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―ぼくが、わたしが、みんなが読んだ―
南洋一郎
「怪盗ルパン全集」
の部屋
 ―第2室―

7「怪奇な家」

<内容>
「謎の家」。

<原作との比較>

誘拐される女優レジーヌとお針子アルレットが「美少女」としてかなり年齢設定を下げた印象になってます。よって原作にあるルパン(デンヌリ子爵)が彼女たちと繰り広げる楽しくも熱い恋愛ドラマはあっさり削除。ダイヤをちょうだいしてトンズラするルパンが「置き手紙」を残していくあざやかなラスト、実は南洋一郎の創作です。

<表紙絵>
美少女、悪人、意味深に宝石をみつめるルパン…と見事な三点セット構図ですが、内容が全然想像できません(笑)。
8「青い目の少女」

<内容>
「緑の目の令嬢」。「緑」ではなく「青」なのは保篠龍緒以来の伝統ですが、本文中のオーレリーの目はちゃんと「緑」と書かれていて読者を混乱させます。現行の「シリーズ怪盗ルパン」ではタイトルも「緑」に変更されました。2010年に「かつてのスタイル」で復刊されたポプラ文庫クラシック版でも「緑の目」にされています。


<原作との比較>
大筋に変更点はありません。ただ例によってルパンとオーレリーの恋愛要素は全面カット、ルパンが寄付するオチになるという変更点はあります。

<表紙絵>
少女とルパン、の定番構図。物語のキーとなる湖が背景にあるのは当然。そういえば表紙絵のルパンはよくシガレットをくわえてますね。

9「怪盗対名探偵

<内容>
「ルパン対ホームズ」。現行シリーズでは「ルパン対ホームズ」に改題されました。

<原作との比較>
「金髪美人」では変更点はほとんどなく、珍しくルパンとクロチルドの恋愛関係も描かれています。ホームズがイギリスに送られる船の中で船長に「ホームズの冒険物語」を聞かせるという箇所はオリジナル。「ユダヤランプの秘密」も大きな変更点はありませんが、ダンブルバル夫人の不倫話は「少女時代にちょっとつきあっていた」という話に変更されています。

<表紙絵>
 ホームズはいかにもの顔つきですが、定番の鹿打帽姿ではありません。強敵相手のせいか、珍しく考え込むポーズのルパンです。

10「七つの秘密」

<内容>
「ルパンの告白」がメインなのですが、バージョンにより内容が異なります。1959年版では
「日光暗号の秘密」(太陽の戯れ)「赤い絹マフラーの秘密」(赤い絹のスカーフ)「古代壁掛けの秘密」(白鳥の首のエディス)「三枚の油絵の秘密」(影の合図)「空とぶ気球の秘密」(偶然が奇跡をもたらす)「金の入歯の秘密」(金歯の男)「怪巨人の秘密」(山羊皮服を着た男)となっており、読者に何の説明もなく「バーネット探偵社」の話が2話、英語版「告白」に収録されている1話がおさめられ、全て「〜の秘密」というタイトルで統一していました。その後1971年版で「バーネット探偵社」が「ルパンの名探偵」として分離独立したため、「ピラミッドの秘密」のプロローグだった「地獄のわな」と、「さまよう死神」の2話が入って七つにするツジツマあわせが行われました。さらに現行シリーズでは「怪巨人の秘密」がぬけて「結婚リング」が入る、という実にややこしい変遷をたどっています。

<原作との比較>
大きな変更があるのは1971年版で入った「地獄のわな」でしょう。もともと「ピラミッドの秘密」のプロローグに流用されたせいもありますが、ガブリエルが過去にルパンに救われた不幸な美少女エリザに変更され、デュグリバル夫妻のワルさも強調、ルパンの正義漢ぶりが強められています。「三枚の油絵の秘密」もあくまでルパンの善行に変更されました。また「告白」の一話「ルパンの結婚」はルパンが財産めあてに偽装結婚をしちゃう話だったため、南洋一郎はその存在自体を抹殺してしまっています(笑)。

<表紙絵>
1971年版ですと「あれ、こんな場面あるっけ?」という表紙ですが、これは1959年版に収録されていた「空とぶ気球の秘密」を表紙絵素材にしてしまい、その後その話が抜けた新版でも表紙を変更しなかったためです。「ルパンの名探偵」でも同じ場面が表紙になっていることに気づいた人はどれだけいたでしょう?

11「三十棺桶島」

<内容>
珍しく他の邦題と同じ「三十棺桶島」です。

<原作との比較>
原作は二分冊になったこともある大長編のため、南版はかなり話を圧縮しています。また本作はシリーズ中もっともエグい大量殺人が展開されるホラーサスペンスなのですが、やはり大幅な変更が行われそこそこマイルドな内容になりました。大きな変更点はフランソワとレイノルドの覆面決闘シーンが削除され、終盤までレイノルドが生きていてボルスキーと一緒に死ぬハメになるというところ。

