城の財宝を狙っているらしい
ので、シャーロック=ホームズを呼んだ…という出だしは原作どおりです。ところがそのベルモンが地下道のありかのヒントをドバーヌに説明し始めると、これ
が全く違う話。歴代城主の肖像画に地下道のヒントがある、と見事な謎解きをするベルモンに「本当にきみがルパンじゃあるまいね」と恐れるドバーヌ。そこへ
矢文(!)でルパンの
予告状が届き、一同は必死になって地下道のありかを探します。そこへ少々遅れたといってシャーロック=ホームズが到着してしまいます。
このホームズが…
見事な八の
字ヒゲを生やしたガタイのいいオッサンで、かなりビックリします(笑)。どうも好美氏は男性でも女性でも顔のレパートリーが少ないようで、
ヒゲがなかったらみんな同じ顔に見えてしまう上に、ヒゲを生やしたら生やしたでそれも全部同じ人に見える、という困った事態になります。幸い同じ場面に出
ることはありませんが、
ガニ
マールとホームズがほぼ同じ人相です。
さてすっかり原作と別コースをたどりはじめたお話は、ホームズも加わって城の中の大捜索が進められます。そのうちに
窓の外の風景がだんだん変化していると
いう事実に気づく一同。ビックリして美術品を置いた部屋へのドアを開けてみると、なんとそこに
部屋がない!部屋ごと盗ん
じゃったのか、と驚く一同でしたが、ホームズが名推理を発揮、実は
城の天守閣自体が歯車で移動すると
いうとんでもない仕掛けになってることが明らかになります。城壁のくぼみがそのまま歯車とかみ合って動いちゃうんですよね
(右図。説明してるのがホームズです)。
天守閣を動かしてもとの位置に戻してみると、美術品室はもとのままでホッとしたのもつかのま、
「エジプトの星」というドバーヌが一番大切にしている黒ダイヤが紛失しており、
ルパンの手紙が残っていました。手紙には「地下道を教える代わりにダイヤをいただく」と書かれており、こんどは
壁の石を外すとエレベーターのように部屋
が地下へさがっていくという仕掛けが発見され、ホームズたちは地下道を発見し、外へ出ます。
ここでホームズとベルモン
(そういえばずっといたのをすっかり忘
れてます)がルパンはすごいやつだと語りあうのですが、突然ホームズがドバーヌに「ルパンと取引しては」と提案します。ドバーヌが二番目に
大事にしている宝石
「ナイルの涙」をルパンに譲って引き換えに「エジ
プトの星」を返してもらおう、というわけ。近くでルパンは我々を見ているはずだから、と、地下道の入り口付近に手紙と「ナイルの涙」を置いて、一同はいっ
たん城に戻ります。そしてしばらくしてドバーヌがそこへ戻ってみると、「ナイルの宝石」も「エジプトの星」も、二つとも置いてあり、ドバーヌはルパンに感
謝感激。
「いや実害がなくてよかったですね、ルパンにお目にかかれなかったのは残念だが…」と、数日の滞在を求めるドバーヌを振り切ってホームズはそそくさと引
き上げてしまいます。「さすが世界的な探偵」「二人をあわせてみたかったですな」とドバーヌとベルモンは言い合いますが、馬車の中に乗り込んだホームズが
なぜか高笑いをしています…
宝石がもどったことを祝って祝杯を挙げるドバーヌたちのもとに、来客が告げられます。なんとそれは
シャーロック=ホームズ氏(!!)。
そう!「本物のホームズ」が到着したのです!顔はおんなじですが(笑)。驚愕したドバーヌは叫びます。
「では、あの男は
誰なのだ!?」
ホームズに化けた男は誰だったのか…それは読者にはよくおわかり
と思う。
ルパンの手には本物のエジプトの星とナイルの涙がにぎられていたことをお知らせ
しておこう…
…と、いうナレーションが去りゆく馬車にかぶってエンドマークです。
話、わかりましたか…?漫画で読むともっと分からなくなってくるんですけどね(笑)。
原作を知っている人にはかなりビックリのトリックで、とくにベルモンがルパンじゃないってのはいい意味で裏切られた形ですが、どう読み返しても、ルパン
の行動、
無駄が多すぎで
す(笑)。好美先生も凝って考えすぎちゃったんじゃないでしょうか。
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