ニュースな史点2020年1月25日
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◆年越しの二大騒動
もう正月も後半に入り、東アジア的には旧正月に入ってしまう時期だが、年末に始まって年を越し、今のところは落ち着いてしまった二つの騒動についてまとめて書いてみたい。
昨年の暮れ、イラン革命防衛隊でイラン国内では「英雄」とまで見られていたガゼム=ソレイマニ司令官が、アメリカ軍の攻撃により殺害された。ソレイマニ司令官はイラン革命の「輸出」で中東各地のシーア派勢力を支援するなどイラン国外で活動を続けてきた人物で、このところはイラク国内で反米破壊活動に従事していた。直前にアメリカ大使館への攻撃があり、怒ったトランプ大統領が殺害作戦を指示した、とされている。殺害には見事に成功したが、殺害作戦案を出した国防総省も他の案を大統領に選ばせるために作った「まず採用しない案」として提案したとされ、一度は選ばなかったトランプ大統領が突如気を変えて実行したことに正直驚いたと報じられている。また、特定の個人の殺害を大統領が指示したことについて法的問題はないのか、という議論も出ているようだ(不特定の人を大勢殺すのは問題ないのかよ、という気もするが)。
この殺害に当然ながらイラン政府が激高し、宗教指導者ハメネイ師自ら「報復」を唱えた。それでなくてもイランとアメリカの間には長い対立の歴史があり、つい最近でもホルムズ海峡周辺がキナ臭い状況になっていた。ソレイマニ司令官の殺害はますます火に油を注ぐことになり、それ今に大変なことになるぞ、すわ開戦か、とまで世界は騒いだ。日本もふくめた世界各国の両国大使館前で反戦デモが行われたし、年明けに中東各国を訪問する予定だった安倍晋三首相も情勢が不穏になったので一時訪問延期と発表してもいた。こんな騒動に巻き込まれちゃかなわん、という気持ちなのか、イラク国会が「米軍は撤退せよ」という決議を採択したりもしていたっけ。
実際にイラン側、シーア派側の「報復」とみられる攻撃も散発的に起きているが、まもなく事態は急に沈静化の方向になってしまった。緊張が高まるなか、1月8日にテヘラン空港を飛び立った直後のウクライナ国際航空機が墜落、乗員乗客176名全員が死亡したのだが、しばらくして「イラン側が誤って撃墜したのでは」との疑惑がアメリカやカナダの政府関係者から発言され始め、はじめは否定していたイラン政府も1月11日になって一転「誤って撃墜」と認めた。原因についてはまだ確定ではないが、アメリカとの緊張状態のなかで空港を出た航空機をアメリカ側の攻撃と誤認してミサイルを撃ち込んでしまった、ということらしい。
僕もウクライナ機がテヘラン空港のそばで墜落、という一報を聞いた時に「どっちかのミサイルでも当たったんじゃないか」とチラっとは思った。偶然にもウクライナつながりになるが、ウクライナ東部のロシア人とウクライナ人の紛争のさなかにマレーシア航空機が撃墜されてしまう、という事件が記憶に新しい。今回もまったく関係のない人たちが紛争に巻き込まれてしまった理不尽な例となっていまった。
ウクライナでの撃墜事件ではロシア人側・ウクライナ人側双方が相手の仕業だとして結局ウヤムヤになっている。今回だってイラン側が自国の失態を一時は隠そうとしたが、隠しきれないとみたのか、思いのほかアッサリと認め、ハメネイ師がウクライナ大統領に直接謝罪するなど低姿勢な態度を政府がとっている。「そもそもアメリカのせい」という論法もないではないが、この撃墜事件で気勢をそがれた形で、ソレイマニ司令官殺害への報復も勢いを失った。さすがにイランもアメリカと全面戦争する気はなく、それは損得勘定で考える不動産屋・トランプ大統領もおんなじで、なんとなく緊張感は低下した。安倍首相も結局中東訪問に予定通りでかけたし。
イラン政府が当初「撃墜」を隠蔽しようとしたとして、イラン国内の反政府系の人たちが千人程度の規模とはいえテヘランで政府を非難するデモを行ったことも報じられた。それにトランプさんがわざわざ支持表明したりしていたが…。イランもイスラム革命以来「宗教国家」としての強権指導や革命防衛隊のしめつけが強いとも言われているが(僕が以前イランに留学した人から聞いた話では『外国で報じられるほどでもなく結構自由』という話だったけど)、そうしたものへの反発もそれなりに強くあるのだろう。
