全翼機の世界

4.全翼機の操縦

最終更新日1998.11.01

図4-1  全翼機の操縦は、どうやっているのでしょうか。
機首を上下や左右に振るには?、翼を傾けるには? をここで解説していきます。
ノースロップやホルテンの操縦方式は違う場合も同じ場合もありますが、ここではパイロットハンドブック(図4-1)が出版されているノースロップYB-49の操縦方式を取り上げていきます。

 では、そのYB-49はどのような操縦舵面をもっていて、通常形態機とどう違うのでしょうか。
YB-49の操縦舵面を図4-2に示します。
図4-2
 YB-49の操縦舵面は、次の6つから成っています。
  @は「翼端スロット」で操縦舵面ではありませんが、後退翼での翼端失速を防止する役割を持っています。
  Aは「トリムフラップ」で、縦方向のトリムを取る(釣り合いを保つ)役割を持っています。
  Bは「ラダー(方向舵)」で、垂直尾翼のない全翼機ならではの位置にあります。
  Cは「エレボン」、つまり「昇降舵(Elevator:エレベータ)」と「補助翼(Ailerron:エルロン)」の両方の役割を持ったものです。
  DとEは、着陸フラップで、内側(inboard)と外側(Outboard)に別れています。
   特に外側のは、エンジンカウリングをそのまま使用しています。

 さて、これらをどう使ってYB-49は操縦されるのでしょうか。

4.1 ピッチング(機首の上下運動)
図4-3
 通常の尾翼付きの機体(通常形態機)では水平尾翼にある昇降舵(Elevator)でピッチングを制御しますが、 では全翼機はどうやっているのでしょうか。
YB-49ではエレボンを昇降舵としてのみ使います。それが図4-3(1)(2)です。
図4-3(1)では機首下げを行っていますが、エレボンは下がって(揚力を増加させて)、頭下げのモーメントを発生させています。
 ただでさえ縦の安定を欠き気味な全翼機では、この辺の運動量の制御が難しいところだと思われます。 翼の中間に配置されているエレボンでしか操舵を行っていないのは、この辺が空力平均翼弦近辺で、 この辺りでしかうまく制御できないからだと思います。
S字キャンバーによる矩形翼(プランク翼)を用いたファウベルAV-36とかは、どの辺の舵面をどう使ってピッチングを制御するのか、 興味深いところですが、資料の持ち合わせがないので不明です。

4.2 ローリング(左右の傾き運動)
図4-4
 通常の尾翼付きの機体(通常形態機)では主翼にある補助翼(Aileron)でローリングを制御しますが、 YB-49ではエレボンを今度は補助翼として使います。それが図4-4です。
この辺は全翼機であろうと通常形態機であろうと変わりないようです。
YB-49は大型の機体なのでエレボンしか使っていませんが、小型の機体ではYB-49のラダーに相当するエルロン部分も左右逆に動かすことによって ローリングを助けている機体もあります。(ホルテン H IXもそうです)

4.3 ヨーイング(機首の左右運動)
図4-5
 この運動制御は全翼機ならではです。通常の尾翼付きの機体(通常形態機)では垂直水平尾翼にある方向舵(Rudder)でヨーイングを制御しますが、 全翼機では垂直尾翼がないので、特別な操縦方式を取らねばなりません。
YB-49では片方のラダーを上下に開くことで、左右の抵抗差を生じさせ、ヨーイングを制御しています。(図4-5)
この辺の制御はノースロップでもN-1MやN-9Mで様々な方式が試されており、ホルテンも舌状ラダーを含めていろいろ試していますが、両者とも最終的にはこの抵抗差を利用する形に落ち着いたようで、これが当時では最も適した制御方式だったかもしれません。
(ホルテン IVはエルロンがドラッグラダーを兼ねていますが、H IXの場合は通常のエルロン形態なので、専用のドラッグラダーを上下面に配置にしています) ただ、この方式では左右の抵抗差がローリング運動やに直結してしまいます。通常形態機でも結びつきますが、モーメントアームが大きいせいもあってか大きな問題にはならないようですが、何事も許容範囲が小さい全翼機では制御が難しいところでしょう。
特に高速機では抵抗差も速度に大きく比例してきますので、YB-49では姿勢が落着かなかった原因の一つであると考えられます。

図4-6
 さて機種を変えて、今度はH IXを見てみます。
ピッチング(図中の上段、中段)はYB-49とほぼ変わりありません。H IXの場合、エルロンをもピッチング制御に用いていますが、内翼舵面とは制御角が変えられており、外側の方が小さくなっています。 機体規模の小ささからくるものでしょうか・・・。
ローリング(図中の下段)もYB-49とは変わりありませんが、ここでも外翼と内翼では作動角度が変えられています。
 H IXがYB-49と変わっているのはヨーイングの操舵で、前述したようにドラッグラダーを用いています。これは外翼部に設けられており、上下両面に突出するようになっています。
図4-7

参考文献、使用文献
 ・Pilot's Handbook for THE FLYING WING of NORTHROP(foreword by LEO J. KOHN), 1984年, Aviation publications
 ・Nurflugel, R.Horten/P. F. Selinger, Weishaupt-Verlag Graz, 1983
 ・Monogram Close-Up 12 "Horten 229", David Myhra, Monogram Aviation Publivations, 1983

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