4月1日(日)晴れ |
▼「ひまわりの花」「あじさいの花」という言い方をしても「さくらの花」とはあまり言わない。 前者の花たちが、咲いている花の総体的な形状を観覚えているのに対して、桜はその木々や散りゆく花びらの一枚一枚しか網膜に映っていないような気がする。断片はあるのに全体が見えないのだ。 わずか十日ばかりの間にその「花」は人々の記憶に残る前に、一枚ずつ散っていく。今日もまた、何十枚か、路面に敷き詰められる。 ▼夕方から銀座へ。(39) |
4月2日(月)晴れ |
▼定時ぐらいで会社を出て銀座へ。(40) 自分が座った席の後方で、男性二人に女性一人の組み合わせで座っている。女の声が響く。会話から察するに……同伴だ、この集団。「お酒を知らないうちに濃く作られた」「ママあてによく留守電がかかってくる。携帯の番号も教えていないのに」なんてことを喋ってる。 中でもプロらしき女性の笑い声の響きは、下品にならず作り笑いにも聞こえず、常に平衡を保っている。ときどき手洗いに立つ姿は、スーツからヒールまで全身薄ピンク。 その一行が帰ってから、新人従業員様と「ねえねえ、あの集団、ぜってぇ同伴だよねえ」とかなんとか下世話な会話をした。 こんな会話するのはせいぜい恋愛の何たるかも知らない小学生ぐらい。もうすぐ三十路に手が届こうという男の会話ではない。軟弱者だから。 ▼小谷野敦「軟弱者の言い分」(晶文社) ……ってな風に、前段落とこの段落をつなげたら著者は怒るだろうな……。まえがきで「丈夫な者」に対する者としての「軟弱者」を声明しているのだから。 話題となった「もてない男」は「軟弱者」の一部分である。「東大卒でも神童じゃないから」野口悠紀雄や岸本葉子に愚痴を言い、「特技は何ですか?」と聞かれると困るので、歴代天皇や歴代徳川将軍や歴代足利将軍や歴代首相の、それぞれの名前を初代からそらんじて言えるよう努力して、「いびつな知」、つまり十代ぐらいで「そんなことを覚えたり研究したりして何になる」という知識体系にはまった人の雑文集が本書。 どうでもいいことですが、今ここを読んでいる人で「もてない男」を持っていたら表紙をめくってカバー裏にある著者近影を見てください。髭面の著者は「うわ、こりゃ確かにもてないわ」と思われることでしょう。しかし最近、各雑誌で載る著者の写真は髭がない。髭がないだけであんなに若く見えるとは。実は「もてない男」のあの写真は、本の内容を盛り上げるためのイメージ戦略だったのでは。 |
4月3日(火) 晴れのち雨 |
▼六時半に会社を出て銀座へ。(41) 一時間で出る。 ▼今月の「ロッキング・オン」の渋松対談Zにて渋谷陽一が、日本アカデミー賞と「愛を乞うひと」を馬鹿にした発言をしていたので、さっそくこっちの掲示板で、後者に対する抗議があった。いわく「どうせ『愛を乞うひと』観てねえでもの言ってるんだろ渋谷」「それでも映画雑誌を出している出版社の社長か」 音楽ならともかく、この人に映画や俳優やアイドルに関する見識を求めるのがまちがっているという気はしますが。(「CUT」や「H」の編集は任せっきリらしいし) ▼過去に『愛を乞うひと』観てこんなこと書いてました。 アイドルの人が雑誌のインタビューなどで「『愛を乞うひと』が好きです」などと発言していたりしてびっくりすることがあります。私自身、あまりこの映画を評価したいとは思いません。それは(以下反転)あの母親はなぜ娘にだけあれだけつらく当たったのか、その理由が最後まで観ても明確にされていないことです。そのために原田美枝子の演技がすさまじすぎて、画面の中でその暴力性だけが目立っている気がしてならない。 野波麻帆の現代っ子的な言動でかなり救われたけど。 |
4月4日(水) 晴れ |
