NHK大河ドラマ太平記
ジャンル:歴史シミュレーション
媒体:HuCARD(4M)/バックアップメモリ対応
発売元:NHKエンタープライズ
発売:1992年1月31日
価格:6500円
商品番号:NV92001


◆大河ドラマとタイアップ、NHK関連会社発売の歴史SLG

外見 1991年のNHK大河ドラマは、大河ドラマ史上初めて14世紀日本の南北朝動乱を描いた「太平記」だった。戦前は天皇に逆らった「逆賊」として最大の悪者とされた足利尊氏をアクション出身の美男俳優(21世紀の今や押しも押されぬ日本を代表する俳優である)真田広之が演じ、鎌倉幕府滅亡から建武新政、南北朝分裂、観応の擾乱と続く大動乱を豪華俳優陣と大掛かりなセット・戦闘シーン満載で描いた大河ドラマ史上屈指の力作である。なんでここまで熱く書いちゃうかといえば何を隠そう、この僕が熱烈な南北朝時代マニアであり、このドラマの熱心なファンであるから。そのドラマについてこんなコーナーも作っちゃってるぐらいで(笑)。

 さて大河ドラマ放映時にはその原作や同時代を描いた関連書籍などが便乗で売れるという現象が見られるが、この「太平記」の際にも初めての南北朝ということもあり便乗商品がいくつも出た。そして前後に例があまりないのが、この「太平記」には便乗ゲームが家庭用マシンでいくつも出た、という事実である。といってもたったの3本で、PCエンジンCD-ROMの「太平記」(’91)、メガドライブの「NHK大河ドラマ戦記シミュレーション太平記」(’91)、そしてこのPCエンジンHuCARDの「NHK大河ドラマ太平記」である。

 この「NHK大河ドラマ太平記」、目を引くのは発売元だ。NHKの関連子会社であるNHKエンタープライズが発売元であり、説明書表(つまりパッケージ表)にもちゃんと「NHK・VOOK」(NHKビデオ商品などにつくロゴ)とある。「太平記」の題字も大河ドラマと同じものであり、なんといっても主演の真田広之の尊氏武者姿の写真が載せられている(メガドライブ版は題字こそ同じだがドラマの写真が使われていない)。もちろんゲーム開発自体はKSSが下請けでやったんだけど、NHKエンタ自体がゲームビジネスに乗り出していたのが今となっては意外の感もある。
 しかしこのサイトの各所で書いているが、この時期NHKエンタープライズはゲーム業界、ことにPCエンジンにかなり深入りしている。その第一弾がNHK放映アニメを素材にした「青いブリンク」(’90)で、これは開発・発売はハドソンとなっているが「NHK・VOOK」のロゴがちゃんと入っており、NHKエンタ自らがかなり関与していたことをうかがわせる。そして幼児番組「おかあさんといっしょ」のキャラを素材にした「にこにこぷん」(’91)で完全な自社販売。その直後にこの「NHK大河ドラマ太平記」だった。いずれもHuCARDソフトでCD-ROMには手を出さなかった…のだが、NHK出版から出たあの伝説(笑)の教育ゲーム「秋山仁の数学ミステリー・秘宝インドの炎を死守せよ」(’92)があったりする。
 ただNHK関連会社が番組素材のゲームを開発・販売する現象は、その後は見られないようなので、この時の失敗で懲りたものかもしれない。そもそもこの「太平記」にしたって、放送が終了したあと(直後ではあるが)の発売で、タイアップも何もあったもんじゃないと思うのだが…


◆理解に苦しむ戦場モード

 さて発売事情はその辺にして、ゲームそのものの紹介に入ろう。
 このゲームは2つのシナリオが用意されている。シナリオ1が「鎌倉幕府の滅亡」で、シナリオ2が「南北朝の動乱」。ただし初プレイ時にはシナリオ1しか遊べず、これをクリアするとシナリオ2が遊べるしくみになっている。
 シナリオ1ではプレイヤーは倒幕勢力を率いて鎌倉幕府の打倒を目指すことになる。クリア条件は当時の鎌倉幕府の三巨頭、長崎円喜・長崎高資・北条高時(ドラマではそれぞれフランキー堺・西岡徳馬・片岡鶴太郎が素晴らしい名演を披露していた)の3人を含む幕府方17武将中の14武将を倒すことだ。ただし日数制限があり、100日以内に条件を達成しなければならない。

