母のぼやき…

 三輪 ひとみ




 私には現在、小学6年と5年生の年子の息子がいる。結婚する前から坂本龍馬が大好きで袴フェチの私は、いつしか息子が授かったら絶対!剣道を習わす!と勝手に決めていた。その願いが叶ってか、お腹が休まる暇もなく2人の息子が誕生した。そして息子らが小学生になったところを見計らって、息子らに有無も言わさず、待ってました!とばかりに剣道の道に入れた。
 初めて袴を身に着けた息子らの凛々しい姿にウットリし、写真をバシバシ撮りまくり、稽古のない日も着せて連れて歩いた。防具を着用して竹刀を振っていると強く見えるのは親の欲目だろうか…?
 また言うが龍馬が大好きで袴フェチの私は、この時点で十分達成感と満足感を得ていた。…が、しかし、私は「その後」を全く考えていなかったのである。
年子だが顔、形はそっくりで、今だに双子と間違われる事が多い。その上、二人とも試合に勝てないと ころもそっくりなのである。
 低学年の頃は定期的に開催される練習試合で、多分、一度くらいは準優勝の楯を持ち帰ったと思う(この楯は使い回しなので、次に練習試合があると回収される)。それから全く縁がない。…その頃から、剣道界のハルウララ兄弟と囁かれるようになったのである。しかし息子らが偉いのか、道場まで送る私が偉いのかは分からないが、年に一度、出席率が95%以上だと特別優秀者表彰、そして80%以上だと年間優秀者として記念の楯が授与される(この楯に関しては回収なし)。剣道を始めて毎年この楯だけは必ず、二人とも手にしている。言い代えれば、この楯欲しさに、しんどくても、つらくても稽古に行っていると言っても過言ではない。
 昨年の晩秋、5年生だった長男の身に大異変?が起こった。円陣の真ん中で6年生のキャプテンに寄り添うかのように、ぴったりくっついて一緒に号令をかけたりしている。はて?さて?なぜ?
 稽古が終わるとすぐ長男をつかまえて、はて?さて?なぜ?と聞いた。
 「ユウキ(長男の名前)な、先生にな、来年キャプテンしろ、と言われてん。だから今、キャプテンに教わってんねん。同じ学年でもっと上手な子おるけど、ユウキは休まず、時間より早く来るから、それが大切やからと言ってた」。
 嬉しいやら悲しいやら喜んでいいのやら複雑な気持ちになった。しかし、勝てなくても休まず、ひたむきな真面目さが評価されたんだと感じた。
 年が明けて早々、岡山で大きな大会があった。正式にキャプテンとなった長男が選手に選ばれ、我が子の晴れの舞台見たさに大枚をはたき、家族総出で応援観戦に行った。
 開会式から延々と出番を待ち続けて6時間。ようやく出番が来た。2分間一本勝負!試合開始の号が場内に響く…が、僅か2秒で、6時間が!大枚が!はかなく散った。
 「ちゃうで〜、10秒はもったで〜」と自慢げに言い切る長男。「もった」ってなんだ〜?真冬の厳寒が身を刺すようであった。
 そんな長男だが周りに助けられ、支えられ、一人前のキャプテンに向かって成長させてもらっている、と言った方が長男の場合適切だと思う。
 そしてこの夏休みに日本武道館に於いて、全国大会が開催される。正式メンバーには選ばれなかったが、補欠要員として参加させてもらうことになった。現在、週5回の稽古にも頑張って励んでいる。メンバーとして試合に出場出来ることは難しいが、武道館の空気なり自分の目で「何か」を得て帰ってきて欲しい。
 さて、とんと話題に上らない次男。剣道では今の所、なかなか芽が出ないが…この春、児童会の副会長に立候補し、見事、当選を果たした。学級新聞でも、それはそれはもてはやされた。その学級新聞に今年度の次男の目標がでかでかと載っていた。
 「通知表の”C”をなくす!」…やめて〜!成績悪いのバレバレやん…。
 頑張れ!ハルウララ兄弟!きっと二人とも坂本龍馬と同じ大器晩成型に違いない!駿馬に変わる日がやって来る!…と信じたい…いや、信じているで母であった。


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同人誌「新・邂逅」通巻41号より