▼小林信彦「おかしな男 渥美清」(新潮社) ちょっとした映画通や役者通や、その他ありとあらゆるサブカル方面の皆様方なら、「寅さん」と「渥美清」を同じものとして重ね合わせはしないだろうし、「八つ墓村」に出ていたことも実際にその映画を観たりしていたことも知っているのだろう。 この本はそんな人たちを満足させるし、同時に渥美清が、自分を取り巻く世界と人間を通して、批評家として遥か彼方まで見通すことのできる視点を持っているために、彼の目を通してシニカルに業界人を見ることができるだろう。「インテリに憧れて本当にインテリになった人」ということじゃないだろうか。 |
4月5日(木) 晴れ |
▼7時に会社を出て銀座へ。(42) 正味32分。 ▼現代の新入社員が求められるパソコンのスキルってどのくらい必要なのでしょう。 雑誌でそのへんを読んでみたりすると、「こんなことまでできるような人間だったら、どんな会社でもバリバリやってけるんじゃないの?」と思えてくるのですが。(たとえば、データベースソフトなど、パソコンコンシューマーの何割が使えるんだろうか) ▼このときに出てきた同僚が、劇団の女優(三十歳ぐらい)にWordとExcelを教えることになった。 「どうしてまた?」 「使用法を知っていれば、簡単なファイルを作るぐらいの仕事がもらえるから」 とりあえず今はそういう時代だってことで。 「どこまで教えるんですか」 「それが難しい」 マニュアルの後半部分に載っていることぐらいはできるように、と。ただし僕の実感としては、マニュアルに載っているからって、実際に使う場がないような機能も多数あるってこと。 「期間としては、三ヶ月くらいを想定してる」 「覚えられますか」 「大丈夫だろ」 稽古場でのこんなエピソードを聞かせてくれた。 俳優が台本に書いてある台詞を言う。台詞はあくまでも「言葉」のみであり、どんな風にどんなしぐさで話すかは、演じる当人に任される。 俳優は、台詞に情感をこめる。何パターンも繰り返す。 1.怒鳴りつけるようにけたたましく。 2.恨みがましく小声で。 3.噛み砕くようにはっきりと。 4.嘲るように笑いながら。 ………………………………………………………………。 上の例は僕が勝手に作ったものですが、そうやって十ぐらいネタを出していったところに、演出家がいきなり、 「よし、三番目のやつで行こう!」 ここを読んでくださっているあなたは言えますか。僕は言えません。 俳優は三番目をきちんと覚えていて、演技しながらすらすらと台詞を喋るのです。 |
4月6日(金) 晴れ |
▼昨日の続き、のようなもの。 テキスト系サイトを巡ると「夜中はずっとICQした」だの「メッセンジャー入れた」だの「むにゃむにゃな方法でMP3をダウンロードした」だの書いている人が多い。 そういう人が、いざ何か不可解なトラブルに巻き込まれると、決まって「自分はパソコンに詳しくないので」と書いていたりする。 これ、何となく違和感あるんですけど。 だって、ICQやメッセンジャー使えるんじゃん。MP3ダウンロードできるんじゃん。少なくとも俺はこれを書いている現時点でできないぞ。(やり方を覚えればできるとは思うが)それって少なくとも「パソコンに向かって何をすればいいのかわからない人」よりは詳しいんじゃないの。 そりゃ、OSやハードの障害であれば、どんなヘヴィユーザーだって自己では対処できないケースってのはある。MicrosoftやAppleや、製品の直販メーカーに問い合わせなければわからないことがある。 しかし、声高に「自分は詳しくないから」と聞かれてもいないのに予防線を張っているのは、直面したトラブルを他人にゆだねて、自分は問題解決に当たろうとしない主体性のない姿勢に見えてしまうのだよ。 パソコンを教える側、教えられる側に横たわる変な徒労感、あるいは摩擦は、「自分で何とかする」という考え方よりも「聞けるんだったら聞いた方が早い」という、教えられる側の主体性の放棄が原因なのに。 ▼会社を10時過ぎに出て銀座へ。(43) ▼新着2件追加。 ●アイドルグラビア日記 akarikさん 毎週消費される膨大な雑誌の中から、アイドルのグラビア写真のみを批評する。脱いでいる人やお年をめされた人は対象外。少女雑誌まで網羅。 日々の記録の末尾にある「旅人へのアドバイス」は、私がやってるわけではありません。念のため。 ●So what? りゃんさん 健全な肉体の中に不健全な魂を育てる(特に女の子好き)サブカル女子の人のページ。書評が参考になりそう(特に僕が)。 |