そんな折、イラン・イスラム革命で追放されたパーレビ元国王の息子さんでアメリカに在住するレザー=パーレビ元皇太子(59)が「イランの現体制は数か月以内に崩壊する」と“予言”したことが報じられた。まぁこの手の「希望的観測」というのは当たらないのが定番で、それを報じた記事でも過去40年間亡命者たちにより何度となく同じ予想が出されていたことが紹介されていた。ただ、ここ一か月ぐらいの状況は彼には「久々のチャンス」と見えたのではあろう。本人は「王制復活の意図はない」としているけど、あわよくば、という気はあるんじゃないかなぁ。半ば米英の植民地状態だった王制時代が良かったともイラン国民もあんまり思ってないと思うんだよね。
もう一つの年越しの騒動が、カルロス=ゴーン元日産自動車会長の逃亡劇だ。15億円という保釈金と、自由をかなり制限された状態での保釈については人権上どうなのかという議論はあったが、まさか当人がまんまと国外に逃げてしまうとは誰も思わなかったろう。プライベートジェットで空港に降りたところを拘束・逮捕した一幕も驚かされたが、今回もプライベートジェットでの国外脱出、それも元グリーンベレー2名の手引きで音響機器の箱の中に隠れて出国、というホントに映画みたいな脱出激にはより驚かされた。当人いわく日本の法制度に疑問があってこのまま日本にいてはだめだと思ったから…とのことだが、実のところよくこんな無茶をやる気になったもんだと。これまで自動車業界を巧みに渡り歩いてここまで上り詰めるまでにも、シチュエーションは異なるだろうが、そうした思い切ったことをいろいろしてきたんだろうな。
1月8日にレバノンでゴーン氏は記者会見を行ったが、冒頭で「何語でも結構ですから聞いてください」と言い、実際に記者たちも英語・仏語・ポルトガル語・アラビア語など(僕が聞き分けられたものがそのくらい)で質問、ゴーン氏はそれぞれの言語で応じてまくしたてていた。六か国語ができるとは聞いていたが、予想以上に自然に切り替えてペラペラとしゃべる様子には正直感心した。この記者会見はテレビ東京が放送し、僕は日経新聞サイトでそれを見ていたのだが、テレビ東京の用意した同時通訳二人が英語しか対応できず、他の言語の時は黙り込んでしまうのが困りものだった。やったことの是非とは別に、確かにまぁ凄い人なんだよなぁ、とは思わされた。
ゴーン氏、やっぱり日本の年末年始なら隙ができるはず、と狙いを定めてやったものらしく、検察や弁護士ら関係者は正月休みなどないも同然だったろう。除夜の鐘のゴーン、ゴーンという音も心に痛いように響いたに違いない(笑)。今度の逃走劇はマジで映画化、という噂も出てるほどだが、タイトルは「ゴーン・ウィズ・ザ・ウインド」(風と共にゴーン)でどうだろうか(笑)。
ゴーン氏としては日本の司法制度の前近代性を非難することで欧米世論を味方につけたいみたいだが、さすがに「逃亡」という手段をとったことについては欧米でも批判は多いようだ。当然ICPOの手配対象となるだろうし、レバノン当局も彼をレバノン国外から出ることを禁じて、実質的な軟禁状態になってるようにも見える。レバノン自体も不安定な状態にあるため、ゴーンさん、またまた脱出作戦を実行しなきゃいけなくなるかもしれない。
これからこの人どうなるのか分かんないが、人生後半も波乱ぶくみなのは間違いなく、ぜひ「私の履歴書」の続きを書いてもらいたいもんである。
◆古けりゃいいってもんじゃない
前から分かってることだが、麻生太郎副総理兼財務大臣という政治家は、お育ちの割に口が悪い。えらくべらんめえ調な言葉遣いだし、それでいて強烈な「上級国民」姿勢をふりまいてるから余計に始末が悪い。首相になってた時も漢字が読めないと話題になったが、失言が多いのも相変わらずだ。
