第二回  フリー・ジャズ@

前回は感想・質問などたくさん書いて頂いてありがとうございます。
前回の最後に聴いたビル・エバンスの「リトル・ルル」は60年代初めアメリカのテレビ漫画(ちびまる子ちゃんみたいな)のテーマ曲であるとのご指摘。なんでもジャズの題材になる!という良い例ですね。

Q:演奏ビデオはありますか?
 A:有名な演奏家の映像も残っていますが、特にすぐれた演奏時のものがあるという訳ではないので、本講座では歴史的な録音記録のみ扱います。ジャズに関する映像は、昨年NHKで放映された「JAZZ」というドキュメンタリーがとても素晴らしいものでした。 今年の秋にDVD で発売されるとのことです。

Q:キース・ジャレットは今回取り上げられますか?
 A:うーん・・。来年70年代以降のジャズ講座ができたら取り上げたいです。

Q:フリー・ジャズとアバンギャルド(前衛)・ジャズは同義ですか?
A:60年代の最前衛の演奏家たちがはじめたのがフリー・ジャズというわけなので、同じ意味といっていいと思います。いろんな言い方があるのでややこしいですね。

Q:ジャズのアドリブ(即興演奏)は毎回違うのですか?
 A:同じ曲を演奏しても、即興演奏のやり方は無限にある訳ですから、当然毎回違った演奏になります。
演奏家は次の演奏こそ最高の即興演奏にしようと毎回の演奏に臨みます。レコードになっている即興演奏がそのままライブで完全に再現されることはないし、あえてする意味はありません(過去の演奏家に敬意を払う意味で、記録された名演奏を再現する例はあります)。

Q:ジャズが聴ける店(レコード、生演奏)をおしえて下さい。
A:ジャズの専門雑誌、「スイング・ジャーナル」「ジャズ・ライフ」などにジャズ喫茶(ずいぶん少なくなりましたが)やライブハウスの広告が出てますのでお近くの店を探してみて下さい。

さて、本日は1960年代のジャズ演奏家の中で特筆すべき3人を中心に聴いていきたいと思います。
アルト・サックス(トランペットとバイオリンの演奏も残しています)のオーネット・コールマン、アルト・サックス、バス・クラリネット、フルートのエリック・ドルフィ、テナー・サックスのアルバート・アイラーの三人です。


本日のレコード

1. "Lonely Woman" Ornette Coleman Quartet "Shape of Jazz to Come"1959

 フリー・ジャズの創始者として有名なのは、アルト・サックスのオーネット・コールマンです。
初めは作曲家として活動しようと考えていたそうですが、ユニークなサックスの演奏でしだいに認められて行きます(と言っても経済的な成功はずーと後のことですが)。
彼の演奏の特徴はあくまでメロディーを重視することだと思います。作曲された、或いはその場の即興で生まれたメロディーを和音進行より重視することによって、それまでのジャズ演奏の枠を打ち破っていったのです。
トランペットのドン・チェリー、ベースのチャーリー・ヘイデン、ドラムのエド・ブラックウェルはコールマンの考えに賛同し、素晴らしい演奏をしています。


2."Free Jazz" Ornette Coleman Double Quartet "Free Jazz" 1960

  前記のカルテットに、ドルフィーのバス・クラリネット、フレディ・ハバードのトランペット、スコット・ラファロのベース、ビリー・ヒギンズのドラムを加えた「ダブル・カルテット」でコールマンは、集団即興演奏によるアンサンブルと自由なソロそれにあらかじめ作曲された短いリフを組み合わせて、新しい音の流れを作る実験を行いました。
僕の持ってるLPレコードは、見開きジャケットで表に四角い覗き窓があって内側の絵(Jackson Pollock"White Light")の一部が見えるようになってます。



