近世畸人傳 序・題言・目次
伴高蹊・三熊思孝
井上通泰・山田孝雄・新村出 顧問、正宗敦夫 編纂校訂『近世畸人傳』
(日本古典全集・第三期 日本古典全集刊行會 1929.1.25)※ 伴高蹊の伝は、解題を参照。
序
題言
目次
/ 解題
近世畸人傳序
鶉居■(穀の禾を一/卯に:こう::大漢和47265)(*■(穀の禾を一/卵に:かく::大漢和16693)の意符書き換え字か。)食以テ頤レ志ヲ、牆頭竃北、不下與2藪澤1二中其趣ヲ上、而シテ不下以テ2高逸ヲ1自ラ處ラ上。推拍■(車偏+完:かん::大漢和38334)斷、與レ物宛轉シ、肆ニシテレ情ヲ坦率不2自ラ■(手偏+僉:れん・けん:巡察する:大漢和12779)括セ1。而シテ非2所レ謂任誕ニ1也。
冥シテレ外ヲ以テ護リレ内ヲ、雖レ不トレ爲2同異ヲ1、亦有レ所レ不ルレ爲、而シテ非2所レ謂狷介ニ1也。
或ハ才藝絶シレ人。而不レ求2售ヲ於世ニ1、土2木ニシテ形骸ヲ1、樸野如シレ愚ナルガ。
或經術吏才。取2仕於封君1。而行藏不3拘以2規矩1。夫謂2之獨行1乎。曰非也。稱2之卓行1乎。曰非也。其人固非2四科之屬1。其行不レ可下以2一端1指名上。不レ得レ已而強題レ之曰2畸人1。畸者何。曰。畸者奇也。其■(門構/月:かん:〈=間〉:大漢和41248)有2儒而奇者1。有2禅而奇者1。有2武弁而醫流而詩歌・書畫・雜伎家而奇者1。要皆爲2一奇1所レ掩。人不4復知3本文爲2何人1。故概以2畸人1目レ之云。熊生世純。好奇之士也。從2近世1上遡2勝國1。得2所レ謂畸人者數十員1。欲2状而傳1レ之。自歉2于聞見不1レ廣。詢2諸伴蒿蹊氏1。蒿蹊氏曰。余之素志也。余既■(衣の間に臼:ほう:集まる・取る・多い:大漢和34299)次。至2若干人1。請合而一レ之。熊生善レ畫。乃冥捜貌レ神。其於2服飾・器用1。亦皆原2其代所1レ尚。而一筆不2苟下1。蒿蹊氏以2國語1爲レ文。宏贍簡遠。妙盡2情態1。頗似3臨川王(*劉義慶)形2容晉人1。夫其人既以レ畸稱レ之。固弗レ求2聞達於當時1。豈復屑屑乎自圖2不朽1者耶。大約年代浸遠。聲迹湮晦者十七八。二子其奚自而得レ之也。蓋就2其宦地郷閭1跡レ之。或訪2之耳孫遺友1。或得2片言隻事于敗冊蠧簡1。百方蒐羅。鑽燧屡改。而纔就レ緒。且其事必覈實。其言必有レ根。至2於好事者。自レ後附益増長者1。概乎無レ取焉。視下之彼顯人名流之宗系言行。粲然可2臚列1者上。則勞逸爲2何如1也。一日。蒿蹊氏以2首簡1授レ余謁レ序。余曰。此範世矯俗之書也。請急傳レ之。或難曰。若人之畸也。是惟性分所レ至。固非2學而可1レ企矣。■(言偏+巨:きょ・ご:豈に・何ぞ・苟も・止まる・至る:大漢和35370)可2以爲1レ範乎。曰不レ然。以レ余觀レ之。凡此諸人。率レ性而動。各求2其志1。其迹雖3或失2中行1乎。至2乎其不1レ屑2於當世之名利1。則一揆耳。故雷霹之琴。火成之■(金偏+遽の旁:きょ::大漢和40957)。自然成レ趣。非下待2繩削1而然上也。夫經藝文綵。足3以黼2黻治具1者。一技一能。通2乎精微之蘊1。幅巾塵尾。■(金偏+經の旁:::大漢和40472)々■(人偏+番:はん::大漢和1107)々。談2性理1而拆2天人之際1者。曲■(録の旁:::大漢和51098)■(手偏+主:ちゅ::大漢和11940)杖。講2經論1。據2巨刹1者。世固不レ乏2其人1。而大抵與2古之聖賢1。其骨格終不2相類1者何也。唯名之與レ利。爲2之祟1也。嗚乎。此數者。皆人之所2甚難1レ能。而遺2名利1之難。又有レ甚レ焉。則名利之累レ人也。豈特焚レ車攫レ金之類而已哉。莊周有レ言曰。彼其所レ殉仁義也。則俗謂2之君子1。其所レ殉貨財也。則俗謂2之小人1。有レ味乎其言レ之也。今觀2傳中之人1。其於2古之人1也。未レ知2如何1。然已有2典刑1存焉。故其流風餘韻。猶足下以使中夫貪婪躁進之士。一披2其卷1。赧然自省。幡然易上レ■(手偏+參:さん::大漢和12649)矣。謂2之範世矯俗之書1。亦不レ爲レ過也。若夫梔2其貌1。蝋2其言1。外遺2名利1。而内以爲2名利之鈎1者。乃此書之罪人也。寶鑑既懸。而妖魅無レ遁レ形焉。序而勸2其傳1。不2亦宜1乎。