先日もどこぞの成人式に出席してしゃべったが、その中で「20歳になるとパクられたら実名が報じられるぞ」と、間違ってはいないのだが、そんな場でわざわざ言うことじゃないだろうと。成人として覚悟をもて、と言いたいのだろうが、そこに「パクられた」例を使わんでも。一応祝いの席なんだからさ。当人としては面白いことを言ってウケようと思ってるのかもしれないが、過去にも政治家の失言はそうした場で「受け狙い」の結果起こっている。
そんな話題があってから間もなく、地元・福岡の政治報告会で麻生副総理は「問題発言」をやらかした。報道によると話の流れは、まずラグビーワールドカップでの日本代表の活躍について外国人も参加した多様性が強みになった、という趣旨のことを言ってたらしく、それは結構なのだが、そのあとで「2000年にわたって同じ民族が、同じ言語で、同じ一つの王朝を保ち続けている国など世界中に日本しかない」と発言したというのだ。ああ、またかよ、と思うしかないほど、保守系の政治家や論者の口から繰り返し繰り返し飛び出してきた「ゆがんだお国自慢歴史観」だ。
まず「2000年」というところがひっかかる。2000年前と言うと弥生時代後期で、日本は小国家が分立・抗争していた時代と通説ではみなされているが、そもそもこの手の主張をする人たちは中国文献に記された「倭」の情勢の話など無視する。「古事記」「日本書紀」の神話のままに神武天皇即位からずっと一つの王朝、一つの国家、一つの民族だと戦前のまんまに考えてる人が少なくない。「2000年」というのも、恐らくは神武機嫌の「2600年」あたりを念頭にしたのだろう。
王朝、というのはもちろん天皇家のことを指しているのだが、確かに確認できる限りで現存世界最古・最長の君主家であるのは間違いない。2000年はまゆつばとしても古墳時代後期からはずっとつながってはいる(記紀神話を素直に読むと応神が初代という気もするな。「日本書紀」でその母・神功皇后を卑弥呼と同一人物にしてるのも意味深)。すでに平安時代に王朝が長いことを中国に自慢してる例があるくらいで長いのは間違いないが、王朝交代が行われないまま現代まで続いたのは天皇が権力を握らない時代が長くあることや、南北朝時代みたいに存続の危機を迎えてドロドロの抗争をした例だってあるわけで、単純に「万世一系」と続いてきたわけでもない。
言語と民族についてだって2000年という尺度で見れば渡来人のこととか(天皇家に百済王族の血が入ってることは以前上皇の「ゆかり発言」でも言及された)、蝦夷だの熊襲だのといった記紀神話で異民族扱いされてる人々を征服してきた歴史があるし、沖縄(琉球)だって十分に別の言語・民族ととることが可能。そもそも民族なんて当人たちの認識の問題なので「一つの民族」か「多民族」かの境目は結構あいまいだ。今のところ日本国内ではアイヌ民族が「少数民族」「先住民族」と明確に規定されて存在しており、確かに現在は圧倒的に数は少ないが、かつてはもっと数が多かったし、少なくとも江戸時代以降は「日本」の枠組みの中に存在してきた。日本を「単一民族国家」と発言してアイヌ側から抗議されるというパターンは、前回書いた中曽根康弘元首相をはじめ何度となく繰り返されているが、記憶力が低いのか、あるいは「単一民族」という言葉がよっぽど心地よいのかこうして発言は繰り返される。言語の件にしても近代以前は話し言葉では地方差が激しく、世界的にみれば別の言語とされそうなレベルでもある。
世界各国の歴史を眺めれば、確かに日本は民族が少なく、言語もおおむね近く、王朝というか君主の家系がずっと長く続いている、ということ自体は否定しない。しかしだから何なんだ、と思うところも。そういうところでしか「日本」のアイデンティティを保って来れなかった、ということなんだろうけど。なんでも一つで古くて長けりゃいいってもんじゃないのだが、最近はこの手の人たちが「縄文文明は一万年以上続いた!」とか大威張りしたりするんだよなぁ。
そんな話題とちょっと絡む話題。
上記で神功皇后が「日本書紀」で卑弥呼と同一人扱いしてることに触れたが、篠田正浩監督・岩下志麻主演の映画「卑弥呼」でも神功皇后の話が取り込まれていた。その映画のラストシーンで空撮映像で映るのが、奈良県桜井市にある「箸墓(はしはか)古墳」だった。国内にある前方後円墳の中でも古いタイプとされ三世紀中の建造と推定されているほか、「魏志倭人伝」で記される卑弥呼の墓のサイズと後円部の直径がだいたいあっているといった意見から、「邪馬台国=畿内説」において卑弥呼の墓の有力候補とされているのがこの「箸墓古墳」なのだ。