戦場マップ ゲームを開始すると、いきなり歴史に名高い千早城攻防戦のマップが出る(左図)。画面下にある顔グラフィックは南北朝のヒーロー楠木正成。ドラマでは武田鉄矢が演じていたが、特に似せている様子はない。このゲーム、登場する百名以上の全武将に顔グラフィックをつけているというのはHuCARDとしては頑張ってるとは思うんだけど、それぞれ特に個性があるわけでもなく、しかもあからさまにヘタな絵なのが残念。

 この千早城攻防戦はいわば練習ステージで、ここで戦闘の仕方を覚えて本編に入ってもらおうという展開だ。戦場マップは一昔前のこの手のゲームではおなじみの6角形ヘックスで仕切られ、ヘックスごとに平地・川もしくは沼・林・山地といった地形が決められている。それぞれに地形効果があるのはお約束だが、川・沼に進入不可なのはわかるとして「林」に侵入不可になっているのが理解不能。それでいて「山地」には入れるんだから訳が分からない。

 このゲームでは部隊ユニットが「旗本」「騎馬」「弓」「長刀」の4種類用意されている。「旗本」以外の3部隊は最大500人まで配備でき、残りの兵士は全て大将のいる本隊である「旗本」に集められるというしくみになっている。
 これらにユニットにはそれぞれ得手不得手があり、騎馬は移動速度が速くパンチ力があるが長刀隊に弱く、長刀隊は移動も遅くてパンチ力も少ないが騎馬隊に強く、弓隊は2マス離れた敵への遠隔攻撃が可能な代わりに隣接攻撃を受けると全くの無防備という特徴がある。これらに加え、指揮している武将の能力(武将ごとに指揮する部隊の得意分野が決まっている)、地形効果や天候(雨が降ってくることがある)、さらに昼と夜による効果などが加わって戦闘の有利不利が決まる仕掛けになっている。ま、この辺は戦術SLGとしてはオーソドックスなつくりだと思う。

 ただし、このゲームは結局のところ弓隊の存在がキモであり、これが全てと言ってしまっていいほどなのでバランスがかなり悪い。だって弓隊は離れたところから攻撃が可能なので、弓隊さえうまく扱えばこちらは無傷のまま敵を全滅させることが出来ちゃうからである。もちろん敵にも弓隊がいるのでお互い様、のはずなのだが、とにかくこちらの弓隊が全滅してしまったらもう勝ち目は無いと断言していいほど。だから戦術の基本は「こちらの弓隊が全滅する前に相手の弓隊を全滅させること」に尽きる。これさえ分かってくれば負けなしになる…と言ってもいいほど。時々敵CPUがばかに頭がよくなることもあって苦労させられることもあるにはあるが…。

 弓隊以上に理解不能なのは、「旗本」の扱いだ。大将のいる本陣を守るのだから一番人数がいるのはわかるとして、それが完全に移動不可能というルールはなんなんだ。最大の戦力が戦場では後方にいてまったく活動せず、戦うのは他の部隊が全滅して敵軍が本陣攻略にとりかかったときの応戦だけなのである。しかもそういう状況になった時は敵もたいてい弓隊で遠隔攻撃をかけてくるから、何もせずにただやられていくだけ。なまじ人数がいるから時間もやたらかかるし(笑)。
 旗本部隊が動けるのは「撤退」もしくは「籠城」しかない。しかしこれを実行すると旗本部隊が消滅するだけで…撤退は分かるとして、「籠城」がかなり変。弓隊を本陣に撤収させないと籠城が出来ないという変なルールがあるのだ。籠城戦では弓矢の撃ち合いになるからなのだが(したがって攻撃側も弓隊がないと城攻めができない!)、籠城戦になるとさっきまで大量にいた旗本部隊は消滅して弓隊オンリーで戦う事になるというのは…まったく何を考えて作ってるのか分からない。

