『イギリスの里山を訪ねて』(パワーポイント;プレゼン用) 「チーム里山」のまとめ編(詳細報告書) 「チーム里山」英国調査記録(日記式原稿レベル) |
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<調査概要> 機会があって、環境教育に携わる若者と一緒に、3月26日から4月12日にかけてイギリスの里山の現状を探って来ました。そもそも、イギリスに"里山"という考え方があるのかどうか、出発前は殆ど情報が無い状況でした。インターネットから得た僅かな情報を頼りに、重要な訪問予定先10数ヶ所とは必要なアポイントをとって出掛けました。 主にイングランドのコーンウォールとデボン地方そしてウェールズ各地をレンタカーで巡り、走行距離3500kmを走り廻った18日間です。多くの人に会い、同じ島国ですが我が国とは違う考え方や発想にも出会いました。最近注目されている温帯アグロフォレストリーの考えなど、多くの事例を見ることで学ぶことも多かった旅です。折角ですので情報提供させて戴きます。 1.里山はあるのか里山について、「里」は英語でビレッジではないかと言う専門家がいましたが、なんとなく気になっての出発でした。結論を先に述べれば、"イギリスにも里山はあった"ということです。なお、これは日本で最近取り組まれている現代的な里山の方です。名称的には2つの系統があり、いずれも頭にコミュニティが付いており、ここが重要なところです。1)"Community Forest" イングランドの大きな都市周辺で最近始まった活動で、産業革命以降の工業化で荒れた環境が都市の周辺に放置されている状況を改善するものです。現在は、全部で12箇所の都市近郊で住民が参画して新しい森づくりに取り組んでいます。古くからある森を修復するだけでなく、工場跡の荒れ地や放棄された農地に新たに植林を行っています。野生動物を増やし生物多様性を強化する中で、子供達の環境教育を行ったり、観光や農業自体の活性化などにも取り組むところがイギリスらしいところです。 2)"Community Woodland" イギリスの森林は、私有林と国有林がおよそ半々です。しかし、私有林は手入れが不行き届きです。国有林も1950年頃まで盛んに植林されたが、その後木材の輸入増加に伴って放置されている状況が続いているとのことです。全英的に自然環境の保護・保全を推進するウッドランド・トラストが提唱し、コミュニティを巻き込んで環境改善に取り組むところとなったものです。環境や健康指向の社会的な流れの中で、森に入りたい人が増える傾向にあります。コミュニティ・ウッドランドは、自然環境が豊富な田園地方で地域振興に取り組む人達の側からも注目され、環境保護と地域の社会・経済的な活性化を、バランス良く進める方法論としても注目されています。 これらの活動内容からみると、"コミュニティ"が里山の"里"に相当することになります。最近の日本で使われている里山の"里"は、市町村という規模の大きさからくる発想ではなく、日常生活を含めた人間の生活と森林との関わりに基づく機能的な意味が強いように思えます。里山は、自然環境としてだけではなく、文化、産業、教育そしてリクリエーションなど多面的な機能を持った森林で、比較的人の住居地に近い所といえます。この点からも、ぴったりしたイメージの湧く対応だと考えます。 2.事例紹介次に、多くの事例の中から、幾つかの興味深い事例について簡単にご紹介します。
1)ティア・コエド;地域振興と森の関わり 3.里山活動の目的紹介した事例を含んだ調査結果から、各団体で如何なる目的で里山活動がなされているかをまとめてみると以下のようになります。・子供の環境教育:野生観察、ドングリ育て、混合林植林、リサイクルの仕組み ・各種障害のリハビリ的な治療、健康維持、リクリエーション ・環境や木に関連した大人の趣味・クラフト、手仕事の活性化 ・地場産業:木材、炭、燃料、肥料の生産 ・農林業の多機能化:Permaculture, Temperate Agroforestry/Forest Garden ・観光への活用:野生動物観察、環境教育、クラフト、マウンテン・バイク ・新しいエネルギー(グリーンエネルギー):風力、水力、太陽光、樹木 ・里山自体の再生・混合林の植林、癒しの空間創出 ・地域の環境・景観改善、地域の土地の価値向上、住居の見直し ・里山創出・再生活動を通したコミュニティの再生 里山活動に関連して政府や地方自治体の方針が出ており、上記の目的にはこれが反映されています。その方針とは「高い質の環境維持を通して、田園地方の強靱で多彩な地域経済活動を実現するために、町村の活性化を図り支援を行うこと」です。特に注目すべきことは、環境保全活動が与える地域経済への効果を考えていることです。教育や関連する雇用までを必ず視野に入れているのです。何故これが総合的に強調されるのでしょうか。イギリスでは中央官庁の目的指向の統合化が行われました。環境食料地域省(defra)が、地域を扱う総合的な省として存在することが重要な点です。また、分権化によって環境、農業、教育などの振興は地方政府が責任と権限をもっていることにも関系があります。 4.学ぶべきことを考える事例や里山活動の目的などから個別に学ぶことはあまり多くはないかも知れません。個々には日本でも既に行われていることが結構あるのではないでしょうか。中には、日本の方が進んでいる分野も多いと思います。しかし、全体として何か違うものを感じました。目的指向で臨むことが多く、合理的かつ総合的な判断がなされている感じです。政策面から、地域を考える地域研究家としての視線で幾つかを掲げると、@元気のある個(個人、企業、NPO等)の活動を発掘し、支え・励ます仕組みの存在;民主主義。 A政府系の推進組織が、自分から動くディレクターの元で少数精鋭で構成されている;市民企業家の存在。 B女性のトップも多く、地域の環境、生活、文化の面で着実な活動が展開されている:目的指向。 CNPOへの企業の寄付や土地の提供が多く、地域に開いた密着意識が顕著である;CRS意識。 D地域振興を推進する組織は地域に出て事務所を構え、現場の状況を理解している;現場指向。 E公(おおやけ)の組織が活動を紹介するとき、担当者の名前を掲げて公表している;情報公開と責任体制。
などソフトな部分つまり"コト起し"関連の部分が多いようです。社会の仕組みや制度の違いがあるとしても、この様なことが公共事業を推進するのに前向きに働くのかどうか、これを検証してみることも大切ではないかと感じたものです。 |