この箸墓古墳、「日本書紀」の伝承ではヤマトトモモソヒメという皇族(「欠史八代」の一人・孝元天皇の姉妹とされる)の墓と伝えられているため、宮内庁の管理下に置かれていて立ち入りは原則禁じられている。過去に一部の調査が行われたこともあるのだが、先日、この古墳について「宇宙線」を使った最新の調査が行われたことが公表された。
橿原考古学研究所が1月9日に発表したところによると、道化乳所は2018年末から。宇宙から飛んでくる素粒子「ミューオン」を利用した箸墓古墳の内部の調査を進めていた。ミューオンは分厚い物質も通り抜けてしまう素粒子で、その通り抜けたとをフィルムに記録・分析することで空洞の有無が確認できる。こっれを利用してエジプトのピラミッドに未知の空洞が発見されて話題になったこともある。
橿原考古研は以前にも奈良県内の古墳のいくつかをミューオン調査していて、今回箸墓古墳についてもそれを進めていることを公表したわけだ。2018年末から開始して今年の4月まで調査を続けるとのこと。まぁ空洞が分かるだけなので、古墳の石室の位置や大きさが分かる程度ではないかと思うのだが、なるほどこの方法なら立ち入らないでも調査できるわけだ。ミューオンで調べたら、古墳の中に空洞で「卑弥呼之墓」とでも書いてあったら大笑いだが。
◆「海賊」の聞くと血が騒ぐ
当サイトをよく覗いてる方の間でも忘れ去られてる気もするが、僕は一応「倭寇」が専門である。それに絡めて世界中の「海賊」の歴史にはたいてい首を突っ込んでいて、「海賊」がらみの話を聞くと血が騒ぎがちである。それでいて映画の「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズは全く手を出してないが。
いまヨーロッパを中心に「海賊党」と名乗る政治勢力が台頭、一部の国では現実に政治に関わるほどに勢力を伸ばしているという。「海賊党」なんて、まさか海賊行為を実際に働く勢力では、なんてことはもちろんなく、彼らの言う「海賊」とは「海賊版」で使われる「海賊」のこと。つまり著作権を侵害したあれこれのことを指す言葉で、彼らはデジタル時代の今日にあっては新しい著作権認識が必要、という主張からあえて「海賊」を名乗っているらしい。「海賊版」を全面的に指示してるわけでもないのだろうが、確かに今どきの時代になって著作権保護期間を延長するとか、大企業の利益保護のための過剰な著作権主張だとかが目につく昨今では、僕も部分的に同意するところがありそうだ。日本にも「海賊党」をやってる人たちがいるらしいが、今のところ大きくはない。
発祥はスウェーデン、と聞くと「やっぱりヴァイキングの血かな」などと思ってしまったりするが、やはりヴァイキングの国であるアイスランドでは国会議員も複数出しているほか、ヨーロッパ各国で地方議員が出るなど勢いがあるという。「海賊党」といっても著作権の話ばかりしてるわけではなく、ネット社会の中立性を主張するとか、政治権力の個人監視に反対するとか、方向としてはリベラル政党として存在感を示し、ヨーロッパで議論になる移民についても寛容姿勢だという。従来の保守・革新、右翼左翼の枠にとどまらない点で「緑の党」と似たところもあるが(実際環境保護政策では両者は近く協力してる例もある)、「緑の党」みたいに一定の支持基盤が得られるものかどうか、「海賊」と名乗るだけに分からない。
そんな海賊党、チェコでは首都プラハの市長という、結構エライ立場の政治家を出してしまっている。ズデニェク=フジブ氏という、まだ38歳の若い市長さんだ。この海賊党プラハ市長が、大国中国にケンカを売って注目を集めている。むかし明を震撼させた後期倭寇を専門とする僕にはいささか血が騒ぐシチュエーションなのだ(笑)。
