黒魔術の女(前編)


 舞台は現代、東京のある大学に影野闇代という女子大生がいた。彼女は何処
にでもいるごく普通の女子大生だ。しかし、この話は、そんなごく普通の女子
大生の日常の中での非日常的出来事について扱った話である。それでは、その
物語りをこれから語っていくことにしよう。

 彼女は都内のある大学に通うごく普通の女子大生だ。そして、今日も朝か
ら、大学に行くところである。ちなみに、今日の1時間目の講義は英語なのだ
が、その授業は講師の大学教授の話が分かりにくく、不人気であった。だか
ら、今日、その授業を受ける学生はみんな、憂鬱な気持ちでいた。よって、彼
女も暗い気持ちでいるはずだが、不思議にも、彼女は顔に笑顔をうかべて元気
一杯に大学に向かうのだった。普通なら、そんなはずはない。しかし、今日の
彼女には憂鬱な授業も吹き飛ばすような出来事が待っていたのだ。というの
は、彼女には同じ大学の法学部に坂野一郎というサッカー部のエースストライ
カーの彼がいて、今日は彼と授業の後、デートをする約束だったからである。
だから、彼女はこれから起こるとんでもない出来事について予想だにもしない
まま、今日のデートを楽しみにして大学へ向かうのであった。

 そして、舞台は変わって大学内、彼女は何とか1時限目の英語の授業をなん
とか終えた後、休み時間にトイレに行った帰りにとんでもない光景を見たので
ある。なんと、大学の廊下で彼女の彼が同じ大学の女子大生の飯野映美と楽し
そうに話しているのである。ちなみに飯野映美とは胸も大きいなど、スタイル
も良く、顔も綺麗だったので、大学内の男子学生からはかなりもてていた。し
かし、反面、その外見の美しさ故、影では彼女とつきあおうといる男子学生に
平気で高い物をねだり、用が済めば、平気でつきあってた男子学生を用済みの
ようにふってしまうという悪い噂があった。だから、それを見た彼女は慌て
て、2人に気付かれない様に廊下の陰に隠れた。そして、2人の会話を盗み聞
きして、様子を探るのであった。
「あのさぁ、こんなところで私と話していて影野さんに悪いんじゃないの?」
「関係ないって、奴は授業にいつも、くそ真面目に出ているから、単位試験の
前の試験勉強の時、ノートをコピーさせてもらうために、つきあってやってる
だけだからよ。」
「あははは、それって、影野さんに悪いんじゃない?」
「大丈夫さ、どうせ、奴もこの話を聞いていないだろうぜ。それに、今日も奴
の機嫌を取るためにデートしてやるし、こんな事となっているとは夢にも思っ
ていないだろうよ。どうせ、奴はたくさんつきあってやっている女達の一人に
すぎないけどな。」
ということで、彼女は知りたくもない彼の素顔について知ってしまったのであ
る。そして、彼女はあまりのショックで、その場から、すぐさま走り去った。
そして、次の授業のことも考えないで、一目散に家まで目からたくさんの涙を
こぼして、目の前の受け入れがたい現実から逃げるように、走って家へ帰るの
であった。

 というわけで、結局、彼女は1時限だけ授業に出て家に帰ってしまったのだ
が、目の前の現実のあまりの残酷さに、ただ、自分の部屋の勉強机の前の椅子
に座り、机の上に置いた両手の上に顔をのせて
「嘘よ、彼があんな女とつきあっていて、私のことをあんなにしか思っていな
かったなんて、嘘よ!!」
などと考えながら、ただ、泣くだけだった。

