アリエルの投げキッス

実は私はディズニーシーのアトラクション、マーメイドラグーンシアターの常連である。ディズニーには多くの常連さんがいてショーなどに熱心な人が多いのだが、アトラクションの常連さんもいる。私もいくつかのアトラクションで一部のキャストさんに覚えられているので”常連”となるのだが、そのアトラクションの常連さんは私のはるかに上を行く。同じ常連でも桁が違うのである。
マーメイドラグーンシアターにも当然、常連さんがいる。マーメイドラグーンシアターはアトラクション形式ではあるが内容としてはショーであり、アリエルの他、セバスチャン、フランダーなども人が演じているからだろうか、常連さんは他のアトラクションより多いと感じる。熱心な常連さんも多く、出演者に覚えられている人もいる。私はとてもそこまでには至っていない。そもそも出演者を見分けるのが困難なくらいである。だけど、アリエルに覚えられるといいな、という気持ちは当然ある。アリエルに覚えられるには・・・熱心な常連さん並みに数多く行くのが一番なのだろうけどそれは難しい。ならばなにか特徴があれば? 私は会社帰りに寄ることも多く、そのときはネクタイをしているのでこれは”特徴”のひとつだろう。そしてなるべく同じ席、アリエルから分かりやすい席に座るようにしている。でも、それだけで覚えられるほど甘くはない。なにしろ観客は最大700人、一日何回も上演しているのだから。
ちなみに常連さんの中にはセバスチャンなどが目当ての人などもいる。でも・・・男性が演じているので私はあまり見ていない。

マーメイドラグーンシアターのショーについて紹介する。ショーのタイトルはキングトリトンのコンサートで、ショーの中でアリエルは観客の上を何度も泳ぎ回る。ときには観客のすぐ近くを泳ぎ、客席に向かって何度も飛び込むように泳ぐこともある。そのたびに観客から歓声を上がったりもする。ショーの途中、アリエルは客席に向かって手を振ってくれる。そのとき運が良いとアリエルと目が合う。これはうれしい。アリエルの目はとても魅力的である。それもあって、私はアリエルと目が合うことが多い席を選んで座っている。経験上何席か知っているのだが、だからといって毎回必ず目が合って手を振ってくれるわけではない。アリエルが見る先はその時によって違ってくるので、あくまでも”目が合う確率の高い席”だからである。
ここでタイトルの投げキッスである。ショーの中でアリエルが客席に向かって投げキッスをしてくれるときがある。ショーの中で1回2回程度で、やらないときも多い。だから見ることは少ない。ではどこに向かって? これはいろいろである。ただ、声援を送ってくれるグループにすることが多いような気もする。投げキッスとなると、元気なグループは大きな歓声をあげたりする。これは嬉しいだろうな、と思う。もし私に向かってしてくれたら・・・それは最高だろうな、と思う。

