吉井和哉(ザ・イエローモンキー)ライナーノーツ
Sloughter on 10th Avenue


まず、僕が、この素晴らしいアルバムのライナーノーツに、
そして現在人々の前で、僕がロックを演る事のできる
キッカケを与えてくれた、偉大なミュージシャンの名盤の
再発に協力できることを、心から感謝します。
最後まで読んでください。


僕はミックロンソンをデビッドボウイで知りました。
(因みに僕は1966年10月8日生まれです)
ミックを知ったのは1984年で、もうとっくにボウイと別れ
イアンハンターとの仕事も一段落ついていた頃でした。
その頃僕は、ある一人の男性と知り合い人なりました。
彼はグラムロックという音楽が大好きで、
ぼくはというとキッスやチープトリック、ヘヴィ−メタル、
日本の古い歌謡曲なんかが好きでした。
あとベンチャーズも。

そして、ある日彼の家に遊びに行くことになりました。
(ちょっとホモっぽかったので恐かったけど)
彼の家にはもちろん、T−REX、ルーリード、
イギーポップ、スレイド等、たくさんの
怪しいレコードがありました。
彼の家はちょっと大きめの商店街を入った所にあり、
裏にはお寺があって(そのお寺は昔、
頭のおかしくなった住職が家族を全員刺し殺し、
その後自分も焼身自殺したと
いわれている結構恐いお寺)、その家自体は古く、
部屋中ペンキだらけで、今思えばサイケだったんだと
理解できるけど、当時の僕には異様な光景でした。
TVでウルトラマンエースの再放送はやってるし....。

そして僕はその部屋で、まるで不動明がデビルマンに
なる為に、飛鳥涼の家の、地獄の扉を開けるかのごとく、
一生を変えられてしまう体験をすることになる。
僕はそこで沢山のグラムロックのレコードを聞いて、
恍惚状態になっていた。

それはもう様々なノスタルジーで、
ある時は田舎の古い映画館、ある時はオーメンの
エンディングのような枯葉の落ちるヨーロッパの石畳、
ある時は、昼間の有楽町の雨の喫茶店・・・と、本当に
”ノスタルジー万華鏡”を見ているような
気持ちになっていた。。
幼い頃、父が死んだ時の事も思い出した。
そして、マリファナを吸ってる訳でもないないのに
ヘロヘロになっちゃってる僕に彼はボウイの、
いやボウイとロンソンの『Life On Mars』と言う曲で
とどめをさした。
僕は歌詞を恐る恐る読んでいた歌が始まり出した。
すると、玄関から誰かが入ってきた。赤い髪の狼カット、
グラム時代のボウイにそっくりだった。
本当によく似ていた。
その男の後ろにもう一人人が立っている。女の娘のようだ。
曲はサビになろうとしている。殺人的に美しいメロディーが
始まった。女の子の顔が見えた。
女の娘は・・・女の娘は・・・
僕が中学生の時ずっと好きだった娘だった・・・。
サビが終わり、更に美しいギターの間奏が始まっていた。
僕は『これは絶対に夢を見ているに違いない。』と
思ってしまった。
別に、その男が憎いと思った訳でもなく
ただ、単純にもの凄く大切な、貴重な体験をしたように
思えたのだ。
相当長くなったが、これが僕とミックロンソンとの出会いだ。
と同時にグラムロックとの出会いだ。

グラムロックには独特の周波数がある。音質的にではなく
感覚的にだ。
僕は中でもボウイのアルバムの、
71年から74年にかけての周波数が
たまらなく好きだった。
若い頃僕はこの周波数はボウイが持っているものだと
信じていた。
しかし、『ダイアモンド・ドッグス』以後この周波数は
無くなっていた。全くではないけれど・・・。

しばらくして、僕はある一枚のレコードに出会った。
中古で9600円だったそのレコードは
『Sloughter on 10th Avenue』というタイトルで、悲しそうに
ウレシそうに涙を流している男の顔がアップで、赤と白の
ボーダーのTシャツがダサ格好いいイカしたジャケットだった。
家に帰り、そのレコードに針を落とした。




チープすぎる程高級感のあるアコースティックギターの
音色と同時に”ボーカリスト”ミックロンソンの声が
聞えてきた瞬間。あの、僕が探していた周波数が聞えてきた。
それはまるで若かりし頃、『ライフ オン マース』を聴きながら
再会したあの娘に出会った時のような気持ちにも似ていた。
本当にこれが『ラブミー テンダー』なのか?と
転調しまくるアレンジと、ミックの素直さの反動とも思える
ギター、ボーカルに僕は完全にノックアウトされてしまった。
そして再び僕は”快楽ノスタルジー万華鏡”を見る事が
できたのである。

そして、この日本には数枚しか残されていなかった幻の名盤が
ついに再発されることになった。
今まで、手に入れる事ができなかった人たちの手元(耳元)
にこのアルバムが届く事が、僕は何よりうれしい。
大げさだと思わないで欲しい、僕は『ミックのアルバムを
再発してもらう為にメジャーデビューしてここまでこれたのだ』
と、真剣に思ってるんだ。

なぜ僕がそこまで言うかというと、あっもう文字数が終わりだ。
この続きはもう一枚のソロアルバム、『プレイ ドント ウォーリー』
の方で書きたいと思います。というか、僕の能書きは
どうでもいいので、ぜひ聞いてください。お願いです。


吉井和哉(THE YELLOW MONKEY)

よくここを見つける事ができましたね。
貴方はすごい!
基本的には、というよりも
ライナーノーツは全く変更なしに
そのまま載せています。
句読点、ひらがな、漢字、全て
そのままの表示です。




♪続きライナーノーツ、
『Play don't warry』へでかけよう。


♪いやもういい、
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