初回ですので、ジャズの歴史をおおまかにたどりながら、なるべくいろいろなスタイルの演奏を聴いていきましょう。
1. It Don't Mean A Thing If It Ain't Got That Swing Ruby Braff / Gearge Barnes Quartet "Live at the New School"1974
まず「スウィングがなくちゃイミないよ」というデューク・エリントンの曲から行きましょう。
ギターとベースの演奏する強力なリズムに乗って、ブラフのコルネットとバーンズのギターがソロをとります。
タイトル通りなんとも粋にスゥイングしているでしょう?
デューク・エリントンは1930年代から1974年に亡くなるまで、作曲家、バンド・リーダー、ピアニストとして活躍し、20世紀最大の芸術家の一人として取り上げられることも多く、彼の曲は多くの人たちに演奏されています。
一曲目はエリントン楽団のテーマとして有名です。このバージョンは、エリントン自身のピアノの長いソロから始まります。
エリントンのピアニストとしての実力を示す素晴らしいソロです。アンサンブルになってからは、キャット・アンダーソンのトランペットが活躍します。
二曲目も同じアルバムから、エリントン楽団の至宝、アルト・サックスのジョニー・ホッジスのソロを中心としたナンバーです。
ホッジスのなんとも素敵な音色、節回し!まさに彼にしか出来ない珠玉のソロ。僕は大好きです。
続けてエリントン・ナンバーをピアノ・トリオで聴きましょう。
ソとドの二つの音しかない単純な曲からいかにすばらしい即興演奏を生み出すか、聴いてみてください。
「ブルース進行」と呼ばれるジャズでよく用いられる和音進行の曲ですが、ピアノのレッド・ガーランドの「玉を転がすような」と賞賛された小粋なソロ、素敵でしょう?ポール・チェンバースのベース・ソロも見事です。
エリントンと並び称されたビッグバンド、カウント・ベイシーのバンドも聴きましょう。
これは75年に録音されたもので、ベイシー独特のミディアム・テンポでスゥイングしています。
この時期のベイシー楽団は、サミー・ネスティコの作・編曲をよく取り上げていますが、これもその一つです。
ジャズと呼ばれる曲で最も有名な曲の一つがこの「スター・ダスト」でしょう。
ヴィブラフォンのライオネル・ハンプトンのバンドで同じ和音進行でいかにさまざまな即興演奏ができるか聴いてみてください。
ウイリー・スミスのアルトが有名なメロディーを即興的に変えながら吹く冒頭から、トランペット、テナー・サックス、ベース(弓引きとスキャットのオクターブ・ユニゾンによるソロという名人芸)、ピアノ、ギターと続き、最後に待ってましたとばかりハンプトンのヴァイブが叩き出します。
足踏みする音や息づかいが聞こえて、熱気が伝わるようです。
同じ和音進行で、こうも色々なメロディーが即興的に生み出されるとは!ジャズっておもしろいですね。
ジャズ史上、最初に特筆すべき「天才」は1920年代のルイ・アームストロングです。
微妙なニュアンスを伝える美しい音色による即興的に生み出されるメロディーを楽しみましょう。
これらの1920年代の演奏は、彼以降の演奏家たちに多大な影響を与え、ジャズ音楽の土台を築きました。
また彼は「ジャズ」ボーカルの生みの親でもあります。
1930-40年代には数多くの大編成のバンドが活躍し、スター・プレイヤーが輩出しました。
ここでは3人のテナー・サックス奏者を中心に聴いてみましょう。
まずは、エリントンのバンドのベン・ウェブスターです。
豪快な音色で繰り出される繊細なアドリブ・メロディーがいいでしょう?
ベンはバラードも得意で、「生まれたての赤ちゃんを豪放な巨人がそーっと抱っこしているような」と形容される素敵なバラード演奏も多く残しています。
次はコールマン・ホーキンス。
エディ・ヘイウッドの軽妙なピアノ、オスカー・ペティフォードの息づかいの聞こえる素晴らしいベース・ソロの後にホーキンスの豪放にしてメロディックなテナー・ソロになります。
なんとも個性的な音色でしょう?これ以降テナー奏者はホーキンスの「男性的な」音色を模範とするようになりました。
3人目はカウント・ベイシーのバンドで有名になったレスター・ヤングです。
レスターは音量は小さめで音色もホーキンス、ウエブスターに比べると「女性的」と言われましたが、なんと言ってもそのアドリブのフレーズの不思議な魅力が素晴らしいです。
この3人によってそれまで比較的地味だったテナー・サックスがジャズの花形楽器になっていきました。
ウェブスター、ホーキンスの豪快で男性的な音色とヤングの実にスリリングでモダンなアドリブ・メロディーが次の世代の演奏家に大きな影響を与えました。
特にレスター・ヤングのフレーズはテナー・サックスにとどまらず、あらゆる楽器の演奏に大きく影響を与え「モダン・ジャズ」の父とも言うことができます。
そのレスター・ヤングと、ジャズ・ボーカルの最高峰というべきビリー・ホリデイの演奏を聴いてください。
「君微笑めば」のレスターのなめらかで軽快なアドリブ・フレーズの素晴らしさ、「ばかなわたし」におけるビリーのなんとも微妙な感情表現を聞いて下さい。
特に2曲目のビリーの歌(失恋して「なんでもないのよ」と強がる女性。でも鏡の中の自分に「ほんとは自分を偽っているんじゃない?」と本心を見抜かれる・・)は、何度聞いても思わず涙が出るほど僕の感情をくすぐります。
1950年代、「モダン・ジャズ」の時代にレスター・ヤングの影響から出発して自分のスタイルを完成させた一人がアルト・サックスのリー・コニッツです。
コニッツは何度もこの曲を録音していますが、先ほどのビリーの歌を何度も聞いたのでしょう、僕には驚くほど共通したものを感じます。
1950年代の名盤からもう一つ。アルトのアート・ペッパーを聴きましょう。彼もヤングとパーカーたちから多くを吸収した天才的即興演奏家の一人です。
これはペッパーの代表作として有名ですが、彼の自伝によると当時の彼は麻薬中毒の最中で、当日になって録音を知らされ、スタジオで曲も適当に決めたらしいのですが全くそんなことを感じさせない素晴らしい演奏です。
バックは当時のマイルス・クインテットのメンバーです。