「市場細分化戦略の議論」

−グローバルに細分化された文化の中で、市場開拓に取り組む−

画一化されたファーストな市場から、地域文化を背負ったスローな市場に向かう!!
潜在的欲求の行方
価格帯を中心にした市場の考え方
上質な工芸品の用途開発から市場を考える
市場における世代・年代の意味と訴求のポイント

1.潜在的欲求の行方

 顕在化したニーズではなく、潜在的な欲求を探る努力が特にスキミング戦略では重要になる。そのため、ライフスタイルやワークスタイル、そこから出て来る消費スタイル、時代の潮流、世代特性などを先行して分析・把握することが重要である。世代は年代にも関連が深く、例えば団塊の世代の行動様式は、年齢を経ても他の世代とは変わったパタンを採ることがある。また、バブル時代に育った世代はバブリーな体質を持っていて、特異な行動様式をとる可能性があると言われている。などである。
 流通業界でPOSシステムが使われている。しかし、例えば在庫切れで対応出来なかった商品の情報が中央にデータとして残らない。また、店内を徘徊して目指すモノが無ければ、何らの情報を残さないで店を去る人もいよう。勿論、現存する商品の売れ筋探しなど目の前の勝負には有効であるが、それでも客は次善の策を選択している可能性も存在する。しかし、個業において、事業主が直接対応するようなケースでは、そこで客との会話が成り立つ可能性は高い。しかし、作る方のチャンスが減る(時間が取られる)ので、バランスの問題ではある。只話せば良いかというとそうでもない。先入観でもって決めつけてはいけないが、仮説を設定してこれを検証する意識を持って客とコミュニケーションすることも必要である。どの様な仮説を設定するかは、上記の様な時代背景などを考えた上で考える必要があることは言うまでもない。「何故?」をさりげなく連発するのが有効であるが、尋問になることは避けたい。各種のサンプルを提示し、これらの説明の反応から探る方法も合わせて考慮するべきであろう。

2.価格帯を中心にした市場の考え方

 市場細分化戦略として、訴求相手(誰に売るのか)を想定して、価格帯、用途情報、年代などを別々に考えた上で、個人事業主としての「経営マインド」や「自分のスタイル」を組み合わせて複合化・融合化を行っていくことになる。工芸品という上質なモノの中でも、価格帯には幾つかの段階が存在すると言える。一般的な移行パターンは以下である。     スキミング → ペネトレーション → 多様化 
 実際には、試行錯誤によって市場性を探っていく過程も存在するので、理論通りには行かないことも念頭に置く必要がある。
スキミング戦略:上澄み戦略>
 手の込んだ高級品で価格の高いレベルでは、かなり経済的に余裕のある層に訴求することになる。もしくは、必需品である職業を探すのも有効である。この戦略の対象になる層は、一般的に文化レベルの高い家庭で育まれた審美眼を備えていると考えられるので、これを考えて品物を投入する必要がある。
 もう一つスキミング戦略で考えておくべきことは、世の中に受け入れられていないジャンルの新しい製品のマーケティングに関してである。この領域では、「新しい考え方」そのものを受け入れて貰う(受容;Perception)活動を並行して行うことが重要となる。工芸品でもこの様なケースは考えられる。例えば、独自の地域文化や起源が宗教に関連がある場合などは留意すべきである。また、産地が固定していたり地域ブランド化している様式の場合など、他の地域で投入したり、様式変更を行う様な場合も該当する可能性があり、市場への浸透に時間が掛る可能性が高い。「地域ブランド」に関わる場合は、個人に比べ一層注意を要することになる。

ペネトレーション戦略:普及戦略>
 この戦略は、市場の底辺方向への普及を考えるもので、一般的にスキミング戦略を中心に市場の普及率が10%を超えた段階で展開するべきと言われている。しかし、市場が個衆化・細分化している中で、自分の領域が市場に置いてどの様な段階にあるのかを知ることは結構困難である。市場に出て体感することが早道であり、必要なことと思われる。
 当然、普及価格は低くなるので、コスト低減と合わせて普及戦略を練っていくことになる。工業の分野では、コストダウンの手法がVE(Value engineering)として技法的に確立されている。所謂、「改善;Kaizen」がそれであるが、工芸の分野では今後の課題である。VEについて簡単に言えば、製品の価値の源泉が何処にあるかを常に確認しながら、その価値を損なわないように、材料の吟味、道具や工法の工夫、歩留まりの向上、仕入れ先の再検討、流通手段の見直し、クレーム対応の合理化など、多面的に改善することである。決して安かろう悪かろうではない。”品質を上げるとコストは下がる”という発想へと転換する中で、顧客価値を高める事が、自分に返ってくると考えたいものである。
裾野を広げること
 普及を図るという事は、市場の裾野を広げることでもある。従って、自分の領域や周辺分野、更には文化そのものへの理解とこれらを享受する力を持った人を増やすことが重要になってくる。工房見学を受け入れる、教室を開く、レクチャーを行う、協働してフォーラムを運営する、展示会などで説明書つきで説明を行う、とかがそれである。これは、市場開拓というマーケティングの手法そのものでもある。例えば見学に関して、工房が狭いとか、汚いとかのいい訳はあまり有用ではないと思う。誰も御殿で工芸活動を行っているとは考えていない。特に、地方においては、観光産業や教育産業、或いは行政との協働を仕掛けて行くことが大切となる。この点は、イギリスのクラフト事情を参照願えればと思う。

