黒魔術の女(後編2)


 彼女の名前は影野闇代、今までは普通の女子大生だったが、今は違って
いた。彼女は現在、自分の部屋のベッドの上にぼーっとしながら、座って
いた。しかし、頭の中では、恐ろしいことを考えていた。
「私を利用するだけ利用してゴミのように捨てた坂野一郎は許せない。こ
うなった以上、彼の目を私一人に向けさせてやるんだから・・・そう、何
をしてでもね。」
そして、口元で不敵な笑みを浮かべた。ちなみに、坂野一郎とは大学のサ
ッカー部のエースストライカーで闇代の元・彼であったのだが、これか
ら、2人にとんでもないことが起ころうとしていた。それでは、物語の続
きをしよう。

 闇代はどうすれば、彼の目を自分に向けさせる事が出来るか、考えてい
た。しかし、これといって良い考えは思いつかなかった。
「どうせ、私なんかより可愛い女の子はたくさんいるよ。だから、私だけ
に目を向けさせることなんて、出来っこないよ。一体どうしたら・・・」
そうこう考えている内に彼女の頭の中に直接ある声が聞こえてきた。
「ふふふ、だいぶ困っているようだな。俺が何とかしてやろうか?」
「あなたは誰?私に関わって一体何がしたいの?」
すかさず、闇代が頭の中で考えると、
「ふ、俺か?俺の正体はだな・・・そんなことり、お前、坂野一郎をそん
なに自分の物にしたいか?」
「ええ、何をしてでもね。」
「そうか、それなら、俺がそのための方法を教えてやろう」
「でも、本当に教えてくれるの。それなら、是非教えて頂きたいものだ
わ。」
そうして、この後、闇代と謎の声の人物のやりとりが続いたのだった。

 そして、数時間後、闇代は台所で料理らしきことをしていた。が、普通
の料理ではなかった。どこで手に入れたかは分からないが、薄ら笑いを浮
かべながら、まだ生きている蛙やトカゲなどを必死で逃げようとしている
のを手で押さえつけ、情け容赦なく、首を落としていく。血が吹き出し、
辺りが血だらけになる。そして、彼女の服も大量の血しぶきを受けるのだ
が、そんなのもおかまいなしに狂ったような勢いで蛙やトカゲのの首を落
としていく。そして、皮を剥ぐなどして、まるで魚をさばくかのようにさ
ばいていく。さらに、それらのさばいた肉や皮を沸騰した湯が入っている
鍋に入れ、怪しげな形のキノコやドクダミ、各種漢方薬の材料などと一緒
に煮る。そして、鍋の中の物が大分、煮詰まって来た時、闇代が不敵に
「もう大分、ダシが効いてきた頃かしら。そろそろこれを入れる頃ね。」
と言って、1本の髪の毛と白い粉を鍋に入れた。その瞬間、不敵な笑みを
浮かべ、
「うふふ、これで私の髪の毛と爪の粉入りのこのエキスを飲んだ一郎は私
の虜になるのよ。」
と言い放ち、鍋の中から、様々な物を使って作った煮汁を取り出し、試験
管の中に移し替え、試験管をコルクで閉めるのであった。

 そして、1日後、闇代は大学に来ていた。片手に試験管を持ち、闇代は
言った。
「さて、いよいよ、これを一郎に飲ませれば良い訳ね。」
そう言い終わるや否や、闇代はにやりと不敵な笑みを浮かべ、体育館の裏
にあるプレハブ建てののサッカー部の部室に向かった。そのころ、部室は
部員が練習に出ているせいでもあって、誰もおらず、空のままだった。そ
こへ、闇代がドアを少し開け、中に誰もいないのを確認して中に入る。中
は男ばかりのサッカー部の部室であるだけあって、部屋の中央の机の上な
どは読みかけの雑誌やスポーツ新聞が散らばっていたり、休み時間に食べ
たであろうカップ麺の入れ物が残りのつゆと箸入りで置いてあるなど、散
らかっていた。しかし、闇代はそんなこともおかまいなしに、坂野の名札
を頼りに一郎のロッカーを見つけ、中を空ける。そして、中に入っている
一郎のボストンバッグから、水筒を取り出し、ふたを開け、中に試験管に
入っている液体をそそぐ。そして、ふたを閉め、水筒を元の位置に戻し、
闇代は不敵な笑みを浮かべ、言った。
「うふ、これで一郎はこの惚れ薬入りのポカリスエットを飲んだら最後、
私の虜よ。いつも、朝に氷にしておいて、昼間、溶けて冷たいのを練習
後、疲れているときに飲むのを知っているんだから。」
そう言い、ロッカーの中を元通りにして、部室を去っていった。

 そして、数時間後、一郎がサッカーの練習が終わり、他の部員達と一緒
に全身に汗をかき、タオルで顔を拭きながら、部室に帰ってきた。
「ああ、今日の練習もきつかったぜ。」
と言いながら、ロッカーの中のボストンバッグから例の水筒を取り出す。
そして、部室内の机の前の椅子に腰掛け、タオルを机の上に放り、水筒の
ふたを開ける。さらに、ふたにポカリスエットをそそぎ、ポカリスエット
を飲むのだが、その時、あることが起こった。何だか一郎の様子がおかし
いのである。飲んでいる最中に突然、ポカリスエットの入っている水筒
のふたを手放し、ふたが床に落ちる。そして、しばらく、ぼーっとした
表情でいたかと思うと、
「駄目だ、こんな事をやっている場合じゃない。」
と、訳の分からぬ事を叫ぶや否や、突然、立ち上がり、部室を飛び出し、
どこかへ走り去って行ってしまった。

 さて、しばらくした後、一郎はと言うと、闇代の部屋の中で彼女と2人
で立ち話していた。一郎が必死に言った。
「頼む、もう一度、俺と付き合ってくれないか?色々あったけど、実は俺
が本当に愛しているのはお前だけなんだ。」
すると、闇代は一郎を見下したような笑みを浮かべながら、
「でもねぇ。あんな事されたら、さすがの私でも許さないじゃない。」
そう冷酷な言葉を放った。すると、一郎は大慌てで、
「頼む、そんなこと、言わないでくれ。あの時は本当にすまなかった。も
う絶対に他の女と付き合わないし、一生、お前のことを愛するから、もう
一度付き合ってくれないだろうか。」
と、土下座をしながら、必死に頼み込む。そして、闇代はそんな一郎を見
て、自分が一郎の心をつかんで何でも思い通りに出来るという優越感に浸
りながら、小悪魔的に言った。
「クスクス、そうね、一郎がそんなに言うなら、今回だけは許してあ・げ
・る。」
そう言うと、一郎は立ち上がり、闇代の前に歩み寄った。そして、闇代を
両腕で自分の胸に抱き寄せ言った。
「今までのことは本当にすまなかった。もう絶対に他の女には手を出さな
い。お前だけを一生愛しつづけるから。」
そう言うと、闇代も
「うふふ、しょうがない困ったちゃんね。今回だけよ、許してあげるの
は。」
そう言って自分も一郎の胸の中に寄り添っていった。その時、闇代は一郎
の心を自分だけの物に出来て満足感で一杯だった。しかし、彼女は気付い
ていなかった。この結果がとんでもない結末をもたらすことを・・・。

                        後編3に続く


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