 しかし、それにさらに追い打ちをかける事が起こった。夕方、授業が終わっ
てだいぶたった頃に、彼から、電話がかかってきたのだ。
「闇代、坂野さんから電話よ。」
電話を受けた母の呼び声で彼女は電話に出た。なぜなら、今日の出来事がどう
しても信じられなくて、彼に、飯野映美との関係について、直接聞いて確かめ
たかっからである。
「もしもし、闇代ですが。」
「おい、お前、どうして、今日、待ち合わせの場所に来なかったんだ?」
「そんな事より、私の話を聞いて!どうして、飯野さんと学校で一緒にいた
の?彼女との話は本当なの?彼女とはどういう仲なのよ?」
「ちっ、話を聞いていたのか。じゃ、仕方ねえや。所詮、お前は授業のノート
をコピーさせてもらうために、わざわざつきあっているに過ぎないんだぜ。ど
うせ、お前の代わりなら、俺を好いている女の中にいくらでもいるからよ。」
そして、彼女は遂に彼のあまりにも心ないこの一言により、怒りと悲しみか
ら、受話器を思い切り電話の上に叩き付け、電話を切った。そして、思い切
り、泣き崩れるのであった。だから、娘の泣き姿を見た母も何とか、理由を聞
いて慰めようとするのだが、その声すら聞こえないほど、彼女は興奮して、手
の付けられないほどだった。

 そして、しばらくたって、彼女は自分の部屋でやっと、泣きやむのだが、
やがて、うつろな目になって、脱帽感に浸っているのだった。そして、しばら
くすると、自然に何故だか、さっきの怒りの感情がこみ上げてきて
「何よ、飯野なんか、男を利用してばかりだし、一郎もたくさんの女の子をつ
きあっている振りで騙して、利用して!!2人とも、死ねばいいのよ。!」
などと、恐ろしいことを考え始めたのである。
と、その時、彼女の部屋には誰もいないはずなのに、ふっと彼女の脳に直接あ
る言葉がが繰り返し、聞こえてきたのである。
「そうだ、殺せ、殺してしまうのだ。お前を裏切った奴等なんか、殺してしま
え。もし、お前がその気なら、力を貸してやるぞ!」
そして、それはだんだん大きく激しい声になっていっった。そして、ある瞬
間、彼女は普段のおとなしそうな顔から、突然、虚ろな目と凶悪な顔になっ
て、
「そうよ、みんな死んでしまえば良いのよ。」
と、つぶやき、オカルトショップに出かけていき、水晶玉を買ってきたのであ
る。そして、自分の部屋の中の勉強机の上に置き、両手をかざし、怪しげな呪
文を唱え始めた。その時、まず、彼女は自分を騙した彼を呪う呪文を口に出そ
うとした。だが、口に出来ない。何故なのか?やはり、彼に時々、建前かもし
れないが、優しくしてくれたことや、彼が格好良くサッカーをしている場面を
思い出して、彼女の中にあった彼を思う気持ちが断ち切れず、呪い殺すことは
出来なかったのである。そして、しばらくして、彼女の脳裏にある名案が浮か
んだ。
「そうよ、奴さえ、飯野さえ死ねば、彼は私の物、私だけの物になるのよ。」
そう考えるやいなや、不気味な笑みを浮かべ、彼女から彼を奪った憎い飯野映
美を呪う呪文を口に出し、全て唱えた。そして、呪文を全部唱えると、
「そうよ、これで彼は私だけの物になったのよ。」
と、心の中で歓喜の声をあげた。と、その時、急に彼女の脳裏に強い光の様な
物が浮かび、彼女の意識が遠のいてしまった。
 そして、彼女はしばらくして、意識を取り戻す事になる。だが、今まで大学
から帰ってきて彼から電話を受けた事までは分かるが、それからの記憶が抜け
落ちていて、自分が何をしでかしたのか、分かっていないのであった。

 だが、呪いの呪文の効果は確かに現れていた。彼女が翌日、大学へ行って、
知り合いの女の子から聞く所によると、なんと、飯野映美が昨日、交通事故で
死亡したというのである。そして、それを聞いた彼女は「可哀想に」と思うと
同時に「これで彼は私だけの物」と心の奥底で思うのだった。

                      後編に続く


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