 さて部隊同士の戦闘では中世絵巻物風の戦闘アニメが表示され(右図)、双方の勝ち負けがビジュアルに見られる。これはまぁまぁ綺麗で見もの。最初のうちは見とれているが…だんだん頭に来ること請け合い(笑)。
戦闘アニメ なぜかといえば、例えば500対500の部隊の戦闘があったとしよう。実はこのゲームでは100人で1部隊を構成するということになっていて(説明書がまた不親切でよく読まないとわからん)、500人というのは実は5部隊の連合ということなのだ。そして戦闘ではこの1部隊ずつ順番に戦闘を行っていくことになるので、500人部隊同士の戦闘では戦闘アニメが「第1陣」「第2陣」「第3陣」「第4陣」「第5陣」と五回も繰り返されることになる。最初は見ものと思った絵巻物風アニメも5回もゆっくりと繰り返されるともうゲンナリ。しかも双方の兵士がワーッと行き交って、バタバタと人が死んでいく単調な演出なので、すぐに見飽きる。戦争の空しさを実感させるのが狙いだったとしたらまさにうってつけだが(笑)。
 
 とにかく鬱陶しいこの戦闘、最後は一方が一方の本陣を攻撃し、旗本部隊を全滅させれば終了だ。勝敗が決定すると、なぜか大将同士の一騎打ちアニメが表示され、勝者の大将が敗者の大将をわざわざ直接討ち取るアニメが出て「○○○○、討死」とアッサリ表示されて合戦は終わる。なんでこんなアニメをわざわざ入れたんだか分からないが、なんか変にビジュアルに凝る傾向もあるのは確か。それにしても一騎打ちで負けたほうが斬られて血がドバッという演出は、PCエンジンならではだったかも。


◆俺の屍を超えてゆけ!

 シナリオ1では全国(といっても九州から南東北まで)29箇所に「城」があり、それぞれに一人ずつ武将が配置されている。その配置の仕方には一部首をかしげるところもあるが(特に幕府軍武将で)、ゲームバランスを考えてのことであろう。一応尊氏が三河にいるところを見ると尊氏が反幕府の挙兵を決定した段階なんだろうか。
 各武将は幕府方と朝廷方に最初から色分けされており(この時代によくあった裏切りは全く起きない)、プレイヤーは朝廷方でプレイするわけだが特に主人公は決まっていない。「原作」ドラマから考えれば足利尊氏がプレイヤーキャラになりそうなものだが、特にそうだというわけでもない。事実、僕は初プレイ時に尊氏を途中で戦死させてしまったが、ゲームオーバーにはならずそのままクリア出来てしまった(笑)。しかしクリアご褒美画面では「尊氏、朝敵を滅ぼす。祝着至極」とか表示されていて腰が抜けた(笑)。

 いきなり尊氏が死んでしまっているように、このゲーム、敵味方ともに死屍累々となること必至のデザインとなっている。なぜかといえばまず軍勢の「回復」がほとんど出来ない。ゲーム開始時にそれぞれの城の「石高」を消費して部隊編成を行うのだが、それ以後は一部の裕福な城を除いて回復はまず望めない。さらに徴兵は各自自分の領地でしか行えないため、敵の城を占領してもそこで回復は図れない。つまり全ての軍勢は完全な消耗品なのである。もっともこれは100日以内にクリアしなければならないという短期間のリミットがあるため無理はない仕様とは思えるが…。

 他の歴史SLGでは味方の軍勢の合流により兵力の増加が図れるものだが、このゲームではそれすらも出来ない。そもそも敵のいる城には進むことができるが(実は合戦はしなくてもいいことになっている)味方のいる城に進軍することができないという摩訶不思議なルールがあるのだ。このため強力な軍勢も味方がジャマになって進軍できないというとんでもない事態が起こる。これを解決するにはそのジャマな味方が玉砕戦をして全滅してくれるしかないというわけだ。
 実際僕もこのシナリオ1クリアのためにとった作戦は「俺の屍を超えていけ作戦」であった(笑)。朝廷方の武将を次々と玉砕覚悟で幕府方の武将にぶつけてゆき、相手の兵力を減らした上で全滅する。そこへ後ろに控えていた別の武将の軍を突入させて勝利する。これを繰り返したのだ。実際、強力な兵力が多いがクリアのためには制圧しなければならない関東地方の戦闘ではこれを何段階にも繰り返すハメになったものだ。
 かくして双方で武将の潰しあいが展開され、最後の方には有名どころの武将がみんないなくなってしまったぐらい(笑)。これでシナリオ2の「南北朝の動乱」に入ったらどうなるんだ、と思ったら、シナリオ2は全く別のものでシナリオ1をひきつぐわけではないのだった。