3."Chappaqua Suite" Ornette Coleman "Chappaqua Suite" 1965

コールマンの登場は最先端のジャズ演奏家たちに大きな影響をもたらしましたが、商業的には不遇で結局彼は1962年から約2年間ジャズシーンから遠ざかりました。
1965年に復帰してからは、ベースのデビッド・アイゼンソン、ドラムのチャールズ・モフェットとトリオを組んで素晴らしい演奏を残しています。
これは映画のために録音されたもので(結局映画には使用されなかった)オーネットのトリオの即興演奏にオーネットがあらかじめ作曲した木管と弦楽の無調アンサンブルがところどころに加わります。オーネットの尽きることのない泉のように湧き出る即興のメロディーを聴いてください。



4.5.6."Hypochristmutreefuzz" "You Don't Know What Love Is" "Miss Ann" Eric Dolphy "Last Date" 1964

 次にエリック・ドルフィを聴いてください。
ドルフィーは、アルト・サックス、クラリネット、バス・クラリネット、フルート、を使い分けて非常に新しい表現を開拓し、惜しくも36歳で病死してしまいましたが後の演奏家に大きな影響を与えました。
彼の演奏は基本的には従来の和音進行の枠を超えるものではありませんが、調性の枠内での跳躍する音程、独特のフレージングによって非常に斬新な表現を完成させました。
これは亡くなる直前のオランダでの演奏で、ピアノのメシャ・メンゲルベルグ、ドラムのハン・ベニンクは後のヨーロッパのフリー・ジャズの中心となる人です。  



7."Summertime" Albert Ayler "My Name Is Albert Ayler" 1963

 3人目はアルバート・アイラーです。
彼の演奏は非常に特異なものであったため、アメリカのメジャー・レーベルからレコードが出るのはずっと後のことで、まずヨーロッパで認められました。
これは彼のデビューアルバム(後にこれより前の録音も発表されましたが)で、コペンハーゲンでの録音されオランダのレコード会社から発売されました。
曲はガーシュインの有名なスタンダード・ナンバーで、ピアノ、ベース、ドラムは典型的なモダン・ジャズのスタイルで演奏していますが、アイラーのユニークなスタイルがよくわかると思います。
ベースのN.H.O.ペデルセンは当時16歳で後にアメリカで大成功を納める名手です。 



8."Ghost second variation" ALbert Ayler Trio "Spiritual Unity" 1964

アメリカに帰ったアイラーは、ベースのゲーリー・ピーコック、ドラムのサニー・マレイという理想的なメンバーを得て、彼独自の音楽の創造に邁進しました。
ここでの彼の即興演奏には、従来の和音進行もはっきりとした音程も割り切れる拍子もありません。
強いビブラートを伴う暖かく鋭い音色と極端な音程の変化によって、非常に魅力的で精神力を感じる演奏になっています。
ベースとドラムの作り出す反応性に富んだ流動的なスゥイング感が素晴らしいと思います。 



9."Spirits Rejoice" Albert Ayler "In Greenwich Village Complete" 1966

 1966年になると、アイラーは多人数のバンドでもはや「アイラー・ミュージック」とでも呼ぶしかない独特の音楽を追究します。昔のニューオーリンズ・ジャズやそれ以前の音楽を思わせるテーマ・リフ(チンドン屋風と言われることもありました)、即興部分では精神力を振り絞るようなフリーク・トーンなどです。この曲は弟のドナルド・アイラーのトランペットの他、バイオリン、ベース二人(一人は弓弾き中心)、ドラムの6人編成です。(実際の講座では時間がなくてこの曲はカットしました) 



10."Truth Is Marching In" Albert Ayler "Nuits De La Fondation Maeght vol.2" 1970

 1970年の11月25日、アイラーはニューヨークの川で謎の死をとげました。34歳の若さです。これはフランスのコンサートで録音された彼の最後の録音です。アイラーのテナーにピアノ、ベース、ドラム、という編成で、アイラー・ミュージックの最高の部分が聴けると思います。昔読んだ雑誌に、このコンサートを見たジャズ評論家の記事があって「・・・アイラーのサックスの先端から無数の金色の糸が空中に拡がっていくような錯覚が起こり、私の心臓は破裂した。」という箇所がこの演奏を聴くたびに思い起こされます。 



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