<表紙絵>
ルパンさん、放射性物質を素手でつかまないように(笑)。

12「虎の牙

<内容>
これも特に工夫もせずそのまま「虎の牙」となりました。

<原作との比較>
これも原作は二分冊になることが多いほどの大長編ですが、南版は逆に他作品よりページが少ないぐらいの大圧縮をかけました。ルイ=プレンナことルパンは原作では「813」以後世間では死んだと思われていて、子分のマズルー巡査がルパンを見てビックリ、という場面があるのですが南版ではその設定が一切ないため、マズルーの印象がずいぶん違います。犯人がなぜか「グニャグニャの骨無し怪人」に変更されており、これは以後「ルパンと怪人」「悪魔のダイヤ」にも同様の怪人が出てくるため、南洋一郎の「趣味」(?)だったかと思われます(笑)。ルパンがアフリカでモーリタニア帝国を作っちゃうくだりは原作にもありますが、「土人」という表現が連打されるため現行シリーズでは全て「兵隊」に置き換えられています。そのため「女兵士」が出てきてよけいにヘンになっちゃってますが…恋愛ばなしは例によってほぼ削除されてますが、ラストシーンではルパンとフロランスの「愛」がほのめかされる形にはなっています。

<表紙絵>
グッと年齢を重ねたルパン。手には「虎の牙」がついたリンゴ。後ろにいるのはフロランスなんでしょうけど、全体的に不気味さが漂います。

13「ピラミッドの秘密」

<内容>
「原作ルブラン」とあり、南洋一郎の前書きには「英仏両短編」をもとにしたとありますが、実質南洋一郎個人が創作したオリジナル作品です。現行のシリーズでは除外され、読むことが難しくなりました。

<原作との比較>
1961年版では「地獄のわな」がプロローグとなっており、そこで救い出された美少女エリザが実は考古学者の娘で、アフリカ奥地の黒人王国の秘宝の鍵を握っていた…というわけで大冒険が始まります。序盤では「麦わらのストロー」の話もトリックのみムリヤリ挿入してありました。本作の詳細についてはいずれ「贋作ルパン」紹介コーナーで。ま、一言で言えば「インディ・ジョーンズ」の世界ですね(笑)。

<表紙絵>
これだけ見るとエジプトの冒険話に見えますが、話は砂漠からナイル奥地のジャングル、さらには地下王国まで、もう何でもアリ状態です。吉村作治先生みたいなルパンが貴重です(笑)。

14「消えた宝冠」

<内容>
戯曲「アルセーヌ・ルパン」を英文小説化した「ルパンの冒険」が原作です。南洋一郎は英文小説と仏文戯曲をミックスした翻訳「ルパンの冒険」も手がけており(現在創元推理文庫に入っているもの)、それをもとに本作をリライトしたと思われます。

<原作との比較>
ヒロイン・ソニアの年齢設定が若干さげてあり、実は「女泥棒」だったという設定は一切出てきません。したがってルパンとソニアの関係も男女のそれではありません。

<表紙絵>
シリーズの表紙絵中、いちばん美男子のルパン(笑)。

15「魔女とルパン」

<内容>
「カリオストロ伯爵夫人」。1958年から刊行された初版シリーズはこの巻でひとまず終わってました。

<原作との比較>
原作はルパンとカリオストロ伯爵夫人とクラリスがドロドロの恋愛三角関係を展開する話なのですが、南版は見事なまでにこれらをカットしています。そのためカリオストロが「単なる悪女」にしか見えなくなっています。ルパンとクラリスの男女関係も全く描かれず、二人がのちに結婚して子どもができていたことは「ルパン最後の冒険」(カリオストロの復讐)の冒頭で語られる形になっています。またルパンがせっかく手に入れた財宝を慈善団体に寄付しちゃうのも南版のお約束…?

<表紙絵>
ルパンが20歳のときの話ということで、かなりお若いルパンさん。モデルはロバート=ボーンでしょうねぇ(笑)。

16「魔人と海賊王」

<内容>
「ジェリコ公爵」が原作。昔からルパンシリーズ入りしてることが多いですが、実際にはルパンは登場しないルブラン作品です。

<原作との比較>
無理矢理ルパンものに変更することもできたはずですが、あえてしていません。ストーリーもほとんど変更がありません。ルパンが出てこないことは「あとがき」で一応お断りしてますが、それでも「ルパンに思えてならない」という作者のつぶやきというか弁解というかが書かれています。

<表紙絵>
ルパンっぽくも見えるけど、よく見れば別人(笑)。

17「ルパンの大冒険」

<内容>
「特捜班ビクトール」が原作。

<原作との比較>
大筋ではおんなじですが、ビクトールの年齢が「若手」に変更されていること、やはりルパンが孤児院に寄付するというオリジナルのオチが。

<表紙絵>
なんか宇宙人にしか見えない人が後ろにいます(笑)。

18「まぼろしの怪盗」

<内容>
表題作「まぼろしの怪盗」は「二つの微笑をもつ女」が原作。これも原作は割と長めのほうなのですが、さして面白くないこともあってか中編レベルに圧縮されています。そしてそのあとに準ルパンものの「赤い数珠」を短編に圧縮した「血ぞめのロザリオ」が収録されています。れっきとしたルブラン原作作品にも関わらず、現行のシリーズでは除外されて読めなくなった一冊です。

<原作との比較>
「まぼろしの怪盗」のほうは大筋の展開はそのままなのですが、ヒロイン二人の年齢が明らかに少女レベルに下げてあり、原作では盗賊の愛人となっているクララの設定はまるっきり変えてあります。ルパンがこの二人に二股かけたり、あまつさえ某国の王妃とまで恋愛中、なんて設定を南洋一郎が許すわけもなく(笑)、影も形も残っていません。一方で「血ぞめのロザリオ」は圧縮こそしたものの意外に原作に忠実でルパンも登場せず、かなり大人っぽいお話になっています。

<表紙絵>
物語の発端となる歌手の謎の死の場面が背景。手前はクララとルパンらしいのですが、こうした「美少女を守るおじさま」という構図が多いような…



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