具体的に何をしたかといえば、プラハはこれまで北京と姉妹都市関係を結んでいたが、昨年をもってこれを解消したのだ。理由としてフジブ市長は、姉妹都市など中国と何か関係を結ぶ際に「一つの中国原則」の厳守を求められることを挙げている。「一つの中国原則」とはもともとは台湾を中国の一部で政権が異なるものとみなして、その「独立」には断固反対し、国際社会でも中国か台湾かどちらか一方とだけ関係を結べ、とする原則で、これがチベットやウイグルとしった独立志向のある少数民族地域についてもあてはめるものだ。フジブ市長は医大生時代に台湾で短期研修した経験があってもともと台湾寄りの心情があるし、以前から欧米の同情・支持が強いチベットに加えて、昨年当たりからようやくウイグルへの弾圧も欧米で注目されるようになってきて、それも市長の対中国観に影響を与えているはず。そして今も続く香港の民主化運動デモの騒ぎも念頭にあるはずだ。
考えてみればプラハはかつての冷戦時代、「プラハの春」と呼ばれた「人間の顔をした社会主義」と呼ばれる自由化を進めたらソ連に叩き潰された歴史がある。38歳のフジブ市長が当時を知るはずはないが、その歴史は身に染みているはずだ。今も共産党一党独裁を続け、人権抑圧や監視社会を推し進める現在の中国政府の姿勢に、「海賊党」の立場からも反発があるのは当然。彼はインタビューで中国を「信頼できないパートナー」と明言して、中国との断絶をしようというわけではないが、ヨーロッパの民主主義国は中国と同盟を結ぶことについては慎重に考えるべき、脅威・脅迫を前にして自らの価値観・誠実さを放棄してはならないとまで語ったという。
チェコ政府自体は中国との関係強化の方向なので、首都市長のこうした姿勢には困惑しているらしいが、そこは「海賊党」だけに普通の政治家とはずいぶん違うのだろう(一歩間違ると単なるポピュリズムに行きそうだが)。 折も折、香港情勢の追い風もあってほぼ確実視されていた台湾の民進党・蔡文英総統の再選が実現(前に統一地方選挙では大敗して党首辞任になったりしたんだけどね)、それとタイミングを合わせるかのようフジブ市長は台北市と姉妹都市提携を結んでしまう。完全にケンカ売ってるよなぁ(笑)。こういうところも「海賊」流なのだろう。以前は「海賊版」というと中国が本場というイメージがあったが、その中国が「海賊党」にケンカを売られるという構図もなかなか「歴史的」だ。もっとも、歴史的なことを言えば海賊勢力って結局は陸上の政治権力に敗れ去ってしまうんだけど。
もっとも中国の方では武漢市を発信源とする新型コロナウイルス肺炎の騒ぎでそれどころじゃないかも。
◆一足先に「離脱」しちゃった
イギリスのEU離脱も今月末に実行、ということになっているのだが(それでも移行期間ということで今年いっぱいは実質残留状態らしい)、そのイギリスの王室で一足先に「離脱」が起きた。そう、現女王エリザベス2世の孫であり、チャールズ皇太子とダイアナ元妃の次男であるヘンリー王子とその妻子が事実上の「王室離脱」という事態になってしまったのだ。なお、英語圏では通称として彼を「ハリー」と呼ぶのが一般的らしく、日本でもNHKは「ハリー王子」で統一してるが、当欄では「ヘンリー」のままにしておく。
ヘンリー王子は1984年生まれで現在35歳。母親のダイアナ元妃が事故死した時の幼さを覚えている僕としては(映画「クイーン」の再現映像と記憶がゴッチャになってるが)、もうそんなお年なのかと驚くばかり。王位継承順位は現在第六位。お父さんのチャールズ皇太子(プリンス・オブ・ウェールズ)がもちろん一位で次がお兄さんのウィリアム王子(ケンブリッジ公)が第二位、それ以下はウィリアム王子のお子さんたちが男女関係なく上から順番になっているので、お兄さん夫婦に子供ができるたんびにヘンリー王子の継承順位は下がっていくわけ。まぁ実のところ本人も自分が国王になることは考えていないと思う。
ヘンリー王子、交際していた女性はいたが紆余曲折の末に破局して30過ぎても独身が続いていた。それが2017年になってアメリカの女優メーガン=マークルさんとの結婚が発表された。このメーガンさん、アメリカ人、それも女優、さらには離婚歴ありと、イギリス王室入りにはいろいろ抵抗する人が出そうで、実際いくらかモメたようだし、例によって口さがないイギリスマスコミの格好の餌食になったりしたが、ともかく2018年に二人は結婚。同時にヘンリー王子は「差セックス公爵」となって王室内で一家を構えることになった。日本皇室でいえば「宮家」ですな。