■(山/亠/曰:し::大漢和8045)
寛政二年歳集庚戌春三月六如散衲慈周敍2於峨阜無著菴1
近世畸人傳 題言
○此の記は、はじめ三熊花顛ぬしの勸によりて草す。其のことはぬしの跋に書ければ再びいはず。畸人をもて目すといへども、其のはじめ隱士を集むるの志に出づれば、世に知られぬ人、又名は聞えても、其の傳つばらかならぬを探りもとめて録せるが多し。
○吾が黨の人、此の草案を見て曰はく、「莊子に所謂る畸人も、自畸人の一家也。此の記は始に藤樹・益軒二先生をあげ、次々にも徳行の人多し。こは畸人をもて目(なづく)べからず。人のなすべき常の道ならずや。いかに。」と。予曰はく、「然り。しかれどもおのれが録せるところの意、子が思へる所に、少しく異也。唯廣く心得られよ。此の中たとへば、賣茶翁・大雅堂の類は、子がいはゆる一家の畸人也。仁義を任とせる諸老、忠孝の數子のごときは、世の人にたくらべて行ふ處を奇とせるなり。是をたとへば、長夜の飮をなして、時日甲子を忘れたる儕の間に、獨おぼえたる人あらむには、奇といふべし。さればおのれが沈湎(ゑひしづみ)し眼には、常の道を盡せるが奇と見ゆれば、又『おのがごとき人にも見せばや。』と、聊か人の爲の志をもてあぐるなり。たとひ題名に負くの誚を負ふも又辭せざる所なり。」(*と。)又詰りて曰はく、「しかはあれど、此の中、産を破りて風狂し、家を忘れて放蕩せるもあり。徳行の奇にたぐひがたしといはまし。」(*と。)曰はく、「風狂・放蕩かくのごとしといへども、その中、趣味あり、取るべき所あるを擧ぐるなり。玉石混淆に似たれど、彼も一奇なり、此も一奇なり。しひて繩墨を引きて咎むべからず。唯風流に漂ひ、不拘に蕩(とら−ママ)けて、不孝不慈なると、功利に基し、世智に走りて、不忠不信なるは、奇話の一笑に附すべきあるも、こゝに收めざるのみ。」(*と。)
○高僧・宿儒、及び詩歌・書畫の名家に、一奇のいふべきなきはあらじ。しかも盡くこれをつどへば、高僧傳・儒林傳のごとく各一家をもて號(なづく)べくして、此の書の本意にはあらず。はた一道に勝れぬる人は、吾が擧ぐるを待たずして、不朽に聞ゆべければ必ずとせず。又廣く求めなば、なほ隱れたる人をも得ぬべけれど、或は此の撰みの事をほのめかせば、「さらばかゝる人を收め給はれ(*ママ)。」とこと\〃/しく語りなすを、其の筋につきてことかたよりよく聞き正せば、小笹を執りて千尋の竹ともいひなせるあり。あるは、生けるを亡きになしてこふもあり。是に懲りて此の事をば大やうは語らず。只おのれ年比よく聞きしめたる古人、又相知る人の、哀ともをかしとも心にとゞめしを、こたびの私に追慕せるのみ。またもとより三熊ぬしの聞正せる人も多し。尚出すべき人の、其の傳を知らざると、今ある人の世を見はてむのちにはと思へるなどは、三熊ぬし此の後年を積みて拾遺の志あれば委ぬ。おのれは今六十にとなり、桑楡かげせまれば、再びの撰は期せざるところなり。
○當時生存の人は此の撰にもらす。なべて人の一生は棺をおほうて後定むべければ也。又貴人は奇のいふべきあるも憚りて洩す。また仕官の人の尠きは、奇は大やう窮厄の間に聞えて、得意の人に稀なればなり。