3.上質な工芸品の用途開発から市場を考える

心と身体の用
 この市場は、上質なエスニック(真の民芸)の香りが重要であると言える。工芸家のテイストを生かす場でもあるが、使い手の意図をより重視するのがこれからの工芸品の質を考える上で大切になる。上質とは、単なる芸術品ではなく、柳宗悦が言う「用の美」、それも「用」の中に人間工学的な使い勝手だけでなく、作り手と使い手のきずな(絆、紐帯)が組み込まれているアートが評価されることを意図している。
 また、ここで言う「民」は地域密着を意味しており、「用の美」を理解した地域であれば地球上のどこでも構わないということになる。Walesの木彫りの”ラブスプーン”は、一つの例と考えられる。

用途の整理と考察
 そこで、用途を整理しておくことにしたい。
   ・装飾品、宝飾品として:身の回りや空間を飾り、豊かな気持ちになる。(ジュエリー、インテリア)
   ・変身用:時として見栄と自己満足の範疇に入れられるが、変身の道具と見た方がよい。
   ・記念品として:記念日の祝い品、引き出物として贈る。
   ・思い出の品:庭の樹を増築や移築で伐採したときなど、思い出を残す材料にする。旅行記念。
   ・プレゼント用:相手に自分の気持ちを伝える:婚約、結婚、記念日、長寿、行事(新築など)、
           季節行事(X'masなど)、上得意様への贈答品
   ・実用コレクション:気に入った器など実用品を用途に合わせて購入する。
   ・コレクション:趣味の参考や気に入ったテイストの作家もの蒐集。時には投資(特殊)
留意事項
   ・上質に関する審美眼:お客に上質に関する審美眼が無いと苦労する。

 この課題は、業界問題として取り組むことも重要である。個業的作家や職人兼作家の人達は、デザインに関しても今まで以上に留意し、共同でデザインを勉強する機会をつくっていくべきである。また、マーケティングに関しても同様なことが言える。残念ながら、現状打破を目指して自主的に活動している個人に対して、行政の支援は殆ど期待出来ないのが実情であり、元気な個人が連携した自律的な自助努力がまずは必要である。
   ・細分化した市場毎にデザインを工夫する。(パッケージングも大切)
   ・半製品方式の準備で、納期と価格に対応する。
   ・定番もの、提案もの、特注などの区分でビジネス企画を行う。
   ・価格設定基準として、切りのよい数字が重要な場合が多い:千円単位等;忌避数字は避ける。
   ・通販ルートやインターネット販売など、法律があるので注意を要する。(専門家に相談)
   ・通販業者扱いは、使い手の顔が見えなくなるので極めて慎重に取り組む。
   ・品物の説明書・取扱書:市場に合わせて表現を工夫して準備出来ると良い。
   ・修理などの要件も明確化することが必要である。

4.市場における世代・年代の意味と訴求のポイント
世代
 ・よく団塊世代とか、バブル世代とか言われることがある。戦前生まれ、戦後生まれなどと分け、特に小学校に何時入学したかを問うこともある。その世代に該当する多くの人は、年を経てもある基本的且つ特徴的な行動をとる可能性が高いと言われている。”三つ子の魂百まで”などとも言う。
 ・この様な特性は個人差があるので注意を要するが、無視出来ない要素である。年齢を重ねても、ライフィスタイル、金銭感覚、文化的背景、「もったいない」感、人間感・個人の意識などを伴って移行していく可能性が高い。

年代
 ・職業や収入による層別のほか、年代(これも世代と呼ばれることがある)というライフ・ステージに関わる切り口も存在し、若者、子育て中、定年後(シニア)など、物の必要性や経済的余裕度などに変化がある。また、21世紀は、「生活の芸術化」や「生活の社会化」など、時代背景そのものが変化する傾向にもあることを忘れてはならない。
 ・時々市場調査と称するイベントが補助金ベースで行われるが、その結果を上手く活用している話は希である。特に、仮説を設定しての調査・分析が希薄であると指摘出来る。計量経済学に基づく分析法の専門家を入れることが必要不可欠であると言える。政策評価が重視される時代になっているので、この面から重視し活用していくことも必要と言える。

テイストの違いを感じる
 ・テイストの違いを全て掲げるのは困難であるが、「セレブ」、「ハイソ」、「マダム」、「シブカジ」、「ポップ」、「アンアン」など、特定のセンスを持つグループを分化する言葉が存在し、顕著になって来ている。この様な”好み”によるカテゴリーの分類は、上質を考える上で極めて重要な要素になって来ている。積極的に街に出て、潮流を観察し背景を読みとっていくことが重要な時代と言える。

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