闇代は、朝の1時間目を受けるべく、大学のある教室の中の最前列の席に座っていた。
なぜなら、後ろの方の席だと、講師が黒板に書いた事が読めなかったり、講師の説明が
聞こえないからである。そして、1時間目の科目の教科書やノート等をバッグから出し
て、授業を受ける準備をしていた。と、その時、一人のショートカットでくりくりとし
た目の女子大生が教室の中に入ってきて、闇代の目の前まで来た。そして、
「おはよう、闇代」
「おはよう、良子」
2人は挨拶をした。そして、彼女が闇代の隣の席に座った。彼女の名前は友野良子、闇
代の親友である。そして、彼女もまた、1時間目の科目の教科書やノート等をバッグか
ら出して、授業を受ける準備をしながら、
「ねぇ、闇代、飯野映美が昨日、交通事故で亡くなったというのを聞いた?交通事故に
遭うなんて、ついてないね。」
「そうだね、交通事故にあって死んでしまうなんて、可哀想だね。」
2人の映美を哀れむやりとりである。もっとも、闇代に関して言えば、心の奥底ではそ
うは思っていなかった。
「飯野映美が交通事故に遭ったのはたくさんの男子学生を騙していたから、その報いよ。
あんな女、死んで当然よ。」
恐ろしいことにも、そう思っていたのである。と、同時に
「これは自分から心が離れた一郎の心を自分に向けさせる絶好のチャンスだわ。これで
彼は私だけの物よ。」
そう考えていた。と、その時、闇代の脳に直接、
「オイ、邪魔な恋敵を黒魔術で消せて気分はどうだ?」
と男の声が聞こえてきた。それに対して、闇代は
「あんた、誰?何を言っているの?そんなの嘘よ、失礼ね!」
心の中でそう叫ぶ。
「ふっ、俺の正体か、それはともかくとして、しらばっくれるな!!お前が覚えていな
くても、これは事実だ。お前は人を一人、確実に黒魔術で殺しているのだ。」
容赦のない追求と同時に、飯野映美へ黒魔術をかけた時の事もだんだん思い出してきた。
そして、闇代は事のあまりの重大さに
「そ、そんな事って・・・」
ただ呆然としていた。と、その時、闇代のその思考を中断させるように、
「闇代、ぼ〜っとしてどうしたの?」
良子の声が聞こえ、闇代は我に返った。そして、
「何でもないよ。気にしないで」
「そう、それなら良いけど、まさか坂野一郎のことを考えていたんじゃないの?あんな
男、やめなよ。どうせ、たくさんの女の子と遊んでいるから、いずれ捨てられるに決ま
ってるじゃないの。」
「そんなこと無いよ。あれでも優しい所があるのよ。この前も一緒にプールに行った時
にお気に入りの水着を『それ、似合っているね。』と褒めてくれたのよ。」
闇代の必死のこの反論に良子は仕方なく、坂野一郎の事を話すのをやめた。しかし、坂
野一郎がどんなに悪い奴かを良子は知っていた。彼女は以前、坂野一郎と同じ高校に通
っていて、以前は彼の事をラブレターを出すほどまでに思っていた。しかし、その思い
は通じず、出したラブレターはいとも簡単に破かれて、くずかごに捨てられてしまった
のである。それを偶然見てしまった彼女はショックの余り、長かった髪を切ってショー
トカットにしてしまったという過去があったのだ。だから、彼女は同じ辛い思いをさせ
たくないので、話はやめたが、まだ、闇代の事を心配しているのであった。
そして、2人は1時間目の科目を終えて、
「闇代、それじゃまたね。」
「うん、またね。」
と、互いに別れを告げて互いに2時間目で受ける科目の教室に向かった。が、しかし、
その途中で会ってはいけない人物に会ってしまった。坂野一郎である。闇代が教室の
移動中に廊下を歩いていると、前から坂野一郎が数人の男友達と話しながら、一緒に
歩いて来る。彼女はこれは彼と話し合い、また、よりを戻す良いチャンスだと思った。
しかし、闇代のことは気付かずに、というか、知らんぷりをしてその場を通り過ぎよ
うとする。そのため、彼とよりを戻したい闇代はこの気を逃す手はないと、すかさず
彼に話しかけた。
「一郎、こないだは私も悪かったわ。ごめんね。でも、飯野さん、死んじゃったね。
それにしても、交通事故にあって死ぬなんて可哀想だね。」
と、まず、飯野映美の事で、まず、話を切り出そうとした。
が、彼の反応は予想外に厳しい物だった。
「オイオイ、もしかして俺とよりを戻してえのか?残念だがそれは出来ないな。前にも
言ったように俺には奴の代わりの女ならいくらでもいるんだぜ。恋敵が一人いなくなっ
たからってよりが戻せるなんて、とんだ勘違い野郎だぜ、良くこういう奴がいて困るん
だよな。オイ、悪田達もそう思うだろう、なっ。」
「全くその通りだぜ、こういうすぐ自分の良いように思いこむ単純な奴がいるから困る
んだよな。第一、そういう女に限って、ふっても、頭が悪いから、理解できずにしつこ
くまとわりついてくんだよな。」
そう坂野の男友達で一緒にいた悪田権助が言う。そして、
「そうそう、そういう馬鹿な奴は死んでも直らないだろうな。おかしくて笑っちまう
ぜ。」
そう、坂野のもう一人の男友達が喋ると、その場は嘲笑の渦に巻き込まれた。と、同
時に闇代は皆に笑われて、とても恥ずかしい気分になった。そして、悔しい気分にな
った。
「なによ、これじゃまるで私がピエロじゃない。こんな屈辱感、初めてだわ。私が何
も悪いことをやっていないのに、こんなに笑うなんて、こいつら、特に一郎は許せな
い。こうなったら、意地にかけても、一郎には、泣き顔で『おねがいだ、もう一度つ
きあってれ。』のせりふを言わせてよりを戻してやるんだから・・・そう、何をして
でもね。」
と、恥ずかしさと悔しさで、顔が真っ赤になり、半分泣きそうになりながらも、闇代は
思うのであった。そう、これが破滅への序曲になるとは知らずに・・・
後編2に続く