○其の傳つばらかなると、略けるとあり。唯聞くまゝにす。はた文體も一樣ならず、雅俗其の事に從ふといへども、大やう心得やすきを旨として、詞華を莊(かざ)らず。唯筆拙きからに、達せざること多からむはいかゞはせむ。
○傳の後・傳の中にも、愚按をもて議論し、是非せるものあるは、大やう私云、按とのみ記す。されども、若(もし)前に他人の評あるは、是に混ぜざらむが爲め、蒿蹊云と愚名を擧げて別つ。固よりかく思ふがまゝに評せるは、或はあたらず、或は刻薄なることも交るべければ、憚なきにしもあらねど、思ふ事言はでえあらぬは、心狹きの疾なり。願くは見ゆるされなむ。
○假名遣は、大かたの歌よみの思へるにはたがひて、いにしへが正しければ、契沖阿闍梨、和字正濫(*和字正濫抄)を著して、つばらに例を擧げらる。今おのれがそらにおぼえしひとつをいはゞ、梅は今のかな「むめ」なれば「あなうめに常なるべくも見えぬ哉」といふ古今集の歌を見て、これは物の名(*物名)なれば、まげてかく用ひられしといふは、絶えて昔を知らぬ人也。萬葉集の文字假名に、みな「烏梅」「宇米」など書るに、順(*源順)和名抄にも「宇女」と訓を付けたり。凡古き假名は古事記・日本紀より、延喜式を經、和名抄まで、久しき世を重ねみなひとし。(此の間、新撰字鏡・霊異記のごとき古書皆たがはず。)されば、おのれは常に古き假名にしたがへば、今も亦これを用ふ。今にのみなれたる人恠しむべければ、わきていふ。
○諸儒は號をもて題す。號を知らざる人は字をもてす。僧家はすべて字をもて通稱とすれば是に從ふ。其の他氏名連ねあぐるも、通用に從ふなり。あるは國を冠(かんぶ)りし、郷名里名を冠らせるも、いひならはせるまゝにて、差別に意なし。固より是は姓氏知られざる程の人なり。
○草本は、傳を追うて畫を附すといへども、其の事實は奇にして、畫に興なきものは是を除く。また傳のうへには、さのみ用なきも、畫樣をとゞめて人に知らしめむと思へることは圖す。是三熊氏の志なり。ぬしが跋に洩せるをもてこゝにいふ。
天明八戊申歳水無月 閑田子蒿蹊自述
目録
卷之一 | | 五十音順 |
序 | | 青木長廣 |
題言 | | 有馬涼及 |
中江藤樹 | 附 蕃山氏 | 安藤年山 |
貝原益軒 | | 安藤朴翁 |
僧 桃水 | | 池大雅 |
僧 無能 | | 石野權兵衛 |
長山宵子 | | 伊藤介亭 |
甲斐栗子 | | 惟然坊 |
若狹綱子 | | 井上通女 |
樵者 七兵衞妻 同 久兵衞妻 | | 今井似閑 |
伊藤介亭 | | 位田儀兵衞 |
宮■(竹冠/均:::大漢和26032)圃 | | 惠潭 |
駿府義奴 | | 江村剛齋 |
木揚利兵衞 | | 江村專齋 |
河内清七 | | 圓空 |
大和伊麻子 | | 近江狂僧 |
近江新六 | | 近江新六 |
龜田久兵衞 | | 大石氏僕 |
卷之二 | | 太田見良 |
三宅尚齋 | 附 妻女 | 遊女大橋 |
僧 鐵眼 | | 岡周防守 |
米屋與右衞門 | | 小野寺秀和妻 |
内藤平左衞門 | | 貝原益軒 |
寺井玄溪 | | 海北若冲 |
大石氏僕 | | 甲斐栗子 |
小野寺秀和妻 | 附 秀和姉 秀和詠歌 | 加賀圓通 |
尼 破鏡 | 附 曲翠 | 僧覺芝 |
遊女大橋 | | 隱家茂睡 |
遊女某尼 | | 加島宗叔 |
石野權兵衞 同 市兵衞 | | 荷田春滿 |
隱士石臥 | | 荷田在滿 |
賣茶翁 | | 龜田久兵衞 |
江村專齋 | 附 剛齋 | 龜田窮樂 |