4月7日(土) 晴れ |
▼本田美奈子、今週は埼玉県朝霞市(今俺が住んでいるとこ)で一日警察署長やってパレードしたそうです。朝霞市出身の有名人って尾崎だけじゃなかったのね。しかし三十過ぎて一日警察署長やるかなあ。顔は全然変わってないとはいえ。もっと若いアイドルで朝霞市出身者がいたらそっちに回っただろうに。 ▼田中麗奈、よっぽどクライアント側が当初の「なっちゃん」のイメージからかけ離れてくることに懸念していたんでしょうかねえ、98年の「なっちゃん」と並べて写真を置いて、日付まで入れて。 でも、これでまたネットを徘徊する口の悪い連中が「媚びた姿勢」とかなんとか批判しなければいいのだが。俺は再三再四言ってるが、ショートじゃない田中麗奈も好きなんだよお。 ▼晩から新宿へ。(14) 西武新宿線沿いの映画の広告掲示板の前辺りで、ドラムを叩く音だけ響かせている男がいた。 JR新宿駅東口前の横断歩道前。信号は青。横断歩道へ足を踏み出す女の子に、ナンパ目的で声をかける男。信号が点滅し始めた。女の子は駆け出す。男もそれを追って駆け出す。それを見てあざ笑うかのような上空の満月。雲はない。 そのあとに銀座へ。(44) ▼松尾スズキ「永遠の10分遅刻」(ロッキングオン)/「文化と歴史で学ぶフランス語」(小倉博史/丸善ライブラリー)/ミラン・クンデラ「無知」(西永良成訳・集英社) |
4月8日(日) 晴れ |
▼広末涼子「果実」 イントロだけ聴いたら、CD入れ間違えたのかと思いました。 艶っぽい声を、決して無理なくファンクギターの音に重ねているところで、この人はもっともっといろいろ技を磨けるのではないかと思いました。カップンリングの「Crescent River 〜三日月の舟に揺られて〜」や「LETTERS」(作詞作曲かの香織)のようないつもの広末路線もいいのだが。 |
4月9日(月) 曇りのち晴れ |
▼りゃんさんとのお話で、今月号の「Title」を読み返しているのですが――、「ほろ酔い気分のビールキャンギャル(各キャンギャルに自分の宣伝担当のビールを飲ませて水着撮影)」という企画を考えた人は「今度のコンパで女の子を酔わせてああしてこうして――」と普段から考えているな、間違いなく。 しかし、ここに掲載されているキャンギャル(岬たか子・出川紗織・紗川理帆・本橋里紗・仙川明)は、全員酒強そうですけど。酔っているように見えないし。 |
4月10日(火) 晴れ |
▼以前、何かの折りに、「今の薬師丸ひろ子は老けた」と発言したところ、会社の上司から同僚から、すべて三十代の男からブーイングを食らいました。四十代以上はまったく意に介さないところで、この女性のある一定の世代における人気というものは絶大だったと知りました。 この人の少女期、というより原田友世と一緒に角川映画を盛り上げていた時期は小学生だったので、どうも入れ込んだ記憶がない。 東芝EMIから、各アイドル・アーティストごとに二枚組で収録されている「ツインベスト」というシリーズがありますが、その薬師丸ひろ子盤から、一曲ずつ感想でも書いてみましょうか。一週間ぐらいやろうかと考えていますが、飽きたら途中でやめる予定。 ▼薬師丸ひろ子「もっと・あなたを・知りたくて」 採り上げる曲順は時系列ではありません。「ツインベスト」の曲順です。めんどくさいから。 電電公社がNTTになったばかりの時期のキャンペーンソングと記憶しています。 「もしもし 私 誰だかわかる?」などと台詞まで入れて当時の野郎のハートをわしづかみ。広末も携帯電話かiModeとタイアップした歌詞の曲を歌えばよかったのに。 今じゃ「もっとあなたを知りたくて」と訊いてくるのはストーカーとキャッチセールスと生命保険ぐらいしかいないのが悲しい。 |