さて2018年3月の日曜のことである。この日は朝、8:30頃にマーメイドラグーンシアターに行った。3月ということでパークはかなり混んではいたがマーメイドラグーン近辺はまだそれほどでもなかった。入り口でキャストさんから”今日は早いですね”といわれる。シアターへは平日夜、最終回に行くことが多く、そのイメージが強いからか、朝行くと時々言われる。中に入ると開園直後にまっすぐに行った訳ではなかったが、シアターのロビーには誰もいなった。つまり私が最初の客ということになる。閑散としていたロビーもその30分後、開演直前には多くの人が集まっていた。
8:50を過ぎた頃にシアターに入場が始まる。だいたい待っていた順に入れる。皆さん思い思いの席に向かうが、一番の人気は奥の最前列ステージの正面になる。ここはすぐに埋まる。だけど初めから3列目4列目あたりに行く人も多い。これも一番奥の正面のブロックから埋まってゆく。ショー全体を見るには一番奥のブロックがよく、最前列よりも少し後ろの方が見やすい。そして、アリエルが上を泳ぎまた客席に向かって飛び込んでくる5列目あたりも人気が高い。席はほぼ埋まったように見える。
9:00、シアターが暗くなりショーが始まる。まずはタツノオトシゴ(ヘラルド?)が、続いてセバスチャンが出てくる。アリエルが出るのはその後である。このとき、アリエル役が2日前の金曜日の最終回と同じと気がついた。この娘は尾びれの動かし方に特徴がある。アリエル役の人、何人もいるけど見分けるのは難しい。髪がみんな赤毛になっているし声も同じ(というより本人は話さない)。顔も似ているので見分けにくい。でも、この娘のように演技に特徴があるとわかることもある。
金曜日のこと、アリエルは私に向かって何回か手を振ってくれた。この娘は何回か見ているので覚えてくれているのだろうか?(自信がない・・・)  このときのアリエルの演技、尾びれの動かし方の他にもうひとつ特徴があった。後半にフランダーを驚かそうとしてその直前、客席に向かって”シーッ”のポーズをすることである。これをやる人は少ない。ここで思ったこと、アリエルに対して私が同じシーのポーズを返したら・・・? アリエルはどんな反応をしてくれだろうか? これはアリエル役個人を見分けていて、演技の違いを知って構えていないと難しい。実は以前からやってみたかったのだが、気がついてからやろうとしても間に合わなかったのである。でも今回ならできるだろう。しかし・・・そのときには天井からのスポットライトが私にもあたっているはず。つまり私自身が他の観客からも見られてしまう。もしアリエルに無視されたら? それも心配ではあるけど、私だけが目立つかもしれない、ということで勇気がいるが、やってみようと思う。そのタイミングは、アリエルが2回目の手拍子を求めた後である。
ショーの後半、その時が近づいてきた。フランダーが反対側から走りこんで私の隣の通路に入り、ステージから少し離れる。そこへアリエルが近づいてゆき、”シーッ”のポーズ。期待通りだいたい私の方向を向いている。アリエルからは私が見えているはずである。その瞬間、自然に手が動いていた。でも気が付いてくれたかどうかは分からない。思ったよりちょっとタイミングが早かったこともあり、アリエルの表情を確かめる余裕はなかった。その後ショーは何もなかったかのようにいつもどおり流れてゆく。アリエルは見てくれたかな? そして、私の行動、他の人からどう見えただろうか? このときのアリエルのしぐさ、後ろからは見えないから、ステージを挟んだ反対側からは私だけが見え、不思議に思われたかも? そう思うとちょっと恥ずかしさも出てきた。ドキドキしているのがわかる。でも、アリエルは気がついていてくれたようだ。少し後に、ステージの反対側から私に向かって手を振ってくれた。でもその直後に私のすぐ後ろの席で歓声が上がった。方向は同じだからアリエルがその人たちに手を振ったと思われたのだろう。だけど目は私に向いていた(と思う)。

そしてその次・・・アリエルは下を向いて私の席のあたりに向かって手を振る。どこに向くかはそのときによって違う。私の席より少し後ろに向かって手を振ることも多い。私から手を振ると気がついてくれることが多いが無視されることもある。が、今回は最初からはっきりと私を見て手を振ってくれた。目が合う時間も長い。すぐに手を振り返す。そして次の瞬間、私に向かって投げキッスをしてくれた。このタイミングでの投げキッス、非常に少ない。だから、私の行動へのお礼みたいなものなのだろう。直後、今回もすぐ後ろの席で大きな歓声が上がった。当然だろうな、と思う。アリエルの投げキッス、高いところからの時が多く、こんな近くでしてくれることは滅多にない。”アリエル、私に投げキッスしてくれたんだよ!”と言いたくなる。だけどすぐにどうでもよくなった。アリエルが私にお返しの投げキッスをしてくれた。そう感じただけで最高の気分である。
そして、これでアリエルが私を覚えてくれるといいな・・・。





余談:
アリエルが私を覚えてくれているのでは? これはときどき感じることがある。客席のすぐ真上で手を振ってくれるとき、いつもと違う方向にいる私に向かって真っ先に手を振ってくれたり、私を見た瞬間に表情や手の降り方が変わることである。
さて、あるとき私の隣に元気なお兄さんがいて、ショーの途中にアリエルに向かって何度も何度も大きく手を振るなど盛んにアピールしていたことがあった。が、タイミングが悪いこともあってアリエルには無視されていた。そして、終わりごろにアリエルが私に向かって手を振ってくれた。それまで何もしていない私に向かって、アリエルはしっかりと私の目を見て手を振ってくれた。何度も見ている娘である。その直後、ちらりと横を見るとお兄さん、不思議そうな、釈然としないような表情であった。


余談その2:
あるとき、セバスチャンが私に向かって軽く挨拶みたいなしぐさをしていた。が・・・私はアリエルばかり見ていたので気がつくのが遅れ、なにも返せなかった。セバスチャン、ごめんね。





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