北村篤所 | | 賀茂眞淵 |
西生永濟 | | 河内清七 |
岡周防守 | | 祇園梶子 |
青木長廣(青木主計頭) | | 祇園百合子 |
僧 別首座 | | 樵者久兵衞妻 |
僧 圓空 | 附 僧俊乘 | 樵者七兵衞妻 |
中倉忠宣 | 附 山中奇人 | 北村雪山 |
卷之三 | | 北村篤所 |
隱士長流 | | 北村祐庵 |
僧 契沖 | 附 門人 今井似閑 海北若冲 野田忠肅 | 北山友松子 |
荷田春滿 | 附 姪在滿 門人 賀茂眞淵 | 玉瀾 |
桃山隱者 | 附 高倉街乞丐 | 金蘭齋 |
位田儀兵衞 | | 久隅守景 |
手車翁 | | 熊澤蕃山 |
山科農夫 | 附 評中五名 | 契沖 |
金蘭齋 | | 木揚利兵衞 |
小西來山 | | 小西來山 |
加島宗叔 | | 米屋與右衞門 |
文展狂女 | | 澤村琴所 |
長崎餓人 | | 山中隱士 |
相者龍袋 | | 僧似雲 |
森金吾 | | 下河辺長流 |
太田見良 | | 僧俊乘 |
猩々庵 | 附 僧覺芝 佃房 | 猩々庵 |
僧 佛行坊 | | 菅沼曲翠 |
僧 日初 | | 駿府義奴 |
僧 涌蓮 | | 隱士石臥 |
卷之四 | | 求大雅僧 |
柳澤淇園 | | 高倉街乞丐(門守) |
池大雅 | 附 妻玉瀾 | 高橋圖南 |
求大雅僧 | | 佃房 |
澤村琴所 | | 手車翁 |
苗村介洞 | 附 妻女 | 手島堵庵 |
手島堵庵 | | 僧鐵眼 |
高橋圖南 | | 寺井玄溪 |
北村祐庵 | | 土肥二三 |
久隅守景 | | 僧桃水 |
土肥二三 | | 戸田旭山 |
廣澤長孝 | | 内藤丈艸 |
僧 似雲 | | 内藤平左衞門 |
僧 惠潭 | | 苗村介洞 |
矢部正子 | | 中江藤樹 |
祇園梶子 | 附 百合子 | 中倉忠宣 |
室町宗甫 | | 長崎餓人 |
惟然房 | | 永田徳本(甲斐徳本) |
淡海狂僧 | | 長山宵子 |
表太 | | 並河天民 |
卷之五 | | 西生永濟 |
並河天民 | 附 馬杉亨安 | 僧日初 |
北山友松子 | | 野田忠肅(ただのり) |
戸田旭山 | | 賣茶翁 |
隱家茂睡 | | 尼破鏡 |
僧 丈艸 | | 白幽子 |
安藤年山 | 附 朴翁 | 樋口主水 |
井上通女 | | 表太 |
有馬涼及 | | 廣澤長孝 |
甲斐徳本 | | 僧佛行坊 |
北村雪山 | | 文展狂女 |
僧 圓通 | | 僧別首座 |
龜田窮樂 | | 遊女某尼 |
山村通庵 | | 馬杉亨安 |
松本駄堂 | | 松本駄堂 |
美濃隱僧 | | 宮■(竹冠/均:::大漢和26032)圃 |
白幽子 | | 三宅尚齋 |
| | 僧無能 |
| | 室町宗甫 |
| | 桃山隱者 |
| | 森金吾 |
| | 柳澤淇園 |
| | 矢部正子 |
| | 山科農夫 |
| | 大和伊麻子 |
| | 山村通庵 |
| | 僧涌蓮 |
| | 相者龍袋 |
| | 靈巖和尚 |
| | 若狹綱子 |
序
題言
目次
《凡例》
〔〕原文の割注・旁記
詩・賛の書き下し文は、漢字平仮名交り文に改めた。詩の場合は、緑色で白文を併記した。
適宜、句読点を変更し、鈎括弧等を付加した。
心覚えのために任意に文字色を変更したものがある。(<font color="#00CC00">・・・</font>タグ)
《本文中に付加した独自タグ一覧》
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