昨年5月には第一子のアーチ―王子も生まれて天下泰平…と思えたのだが、昨年後半から不穏な空気が漂い始める。メーガン妃がマスコミの格好の餌食となって、ダイアナ元妃を思わせるパパラッチの追跡も受けているのだが、それとは別にこのサセックス公爵夫妻、カナダやアメリカに移住していろいろと事業を起こす動きを見せ始めたのだ。僕も詳しく見ていたわけではないが、夫妻そろっての映画出演だの製作だのの計画や(もともと女優さんだしね)、「サセックス公爵」のブランドを商標登録してグッズ販売を計画しているとか、ちょっと王室メンバーとしてどうなのよ、と思う話が次々に出てきた。
年末年始になってヘンリー王子の問題はいよいよ深刻になり、少なくともパパラッチを避けてカナダに移住するという話が現実的になってきた。そしてヘンリー自身が王室から経済的な独立をして自分で稼ぐ、という「実質独立」のようなことを言い出し(これまでも夫妻の経費は父チャールズ皇太子の所領の上がりからあてられている)、エリザベス女王とチャールズ皇太子も乗り出して王室会議で対応を決めることになった。
そして1月18日に発表された結論が、ヘンリー王子夫妻はイギリス王室としての公務から完全に離れ、「ヒズ・ロイヤル・ハイネス(殿下)」の称号も返上、という、事実上の「王室離脱」というものだった。女王は一時は「サセックス公爵」の肩書についても「伯爵」への二段階降格まで考慮したというから、女王としてはかなり厳しい態度でお孫さんに臨んだようだ。直後にヘンリー王子自身が「悲しみ」を表明したりしてて、どうも当人としては少しは公務に関わるつもりだったのにお婆さんから肘鉄喰らったと思っているようである。
そんなわけで、これまではヘンリー夫妻に強かった世論の風当たりが、女王を「冷たい」と批判する方向に変わってリしてるようだが、傍から見てると、そこまで「独立」を画策するなら筋目をキチンとつけろよ、とは思う。意外と甘いことを考えてたんじゃないかな、ヘンリー君は。
エリザベス女王はダイアナ元妃事故死の際に、あくまで王室を離脱した「元嫁」だからということで初めは特に公式反応を示さず、国民から強い批判を浴びた過去がある(この件を映画化したのが「クイーン」だ)。今度の件はあのときとはだいぶ状況は違いけど、そこは伝統ある「王室」だけに一般庶民の気分のようにはいかずいろいろと厳格なところはあるだろう。ふと日本の皇室の、「結婚内定」から漂流状態になってるあの人のことなど連想しちゃったが。
歴史的に振り返れば、今度の件はエリザベス女王の伯父・エドワード8世の例を連想させる。独身国王だったエドワード8世はアメリカ人女性で人妻のウォリス=シンプソンと恋に落ち、彼女の離婚を待って王妃に迎えようとと画策したがイギリス国教会などが反発、結局王位を捨てて彼女との結婚を選択、「王冠をかけ恋」として歴史に名高い。このエドワード8世が王位を捨てたために弟のジョージ6世、つまり原女王の父が即位して現在のイギリス王室がその子孫で占められることになったわけだが、元エドワード8世夫妻は王室から実質追放状態となり、イギリスを離れて各国を渡り歩くようになった。
どうもヘンリー王子の件は、いろいろとこのエドワード8世の例と符合するんだよね。王室から離脱して、イギリス国外に住んで…という展開になっていくのだろうが、その経費は一応チャールズさんから当面は出してもらう形になるだろうし、王室と完全に切れるわけでもない。その辺もエドワード8世の例に似てくる。
エドワード8世の「王冠をかけた恋」と吃音だったジョージ6世の逸話は「英国王のスピーチ」という映画になってるし、ダイアナ元妃関係も「クイーン」はじめいくつか映画やドラマがある。チャールズ皇太子とカミラさんの関係だって、将来何らかの映像作品になりそうなドラマ性があるし、今度のヘンリー王子夫妻なんてすぐにもどっかが映画化するんじゃないかと(笑)。ホント、イギリス王室はネタに事欠かないなぁ。
2020/1/25の記事
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