 シナリオ2は建武政権が崩壊した直後の段階から始まっている。マップも本州北端から南九州まで、シナリオ1の2倍に広がり、登場武将も倍以上の80名に膨れ上がる。
 不思議なことにシナリオ2ではプレイヤーは南朝軍を率いてプレイすることになる。説明書の書きぶりからするとこのシナリオの主人公は南朝の貴公子・北畠顕家のつもりらしい。説明書表に真田広之演じる足利尊氏の写真を載せて彼が主役のドラマを「原作」としながら、シナリオ1での扱いもぞんざいだったし、シナリオ2にいたっては登場すらせず(!)南朝軍を主役にするというのもかなり変。もしかしてゲーム作者は南朝正統論者だったんでしょうか(笑)。

 ほかに首をかしげるのが、シナリオ1とシナリオ2でマップが違うのは分かるとして、シナリオ1に登場して史実的にシナリオ2にも登場しなければならないはずの武将が全員カットされている点。正成や義貞がシナリオ2で出てこないのは戦死したからだと考えても、北朝方の大ボスであるはずの尊氏がカットされているのは理解に苦しむ。代わりに弟の足利直義(ドラマでは高嶋政伸だった)と執事の高師直(こちらは柄本明だった)が大ボスになり、250日以内にこの二人を含む北朝方の42武将を討ち取るのがこのシナリオ2のクリア条件だ。シナリオ1では史実にあわせることがクリア条件だったのに、シナリオ2では史実をひっくり返すことがクリア条件になるという、つくづく妙な歴史ゲームである。このゲームについて「ドラマの通りに進むストーリー」などと書いた「ハイパーカタログ」の担当者、あんたドラマ見てないだろ!
 クリアまでの日数は両シナリオともいささかシビアか。合戦の最中も昼・夜の変化があって日数を消費するので、うかつに長期戦をやってしまうと終盤慌てることになる(僕がそうだった)

 なお、このシナリオ2は説明書にも書いてある裏技コマンド(それは裏技とは言わないか)を入力することにより、2人対戦プレイが可能となる。2人で北朝・南朝を担当して対戦できる…ということなんだけど、ここまで述べたような「武将つぶしあい消耗戦システム」であるため、人間同士でやれば人数の多い北朝が勝つに決まっている(爆)。まったく無意味なモードである。

 南北朝マニアの僕もさすがにシナリオ2は余りの長い鬱陶しさに音を上げてしまったこのゲーム、下記のようにPCエンジンFAN誌のゲーム通信簿はそう悪くないんだよな。これでも?と思うかもしれないが、この少し前にインテックから出たCD-ROM版「太平記」の採点はもっと辛く、総合16点台を出してしまっている。だが南北朝史マニアの僕は断言するが明らかにCD-ROM版のほうが出来がいい、いやすこぶる「名作」とすら思っている。前から思ってるんだが、ことSLGに関しては読者投稿平均点の評価はアテにならないものだ。「南北朝」というマイナージャンルが災いしてることも考えられるが…。

 なお、本作を含む数少ない南北朝シミュレーションゲームについて詳しいことは本サイト内のこちらのコーナーを参照されたい。武将データ、リプレイ記事まで載せてますから。 
 


◎各誌評価


★PCエンジンFAN(ゲーム通信簿の読者投稿平均点。各項目は5点満点で総合30点満点)
キャラクター
音楽
お買い得
操作性
熱中度
オリジナリティ
総合
3.3
3.5
2.6
3.4
2.9
2.4
18.00
第598位

★小学館ハイパーカタログ(★★★★★で満点)
★★★

(勝)PCエンジン(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
採点
岩崎啓真

ウォルフ中村

東千里

びいず羽岡


★ファミコン通信クロスレビュー(発売前テスト版による10点満点での採点)
レビュアー
総合評価
浜村通信

アルツ鈴木

渡辺美紀

TACOX




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